捻れた世界の静電気   作:諸喰梟夜

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2.話が早くて助かります[厳粛break]

 

 

 

「学園長はどこに行ったのかしら?式の途中で飛び出していっちゃったけど…」

『職務放棄…』

「腹でも痛めたんじゃねえか?」

「違いますよ!!まったくもう、新入生が一人足りないので探しに行っていたんです!」

 

 鏡の間、というらしいくだんの部屋。閉じたドアを学園長がバァンと開け放った。部屋の中にはまだ多くの生徒がいて、全員の視線が集まっていた。

「さあ、寮分けがまだなのは君だけですよ!狸くんは私が預かっておきますので、早く闇の鏡の前へ。」

「ふぐぐ~!」

「タヌ…?」

 寮分けって?とか、あっそれ狸判定なんですか?とか、だから使い魔じゃないんですって…とか言いたいことはあったけど、おとなしく部屋の中央に向かった。闇の鏡とやらには自分の顔は映らず、…緑の炎に炙られている仮面?…が映っていた。

 

「汝の名を告げよ」

 その仮面が語りかけてくることにはもはや驚かない。驚かないけど……名前、か…

「ミサカ…」

 そこまで口をついて、喉が(つか)えた。…前世の、この肉体の名前は使えない。確実に訝しまれる。かといってオリジナルを名乗るのも…それは違うだろう。刹那の逡巡の中で、

「…()()

 思い当たったのはその前。かろうじて覚えていたオリジナルの()の名前。…きっとこれといって問題はない。だって、『それまでの世界に別れを告げ、新しく生まれ変わ』ったんでしょう?

 私は「御坂由宇」。量産型の「ミサカ三八〇六号」とは、ここでお別れにしよう。

 

『汝の魂の形は…………………………わからぬ』

『この者からは魔力の波長が一切感じられない』

『色も、形も、一切の無である』

『よって、どの寮にもふさわしくない』

 闇の鏡の言葉が周囲をざわつかせるのを、私は静かに聞いていた。

 

 

「モゴモゴ…ブハッ!だったらその席、オレ様に譲るんだゾ!」

「あっ待ちなさいこの狸!」

 バッと飛び出してきたのは、学園長に捕まっていた黒猫…狸?見た目的に猫じゃない?いったいどこ判定で…これが……狸………?(スペキャ)

 …ってフリーズしてたら、黒猫がなんかとびっきりのを見せてやる、と―――

 

「あっまさか」

「みんな伏せて!!」

ん゛な゛~~~~~!

 …本日二度目の青い炎のお出ましだった。

 あちらこちらから悲鳴やどよめきが上がる。一人から尻に火が!という悲鳴が上がった。ほかに物理的な被害は今のところないようだけど、時間の問題なのは明らかだろう。しかし学園長は慌てるばかりで他人任せ、壇上に並ぶ寮長とおぼしき皆様は妙にのんびりしている(一人火が着いて騒いでるけど。誰も助けないの?)。あと今気づいたけどタブレット浮いてない?何あれ。

 …さて。()()が使えるようになっていることは薄々感づいていた。なので思い出そう。

 『欠陥電気(レディオノイズ)』には何ができるだろうか?

 

「に゛ゃっ!?」

 パチッという音と共に、黒猫…ようやく名前を覚えたグリムの動きを止めた。あくまで怯ませるための軽微なもの。…いやだって、相手は小動物だもの。ひと抱えくらいはあるとはいえ。

「『首をはねろ(オフ・ウィズ・ユアヘッド)』!!」

 そして、その隙を見逃さない一人が魔法を飛ばした。がしゃん、とグリムの首に赤と黒のハート型の首かせがつけられる。…え?何あのデザイン。

 

