鏡舎に行き、額縁にトランプのカードがあしらわれた鏡を潜ると…そこは見事な庭園だった。
「ほわぁ~!めっちゃ豪華だ!!オレ様たちの寮と全然違うんだゾ!」
「それはそうでしょう。…ハートの意匠が多いですね」
「そりゃまあ、ハーツラビュルだからね」
「あんまり動き回るなよ。この庭園は迷路になってるから」
「日常が巨大迷路の中ですか…?」
「なんだソレ…不便すぎねーか?」
「えっなんかワクワクしねぇ?」
「そこは人それぞれだな…」
「やばいやばい…急いでバラを赤く塗らないと…」
二人に案内されつつ進んでいくと、先輩とおぼしき生徒がいた。脚立に登って、バラの花に筆を走らせている。やっぱり、目元に模様を入れるのはこの寮の特色らしい。…見ていると、ふとこちらに気づいた様子。
「…ん?君たち何か用?」
「…それ何してんの?」
「これ?見ての通りバラを赤く塗ってるだけだけど」
「「ええっ、なんでそんなことを!?」」
「んー反応がフレッシュでカワイーね!」
後輩二人の驚いた声に、脚立の上の先輩は声のトーンを上げ、ウインクまでしてみせた。おっと、この先輩ずいぶんとテンションが高い。…というか、なんか昨日の寝落ちで見た夢を彷彿とさせるんだけど何だろう…。
「って、よく見たら君たち、昨日シャンデリア壊して退学騒ぎ起こした新入生じゃん?」
「…俺たち、卒業までずっとシャンデリアのこと言われそうだな…」
「学校って狭いコミュニティですからね…」
「しかも君はその日の晩、寮長のタルトを盗んで恥の上塗りをした子だ!」
「う゛」
「物言いに容赦がない」
「学校中で話題のニューカマー達と朝イチで会えるなんてラッキー♪︎ねね、一緒に写メ撮ろうよ!イェーイ!」
「ふなっ!?」
「提案から実行までが早すぎません?」
ちょっと待って常人が出せる疾走感じゃないぞなんだこの先輩??すぐさまマジカメという場所にアップするとか言ってきた。なんだろう…インスタ的な?
「…はい、アップ完了っと。あ、オレはデュースちゃんたちの先輩で3年のケイト・ダイヤモンドくんでーす。気軽にケイトくんって呼んでね。けーくん♡でもいいよ!」
「アッハイ」
先輩気軽すぎます。よく覚えてないけど前々世でもこんな軽い人に出くわしたことない。出くわしてたら対処法知ってるはずだもの。
「あ、君、噂のオンボロ寮の監督生になったコだよね。よくあんなとこ住めるね~!暗そうだしマジカメ映え最悪って感じ。ほんと同情する~!」
「コイツさっきからちょいちょい失礼なんだゾ…」
「まあまあ。確かに映えはないですが内装は整えてますよ」
「そうなの?…って、のんきに話し込んでる場合じゃないんだった!パーティの開催は明後日、遅れたら首が飛んじゃう!!ねーねー君たち、バラを塗るの手伝ってくれない?」
「焦ってましたねそういえば…そもそもどうしてバラを赤く塗るんです?」
「だってパーティの日のバラは赤がフォトジェニック!みたいな?オレ、次はパーティの日にやるクロッケー大会のためのフラミンゴに色をつける仕事もあるから忙しいんだよね~」
「フラミンゴに色をつけるぅ!?変な仕事ばっかりなんだゾ!」
「つまり、エースが盗み食いしたタルトは寮長の誕生日パーティ用だったんですね?だからすごく怒った…と」
グリムが目を丸くする横で、デュースは納得した様子。なるほどそれなら
「んにゃ?違うけど」
「違うんかい!?じゃ誰の誕生日なんすか?」
「誰の誕生日でもないよ?明後日は我が寮伝統の"何でもない日おめでとう"のパーティ。誰の誕生日でもない日を選んで、寮長の気分次第で突然開催されるティーパーティだよ」
「なんだそりゃ…!?」
「気分次第が伝統って、ずいぶん変わってますね…」
「とにかく理由はあとあと!今はバラを赤くしてくれればいいから!」
むう…ハーツなんとか、当初思ってたよりもずいぶん風変わりな寮らしい。辻褄とか、そういうことはきっと考えない方がいいな……あれ?待っていつの間に手伝うこと決まってるの??
