思えばそれはトリップのようなモノだった。朝の出勤、パンを咥えた少女と曲がり角で偶然ぶつかるような運命にも似た、そして唐突すぎる始まり
いつものようにスーツを着てネクタイを締め、毎日同じ時間に自宅のドアを開ける。何気ない平日の日常を過ごしていた自分に襲いかかった過酷すぎる運命に当時の私は放心してしまっていた。
…まさか自分がガンダムSEEDの世界のキャラに憑依するって思わないじゃん!!!
しかも名前も聞いたことない、見た目も見たこともない絶対モブキャラで死ぬか画面にすら映らないキャラ
自分がその世界に入り込んだと知ったのは、なぜか公園の砂場で遊んでいて自分に話しかけた黒髪赤目の子供の名前が『シン・アスカ』であったことからもう確定的に明らかであったこと
唯一の救いはこの世界に憑依した人物が子供であったことから、トンチンカンなことを言っても「子供だから」で済まされた点だろう
モブにもネームドにも厳しい世界に生まれてしまったなら平穏に生きたいと考えたが…ふと思いついた。
シンが幼少期となれば、現在はSEEDの原作開始まで大体十年そこらでましてや戦争を止めるとか、安住の地を見つけるなんてことは無理にも等しい、ならば悲しい過去を背負ってザフトに入隊するシンについて行ってモビルスーツに乗れていた方が生存確率は高まるし、何よりどのみち死ぬなら安全なところに居ていきなり流れ弾で死ぬより、自分で決めて赴いた戦場で死んだ時の方が心残りはない。ガンダムオタクの夢であるモビルスーツに乗れるという経験もできるからね
方針も決まったとなれば…どうやら幼馴染らしい幼少期のシンくんと砂場で遊ぶか!
◆◆◆
生き残った民間人の避難は自軍の避難船にて行われ、その船内にはピンク色のガラパゴスタイプの携帯を大事に抱え体育座りで俯く少年がいた
「シン…よかった、無事だったか」
つい先程船員の一人が俯く少年シン・アスカに声を掛けて無反応であった元にまた一人の少年が声をかける。その少年は長い銀髪をポニーテールでまとめ、片方のもみあげに緑色のメッシュが入った特徴的な見た目と、魅力的なまでに整った幼さが残る美男子といった顔立ちであり、その顔は少年が無事であった安堵の表情であった
「…よかった?…なにもよくなんかない!」
心配の声をかけられたシンは銀髪の少年の胸ぐらを掴み、もたれかかっていた壁に押し当て、シンの手に未だ持っていたピンク色の携帯のストラップが激しく揺れる
「帰る家は吹き飛ばされて、父さんも母さんも死んで…マユだって…」
壁に押し当てながら、顔は見えないが声にもならない啜り泣く音が銀髪の少年に突き刺さる。シンがこうなることを少年は知っていた…知っていたがそれでもこの事態は大事な通過点であり、始まりであると考え何もせず放置した。避難ルートの変更や、避難のタイミングを前もって早く行うようにするなど助言はいくらでもあった。しかしそれでも少年はシンにとってこの事態こそが成長のためのバネであると判断した。故にどんな暴言や暴力を振るわれても文句の一つも言わないつもりでいた
「悪い…こんな状態で『よかった』は、無神経だった……」
「………」
シン自身も、あまり見せないしおらしくなった幼馴染の親友に当たり過ぎてしまったと反省して静かに胸ぐらから手をどかす
シンはまた座り直し、そして幾許かの時間が過ぎ家族の死亡を受け止め落ち着きを取り戻したシンは、自分が落ち着くまで隣で何も言わずにずっと座ってくれていた親友について考え、口に出した
「…ノアの方は…大丈夫だったのか?」
「…ボクも同じさ、父さんも母さんもミサイルの爆風で二人とも死んじゃった」
「…ッ、悪い」
