「ふな゛ーーーーーッ!!?」
翌朝、掃除の続きをしていたら二階からそんな悲鳴が響き渡った。それに対し私はちら、と上に目線を向けるだけで済ませる。ダイニングスペースで出くわした昨日のゴーストに、グリムを起こしてくるよう頼んだのは他でもない私なので。
昨日の今日で突然友好的になったことには戸惑ったけど、まあ賑やかになるのはいいことだ、としておこう。
さて、初日の今日、学園長から言い渡された最初の業務は学園内の清掃。とはいえ学園の敷地は広大なので、正門から伸びるメインストリートに限定とのこと。
…なのだけど今、近くでグリムの青い炎が乱舞している。いったいどうしてこんなことに?
えーと状況を整理しよう。清掃のためにメインストリートにやって来て、石像を見てたらエース君という男子生徒が話しかけてきて。私はというとグリムに子分と紹介されたりしつつ話半分に聞きながら掃き掃除を始めて。
…気がついたら乱闘が始まってるんですが。何?真面目に聞いてるふりして生返事やってる間にどうして…??周囲がやけに騒がしいのでようやく気づいたよ???あ、遅い?
「あ゛ーー!やっべぇ!!」
エース君の絶叫に、見るとハートの女王の石像が見事なまでに黒焦げになっていた。
程なく騒ぎを聞き付けた学園長が現れ、グリムとエース君は逃げようとして愛の鞭を食らっていた。そりゃそうだ。疚しくて逃げるなんて、状況を悪化させるだけ
「ユウ君ものんきに掃除を続けてる場合ですか!これではグリム君を監督しているとは言えませんよ」
「監督…って言われてましたっけ?」
「しっかり見張っていてくださいと言ったでしょう!まったく……君、学年と名前は?」
「エース・トラッポラ………1年デス」
「ではトラッポラ君、グリム君、そしてユウ君、3人には罰として窓拭き掃除100枚の刑を命じます!」
「に゛ゃっ!!?も、元はといえばコイツがオレ様たちをバカにしたのがいけないんだゾ!」
「私もですか、わかりました」
「うえ゛っ!?俺もぉ!?」
「当たり前です!放課後、大食堂に集合!いいですね!!」
「へぇーい…」
「朝から散々なんだゾ~!」
「子分はなんでもかんでもホイホイ引き受けすぎなんだゾ、だからこんな貧乏くじ引かされるんだゾ!」
「今回はグリムの自業自得ですよ。これに懲りておとなしくすることです」
放課後、私とグリムは大食堂を訪れていた。というか窓拭きはまだわかるけど、100枚って。こういうの、窓の枚数で決めることある?…まあこういうのは大体、黙々とやってたらあっという間に終わっちゃうでしょ。
「それにしてもあのエースってヤツ、いくらなんでも遅すぎるんだゾ!まさか逃げたんじゃねーだろーな!?」
…そういえば始めてから何分経ったかな。けど今私が拭いてるのが11枚目。まだ1割だけど、1枚が大きいから時間がかかっている。…確かに、いくらなんでも遅すぎる。
「あー……でしたら、探してみます?」
「罰をオレ様たちだけに任せて逃げるなんて許さないんだゾ、行くぞ子分!エースを取っ捕まえて窓掃除させてやるんだゾ!」
…というわけで。掃除用具を一旦置いて、エースを探しにいくことにした。
道中、壁の肖像画に、その生徒なら帰寮するようだったと教えてもらった。まだこの辺にいたんだな。…肖像画は普通しゃべらないと思うが??口があるから当然とか…詭弁では。まあそれは後にして、東校舎の端…鏡舎という場所まで走ってみれば、
「窓拭き100枚なんてやってられっかっての!さっさと帰って…」
…いましたね。こちらに背中を向けてひとりごつ赤髪が。
「こーーーらーーーーー!!!」
「げっ!?見つかった!!」
「テメー待つんだゾ!一人だけ抜け駆けはさせねえんだゾ!!」
「待てって言われて待つわけないっしょ!お先~!」
「一人だけズルいんだゾ!オレ様だってサボりたいんだゾ~!」
「本音が出てますよグリム…」
…慌てた様子のエースと決死の表情(笑)のグリムとで追いかけっこが始まった。ちょっと待ってそんな急に走らない―――
「…?」
ふと、前方にに黒髪の男子生徒がいるのに気がついた。よく見るとエースと同じように目元に模様を入れているので、同じ寮の生徒か?
