ポケモンに翻弄される現代社会、あるいはのうてんきミュウツー   作:ミュー(なきごえ)

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あけましておめでとうございます。


第20話 一般主婦Aさんの日常

「ハァ……」

 

 久しぶりの晴れ間でキレイに乾いた洗濯物を畳みながらため息をつく。

 結婚して、子供も生まれて、日々の幸せを嚙み締めながら平穏無事に過ぎていた時間が、今はとても遠く思える。

 子どもが気ままに遊ぶようになって少し手がかかるようにはなったが、それは嬉しさと紐づいているので苦ではない。

 問題は、件の”ポケモン事変(ショック)”から激変した環境である。

 夫は警察官で、ポケモンが現れた直後は忙殺され、落ち着いてきた頃に仕事の一環で捕獲したというポケモンを連れて帰った。

 私は……その、虫は苦手ではない方だと思うが、さすがにあのサイズの虫には忌避感がある。

 だって、一抱えもあるイモムシなのだ。尻込みしても責められるいわれがあるだろうか。

 息子はでっかいイモムシに大興奮で、仕事の都合でもあるのだから拒否することなどできなかったが、今思えば序の口だったのだ。

 イモムシのポケモンはしばらくして、サナギを経て蝶に姿を変えた。

 大き目の複眼にちょっと思うところがあったけど、見た目はイモムシの頃よりだいぶマシだ。

 風変わりなペットを飼うことになったと思うことにして自分を納得させた頃に、夫は2匹目のポケモンを連れ帰った。

 やけに赤茶けた体毛に黒の縞が入った子犬のような『ガーディ』というポケモンで、こちらは私の感性でも受け入れやすかった。

 ”子どもが生まれたら犬を飼いなさい”という言葉があるように、息子の情操教育にも良い影響があるのではないかと思えたし、私自身子犬を飼ってみたい気持ちはあったのだ。

 犬を飼っているママ友に世話の苦労を聞いて青ざめたりもしたが、ポケモンは思ったより手が掛からない。

 すこし意地っ張りなところはあるものの、言いつけを理解する賢さがあり、躾はほどなく済んだ。

 辛い木の実を好んで食べるせいで、息子が木の実をつまみ食いして大泣きしたことはあったが、この子のせいではないだろう。

 しかし毎日の散歩に息子が進んで立候補し、夫もポケモンが一緒ならと賛成するため送り出すが、私は今でも心配だ。

 町中のポケモンは敵対的な者は少ないというものの、散歩道で危険なポケモンにあっていないか憂いは尽きない。

 

「ただいまー!」

 

「バウバウッ!」

 

 玄関が開く音とともに息子の元気な声が聞こえてくる。

 ああ、この幸せな日常が崩れなければいいのだけれど……

 

 

 

 

 

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「……で、これは一体何?」

 

「たまご! サンタクロースのとりさんからもらった!」

 

 机の上に置かれたのは息子の身体では抱えるほどの大きさのタマゴ。

 鶏卵など比較にならない大きさで、何やら緑の水玉のような模様が入っている。

 

「きょーりゅー! きょーりゅーのたまご!」

 

 息子は大興奮だが、そんなことがあるとは思えない。

 しかし、現実的に見てありえないタマゴが目の前にあるからには、ポケモンとの関連を疑わざるを得ない。

 

「このタマゴは明日お父さんの職場で見てもらいましょう」

 

「や゛だ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛! ぼく゛がそ゛だて゛る゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!」

 

 大泣きする息子に心が痛むが、この子の安全のためにも退くわけにはいかない。

 夫の職場の話から漏れ聞くに、ポケモンには毒を持っているものも多いとのことだ。

 そんなポケモンが孵っても、うちでは持て余すだけ。

 心を鬼にして、タマゴに抱き着く息子を引きはがす作業に移った。

 

 

 

 

 

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 夫が職場に持って行ったタマゴは、なぜかうちに戻ってきた。

 夫が言うには、タマゴを孵すには相性のいいポケモンや人の近くにいるべきなのだが、現在一番相性がいいのが私たち家族なのだと。

 持て余すようなら孵った後で引き取るので、孵るまでの記録を取ってほしいと高そうな撮影機器まで送られてきた。

 これもまた仕事の都合……警官の妻として分かっていたことだが、吞み込むべきことは多い。

 生まれたばかりのポケモンは抵抗しないのでもしもの時は、と私にも”モンスターボール”とやらが渡された。

 息子は少しでもタマゴと一緒に居ようと散歩の時ですら自分が赤ん坊の時に使っていた抱っこひもでタマゴを連れ歩くほど。

 もし孵ったのが危険なポケモンなら、私が何とかしなければ……! 

 

「おかーさん! タマゴうごいてる!」

 

 いよいよだ。

 タマゴはクッションの上でぐりんぐりんと動き、時折中からタマゴの殻を破ろうとしている音が聞こえる。

 一体どんなポケモンが出てくるのか、かすかに震える自分の身体を押さえつけ平静を装う。

 大丈夫、ボールがある。危険そうならすぐに使う。それで大丈夫だ。

 

 タマゴの上部にひびが入り、それが徐々に広がっていくと、殻は一気にバラバラに割れた。

 

「ギャウ?」

 

「うわぁ、かいじゅーだぁ!」

 

 生まれたのはサメのような頭に小さな手足をくっつけたようなポケモン。

 頭部と胴体の区切りが分からない程で、それゆえに口の大きさが際立って見える。

 丸っこいフォルムは可愛いと言えなくもなかったが、大きく開いた口にしっかりした牙を見た私はためらいなくボールを投げた。

 

 

 

 

 

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 タマゴから生まれたポケモン……『フカマル』という種類らしいが、彼(オスだった)もうちで暮らすことになった。

 さみしがりで家族の誰かがいないと泣き出してしまうので、”特例だ”と夫は言っていた。

 なんでもこの子は『600族』と呼ばれる強いポケモンになる可能性があるから大事に育てたいのだとか……600族って何が600なのかしら。

 一緒に暮らしているかぎり、さみしがりで甘えたで、寒がりでガーディのお腹によくくっついてる姿からはそうは見えないのだけれど。

 息子はこの子を『サメくん』と名付けて、毎日のように砂遊びをして泥だらけで帰ってくる。

 夫の職場や役所からの補助で家計には余裕が出たのだけれど……急に子供が増えたみたいだわ。

 なにより、この子のモンスターボールの登録者が私だなんて。

 私はただの主婦なのだけど……

 




ミュウツー「最終進化するとガブリアスというポケモンになる。600族で環境でも上位のポケモン……らしい」

研究者「(環境で上位……生態系の上位者ということか)」

研究者「ところで600族とは?」

ミュウツー「特に強いポケモンの分類の一つだ」

研究者「何が600なんです?」

のうてんきミュウツー「……なんだろうね?」
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