需要を満たし、ついでに俺のお財布も満たしてくれる、その名も、"みんなで幸せになろうよ"計画が始動して早いもので数週間が経過。
そして、計画実行の結果はと言えば──。
「むふ、むふふふふ……」
自室で毎夜、売り上げを確認する毎に笑いが止まらなくなる程、素晴らしい結果であった。
勿論、計画始動当初はすんなりと事が運ぶ事もなく、色々と苦労もあった。
商品の調達に関しては、ミカの名を借りる事に少々心苦しさはあるものの、特に難しいものではなかった。
だが、販売ルートを開拓するのは、事前に予想していたよりも難しいものであった。
どうやら以前に偽物が出回ったことがあるらしく、俺が調達したサインなども、販売当初は偽物ではないかと疑いの目を向けられていた。
だが、根気強く足を運び、扱っている商品が本物であると丁寧に説明を重ね、時間をかけて顧客の信用を得ていき。
遂に、販売にまでこぎつけた。
そして、販売にまでこぎつけられれば、後は此方の物だ。
ファンのコミュニティーは俺の想像以上で、瞬く間に口コミが広がり、売れ行きは右肩上がり、同時に、俺の笑いも止まらなくなったという訳だ。
「にしても、随分と貯まったな……」
現在貯まったクレジットの額なら、アーマーフレームを買い替えるには十分な額だ。
となると、そろそろウォーリアーの新しいアーマーフレームを──、いや、この際別の機種を買ってみるか?
こうして、色々な妄想を楽しみながら、俺の休日前夜は更けていくのであった
翌日。
支度を整えた俺は、ミカや両親に外出の挨拶を済ませると、自宅を後に一路、ミソラ駅に向かった。
そして、駅から電車に揺られる事数十分。俺は、とある駅で電車を降りた。
「うーん。やっぱりここは、いつになってもいい町だなぁ」
改札を通り、出入り口から駅の外に出た俺を出迎えたのは、アニメや漫画の様々なキャラクターがでかでかと描かれた看板の数々。
そして、駅周辺の通りでは、メイド服や燕尾服を着用した男女が、自慢の営業スマイルと共に通行人たちに声掛けを行っている。
そう、この町こそ、例え時代が進んでも、全国のオタク達が足繁く通うまさに聖地とも呼べる町、アキハバラだ。
「さて、行くか!」
そんなアキハバラに今回俺が足を運んだ理由、それは、人が集まると同様に全国、否、世界中からディープなパーツ等が集まるこの町で、新しいアーマーフレームを物色する為だ。
早速気合を入れ直すと、俺はLBXを取り扱う店を巡り始める。
(にしても、スゲー品揃えだな。一体どんな仕入れルートしてんだこりゃ……)
何件か店を巡ってみた感想だが、俺の想像以上のラインナップの数々だった。
キタジマ模型店やトキオシアデパートなんて目じゃない、既に生産終了した希少品から、一般には販売されない筈の非売品まで、目移りせざるを得ないものばかりだ。
(うーん、これだけ素晴らしいと、逆にどれを買うか悩むなぁ……)
アレもいいコレもいい、嬉しい悩みに頭を悩ませながら、俺は次なる店に足を踏み入れた。
アキハバラの裏通り、そこから更に細い路地を抜けた先、俺が足を踏み入れたのは、そんな立地に佇む店であった。
店内は、特に個性的という事もなく、商品棚に様々な模型や道具等が整然と陳列されている。
そんな店内を歩きながら、陳列されている商品に目を通していく。
(うーん、これは前の店でも見たな……)
しかし、陳列されている商品のラインナップは、特に目新しいものもなく。
この店はハズレだったか、と、別の店に向かおうかと考えていた、その時であった。
「ん?」
店の一角に設けられたショーケース、そこに展示されていた商品を目にした瞬間、俺は一瞬我が目を疑った。
そして、慌ててショーケースに近づくと、再びその商品をまじまじと観察し始める。
(左肩の三本スパイク、右肩の逆L字型シールド、腰部と脚部の動力パイプ、そして何より、頭部のモノアイ!!)
緑色の塗装されたその機体は、紛れもなく、ロボットアニメの代名詞たる機動戦士ガンダムに登場する、同作を代表すると言っても過言ではない人型機動兵器、モビルスーツの一つ、ザクII。
ガンダムの作中では全高17メートルの巨大人型兵器として描かれていた同機を、まさか、手のひらサイズのLBXになって拝める日が来るとは……。
と、感動している場合ではない。
先ほども説明したが、このザクIIは機動戦士ガンダムに登場するロボットで、当然ながらダンボール戦機の作中には登場しない。最も、同機をモデルにしたLBXなら登場するのが。
何故、そんな登場する筈のない機体がこの店のショーケースに飾られているんだ。
「お、坊主、その機体、気になるかい?」
と、その時、店の店主と思しき中年男性が、俺に声をかけてきた。
俺はこれ幸いと、早速店主にこのザクIIの事を尋ねてみる。
「あー、その機体な。贔屓にしている問屋が一か月ほど前に持って来たもんなんだが……、確か、問屋が言うには、何処かの企業が試作した品なんだとよ」
(企業の試作品?)
この世界では、機動戦士ガンダムというロボットアニメは誕生していない。故に、ザクIIも誕生しない筈だ。
だが、実際にザクIIがLBXとして誕生しているという事は、その企業にザクIIの存在を知る人物、もっと端的に言えば、俺と同じ転生者がいるという可能性が高い。
「あの、その企業って、何処のメーカーなんですか?」
「それがなー、俺も問屋に尋ねてみたんだが、そいつが言うには、何処のメーカーが作ったかまでは分からんそうだ」
そこで、その企業を突き止めるべく、店主から有力な手掛かりを聞き出そうとしたが、結局手掛かりを得る事は出来なかった。
原作では、LBXを製造している企業は八社程度だったが、現実となったこの世界では、それ以外にも、大小さまざまな企業がLBX人気にあやかろうと参入しLBXを製造していた。
という訳で、殆ど手掛かりのない現状では、このザクIIを作った企業を特定するのは不可能と言ってもいいだろう。
「所で坊主、その機体、かなり気になってるみたいだが?」
「あ、えぇ、市販されてる他の機体とは異なる、現代兵器の様な雰囲気、更に機体各部のディティールがその雰囲気を更に引き立たせていて……。本当に、惚れ惚れします」
「他の客は、この機体を見てダサいって言ってたが、まさかそこまで言ってくれるとは、嬉しいねぇ」
何!? ザクIIがダサいだと!
えぇい、この造形の素晴らしさが理解できんとは、一体何処のどいつだ、捕まえて小一時間程量産機の素晴らしさを説き聞かせてやらねば。
と、内心憤慨している俺を他所に、店主はふと電卓を取り出すと、何やら数字を入力し始めた。
「坊主」
「はい?」
「お前さんが欲しいなら、その機体、この値段で売ってやるよ」
そう言うと、店主は先ほど数字を入力してた電卓を俺に見せる。
刹那、電卓に表示された数字を目にし、俺は目を見開いた。
「え! い、いいんですか!?」
「あぁ、ここまで気に入ってくれたのは坊主が初めてだからな。出血大サービスだ!」
表示された数字は、定価の半額以下という衝撃プライス。
店主さん、あんたなんていい人なんだ!
これはもう、ここで買わないという選択を選ぶ方が失礼と言うもの。
「ありがとうございます!」
「おう、箱詰めするからちょっと待ってな!」
こうして俺は、新たな愛機となるザクIIを手に入れたのであった。