ポケモンに翻弄される現代社会、あるいはのうてんきミュウツー   作:ミュー(なきごえ)

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第23話 情報調査室職員の戸惑い

『内閣情報調査室』。

 私が所属している防衛省情報本部や公安調査庁と並ぶこの国の情報機関の一つだ。

 政府直下で国内の各情報機関を取りまとめる役割を担うこの組織においても、今や各国の注目の的である『ミュウツー』の詳細な情報を知る職員は限られている。

 他国との折衝に関わる上層部はどうだか知らないが、私のような下働きの職員にはNeed To Knowの原則*1に基づき情報が厳重に遮断されているのだ。

 知りたいという気持ちが無い訳ではないが、他国も血眼になっている情報に好奇心だけで近づくほどの愚かさは持ち合わせていない。

 好奇心は猫を殺す。長生きするコツは、無理に賢くあろうとしないことである。特にこの界隈では。

 そんな私に、件の『ミュウツー』と接触する任務が回ってきたのはまさに慮外の事だった。

 

 人間とかわらない知性を持つというポケモン、ミュウツー。

 かのポケモンに会うまでに幾つものふるいにかけられた。

 行動審査、倫理審査、精神鑑定……相当厳重な審査だ。なんなら他国の要人に会う時より厳しい。

 私はこれを機会に野心を抱くほど若くはないが、吹けば飛ぶしたっぱとは格が違う存在と会うことになるかと思うと武者震いしそうになる。

 ミュウツーご自身に会う前に情報の開示許可が出た為、専用の部屋へと向かう。

『機密閲覧室』、通称ゴーストルーム。

 この部屋は建物の間取りの中に存在しない、地下2階にある。

 入室には専用のエレベータでのみ入ることができ、内部に収められた資料は部屋から一歩持ち出すだけで機密漏洩の嫌疑で拘束されうるほどの厳重さ。

 収容限界を考え一部の資料は電子化されているが、この部屋に備え付けの専用機器でのみ閲覧が可能であり、転写防止措置がかけられてもいる。

 外部からの一切のネットワークが遮断され、ここに入った者だけが記憶にのみ写し取ることだけを許可される、幽霊のような場所だ。

 

 入室し、網膜・指紋認証で本人を確認されるとようやく情報にアクセスできる。

『ミュウツー』、エスパータイプポケモン。体高およそ2m、体重およそ122kg……これだけでも人間にすればかなりの巨漢並みだな。

 だがそれだけではない、念動力に類するESP能力を複数有し、自己再生能力・時間差での座標指定攻撃すら可能……

 ポケモンは物理法則を無視したようなものが多いが、これは輪をかけてだな。

 しかし、これらの情報は情報開示許可の中でも最もレベルが低い、”浅い”ものに過ぎない。

 これらより”深い”情報とは一体……? 

 別ファイルとしてまとめられた情報に、パスコードでアクセスすると、信じられない内容が飛び込んでくる。

 

 ポケモン世界で最も珍しいとされる”全てのポケモンの遺伝子を持つ”と言われるポケモン『ミュウ』。

 その遺伝子を元に、遺伝子組み換えで戦闘力を強化した末に生まれた人工ポケモンが『ミュウツー』。

 これまでの『ミュウツー』からの情報提供と実際のポケモンとの差異は、『ミュウツー』が元の世界で実際に他のポケモンを見たことが無い可能性を示唆している。

 同種族別個体が元の世界で起こした「逆襲事件」(別ファイル添付)を鑑みるに人類と敵対する可能性は高かったことは明白であり、現在の友好関係は『ミュウツー』の好意によるものだと忘れてはならない。

 元の世界にはポケモンの戦闘能力指標がLv.1~100で存在したが、『ミュウツー』の戦闘能力指標は不明。これは前述の理由の他に、戦闘能力向上に伴って他のポケモンの指標で測定が困難になったためではないかと推測される(集団合同訓練結果からの類推)。

 重要参考ファイル『夢』【アクセスエラー】【貴方にはこのファイルは情報開示が許可されません】

 

 なんだこれは……

 

 

 

 

 

 ▼▲▼

 

 

 

 

 

 今日からミュウツーの生活する施設の防諜人員の一人として配属される。

 あの情報を見た後だとガラにもなく緊張するのを抑えられない。

 ある意味、人間の悪意にさらされ続ける立場にあり、別個体ではあるが明確な敵対を起こすこともあった強力なポケモンとの接触。

 命の危険も当然あり得るだろうが、この職に就いたところで覚悟すべきことであったのかもしれない。

 

 全体から見れば名も無き職員の一人でしかない私のためにいちいち面通しなどは行われない為、私が初めて実際にミュウツーを目にしたのはかのポケモンの何気ない日常の一コマだった。

 

 

 

 間の抜けた顔をしたピンクのポケモンの背に顔をうずめたミュウツーが大きく息を吸っていた。

 

 

 

 なんだこれは……(呆れ)

 

 ……のちに、ミュウツーの何とも言えない異常なユルさにさらされ緊張など何処かにいってしまうのは別の話。

*1
情報漏洩を防ぐため、『必要とする人にのみ情報へのアクセスを許可し、不要な人によるアクセスは禁止するべき』という考え方

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