中央のステージに設置されたDキューブの前に移動した俺とリコは、互いの愛機を取り出すと、Dキューブ内に投下する。
今回のバトルフィールド、文字通り一面氷に覆われた世界、南極と呼ばれるそのフィールドに、二機の小さな戦士が降り立つ。
(ほぉ……、リコの愛機は原作同様にクイーンか。確か、現時点だと、クイーンはまだ発売されて間もない最新鋭機種の一つだったな)
ザクIIS型と対峙する機体、クイーン。
その名の通り、まさに白のドレスを身に纏った女王様を彷彿とさせるその外観は、何処か気品を感じさせる。
だが、侮るなかれ。同機の最大の特徴は、開発・販売元であるタイニーオービット社が市販用として初めて実用化させたホバー機構だ。
ドレスのスカートを彷彿とさせる脚部、そこに内蔵されたホバー機構により、同機は高速移動能力を有している。
手ごわい相手だ、だが、相手にとって不足はない!
「クイーンか、いい機体だな」
「そう言うあんたの機体は、見慣れないやつみたいだけど?」
「こいつはザクIIS型。俺の持てる技術の粋を集めて作り上げた最高の機体だ」
「へぇ、そうかい。だけど、アタイのクイーンの前には、どんな奴だって最後はスクラップだよ!」
「では、見せてもらおうか。タイニーオービット社最新鋭機の性能とやらを」
そして、戦いの火蓋が切って落とされる。
「早速いかせてもらうよ!」
先ず仕掛けたのはクイーン。
装備したマシンガンのクイーンズハートの銃口をザクIIS型に向けると、間髪入れずに引き金を引く。
「くっ!」
スラスターを噴かせて弾丸を躱すも、足場が一面氷という事もあり、着地の際に足を取られそうになる。
(く、このフィールドでは地形の影響を受けにくいクイーンが有利か……)
俺が初めての操作でまだ感覚をつかみきれていないという事もあるが、やはり足場が氷だと滑り易く、回避するたびに足を取られそうになる。
また、ザク・マシンガンで応戦してはいるものの、滑り易い為か、射撃が安定せずに、こちらの弾丸はクイーンの装甲を掠りすらしない。
一方、ホバー機構で足場等関係ないクイーンの射撃は、何度となくザクIIS型の装甲を掠めている。
(相性は最悪、か。だが、このままやられはせんよ!)
確かに、今まではクイーンの優勢であった。だが、それもここまでだ。
徐々にではあるが、俺も操作のコツを掴んできたし、この氷の足場にも慣れてきた。
さぁ、ここから反撃開始といこうか。
「っ、動きが変わった!? けど、今更!」
〈アタックファンクション、グレイスミサイル〉
刹那、クイーンのホバーユニットから垂直発射されたミサイルの数々が、ザクIIS型目掛けて降り注ぐ。
「成程、確かに強力な火力だ。……だが、当たらなければどうということはない!」
「く、言ってくれるね!」
しかし、降り注ぐミサイルの数々を、ザクIIS型はまるで氷の上をすべるスケート選手の如く動きで躱していく。
俺の一言も相まって、これはにリコも憤りを感じずにはいられないようだ。
効いてるようだな、俺の攻撃が。
そう、バトルにおいて最も基本的な攻撃、精神攻撃がな!
「どうした、リコ、その程度か!?」
「く、減らず口を叩けるのも今の内だよ!」
再びクイーンズハートが火を噴くものの、リコが冷静さを欠いているせいか、その射撃精度は先度よりも下がっている。
「でも、そろそろ仕掛けさせてもらおう!」
クイーンの攻撃を躱した、刹那。
ザクIIS型はスラスターを噴かせると、近くにある氷山に降り立つ。
そして得物をザク・マシンガンからザク・バズーカに持ち替えると、クイーンに狙いを定め、引き金を引いた。
刹那、砲口から放たれた弾頭がクイーンに襲い掛かる。
(そう簡単には当たらんか)
だが、クイーンは自慢の機動力を生かし、飛来する弾頭を躱していく。
しかし、当たらない事に焦りはしていない。何故なら、この攻撃の真の目的は、クイーンをとある場所へと誘導する為のものだからだ。
「ふ」
「? 何笑ってるのさ」
「なに、そろそろ終わりも近いと思ってね」
「っ! まだまだ、これからだよ!」
まだ勝負を諦めていない様子のリコ。
だが生憎と、俺の勝利の方程式は既に完成しているのだよ。
「っ、しまった!」
刹那、クイーンは氷山の山肌に追い詰められる。
追い詰められたクイーンに対して、ザク・バズーカの砲口が向けられ、次の瞬間、引き金を引くと共に一発の弾頭が、クイーン目掛けて放たれる。
だが、クイーンは左右ではなく、上空に退避し難を凌ぐ。
「この瞬間を待っていたんだ!」
そう、クイーンが地面を離れて上空に現れるこの瞬間こそ、俺の待ち望んでいたもの。
刹那、ザクIIS型はスラスターを最大出力で噴かせると、上空のクイーン目掛けて力強く跳躍する。
「何!?」
「空中では、自慢のホバーも生かせまい!」
その巨大なホバー機構が仇となり、空中で満足のいく機動力を発揮できないクイーン。
そんなクイーン目掛け猛スピードで迫るザクIIS型は、クイーンを間合いに捉えるや否や、強烈な"蹴り"をお見舞いした。
まさかの攻撃に驚くリコを他所に、蹴りを食らいバランスを崩したクイーンは、氷の地面目掛けて真っ逆さまに落ちていく。
そして、リコの必死の操作も空しく、クイーンは氷の地面にその身を打ち付ける。
「戦いは、非情さ」
打ち付けた際のダメージで、その場から起き上がる事の出来ないクイーン。
そんなクイーンに対し、ザクIIS型は構えたザク・バズーカの砲口を向ける。
次の瞬間、バトル終了を告げる爆音がフィールドに木霊した。
それは同時に、俺の勝利を告げる音でもあった。
バトルを終えて、互いの機体を回収する俺とリコ。
その手に無残な姿となったクイーンを抱えたリコは、静かに俯いている。
その姿を目にし、気の毒に思わなくはないが、これも勝負の世界の厳しい現実だ。
「あー、リコ、さん?」
「……」
「リコのクイーンもなかなか強かったぜ、これなら、郷田の右腕としても申し分ないんじゃないか」
とは言え、何のフォローもなく立ち去るというのも寝覚めが悪くなりそうなので、精一杯のフォローを行う。
「お世辞なんていいんだよ! くー、悔しい! 途中まではいい感じだったのに!」
だが、どうやらそれは余計なお世話だったようだ。
リコのあの感じなら、塞ぎ込む事もないだろう。
「カイト、アタイはまだ諦めた訳じゃないからね! もっと特訓して、さらに強くなって、今度こそ、あんたを打ち負かしてやる!」
「ふ、面白い。なら、俺も腕を磨いて、その時を楽しみに待ってるぞ!」
そして、俺とリコは、最後に固い握手を交わし解散する運びとなった。