「つーか、バラは白いままでもよくねぇ?綺麗じゃん」
色変え魔法に悪戦苦闘するグリムとデュースを横目に黙々と作業を続けている(
「こればっかりは伝統だからね~。何でもない日おめでとうのパーティの日のバラは赤!クロッケーはバットに七色のフラミンゴ、ボールに針ネズミを使うのがお決まり」
「愛護団体が気絶しますね」
「あーでも、春の庭でやる花たちのコンサートではバラは白。これも大切なポイントだよ」
「変な決まりばっかりなんだゾ…」
「これはグレート・セブンの一人、ハートの女王が決めたルールなんだって。リドルくんは歴代寮長の中でもかなりガチガチにルールを守ってる真面目な子だからね~。ま、ちょっとやり過ぎなとこも否めないけど」
声のトーンを落として、付け加えるように呟かれた言葉。その響きが少し気になってケイト先輩の顔を見やったけど、特に変化とかはわからなかった。「あ!」という声に顔を向けると、エースが首輪に手をやっている。…さては手をぶつけて思い出したな?
「そうだオレもこんなことやってる場合じゃないんだった!寮長に話があるんですけど、まだ寮内にいますか?」
「ん?まだいる時間だと思うけど…ところでエースちゃん、お詫びのタルトは持ってきた?」
「え?いや、朝イチで来たから手ぶらっすけど…」
「あちゃ~…そっかぁ。じゃあハートの女王の法律・第53条、『盗んだものは返さなければならない』に反してるから、寮には入れられないな」
…女王の法律、本当に色々とあるんだな…。と感慨に浸っていたけれど、ケイト先輩がバラを塗る手を止めてこちらに向き直ったことに気づいた。お?穏やかじゃない気配を察知。
「はぁ!?なんだそりゃ!?」
「この寮にいるからにはルールには従ってもらわなきゃ。見逃したらオレも首をはねられちゃう。悪いけど、リドルくんが気づく前に出てってもらうね!」
「ちょ…あの顔絶対本気じゃん!?お前らなんとかして!?」
「え、嫌ですが」
「なんで俺が…」
「頼むよ!オレ今魔法使えねーし…うわ来た!」
「なんなんだよアイツ~!」
「倒しても倒しても湧いてきたな…幻覚魔法か何かか?」
結局、私たちは仲良く追い出される結果となった。いや私は別に構わないけど寮生じゃないし。元はといえば寮内トラブルだし。巻き込まないで。そして私はなぜ二人が当たり前のように悔しがってるか理解が及ばない。デュース君は入れたんじゃないの?君らさては
「アイツって…よく先輩攻撃するのに躊躇ないですね…53条とやらも筋は通ってるじゃないですか。出禁とは思いませんでしたけど」
「けどタルトがないなら門前払いなんだろ?オレら最初から手ぶらだったじゃん!バラを塗るのだけ手伝わせやがって!」
「ちゃっかりしてるんだゾ…」
「お詫びのタルトを用意して出直しだな…放課後にでも…ハッ!やばい、もう予鈴の時間過ぎてる、遅刻するぞ!」
「ふな゛っ!?オレ様の輝かしいスクールライフ一日目にミソがついちまう!」
「そういやユウたちのクラスどこ?一年だろ?」
「A組と言ってましたね」
「なんだ、同じクラスじゃないか。一時間目は魔法薬学だな」
「教室でも一緒とは奇遇ですね。急ぎましょう」
「ウヒョー!なんか楽しそうなんだゾ!」
「結局魔法使えないままだけど、大丈夫なんかなぁ…」
・ユウ
まさか人生の中で"花に手作業で色をつける"なんて経験をするとは…。こういう作業は魔法とやらが羨ましくなってくる。欠陥電気にできることは何もない…
カタカナ語に弱い
ハーツラビュルの認識が「面倒な寮」になった。慈悲もなし
・グリム
すっかりツッコミ担当になっておる。変なルールばっかりなんだゾ…
・エース
オフへ中。まさかの出禁措置に困惑
・デュース
傍目にはあまりにも巻き込まれ役なのだが…
・ケイト
お馴染み飄々と、且つちゃっかりしてる先輩
軽すぎて私も軽く引いた
予測変換の毛糸先輩で笑顔になっちゃうな…