CyberPunk-OVER the EDGE- 作:コーカサスカブトムシ
デイビッドじゃなくてデイヴィッドなんだーとか思ってたのに本当はデイビッドだったのか……
「メジャーで、逢おうぜ」
Relicを挿れた神経ソケット、その隣に備えられたサブのソケットにジャッキーから受け取ったもう一本のRelicを挿入する。開発途中であり人格が焼き付けられているというチップを二本も挿して大丈夫なのかという疑問が浮かばないでもないが、それ以外の選択肢はない。
目を見開いたまま生き絶えた兄弟の瞼を閉ざしてやり、彼を待つ人のいる酒場へ車を走らせるようデラマンに言付けたVは二丁の拳銃を携えてネオンの灯る街中に足を踏み入れた。
「NCPDですか? カブキのノーテル・モーテル前に血塗れの男が……」
「ママー! 怖い男の人がいるー!」
「しっ、ちょっと早くっ」
降り頻る雨の中を傘もささずに血塗れで歩く男、到底まともではないその出立ちに通行人達は慄き、また警戒するが今のVにその事を気にする余裕は無かった。
一刻も早く今回の仕事に関してケリをつける。その事だけを考えている彼の顔は憤怒に猛る『鬼』のようでありつつ、さながら仇討ちに闘志を燃やす『侍』。研ぎ澄まされた抜き身の刀のような気配が街を彷徨いていたタイガークロウズ達をも気圧している。
待ち合わせのホテル、指定された部屋に向けて足を進める。施設内でもその出立ちに彼の姿を見るなり一斉に視線を外す。当の本人は気にも止めずに階段を上がっていき、部屋の並ぶ通路へ。
「っ、ちょっとあん……」
「悪い」
ちょうどVが通ろうとした瞬間に手前の部屋のドアが開き、中から出てきた女と肩がぶつかる。桃色をベースにし、グラデーションの掛かった派手な頭髪が目を引いたが、一言詫びを入れたVは再び目的地に向かって進み出す。
ぶつかられた事に対して何か言おうとしていた彼女は、しかしその血塗れの姿に思うところがあったのかフラフラと部屋に戻っていった。
通路の最奥、デクスが待機している部屋に辿り着いたVは部屋の扉をノックするが音沙汰はまるでない。バックれられたのかとも考えたが部屋の前に取り付けられた電子端末は利用中の表示がされたまま、立て込んだ事情でもあるのだろうか。
(あるに決まってるだろうな)
サブロウ・アラサカの死去、世界に手を広げる伏魔殿の帝王が崩御した事はもうナイトシティ中どころか世界中へニュースとなって広がっているだろう。
元々は誰にもバレず、秘密裏に事を進める予定だったのがこうも大事になってしまえば予定も狂うというもの。どちらかと言えばデクス側の人間であるバグが任務中此方を切った事からも、チップを渡して依頼完了とはいかないのが想像出来る。
「おい、さっさと開けろ」
「……あまり煩くするな、お待ちだ」
暫く時間を空け、声を掛けながら再びノックしたところで扉が開く。デクスの護衛が廊下を覗き込みながらサングラス越しに此方を睨みつけ、追跡などがない事を確認すると無愛想に部屋の中へと招き入れる。
中には少し気まずそうな表情で此方を見て、視線が合うなり目を逸らしたT-バグ。そして部屋の設置されたテレビのチャンネルを目まぐるしく変えているデクスの姿があった。
切り替わるチャンネルはその殆どがサブロウの死を報じており、それを見るデクスの目は緊張や憔悴が容易に感じ取れる。
「WNS……N54……海賊放送まで、街中が大騒ぎだ! ジャッキーは? 車の中か?」
「車の中だよ、大立ち回りで疲れ切っててな。いびきもかかずにグッスリさ、大変だったんだぞ、なぁバグ」
「そっ、それは……」
「そうか……それは残念だったな」
深い付き合いでも無いが浅い付き合いとも言い難い、非難するような口振りに狼狽えるバグとそれを察したデクスは葉巻を吸いながら壁にもたれ掛かった。だがその声色が真に残念だったなどと思う心境にない事は瞭然だ。
「Relicは何処にある、ケースに収納しているという話の筈だが」
「パーティーの参加者に手荒い歓迎を受けたもんでな。ケースは破損したが、人体に入れておけば損耗しないとエヴリンから聞いている。俺の神経ソケットに二本……」
「今更それが何になる! あのサブロウ・アラサカが死んだ、アラサカの帝王がだ! あのホテルに一歩でも足を踏み入れたならばアリ一匹だろうと見過ごすまい! 俺をこんな事に巻き込みやがって……誰がサブロウ暗殺なんて馬鹿げた真似を依頼した! この件に少しでも関わった人間は残らず殺される!」
「サブロウを殺したのはヨリノブだ。拗らせた家庭環境ってやつだろう、世界を好きに出来る男も息子の出来は選べなかったらしい」
蓄えた脂肪を揺らしながら激昂するデクス。それに対して冷ややかで何処か他人事のような様子のVの姿はその怒りを更に膨れ上がらせたが、一度臨界点を超えたのか却って落ち着いたデクスはふうっと葉巻きを吸い直し、床へと投げ捨てて踏み躙った。
「まぁ…………いい。受け渡し用のケースにRelicを移す……がその前にお前は顔を洗ってこい。そうも汚れていちゃ見るに堪えん、これからどうするかはそのあとで考えるとしよう」