自分と同じ境遇であった親友に対して強く当たってしまった居た堪れなさから、反射的に出た謝罪と共に体育座りの腕に力が入る
「気にするな」
タイミングこそ違えど激昂してしまった自分とは対照に十四歳にしては落ち着いた親友について考える
ノア・レイノーツ、自分とは物心がつく前から知り合いであって家も近くにあったことから幼少期を共に過ごし、妹のマユともよく三人で遊んだ仲だ。年相応な印象はあまりなく、いつも達観していて同じ歳でも兄のような印象が浮かぶ人で話もよく合う親友である
整った容姿や小綺麗にしていた印象を持っていたが、今は火薬の煤で綺麗な銀髪は黒みがかかり、顔や服にも血や出血の跡が残っていた
「これから…どうなるんだろうな」
シンの呟きが意気消沈して静かな船内にポツリと聞こえる
「同盟国に保護されるとか…コーディネーターならプラントの方に引き渡されるとか、どのみちバラバラだろうな」
「プラントか…俺、プラントの士官学校に行ってザフトに入ろうと思う」
「いきなりだな…」
「いきなりで悪いかよ」
すっかり調子の戻ったシンを見て安心した表情を浮かべたノアと目が合い、なんだか気恥ずかしくなったシンはそっぽを向きながら言葉を続ける
「一刻も早く、この戦争を終わらせたいんだ…」
そっぽを向いたあと、目線を上に向けて話すシンに対してノアが答える
「そうか、シンはプラントに行くか…じゃあボクもついて行くか」
「ノアもついてくるのか?でもノアはハーフ_」
シンの言葉を遮るようにノアが言葉を重ねる
「生まれなんて関係ない、それに大事な親友が戦地に行くのに黙っていられるわけがないだろう?」
「ノア…」
シンは親友の言葉に家族という心にポッカリ空いた穴に染み渡るような、心からジーンと来る熱い友情を感じた後に「それに」とノアが付け加えた
「シンを一人にしちゃうと心配なんだよ、猪突猛進で突っ走る癖があるからね」
「このやろう言ったな〜」
シンは冗談混じりに腕をノアの首に絡ませ、ノアは悪戯っぽく笑う。そこには戦争が始まる前の少年の日常の一ページが確かにあった
◆◆◆
「シンは発進準備完了したか…」
狭いコックピットの中でパイロットスーツで蒸れる腕を摩りながら独り言を呟き、この激動の二年間に思いを馳せる
士官学校の時はひたすら勉強と訓練をしたこと、首席合格を目指す勢いでとにかく頑張ったこと、生まれも育ちもプラント出身のコーディネーターの優秀さをどれだけ羨ましがったか…それでも自分の素性を隠し通せるほどの成績は絶対必要であった事と、やっぱりシンと一緒にいたから切磋琢磨して頑張れた点もあったが、まさかレイを差し置いて首席卒業するとは思わなかったことだな
あとコミュ力が高かったシンと一緒に連んでいた事もあり、レイとルナマリアとはいい友達にもなれた
しかし間近で見ていたから分かるがレイの成績はやっぱり化け物だわ、クローン元のラウ・ル・クルーゼさんも努力で上り詰めた人だったがあの人は執念もあっただろうな、レイの方は優秀だが鬼気迫るような凄みは感じず、ただ純粋に優等生と言ったところだ。むしろ鬼気迫るように訓練に励んでいたのは私の方だった
『ノア、聞こえる?貴方はシンの援護をして頂戴、初陣で突っ走っちゃうだろうからそのフォローを頼むわ』
士官学校での二年間を思い出していたところに通信が入る
前面モニターの横の小型モニターに映るのは新造艦ミネルバの艦長タリア・グラディスからの個人通信だった
「承知しました。レイとルナマリアの居場所はどうなっているでしょうか?」
