【未完】錦木千束が攻略できない    作:スイーツ阿修羅

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EP1:Broken heart

 

 「あははっ!もうすぐだよっ!見てあれっ、富士山!」

 「たっ、高っ…こっ、怖いよっ……乗らなきゃ良かったかもっ…千束(ちさと)助けてっ……」

 「助けるったって……もう戻れないから助けるもなにもっ……ほら覚悟決めてっ。大丈夫、ただ落ちるだけだよ、死にはしないから」

 「うはぁぁっ、無理無理やめときゃ良かったっ!男としての見栄でジェットコースター乗っちゃったけどっ、やめときゃ良かったっ……」

 「だから言ったのに一っ……何度も何度も、怖いなら列外れようよ、って 」

 「あそこまで並んじゃったら、せっかく待った時間がもったいないっていうか……」 

 

 ――お前がすげえ楽しみにしてたからだよっ

 

 「ふーん。あっ、ほら、落ちるよっ。だいじょーぶ!私が傍にいるからっ、安心して、柚子(ゆず)っ」

 「え?あ…あ……やだっ…来るなっ……!」

 「まあ折角なので、私は楽しませてもらうよっ!」

 

 俺達は最高点に達して………一気に最下点へと落下する。

 

 「やっふうぅぅぅぅぅっ!!」

 「っ………!!」

 

 右隣で、歓喜の叫びが響く……俺は、悪魔に心臓を掴まれたような感覚に声も出せなかった……

 

 

 ――俺の名前は桃栗(ももくり)柚子(ゆず)。17才。誕生日は5月6日――

 

 

 「も…もうジェットコースターやだっ……」

 「うん、もう乗らないよっ……私は凄い楽しかったよっ、ありがとっ。」

 「あの心臓が浮かび上がる感覚怖すぎる……死んだかと思ったよ、千束(ちさと)お前よくあれを耐えられるな……」

 「あー。ふふっ。柚子(ゆず)ってば、毎回落ちる直前に「やだやだやだー」とか、「もう殺してくれー」とか叫ぶくせに、落ちてる最中には絶望顔でうんともすんとも言わないの……あれには悪いけど笑っちゃったよっ、柚子(ゆず)にとっては笑い事じゃないのにねっ」

 「その度に、千束(ちさと)の楽しそうな笑い声に救われたよっ、本当に女神様だっ、俺の心臓を掴んだ悪魔の手を何度も振りほどいてくれたっ……」

 「あははっ!、なんだよその例えっ!」

 

 

 ――今日は、同級生の親友、錦木(にしきぎ)千束(ちさと)と二人きりで遊園地に来ている――

 

 

 「次どこ行きたい??向こうのお化け屋敷とかどうだ?」

 「えっ?、まーた強がってー。ここのお化け屋敷はめっちゃ怖いらしいよ、また泣くんじゃないの~?。今度は助けてやらないよー。柚子(ゆず)の泣き顔見て笑ってやるから」

 「お化け屋敷で笑ってくれるならすっげぇ頼もしいわ」

 

 

 ――すげえ楽しいっ、やっぱり千束(ちさと)といると幸せだ、ずっと君と一緒に居たい

 ――千束とは中学校で同級生で、高校になってから仲良くなった。勉強も運動も友人関係も物凄い彼女とこんな関係になれるとは、中学生の頃は想像出来なかったな。

 ――まあ、そんな彼女も実際に仲良くしてみると、多彩な完璧超人ではなくて、所々、おっちょこちょいで抜けていることも知った。

 ――でも時々、人生を達観したような凄い事を言うんだよな。

 

 そんなこんなでアトラクションを楽しんでいくと、あっというまに時が過ぎて、日が落ちてしまう…

 

 「うーんっ!、楽しかったー遊園地!最高の週末だーっ。今日は誘ってくれてありがとう!」

 「ああ………あのっ…最後にっ……ちょっとあそこに行ってみないか?」

 「おおっ!イルミネーション!!むっちゃ綺麗だ一っ!行こ行こっ!柚子(ゆず)っ!!」

 

 

 ――自然に…誘導できたと思う…

 ――バレても問題ないのだけど…やっぱりこういうのはロマンチックでないと…

 

 

 「わーお、すっごいロマンチック!!…ここでいい感じのBGMが流れてー。真剣な目で、「好きです!付き合って下さい」って、それで二人は付き合ってー。うーんもうめっちゃキュンキュンするーっ!!

