さて、あの後ゲームセンターを出た俺は、案内役を買って出た郷田の後についていき、とある場所に足を運ぶ事となった。
その場所とは、なんと、数十分前まで授業に勤しんでいた我が母校、ミソラ第二中学校であった。
「え、学校?」
「いいから黙ってついてこい」
「あ、はい」
校門を潜り敷地内に足を踏み入れ、そのまま向かうは体育館。
え、まさか郷田君、これからも生きてお前と添い遂げるなんて言い出すんじゃ……。
なんて、冗談はこの辺りにしておこう。
確かに、俺と郷田が足を運んだのは体育館の裏だ。
だが、生憎とミソラ第二中学校の体育館裏は、甘酸っぱい青春が繰り広げられるようなロマンチックな場所ではない。
そこは、悪徳と野心、頽廃と混沌とをコンクリートミキサーにかけてブチまけた、その名を"スラム"。
そこは文字通り、まるで海外のスラム街のような無法地帯。俺のような善良な生徒は自ら足を踏み入れる事のない、不良達の根城だ。
というか、学校側がどうしてこんな場所を野放しにしてるんだ? どう考えても職務怠慢だろ。
「あ! お帰りなさい、リーダー!」
「お疲れ様です!!」
「おぉ、開けてくれ」
「「うっす!!」」
なんて感想を脳内で垂れ流していたら、スラムの入り口に到着した。
フェンスや有刺鉄線で封鎖されたスラムの入り口、その門番を務める二人の、おそらく二年生と思しき男子生徒二人に出迎えられる郷田。
先輩二人の態度や発言からして、どうやら郷田は既に、一年生にして番長を張ってるようだ。
あ、そう言えば。風の噂で、入学から間もなくに、三年生で番長を張ってた生徒が新入生の一年坊主に敗れて番長の座を明け渡した、という事を聞いたような気がしたが、あれって郷田の事だったのか。
因みに、今どきの不良さん方は昔ながらの腕っぷしで優劣を競うんじゃなくて、LBXバトルで優劣を競うそうだ。
概念すら変えるとか、本当に、スゲーよLBXは。
「ここだ」
なんて、誰に向けたでもなく頭の中で語っていると、スラムの奥、重厚な扉の前で郷田が立ち止まった。
あれ、もしかしてこの場所って……。
「入れ」
郷田に促され、扉を潜り中へと足を踏み入れる。
そこは、テーブルやソファ等の家具が置かれている他、中央にDキューブが設置された、生活感の溢れる空間が広がっていた。
やっぱり間違いない、ここは原作で郷田が主人公たちを待ち構えていた、郷田のプライベートルームとも呼べるあの場所だ。
「あー、それで? 何で俺をここまで案内したんだ?」
「郷田だ」
「へ?」
質問したら突然自己紹介されて、俺は思わず素っ頓狂な声を漏らしてしまった。
「自己紹介がまだだったろ。俺の名前は、郷田 ハンゾウだ」
「あ、あぁ、成程」
そういえば、まだ本人の口から自己紹介されてなかったな。
というか、思い返せば俺の方も自己紹介がまだだった。
「俺は──」
「三影 カイト、だろ」
「っ!?」
郷田の奴、どうして俺の名前を。
まさか! 郷田は人類の革新を得たとでもいうのか!?
「どうしてって顔してるな」
「まさか、郷田って超能力者……」
「んな訳あるか。最近、あのゲーセンで色んな奴とLBXバトルしてる奴がいるって噂を耳にしてな。しかも、結構勝ってるって言うじゃねぇか」
あー、そう言えば気にしてなかったけど、思い返せば結構な数バトルしてた気がする。
「どんな奴かと思って調べてみれば、まさか、同期生とはな」
「それで俺の名前を。……でも、どうして?」
「どうしてって、それは、俺が強い奴とバトルしたいからだ、つまり、お前とな!」
おいおいおい、冗談だろ!?