『レイもルナマリアも付近のモビルスーツ倉庫に居たけど、モビルスーツのコックピットを瓦礫で塞がれてまだ身動きが取れないとのことよ。今のところ二人の援護は期待でないでしょうね。それとわかってると思うけど、強奪された三機のG兵器はいずれも奪還あるいは最悪破壊が任務だけど貴方自身の命が最優先よ、無理しないでね』
「委細承知しました。艦長」
敬礼の後に向こうから通信を切られ、再び静かなコックピットへと戻る。士官学校首席卒業の実績から思った以上に優遇されて戸惑いもあるがこれには理由がある
士官学校時代の選択科目にある[指揮部隊管理]と[戦術作戦立案]の科目で歴代最高点を叩き出してしまった事と模擬戦における艦隊指揮でも優秀な成績を収めていたことから原作には絶対なかっただろう[戦術予報士]という役職さえ付いてしまっている点だろう
ザフトでの戦術、作戦立案は基本的にその隊の隊長に一任される物だが、軍隊における軍師的役割の有用性は歴史が教えてくれている
そのため、このミネルバにおいては新造艦の新規編成部隊という事もあり、新たな試みとして戦術予報士という役職を艦に乗せることになったのだが、その戦術予報士は私で現在私はパイロットとしてモビルスーツに搭乗して出撃を待っている
つまり本来ならモビルスーツ隊が発進し終わってからか、頃合いを見計らって「艦長ここは任せる」と、ブリッジから抜け出しモビルスーツに乗り込む偉い人がやりそうなムーブをかますようになってしまうことになる。事実オイシイ立ち位置ではあるが過労もいいところだ…閑話休題
しかし原作通り、レイとルナマリアの援護は望めないか…原作通りならアスラ_オーブのアレックスなる民間人がザクで、エクステンデッドに強奪されたセカンドステージの三機のG兵器と応戦しているだろうが、やはりアーモリーワン内部がこうもゴタゴタでは詳しい戦況は分からんな
『ノア機、発進準備完了しました。出撃タイミングをノア機へ譲渡します』
オペレーターのメイリン・ホークの声が小型モニターから顔と共にこちらに伝わる。シンが出撃して今度は自分の番が回ってきた知らせを受け、否が応でも緊張から強張る身体を抑えつけ、シュミレーションの時より二割増しの力で操縦桿を握る
「了解、ノア・レイノーツ、ゲイツ改発進する」
◆◆◆
突如として現れたザフトの量産機ザクがこちらに応戦するも、大した武装もなかったことから後一歩で撃墜できるといったところまで追い込むが、情報にない新たな機体、それもデータのない赤と白が目立つ三機の戦闘機が合体したモビルスーツに阻まれる
『情報にない機体だぜ?どうするよスティング』
同じエクステンデッドの仲間であるアウル・ニーダより通信が入る。言葉の通り俺もアイツも、撃墜目前のザクより目の前に現れた新型機に興味が移っているようだ。歯ごたえがないと思っていたところに丁度現れたこともあって、撤退のついでにネオへの土産もできるとなれば万々歳だ
「データにはないが関係ない、あいつの首を持って帰って手土産にしようぜ」
俺は介入してきた新型機に照準を合わせるが、それと同時に新型機が現れた時と同じくまたしてもセンサーに反応が入る。新型機にさらに援軍が加わるとなると、もうそろそろ潮時だろうことからそこまでの時間をかけられない
ただ新型機と共に現れた機体はザフトの旧式であるゲイツタイプのモビルスーツだったことから性能面では正直負ける気がしない
「アウル!旧式も来たが、まずは目の前の新型からだ!射線を合わせろ」
『指図するなって、の!』
アウルと射線を合わすが、射撃をうまく躱され目の前のパイロットの腕前と機体性能の高さを物語る
まぁあれだけ堂々とザクの前に躍り出たのに早々に撃墜されては格好もつかないだろうがな
新型に対してニ射目のビームを放ったタイミングで、斜め上空からこちらに向けて射撃が迫るアラートが鳴る。大方新型機と一緒に現れた旧式だろうことから大した警戒もなく回避運動を取る