そうだ柚子(ゆず)っ!今度一緒に映画見に行こうよ!恋愛系のエモいやつ!勿論ハッピーエンドのやつねっ!」

 

 

 「千束(ちさと)っ……聞いてくれっ……大事な話がある……」

 「え…」

 

 

 ――声が震える…身体が強張る……千束(ちさと)がじっと俺を見つめて、俺の言葉を待っている……

 ――いつもは感情が分かりやすいやつなのに、こういうときには読めなくなる…思わず目を逸らしたくなってしまう……でも……

 ――こういう時こそ男らしく、カッコよくだ。ただでさえ今日は、みっともない所を沢山見せてしまったからなっ…

 

 

 「千束(ちさと)…よく聞いてくれっ…俺は千束(ちさと)っ…お前の事が大好きだ……お前とずっと一緒に居たいっ……幸せなんだよっ、お前といるとっ!……お前の皆に優しい所が好きだっ、本当に優しいんだよお前はっ…苦しんでいる人をほって置かない、そんなお前が好きだ!あと、笑顔が可愛いんだよっ!周りの人に幸せを振りまくような君の笑顔が好きだ!俺じゃお前に釣り合わないかもしれないっ!けどっ!俺はお前とずっと一緒にいたいっ………世界中の誰より君を愛してる…俺が君を幸せにするっ……だからっ!!……俺と付き合って下さいっ!!」

 

 

 ――いっ…言えたっ……!!

 ――頭の中で何百回も考えた、君への言葉…それでもちゃんと言えるか不安で……でもちゃんと言えた…伝えきったっ…言いたいことは全部……

 

 

 千束(ちさと)は目を見開きながら体を硬直させて、じっと俺の俺の話を聞いていた……

 まだ返事は分からない……千束の驚き具合から唯一分かるのは、俺の告白は千束(ちさと)にとって予想外だったこと……

 でも俺の中は…告白した達成感で一杯だった……このまま綺麗に振られてもかっこいいな……とさえ思う…

 俺の言葉が途切れ、静寂に包まれる……

 千束(ちさと)の顔は、もの凄く美しかった……

 

 

 ぽろっ……

 

 

 千束(ちさと)の目から、涙が零れだす………

 

 千束(ちさと)は慌てて両手で顔を抑えて俯く…そうしてしばらくして…涙を払い落としてから俺を見つめなおす…

 

 そしてすぐに目を逸らして…表情を隠しながら…口を開いた……

 

 「ゆっ……柚子(ゆず)っ…嬉しいっ…すっごい嬉しいよっ……ありがとうっ……すっ………

………でも……私は君の想いには答えられないっ………私は君と付き合えない…ですっ……ごめんっ……………」

 

 

 ――あ…

 ――俺……振られたんだ……

 ズキン…

 と、心臓が締め付けられる…

 ――苦しいっ…痛いっ…辛いっ…

 

 「そっ…そっかっ………うん…分かったよ千束(ちさと)っ……ごめんねっ…楽しい空気壊しちゃったな……でも…まあ…友達としてっ…これからも…仲良くしたいなっ……映画だっけ…行こうぜ……うんっ…」

 

 必死に涙を堪えて明るく振舞う……今まで通り…友達として…これからも楽しく幸せな時間を続けるだけだっ……それにっ…千束(ちさと)に「俺を振って申し訳ない」なんて感情を背負わせたくない…」

 

 俺達二人は、また静寂に包まれる…

 