くそ、まさかこんな展開になるとは……。
相手が郷田って事は、つまり使用するLBXは、原作開始前の時期だから別の機体かもしれないが、あの破壊の王ことハカイオーの可能性が高い。
くそ、幾ら何でも分が悪すぎるだろ。
こちとら、多少チューニングしてても、所詮はクリピテラ級航宙駆逐艦。対して向こうは、親父さんの会社が採算を度外視して開発した、いわば超弩級宇宙戦艦ヤマト。
どう考えても、二コマ目には木っ端微塵になる未来しか見えないんだよなぁ。
「言っとくが、俺はスタンダードレギュレーションなんてなまっちょろいバトルはしねぇ。ひりつくような、アンリミテッドレギュレーションでのバトル一択だ!」
「因みに、
「あ? ねぇよそんなもん」
という訳で、俺は郷田とLBXバトルをする事になりました。
あぁ、お父様・お母様、折角買ってくださったLBXが先立つ不孝をお許し下さい。
腹を決めて準備を整えると、俺は設置されたDキューブの前に立つ。
それに呼応し、郷田もDキューブの前に立つ。
刹那、気合の入った掛け声と共に、お互いの愛機をDキューブ内に投下させる。
「いけ! ハカイオー!!」
「ウォーリアー、発進!」
Dキューブ内に広がる神殿に降り立った二機の戦士、ウォーリアーとハカイオー。
(くっ、やっぱりハカイオーが出てきたか……)
黒を基調とした重厚感のある巨体を誇り、獅子を彷彿とさせる頭部に、手にはノコギリのような刃を持つ巨大な剣、"破岩刃"が装備されている。
だが、何よりも警戒すべきは胸部に設けられた波動砲こと
郷田の親父さんが社長を務めるプロメテウス社、同社が開発したこの凶暴な試作機を相手にするとなると、持久戦は避けたい。
「なら、ウォーリアー!」
刹那、俺は速攻を仕掛けるべくCCMを操作しウォーリアーを駆けさせる。
「へ、面白れぇ!」
郷田は、俺が速攻を仕掛けるべく懐に飛び込む事に気がついたのだろう。
ハカイオーが破岩刃を構えて迎撃の構えを見せる。
程なく、間合いに入ったウォーリアー目掛け、破岩刃が振るわれた。
ウォーリアーはそれを何とか躱すと、すれ違いざまにブロードソードによる斬撃をお見舞いする。
「ほぉ、少しはやるようだな」
確かに手ごたえはあった、だが、ブロウラーフレームに分類されるハカイオーの重厚な装甲には、先ほどの攻撃では大したダメージを与えられない様だ。
「それじゃ、今度はこっちからいくぞ!」
刹那、ハカイオーがその鈍重な見た目とは裏腹に、頭部のスラスターを用いて急接近してくる。
「おらぁ!」
「っ!」
次の瞬間、破岩刃による斬撃がウォーリアーを襲う。
寸での所でライトバックラーを構えて受け止めたが、有り余るパワーから繰り出された破岩刃の斬撃は凄まじく、ライトバックラーに僅かながらひびが入っていた。
おいおい冗談じゃねぇ、何てパワーだよ、あんなのまともに喰らえるか!
とりあえず、ここは一旦距離を取って。──あ、駄目だ、距離とっても意味がねぇ。
「逃げたって無駄だぜ、くらいな!」
〈アタックファンクション、
刹那、ハカイオーの胸部から
幸い、ギリギリのところで何とか躱せたが、あんなごんぶとビーム、そう何度も躱せるもんじゃないぞ。
く、何が悲しくてこんなギリギリの戦いをしなくちゃならないんだ。
こんな事ならライフル系の武器でも装備しとけばよかった……、と、今更嘆いた所で手遅れなんだけどな。
「ほぉ、臆さず向かってくるのか、その意気や良し!」
再びウォーリアーを走らせ、ハカイオーの間合いに飛び込むと、ブロードソードで斬りつける。
「っ! 何!?」
何度斬りつけても、ハカイオーの装甲を前にしてはあまり意味がないと思うだろう。
だが、それが関節部分ならどうだろうか?
