たきな「始まったばかりでしょう。あらすじすることあるんですか?」
千束「あるよ~、大胆不敵の大泥棒ルパン三世! 永遠の輝きを放つと言われる『天照大御神の錫杖』だった!」
たきな「はい?」
千束「しかしその杖はすでに支援団体アラン幹部、天見広大氏に買い取られていた! 果たして! ルパン三世は――」
たきな「『泥棒はヒガンバナに酔いしれて』のあらすじじゃないですか……。この小説のあらすじをしましょうよ」
千束「えー、しかたないじゃんかよ~。わたしルパン三世のファンなんだよぅ~」
たきな「それもあちらさんの話でしょう。そもそも、『俺っちは勝者の味方ー!』氏には宣伝の許可取ったんですか?」
千束「え、とってないよ?」
たきな「…………」
「何するところか……、改めて聞かれると考えちゃうな」
子供達が遊んでいる公園、舞う満開の桜を見ながら、四人はベンチで休憩をすることにした。
千束はトマトジュースを飲みながら、改めてここがどういう部署なのか思考を巡らせる。
「保育園……日本語学校……組事務所……共通点が見いだせません!」
たきなの言い分ももっともだ。
どの施設も基本的にはDAとは関わりのないもの。リコリスやリリベルは必要のない施設のはずだ。
「困ってる人を、助ける仕事だよっ!」
「人の助けになるから仕事なんだよ。『困ってる人を助ける』ってのは仕事においての前提条件だ馬鹿」
「理屈っぽいなぁ、お兄ちゃんは」
千束のあやふや意識に呆れながらも、千道は回答を答えた。
「この部署は、簡単に言うと個人のための部署って所かな」
「個人のため……?」
コーラを飲みながら、たいがは首を傾げた。
「ああ、DAが動くべき事件はいつだって些細な事から始まる。その根本を消すのが、俺たちの役目だ」
「……こんな事で消えるんですか?」
「消える火種もある。例えばテロリストになりかけの組織があったとしよう」
「むっ? お兄ちゃん難しい話を始めようと――」
「黙れ」
茶々を入れてくる千束の頭に、手刀を繰り出す。
「そいつらがなぜそういう結論に至ったのか。その過程を聞く必要があり、それは事件が起こった後に聞くんじゃだめだ」
「……事件が起こる前に過程を聞くには、事件前にその者と親身になる必要がある……って事?」
「そういうこった、理解が早いな」
千道は微笑みを浮かべ、たいがの頭を撫でる。
「むっ」
「そんな理由で、そのためには喫茶店で困ってる人の話を聞いたり、いろんな所に出向いて事件を起こす可能性のある人物を特定し、『武力を使わずに対処する』のが一番良い」
千道が出した問いの答えに、千束は目を丸くした。
「そうだったんだ……」
「おいファーストリコリス」
「まっ、コーヒーの配達も外国語の先生も保育園のお手伝いも喜んでもらえるよ? それでいいじゃん」
「僕たちリリベルやリコリスは国を守る公的機密組織のエージェントなんだよ?」
「おーっ、そういうと映画みたいでなんかかっこいい! けっど――」
そう言うと、千束は背もたれの後ろに腕を回し、もたれかかった。
「凶悪犯を処刑して回る殺し屋って言われたりも……ねぇ?」
「ああいうことが起こる時代ですから、私達が必要です」
「そうねぇ……そうなんかもねぇ……」
千束とたきなはそう言いながら、壊れた電波塔を見た。
「しかし、新しい電波塔が完成間近なのに、何故残してるんですかね?」
「壊れて出来た意味もあるんじゃない?」
「そんなものありますか?」
「さぁどうだろうな? でもそんな意味不明な所。俺は好きだぞ」
「……だから意味不明なことしてるんだね」
「はっ、言うじゃねぇかクソガキ」
そんな話をしていると、突然千束が立ち上がった。
「まぁともかくっ! DAが興味持たなくても困ってる人がいっぱいいてさ。だから二人とも、力を貸して!」
□ □ □
「こちら、新人の井ノ上たきなさんと井ノ上たいがくん」
「いやぁ、またリコリコに行く楽しみが増えちゃったなぁ」
次についたのは警察署だった。
中に入り、受付前の待機場所で男性と話していた。
「お店の常連さんだ」
「よろしく、警視庁の阿部です」
「初めまして」
「どうも……」
「まぁちょっとこっちへ」
阿部にそう促され、四人は警察署の裏国に通された。
あたりには誰もいなく、いかにもやましいことでも話せそうな雰囲気だ。