「ふぎゃ!?なんじゃこりゃ!!」

「ハートの女王の法律・第23条『祭典の場に猫を連れ込んではならない』。猫であるキミの乱入は重大なルール違反だ。即刻退場してもらおうか」

 フードから赤髪がのぞく小柄な寮長が言う。…いろいろツッコミどころが多いけれど、猫と判断する同士がいたのはちょっと安心。グリムはぎゃあぎゃあ騒ぐけれどしかし、今度はその口から青い炎が出てくることはなかった。

「ふん!ボクがその首輪をはずすまでキミは魔法を使えない。ただの猫同然さ」

「にゃ、にゃにー!?」

 なるほど…他人の力を封じることができるのは強い。けどどうしてペット云々のほうに話が飛躍した。そんなひと抱えもある…のはいやそっか、それほど問題じゃないか……おい今絶対に欲しいとかなんとか言わなかったかそこのメガネ。

 

「まったく…どうにかしてください!あなたの使い魔でしょう?」

「さっきから違うって言ってるじゃないですか」

「そ、そうでしたっけ?」

 あー…察したけどポンコツだこの人。グリムは「絶対大魔法士になってやるんだゾー!」との捨て台詞を残してつまみ出されていった。なんかちょっとかわいそう。

 

 

 さて、少々トラブルはありましたが、という枕詞をつけて入学式の閉会は宣言された。あとこの期に及んで寮長が一人来ていないことが判明したりしていた。あ、寮多すぎ問題…って思ってたけど副寮長もいるのね把握。

 さて、その後この学園から出ていってもらわなければならない、闇の鏡に聞けばすぐに故郷へ送り返してくれる、という旨を告げられたわけだけど。

 

「さあ闇の鏡よ!この者をあるべき場所へ導きたまえ!」

『……………どこにもない……』

『この者のあるべき場所は、この世界のどこにもない………無である』

 …そうなるんじゃないかと思っていた。

 困惑した様子の学園長に出身地を聞かれ、素直に日本の学園都市、と答えてみたものの、聞いたことのない地名だという。その後わざわざ図書館まで出向いて調べてもらったけど、有史以来どこにもない、というのが答え。そんで異世界から来たんじゃないかとか言われた。たぶんそうだと思います。話が早くて助かります。

 

「あ、そうですそのゴーグル!身分証明になるものではありませんか?」

「これは一律支給のものなので、身分証明というほどのものにはならないかと。…他にもそういったものはなさそうです」

 …厳密に言えば、ゴーグルには「3806」の数字が刻まれているけれど。言っても詮無いことだ。

「そうですか。困りましたねぇ…魔法が使えない者をこの学園内に置いておくわけにはいかない。しかし保護者に連絡のつかない無一文の若者を放り出すのは教育者として非常に胸が痛みます。私、優しいので」

 …まあ、保護者とかそういう立場の人は、特にいなかったと思うけど。…いつの間にか、悩まれることに困惑するくらいには現状を受け入れてしまっている自分がいた。どうやらわたしの適応力は、かの無力憑依のおかげですっかり鍛えられてしまったらしい。

「うーん………そうだ!」

 

 

 

 

 





・ユウ・ミサカ(御坂由宇)
*ミサカ三八〇六号
学園都市で暮らしていた御坂美琴のクローンの一人。第三八〇六次実験にて死亡。「欠陥電気」もそのまま受け継がれている。…はず。

*由宇
ミサカ三八〇六号に憑依(ただし無力)していた人物。その壮絶な経験から、性格も元のものからは変質している模様。ただし深考して周囲が見えなくなるのは元来の部分。前世の記憶を多く受け継いでいるが、パーソナルデータについては名前と性別以外はろくに覚えていない。


・グリム
首輪をつけられてポイ。でもこれしきで諦めるわけがないんだゾ!…にしても、あのバチッ!ってやついったいなんだったんだゾ…

・学園長
見慣れないゴーグルがちょっと気になった。イグニハイド寮案件ですかね…

・その他
「少々どころじゃないでしょう」
『ねこたんカワイソス…』
「…一瞬だけ、稲妻のようなものが走ったように見えたけれど…」
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