そう、ゾルタン様も言ってた、ご自慢の装甲も関節部までは覆えないってな!
「面白れぇ、面白れぇな!」
「こっちは全然面白くないけどな!」
どっしりと構えて破岩刃を振るうハカイオー。
一方、それを躱しつつ、何度もすれ違いざまにハカイオーの関節部分目掛けてブロードソードを振るうウォーリアー。
一進一退の攻防を繰り広げる事暫く、俺はCCMの画面に表示されたゲージを確認すると、遂に勝負に出た。
「こいつで!」
〈アタックファンクション、ソードサイクロン〉
ウォーリアーが斬撃の渦を巻き起こし、ハカイオーに襲い掛かる。
だが、ハカイオーは破岩刃をシールドとして使用し、斬撃の渦を防いでみせた。
「嘘だろ!?」
「なら、今度はこっちからいくぜ!」
「っ!」
刹那、必殺ファンクション発動直後の硬直時を狙い、破岩刃がウォーリアーに襲い掛かる。
何とかライトバックラーで防ごうとするも、僅かに間に合わず、破岩刃の一閃を受けてライトバックラーが弾き飛ばされた。
「まだまだ!」
次の瞬間、間髪入れずに、頭部のスラスターを用いてハカイオーがタックルを繰り出す。
その見た目通りの重たい一撃を受けたウォーリアーは、軽々と弾け飛んだ。
「さぁ、こいつでトドメだ」
「不味い!」
急いでウォーリアーを立ち上がらせようとするも、タックルで受けたダメージからか、素早く立ち上がる事が出来ない。
その間にも、ハカイオーの胸部砲口には、エネルギーが収束していく。
くそ、こうなったら、一か八かだ!
〈アタックファンクション、
刹那、
次の瞬間、爆発が起こり、周囲が爆煙に包まれた。
「……はは、マジかよ」
やがて、爆煙が晴れて姿を現したのは、全身傷だらけになりながらも、投擲のお陰で軌道をずらした事で
「あの状況からギリギリで持ちこたえたのか!?」
「いや、違う」
直撃は免れたと言っても、それまでの戦闘で蓄積したダメージもあり、至近弾であっても決定打である事に違いはなかった。
刹那、ウォーリアーが力なく地面に倒れると、青白い光を放った。つまり、ブレイクオーバー、俺の負けという事だ。
バトルを終えて、Dキューブ内からウォーリアーを回収する。
奮戦した愛機の労をねぎらいつつ、その損傷具合を観察する。
うわぁ……、
俺の小遣い、足りるかなぁ。
「いいバトルだったぜ!」
「それはどうも……」
勝って上機嫌な郷田が握手を求めてくる。
対して俺は、少ない小遣いでどうアーマーフレーム代を工面するか、その問題に頭を悩ませつつも、握手に応じる。
「お前、強いな」
「そうか?」
「気に入った! なぁカイト。お前、俺のダチにならねぇか!」
「……は?」
俺は再び、素っ頓狂な声をあげる。
え、何、これってもしかして、殴り合って友情が生まれちゃった感じ?
まぁ、殴り合ったのはLBXだけどね。
「どういう風の吹き回しだ?」
「どうもこうも、こんな心躍るバトルは久々だったからな」
「はぁ……」
うーん、バトルジャンキーさんの考えは分からん。
とは言え、考えようによっては、これはこれで好都合か。
「それじゃ、これからよろしく郷田」
「おう、よろしくな、カイト!」
そして俺と郷田は、再び固い握手を交わすのであった。
「もし困った事があれば、遠慮なく何でも言ってくれよ。ダチなんだからよ」
ん? 今何でもって言ったよね?
「あ、それじゃ早速。ちょっとこのアーマーフレーム一式買い替えるのに俺のお小遣いじゃ足りないんで、少しばかり貸してくれない?」
「な、お前なぁ!」
刹那、郷田が少しばかり焦り始める。
「っははは! 冗談、冗談だって」
「んだよ、冗談かよ……」
あ、冗談だと分ってホッとする郷田、新鮮で面白いな。