まさかの邂逅に驚いていると、矢沢さんが再び口を開き始める。
「どうだ、これで分かっただろ」
「あ、あぁ、確かに……。子ども扱いして、すまなかった」
「分かればいいのさ」
学生証を矢沢さんに返し、矢沢さんの機嫌も直った所で、俺は矢沢さんにとある質問を投げかける。
「所で、矢沢さんはどうしてこの秘密のバトル会場に?」
「リコでいいよ。見た所、アタイとそんなに年も離れてなさそうだしね」
本人がそう言うのであれば、これからはリコと呼ぶ事にしよう。
そう言えば、女性を下の名で呼ぶのってミカ以外だとリコが初めてなような気がしたな。
「あんた、郷田 ハンゾウって知ってる?」
「え」
なんて考えていると、不意にリコの口から郷田の名が飛び出した。
そりゃ知ってるも何も、俺にとっちゃ貴重な資金げ──。もとい、大切なお友達だからな、知らない筈ない。
「あ、あぁ、一応」
「アタイ、郷田さんの大ファンでさ! あの真っ向から立ち向かう姿勢、どんな相手でも真剣勝負を挑む姿、まさにアタイの大好きな演歌そのものだよ」
「へぇー(郷田のどの辺が演歌のか……、あの格好は確かに演歌だが、いや、深く考えるのは止めよう)」
「で、アタイも来年は郷田さんと同じ中学に入学するから、入学したらすぐにでも郷田さんの右腕になれるよう、ここでバトルの腕を磨いてるんだよ。ここなら、郷田さんと同じレギュレーションでバトルの経験が積めるからね」
リコの説明を聞き終え、俺は頑張れよと応援の言葉を送ると、一旦リコとの会話を終えてLBXバトルの観戦を行おうとした。
だが、今度はリコの方から、俺に対して質問を飛ばしてきた。
「所であんた、名前は?」
「ふ、名乗る程の者じゃな──」
「……そういうのいいから」
ぐ、折角人が、世界を救う事になる英雄の少年と鍵となる少女の運命の出会いにより物語は動き出す、的なノリでカッコよく決めようと思ってたのに、出鼻を挫かれてしまった。
仕方ない、ここは気を取り直して名乗るとしよう。
「俺の名はカイト、三影 カイトだ」
「な! 三影 カイトだと!?」
ご要望に応えて自己紹介を行った、刹那。
突如、リコが声をあげた。
「あ、あんたが、あの三影 カイト……」
「え? 俺の事、知ってるのか?」
何やら俺の事を知っていそうなリコの口ぶり、気になって質問をしてみれば、返ってきたのは耳を疑う答えだった。
「知ってるもなにも、あんた、最近郷田さんの右腕として頭角を現してるんだろ。郷田さんの為に色々と資金調達とかぶつの調達をしてるって噂も聞くよ」
え、ちょっと待って、何その噂、俺初耳なんですけど。
確かに資金とかLBXのパーツ等は調達しているが、それは自分自身の為であって郷田の為じゃないぞ。
そもそも、いつの間に郷田の右腕になったんだよ!? というか、これじゃどこからどう見ても不良グループの中核メンバーじゃないですか、ヤダー!
えぇい、誰だこんな傍迷惑な噂を流しやがった奴は、見つけ出してとっ捕まえて、コンクリで固めてトキオ湾に沈めてやる!