「こんなこと頼むの申し訳ないんだけど、担当じゃないもんだから首突っ込み辛くてねぇ」
そう言って、阿部は一枚の写真を差し出してきた。
長い髪で眼鏡をかけているおっとりしてそうな女性だ。
裏面を見ると、どうやら名前が書いてあるようで、千束は目を丸くした。
「篠原沙保理さん?」
「うん、ストーカー被害ってのには、警察は動きが鈍くてねぇ」
「それで、僕たちに依頼を、と」
写真が上手く見えず、ジャンプしているたいが。
「ちょっと話を聞いてきてくれない? バイト代は弾むからさ」
「おお~っ」
警察署を出ると、千束は締まりのない顔で笑った。
「えっへへへへへへっ」
「金の話でその顔するとか、俺お前の将来が不安になってくるわ」
「次はたきなとたいが向きの仕事かもよ? なんたってボディガードだからねっ」
千道の罵倒には耳を貸さず、千束はスマホを取り出し、待ち合わせ場所を検索し始めた。
「あの……」
「ん? なんだ井ノ上姉」
「…………こんなことしていて評価されるのでしょうか」
「評価だと?」
□ □ □
評価というたきなの言葉が引っかかり、待ち合わせ場所の喫茶店に早めに入り休憩をすることにした。
そして、たきなとたいがの話を聞いた。
「ん~、活躍をして評価を上げて早くDAに戻りたいねぇ……戻りたいのかぁ」
「そんなに良いところかDAって」
「私達への人事は正当だと思えません」
「じゃあ――なんで撃ったの?」
「…………」
「ああ、責めてる訳じゃないよ? 揉めたくないなら何で命令無視したのかなーって」
千束のその言葉に、たいがは顔をしかめた。
「現場の判断でそれが一番合理的だった、ただそれだけです。DAにいるのですから『何故撃ったか』なんて考える人に、そもそもDAにいる資格はありません。『撃つべきだから撃つ』『命令されなくても撃つ』姉さんの行動がそんなに可笑しいですか? そもそもおかしいのは騒動だと判断した――」
「どうどう井ノ上弟、責めてる訳じゃないって言ったろ」
そう言って、怒るたいがをなだめる千道。
「なるほど……、まぁでも騒動になんてなってないよ」
千束はコーヒーをかき混ぜるのを止め、カップを持った。
「普段はそう言うの、普段は組織がもみ消すからな」
「事件は事故になるし、悲劇は美談になる。今回のもきっと、表向きは別のことになってるよ」
千束はコーヒーで唇を湿らせ、旧電波塔を見た。
「最後の大事件も、今や平和のシンボル」
「だったら、僕達は何をしたんだろうね……」
悲しそうに俯くたいがを、たきなは優しく撫でた。
「姉さん……」
「たいがが気に病むことはないよ。たいがは何も悪くない。大丈夫だから――」
たいがを宥めるたきなを見て、千束はパチンッとゆびをならした。
「なーにいってんの! 仲間を救った! かっこいいって」
「まっ、そんなにDAに戻りたいんなら、協力はするぜ」
□ □ □
と、そんな話をしていると、例の依頼主が店に入ってきて、そのまま話を聞くことになった。
「この写真をSNSに上げてから?」
「ええ、脅迫リプも来たから。怖くなってすぐ消したけど、彼も私も変なやつにつきまとわれてて……」
渡された写真には男性と沙保理が写っていて、おそらく交際してるのだろう。
「前の交際相手とか?」
千束がそう問うが、どうやら違うらしい。
「それ! 警察も痴情のもつれだって取り合ってくれないけど。前の人なんていない。ホントに心当たりないのよ」
「どこで恨みを買うかわからない時代だからな。何も考えずにSNSに投稿するからこんなことになるんだ」
「お兄ちゃん黙って」
と、そんな話をしているとたきなが気になることを目に付けた。
「このビルは……」
そう、この間たきなとたいがが戦闘し、転属になったきっかけのビルだ。
「そうそうガス爆発事件のビル! 窓硝子割れて大変だってって言う。爆発の三時間くらい前かな?」
「ガス爆発って……」
雑な上の隠蔽の仕方に、千束はつい吹きかけた。
「随分早くから開けてる店なんだね」
「そうなの。朝日のインスタ映えスポットで有名なのよ」
「話には聞いたことあるっす。あの店か……」
と、そんな話を千道達がしていると、
「ぶrrrrrrrrr――ッ!」
千束がまるでリップロールをするかのようにコーヒーを吹いた。
「……な、なにかわかったの?」
「げほっげほっ……あいや……、この写真もらえます!