 「ちょっ……ちょっとトイレっ…………待っててっ……」

 

 千束(ちさと)は顔を隠しながら、広場の外へと駆け出していく………声は震えていた……

 誰かの告白を振るって言うのはそりゃあ辛いだろう……それも親友の俺を……

 俺達は仲が良い…気も合う…それは間違いない……告白も…9割以上成功すると思ってたんだけどな……

 でも、振ったことをちゃんと辛く思ってくれるくらいは、俺を大切に思ってくれてたんだな………

 

 「うっ………っ……!」

 

 視界がぼやける……

 

 千束(ちさと)の姿が見えなくなると……せき止めていたものが溢れ出す……

 

 「うっ!、うわああああっ!!ああああああっ!!」

 

 俺は大声を上げて泣いてしまう……千束(ちさと)に恋してから……たくさんデートに誘ってっ…仲良くなってっ…向こうからも誘ってくれるようになってっ……もう両想いってぐらい仲良くなってっ……!

 告白を考えてっ……何度も何度も言いそびれてっ……でもやっと覚悟決めてっ…プレゼントを選んで……今日告白してっ……

 あまりに長く、濃くて、幸せな時間………それが、終わってしまったのだ……もちろん、これからも俺達は同じように仲良くするだろう…でもそれは今までとは違う……ずっと変わらない…進むことのない関係……

 泣いても泣いても…楽にならない……辛い…辛い…辛い……

 泣いて…泣いて…泣いて…

 

 

 一息ついてベンチに腰掛ける……

 空には星空が浮かんでいた…………宇宙って広いな………綺麗……

 

 

 「柚子(ゆず)…戻ったよっ」

 「…おぉ…千束(ちさと)っ……」

 「…長くなっちゃった…待たせちゃったねっ……」

 「ん…」

 

 ――俺に心を整理する時間をくれたのかな……優しいなっ……

 

 

 そんなことを考えていたその時の俺は、千束(ちさと)の目が腫れていることに気づけなかった

 

 

 「うわっ!?、熱っ」

 「ほれっ、柚子(ゆず)、コーヒー好きだろ?一緒に飲もっ」

 

 ほっぺたに缶コーヒーを当ててきた千束(ちさと)は、俺に一つ手渡して、もう一つの栓を開けながら、俺のすぐ隣りに座ってくる…

 

 「ねぇっ…柚子(ゆず)っ…ごめんねっ……付き合うのは…出来ないっ……だけどっ…これからもさっ…親友として…もっともっと仲良くしよっ…君といると楽しいからさっ………」

 

 ――「とりあえず付き合ってみないか?」…そんな言葉を言いかけてから飲み込む…付き合えないと言われたのだから、それ以上は俺からは言えない…

 

 「ああ…もちろんっ!」

 「うん…」

 

 コーヒーは、俺の身体を中から温めてくれた…

 

 これからも…変わらない………これまで通り…幸せな日々…

 

 俺達は、出口へと向かい、遊園地を出てバス停へと向かう…

 告白が成功してたら、一緒に腕を組みながら歩いていたはずの道…

 二人の手は触れ合わない……

 

 

 バスが出発してから、千束(ちさと)は早々に上着を頭に被って眠ってしまった……

 俺は後悔や未練で感情がぐちゃぐちゃで、寝る気にはとてもなれず……動かない千束(ちさと)をずーっと見つめながていたのだが…高速道路で揺すられているうちに…疲れのせいだろうか……いつの間にか眠ってしまっていた………

 

 

 千束(ちさと)を家に送ってから、自宅への帰路につく……静まり帰った道を歩きながら、「終わってしまった…」という、卒業式の後のような……途方もない喪失感に襲われて…泣いてしまう……

 

 そして家に帰って…二人の思い出が詰まったアルバムを見返しながら…また泣くのだった……

 

 一一明日から学校か……行きたくねぇよ……

 

 




第一話 失恋
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