郷田とバトルしてダチになってから、早いもので数週間が経過していた。
そしてこの間、肝心のバトルの方はと言えば、残念な事に、郷田とのバトルの影響が続き、LBXバトルは出来ないでいた。
とはいえ、やはり我慢はよくないという事で、時折キタジマ模型店等に行って、レンタルLBXを使いバトルを行っているが、やっぱりレンタル品では物足りなさを感じてしまう。
と言っても、アーマーフレーム一式買い替えるのに必要な小遣いが貯まるまで、贅沢は言ってられない。
「うーん、成程」
しかし、人間とは欲深いもので、分かってはいても、ついつい欲求を満たしたくなるもの。
だが、レンタルLBXはいつでも借りられる訳ではない。
では、その様な場合、どうやって欲求を満たすのか。それは、LBX総合情報誌、通称Lマガと呼ばれる週刊誌を読むのだ。
「ほぉ……、今はこういう道具もあるのかぁ……」
ま、俺の懐事情はご承知の通りなので、読むと言っても立ち読みだけどな。
そう言う訳で、今俺は、ミソラ駅の駅前にある書店、BOOK TATUYAで今週号のLマガを立ち読みしている。
因みに、今週号の特集は、最近徐々に増えつつあるハンドメイド型LBXについてだ。
原作でも、アキハバラの面々が使用していた機体のように、ハンドメイド型LBXは企業が開発・販売しているLBXに比べて性能が高い。
勿論、その見た目も大量生産を考慮していないので、かなり個性的な物が多いと同時に操作性もピーキーなものが多い。
「俺にも、できるかなぁ……」
郷田とバトルを経て感じた、量産機をチューンナップする事の限界。
ウォーリアーはいい機体だ、だけど、今後原作に介入する事となった場合、ハカイオー以上の性能を持った機体とバトルする機会は必然的に増えるだろう。
そうなると、愛機となる機体も、やっぱりそれらと渡り合えるぐらいの性能を有した機体の方がいい。
という訳で、将来的にはハンドメイドにも挑戦する事も見据えて、今はLマガのような雑誌やネットなどを見て作り方の勉強中です。
「いや、弱気になるな、俺にだってできる!」
「ん、んん!」
なんて意気込んでたら、隣から声が聞こえてきた。
ふと隣を見ると、そこにははたきを手に、眉間にしわを寄せた店員さんの姿があった。
うん、見たらわかる、怒ってるやつだ。
「……、あ、これ、下さい」
こうして、俺が貯めていた小遣いのいくつかはLマガの購入費に消える事となり、買い替えの夢は、また一歩遠のいたのであった。
「ただいまー」
購入したLマガを小脇に抱え、自宅へと帰ってきた俺。
一旦リビングに顔を出し、キッチンで夕食の準備をしている母さんから夕食の献立を聞き出した所で、リビングを後にし二階の自室へと足を運ぶ。
「ミカ、ただいまー」
「……、おかえり」
と、部屋に入る前に、隣の部屋にいる我が
すると、ドア越しに小さく返事が返ってくる。
──昔は、俺に気付くなり、両手を大きく広げてパタパタと近づき、ぎゅっと抱きしめて出迎えてくれたのに。
最近じゃ、そんな出迎えもないし、夕食の時に学校での出来事を尋ねても素っ気ない答えばかり。何より、"一緒にお風呂"に入ってくれなくなった! もう一度言おう、"一緒にお風呂"に入ってくれなくなった!
理由は、分かってる。
ミカももう小学校高学年、所謂思春期が始まり、心身ともに大きく成長する時期に入った。だから、昔の様にはいかないのだと。
ミカが立派な大人の女性として成長していくのを嬉しく感じる反面、どこか、寂しさを感じずにはいられなかった。
「と、いかんいかん」
いつまでも部屋の前で感傷に浸ってる場合じゃない、さっさと部屋に入ろう。
「ふー」
小脇に抱えていたLマガを机の上に無造作に置き、椅子に深々と腰掛ける。
んー、夕食出来るまでまだ少し時間あるし、何をして時間を潰そうかな。
「とりあえず、ネットでハンドメイド型LBXの製作動画でも見るか」
早速、パソコンの電源を入れると、動画配信サイトにアクセスするべくマウスを動かし始める。
と、その時、不意に、誰かが扉をノックした。
「はーい?」
「アニキ、いい?」
ノックしたのがミカだと分かるや否や、俺は慌てて扉に駆け寄ると、ゆっくりと扉を開けた。
「ミカ、どうしたんだ?」
「ん、ちょっと、お願いがあるの」
ミカの口から飛び出した言葉に、俺は零れそうになった涙をぐっと堪えた。
そして、久々に兄として頼られる嬉しさから小躍りしたい衝動もぐっと堪えながら、俺はミカを部屋に招き入れると、お願いの内容を尋ね始める。
「で、お願いって何だ?」
「アニキ、最近、郷田さんと仲いいんでしょ?」
刹那、ミカの口から郷田の名前が飛び出し、俺は一瞬目を見開く。
「え、ミカ、どうして郷田の名前を?」
理由を尋ねると、ミカはもじもじしながらも、経緯を話してくれた。
曰く、切っ掛けは一週間ほど前の事。
いつものように学校から自宅へと帰っていたミカは、途中、脇見運転の自動車にはねられそうになったのだとか。しかし、間一髪の所で郷田に助けられたそうだ。
しかも、ミカを命の危機から救った郷田は自身の名を名乗る事もなく、ミカの無事を確認するとその場から去っていったという。
おいおい郷田君、かっこよすぎるだろ、同性の俺でも惚れちゃうよ。
案の定、ミカは命の恩人である郷田に心惹かれたらしく、この一週間で郷田の名前や、俺と交友関係がある事を調べ上げたようだ。
「成程な……。となると、お願いも郷田絡みか?」
「ん、郷田さんの、サインが欲しい」
そう言うと、ミカは徐にサイン用紙とペンを取り出した。
「お願いって、それだけ?」
「ん」
「本当にそれだけでいいのか? 何だったら、ミカとのツーショット写真とか……」
「それだけで、いい」
どうやら、ミカはサインだけで十分だそうだ。
あまり気を利かせすぎると逆に気分を害してしまうので、ここは素直にサイン用紙とペンを受け取ると、明日郷田のサインを持って帰って来てやると約束する。
「ありがとう、アニキ」
はぁ~、久々に見たよ、
これはもう、是が非でも郷田のサインを持って帰らねばならない!
俺は決意を固めると、部屋を後にするミカを見送るのであった。