「どいたどいたーっ!」
「おいお前、ソイツ捕まえろ!掃除サボる悪いヤツなんだゾ!!」
あ、グリムが取り込みに行った。抜かりない。…まあ私も一瞬同じこと考えたけど。
「何っ!?それは悪い奴だ!人を捕まえるには……ええっと………」
対する黒髪君は何やら真面目に考え込む姿勢に入っ……なんか横通り過ぎちゃったけど大丈夫かこれ???
「なんでもいいからブチかますんだゾ!早く!!」
「ええい!なんでもいいから出でよ、何か重たいもの!!」
黒髪君はそう叫んでマジカルペンを振った。…いや抽象的すぎる。それでいいのか?と、脳内に宇宙猫を再来させた私。
しかしゴァン!!というすさまじい音に前方を見やると、
「ぐえぇっ!!ナンダコレ!?」
…なんということでしょう。エース君の上に大釜が乗っかっているではありませんか。
ダッセー!と笑うグリムと、やり過ぎたか…?と困惑する黒髪君。…なんだか不憫に思えて、大釜の下から這い出るのを手伝うことにした。もちろん確保も忘れずに。
…この大釜本当に重いな。直撃してよく無事でいられるよ。
「あいたた……いーじゃんかよ、窓拭き100枚くらいパパッとやっといてくれてもさぁ…」
「しかし学園長命令ですからね。それに大きな窓なので、パパッとは難しいですよ」
「罰で窓拭き100枚って…君たちはいったい何をしたんだ?」
「何って…今朝そこの毛玉とじゃれてたら、ハートの女王の像がちょーっと焦げちゃっただけ」
「あれはちょっとと言うんですかね…?」
「グレート・セブンの石像に傷をつけたのか!?それは怒られるに決まってるだろう!」
やいのやいのと言い合うエース君と黒髪君…はデュース君と言うらしい。クラスメイトなんだ。へー。
「…グリム?気付いてますよ?」
「ぎくっ!」
口で言うのか…。振り向くと、グリムは少し離れたところで背中を向けている。
先程からこっそり離れようと…逃げようとしていることには気がついていた。なるほど、電磁波がセンサーの役割を果たす、とはこういう感覚か。
「…あ!?まさか!」
「そういえば本音出てましたね」
「あとはオマエらに任せたんだゾ!ばいば~い!」
…グリムは振り向かず、それだけ叫んでぴゅーんと飛んでいった。
「あいつオレを身代わりにしたな!?おいジュース!お前にも責任あんだからあの毛玉捕まえんの手伝えよ!」
「何で僕が…っ、あとジュースじゃない!デュースだ、デュ!」
グリムを追いかけて、私は大食堂に戻ってきた。けれどここに来て見失ってしまっ
「へへーんだ!捕まえられるもんなら捕まえてみろ~だゾ!」
…あっさり見つかった。シャンデリアにしがみついて、べーっと舌を出している。そうだ、自己主張激しいんだったこの子。
「黙っていればバレなかったものを…」
「くっ…シャンデリアに登るとは卑怯だぞ!飛行魔法はまだ習ってないし…」
今度はグリムと何やらやいのやいの言い合いを始めるエース君を尻目に、私もデュース君と同じく思案する。
…入学式でグリムが暴れてたときのあの放電。まああれくらいでいいだろうけど、問題はあの豪奢なシャンデリアが無事で済むかどうか……最善ですら電球ひとつ弾けさせるくらいの覚悟はしておい「ぎえええええええ!!?」「ふな゛あああああ!!!?」
「………は?」
尋常じゃない悲鳴に顔を上げると、エース君がシャンデリアの上のグリムめがけて突撃していくところだった。
…あー……もう知ーらない。
・ユウ
常に一歩退いて見ている。おかげで気づくのが遅い。まだ右も左もわからないので唯々諾々スタイル。
せっかくグリムの脱走を見切ったのに、深考癖がしっかり裏目に出た。
・グリム
サボり魔一号。
自己主張の激しいお調子者。
ふにゃあ~~~…目が回るんだゾ~~~……
・デュース
巻き込まれるべくして巻き込まれた黒髪君。ピッチャー(違)大きく振りかぶって(概念)…投げた!!
…し、しまった!捕まえたあとの着地のことを考えてなかった!
・エース
サボり魔二号。
考えてみれば大釜直撃後にグリム追走してるの凄いな…
おっまバッッッッカじゃねえの!!?シャンデリア壊したのが学園長に知れたら…
・学園長
知れたら…何ですって?