その言葉のまま洗面所に向かうVを睨むデクスと入り口から動く護衛の男。顔中と言わずその丸めた頭部全面にびっしりと汗をかいたバグは張り裂けそうな程に鼓動する胸を抑えるのでいっぱいだった。
(どうすれば良かったんだろうな)
車内では舞い上がっていたVだが、アダム・スマッシャーが明らかに遊ぶつもりで本気など微塵も出していない事は思い返せば明白だった。そもそもジャッキーが撃たれた時点で、その気ならあの腕に内蔵されたマシンガンはV諸共蜂の巣にするぐらいは可能だった筈。
残虐、嗜虐はかのレジェンドを語る上で必ずと言っていいほどに上がる彼の性格。必要以上に民間人を巻き添えにし、屍の上で高笑いするあの悪魔からは遊びがあったからこそ逃げられた。
だから自分一人でも逃げられただけで奇跡のような話である。だがそれでも……それでも、相棒と共に生きて帰るにはどうすれば良かったのか。それを思わずにはいられない。
水を出して手を洗い、次に顔の血を洗い流す。ママ・ウェルズやミスティ、ヴィクターにはどう言えば良いだろうか。そう思いながら洗面所を出るV。そこへ……
「フン!!」
「わかってんだよクソがぁっ!!」
死角から側頭部に拳を振り抜くデクスの護衛、先のやり取りが茶番に過ぎない事を察していたVはマンティスブレードを一閃。ガリガリと部屋の壁を削り取りながら右腕を切断。
「うぐぉあああ!?」
「しいっ!」
「た、助けろバグ!」
返す刃で両腿を切りつけ、崩れ落ちたところにブレードを交差させるように胴へ突き刺す。死体を蹴って退かし、次はデクスへと標的を定めたところでスパークを上げながらマンティスブレードが意図に反して収容される。
「があっ、お前っ!!」
「ヒッ……」
サイバーウェア動作不良。ネットランナーであるT-バグからの攻撃、彼女は完全にデクス側についたのだろう。その判断を攻めはしないが、邪魔だ。
キロシに表示される各種要項が全身の危険を訴えているが、ならばと腰に忍ばせたレキシントンを抜き放ってバグへ向ける。短い悲鳴と一発の銃声、その間にデクスは机の上に置いてあった自身の銃へと手を伸ばす。
確実にサンディヴィスタンを使って始末したいが今サイバーウェアは使えない。如何に荒事に慣れぬだろうデクスでもVの状況を思えば……
「殺してやるっ!!」
「っーーーー!」
互いに向き合う銃口、その引き金が引かれた瞬間……動作不良で跳ね上がり、あらぬ方向を撃ち抜いたVのレキシントン。そしてデクスが握るリバティの弾丸はVの脳天へと吸い込まれる。
絶叫と銃声の鳴り響いたモーテルに再び静寂が齎され、一人生き残った男は深いため息を吐いて頭を抱える。こうした光景もまた、ナイトシティにはありふれた、ごく当たり前の日常だった。
(########errorerrorerrorerrorcheckSystem……)
「やっぱり、ロクな事にならなかった」
奥の部屋から聞こえて来た叫びと銃声、ただ単にどっかの傭兵がドジって始末されたって様子でも無さそうだし……それに加えて付けてみたテレビ。サブロウ・アラサカ、アラサカの頂点、その死が報道されていて、それと今し方どっかで大はしゃぎしてきたってあの男の姿を考えると……最悪も最悪な事態が起こりかねない。
少なくともこのモーテルの居座り続けるのはやめた方がいいだろう。というより、もう出払う準備はしちゃった訳だけど……
「はー……ふふっ」
彼と付き合うようになってから、苦手と言っていたからやめたタバコはまた吸うようになって、寧ろ孤独を紛らわせる為に吸う本数は増えていったけれど……タバコを吸い始めてふと笑みがこぼれた。
ざまあない。みんなの人生を、わたしの人生を、彼の人生をグチャグチャに私欲で擦り潰してきたアラサカ。そのアラサカそのものが、毒殺なんてしょーもない死に方をして、良い気味だわ。
まぁさっきの男は本当は無関係かもしれないけど……バイオコットンのコーポレートスラックス、ずぶ濡れに血塗れだったけど生地の具合からして新品のそれなのよね。コーポに紛れて忍び込んで暗殺、なんて事もあったのかも。
「ふふ、はは、あっはははははは!!」
笑いと一緒に涙が溢れて来た。これがあと一年早かったら、なんて事が頭に浮かんだ。毒殺の露見はしたけど数多くの近衛を潜り抜けて、プラザから帰って来た事を考えればあの推定ソロは結構な手練れなんでしょう。サブロウが死んでれば1プロジェクトに過ぎないあの話も、それどころじゃないって流れになってたかもしれない。そうしてたら……今頃。
なんて、考えても仕方ないか。また拠点を変えなきゃいけないのは面倒だし、利用者としてアラサカに後を追われると厄介だけど、ほんの少しだけツキがあったかもしれない。月だけに、なんて……彼の事を想いながら、窓の外に見える月を見上げる。思えばあの日もこんな満月だったのを覚えている。
「ねぇ……デイビッド……」
感想とかここすきとか高評価とかお気に入りを欲する……キラキラのように……