「三影 カイト!」
と、俺が過激な復讐方法を考えていると、不意にリコが声を張った。
「アタイと勝負しな!」
「……はい?」
そして、次いでリコの口から飛び出した言葉を聞き、俺は素っ頓狂な声をあげる。
「ちょ、ちょっと待て! どうして俺がリコとバトルしなくちゃならないんだ!?」
「あんたは郷田さんの右腕、なら、アタイがあんたに勝てば、アタイが郷田さんの右腕に相応しいって証明になるからさ!」
「いや、俺が郷田の右腕というのは単なる噂であって、俺は右腕でも何でもないんだよ!」
そもそも、清く正しい学生生活を心がけてる俺としては、そんな称号なんて迷惑以外の何物でもないんだよ。
だから、欲しいならどうぞ持って行ってください。いや、むしろ差し上げます。
所が、どうやら勝ち取らなければ意味がないらしく、リコは頑として態度を変える事はなかった。
「わ、分かった。ならその勝負、受けて立つ」
結局、俺が折れて、リコと勝負をする運びとなってしまった。
「よし、なら今すぐ勝負だ!」
「ちょっと待った!」
「な、何だよ」
「今すぐ勝負したのは山々だが、俺のLBX、生憎と今は改良作業の途中でな」
「そ、そうなのか?」
当てが外れ、どうしようかと頭を悩ませるリコ。
あぁ、小首を傾げながら考える彼女の姿、愛らしいな。
と、見惚れている場合ではなかった。ここは男として、紳士として、率先して問題解決に取り組まなければ。
「じゃ、こういうのはどうだ? 一週間、一週間の間に必ず完成させてやる! だから、一週間後、ここで勝負する、というのは?」
「二言はないんだね?」
「無論だ!」
「なら一週間後、あんたとの勝負、楽しみに待ってるよ!」
こうして、俺は一週間後にリコと勝負をする事になった。
さて、その後足早に自宅に帰った俺は、期限までにザクIIの改良作業を完成させるべく、再び自室に籠る事となる。
それから俺は、可能な限り確保した時間を、全て改良作業に充てた。
眠気や空腹、
バックパック並びに脚部のスラスターを大型の物に換装、更に、強化されたスラスターの熱等に耐えられるように、各種の装甲材の組成や構造も改善し、自重の軽量化を図っている。
また、この軽量化を生かすべく、コアパーツの編成も見直し、最適化したチューニングにより、パワーレイトウェシオも飛躍的に向上した。
最も、こうした機動力強化により、改良前と比べると操作性は犠牲になったと言わざるを得ないが、なぁに、逆を言えばその性能を限界まで引き出せるようになったという事だ。
そして、この改良で最も重要な改良箇所、それが、頭部に"ブレードアンテナ"を搭載した事だ!
やはりザクの改良型と言えば、頭部のブレードアンテナは外せない。
更に、折角改良したのにノーマルカラーというのも味がない、という事で、俺の大好きな青色に塗装し、俺専用機に。
その名も、カイト専用ザクIIS型だ。
あぁ、何度見ても惚れ惚れする様な造形美だ。
「ふふふ、これでリコの奴をぎゃふんと言わせてやるぜ」
刹那、完成し気が楽になったからか、それまで張り詰めていた緊張の糸がほぐれると同時に、強烈な睡魔が襲い掛かってきた。
その睡魔に抗えず、俺はベッドに横になる。
そして、夢の世界に旅立とうとした、その時、俺はふと気がついた。
俺、まだザクIIS型の慣熟運転してない、と。
(ま、ぶっつけ本番でなんとかするし、なんとかなるだろ……)
偉い人も言ってた、何事も気の持ちよう次第だ。
そして、今度こそ俺の意識は、夢の世界へと旅立つのであった。
そして、迎えたリコとの勝負の日。
俺は、昨晩完成したばかりのザクIIS型を手に、遊技場を訪れた。
依然足を運んだ時と同様、奥の空間は、今日も刺激を求めるプレイヤー達で賑わいを見せている。
そんな賑わいを見せる中、俺は対戦相手であるリコを見つけると、威風堂々と彼女に近づき、決めの一言を口にする。
「ふ……、またてたな!」
だぁぁぁっ! 折角カッコよく決めてやろうと思ったのに、肝心な所で嚙んじまったよ!
あぁ、見るなリコ、そんな目で俺を見るな!
「さ、早速バトルを始めようか!」
くそ、こうなったら何事もなかったかのように進めてやる。
認めなきゃいいんだよ、若さゆえの過ちなんて!