だが、その射撃は俺が回避する方向に放たれていたようで背中に背負っているガンバレルの一つに直撃し、火を吹く
「はぁ?」
油断も慢心もあったが、俺がこれほど簡単に被弾するとは思っておらず変な声が漏れる
そして初めて上空を飛ぶゲイツタイプのモビルスーツをモニターにとらえる。見た目はやはり旧式の指揮官用ゲイツに背部ウイング部分が大型化され単独での大気圏内飛行が可能になっている他、左手の盾がやや大型化されているだけのカスタム機であった
『一般兵に被弾するなんてだっせー』
アウルに煽られ内心で舌打ちの一つをして切り替えるが、それから同じように上空のゲイツからビームが放たれ、そのビームはアウルの機体の左腕を簡単に射抜く
『なっ!?コイツっ!』
アウルも同様に被弾したことから、目の前の新型に集中していたことや油断や慢心を差し引いてもただの旧式に乗る一般兵という認識を改める
被弾の影響からトップスピードで撤退できるのは新型機と肉薄して未だ損傷のない、同じエクステンデッドのステラが駆るガイアだけとなり早々の撤退が迫られる
『どうすんだよスティング、バス行っちゃうぜ』
「チッ、わかっている!」
アウルも俺と同じ思考に至り急かされ、新型機を落とせず熱くなっているステラに撤退の指示を出す
「ステラ撤退するぞ!その新型には構うな!」
『待って、もう少しで落とせる』
『じゃあステラはここで死ねよ、ネオには俺から言っておいてやるから。
「アウル!」
アウルが咄嗟とは言え、ステラのブロックワードを使ってしまったことからステラには目に見えて動揺が入る
『しょうがないだろ?言うこと聞かないんだから』
『死ぬ…私死んじゃうの?…いや、死ぬのいやぁぁぁ!!』
ブロックワードの影響か、ステラの帰巣本能からか先程まで新型機に執着していた様子とは打って変わり、アーモリーワンの壁に向かって跳び上がりビームを乱射させ穴を開けようとする
飛び上がることから、上空の指揮官用ゲイツに邪魔されることが想像でき、ステラに照準が合わないようにアウルと共に牽制射撃でカバーに入る
牽制射撃とは言え当てるつもりでいるが、まるで当たる気配のない指揮官用ゲイツを警戒しているところに、装備を換装して飛び上がった新型機がモニターに映る
だがアーモリーワンの壁を背にしていることからビームを撃つことを躊躇し、近接しようとするところを牽制するだけなのでいくら腕の立つパイロットだろうが手が出せない状況でいると、最後のダメ押しとばかりにアウルが射撃で壁に穴を開け、外へと逃げ合流ポイントまでの脱出に成功する
帰投できた安心感から先ほど対峙した指揮官用ゲイツのことを思い出す。ビームの威力を極力絞って、最低限の射撃で済ませていたことを差し引いても自軍の基地内部でビーム兵器を使用する度胸と絶対に外さないという思いから来る単純な技量の高さを知らしめる
今に思えば俺たちがこの程度の被弾で済んだのは運がよかっただけかもしれないことを考え、今度対峙した時は相応の覚悟で相手取ることを意識した
お疲れ様でした
オリ主がいた事でエクステンデッド三人組が原作より早く撤退する弊害でステラは早々にブロックワードを使われて、レイの到着も遅れると言う…
原作アニメにハーフコーディネーターらしき人がいなかったので、生まれも育ちも疎まれるような生い立ちのキャラが最終的にキラと凌ぎを削ることになったら面白いんじゃないかと思って書きました
本作主人公はSEED DESTINYの時のキラに勝てるかもってキャラをコンセプトにしているので設定とか強さは盛り盛りだったりします