「え、ええ……」
たきなはスマホを沙保理に返し、二人でこそこそと話をし始めた。
「取引の現場写ってんじゃん……!」
「知らないですよ……!」
「銃は消えたんじゃなくてとっくに引き渡されてたんだよ」
「その相手が写真をSNSで見て……」
「めっちゃヤバなのに狙われてるよぉ沙保理さん……」
□ □ □
「ありがとう二人とも。刑事さんにもお礼言っといてね」
「沙保理さん、今夜はとりあえず一緒にいません?」
「いいよ、じゃあうちに来てよ」
「ホント?! じゃあ親睦もかねてパジャマパーティなんてどうです?」
「……男の俺らいるんだが」
喫茶店での話が終わり、時刻は夕方頃。
千束は沙保理保護のため、そんな話を持ち出した。
千束は両手を上げて喜び、たきなとたいがの肩にとんっと手を乗せた。
「しばらく二人に任せるね、無茶はしないように。命大事にだからね」
「はい」
「じゃあ沙保理さん、わたし達支度してきますね。いくよお兄ちゃん」
「あ? おれはいいよめんどくさ――」
「はいはい、ツンデレ乙です~」
「殺すぞ」
千道の毒のある言葉を華麗に聞き流し、千束は千道の腕を強引に引っ張った。
「仲の良い兄妹ね。不安が吹っ飛んじゃった。いきましょう」
「僕は……不安しかないよ」
千束と千道の背中を見ながら、たいがはぼそっと呟いた。
□ □ □
「じゃあ今日二人とは今日初めて会ったの?」
「はい、優秀な人たちらしいですが……見えませんよね」
「で、前のバイトに戻りたいと……。嫌なことがあったから辞めたんじゃないの?」
「いえ、少し誤解があっただけです」
「そんなに戻りたいの?」
「戻りたいです」
夜の道、三人以外は誰もいない通路を通りながら、たいがは周りに目を配っていた。
後ろに白い車が一台……ビンゴだ。
――くいっくい。
たいがはたきなの裾を引っ張った。
敵を発見したときに使う二人だけの合図だ。
「そっか私も協力するよ! こう見えてバイト経験豊富なお姉さんだからね」
「早速ですが、良いですか?」
「勿論!」
「ありがとうございます。では先に行っててください。すぐに戻りますのでっ」
そう言って、二人はその場を後にした。
「始めるよ」
「……うん」
「大丈夫、お姉ちゃんがついてるから」
さらわれかけている沙保理を見ながら、たきなはたいがの頭を撫でた。
――写真あったか!
――ありました!
――さっさと消せ!
そんな声を聞きながら、たいがとたきなは車の前に立った。
□ □ □
「何止まってるんだっ! 出せよ――ッ!」
車の中から怒声が聞こえ、車のライトがついた……その刹那、
バシュンバシュン――ッ!
バシュンバシュン――ッ!
たきなとたいがは同時に発砲、ライトと前方のタイヤを打ち抜いて行動制限した。
バシュンバシュン――ッ!
バシュンバシュン――ッ!
「ぐぁっ!」
「ぐぉっ!」
間髪入れずに二人はもう何度も発砲。
その弾幕はまるで隙がなく、少しでも動いたら当たるであろう。息が合った二人だからこそ可能な芸当だ。
二人の使っている拳銃は『S&W M&P9』共にサイレンサーが装備されている。
「取引した銃の所在を言いなさいっ!」
バシュンバシュン――ッ!
バシュンバシュン――ッ!
「むちゃくちゃ撃ってくるぞ!」
「なんで取引のことしってんだ!」
「武器商人を皆殺しにした奴らじゃないすかっ!」
もうすぐ弾がなくなる。
そう理解しているたきなはゆびを二回ならす。
――殺そうという合図だ。
「んっ」
たいがは小さく頷き、拳銃をリロードして撃ち殺そうとした……その時。
パシッ――
二人の乱射が一瞬だけ制止した。
なぜなら、千束と千道に止められたからだ。
「なにしてんのっ!」
千束と千道は二人を抱え、銃の当たらない物陰に隠れる。
「尾行されてたのでおびき出しました。彼らが銃の所在を知っているはずです」
「ちょーちょちょちょ! 沙保理さんは?」
「車の中です」
さも当然かのようにいうたきなに驚愕する千束。
「護衛対象をおとりにしたの?!」
「奴らの目的は画像データ。殺される事はないよ」
「そりゃそうだ、合理的だな」
「人質になっちゃうでしょ!」
何故か否定しようとしない千道に向けて、千束は平手打ちをかます。
――この女がどうなってもいいのかっ!
そんなテンプレな台詞が聞こえ、千束はため息をついた。
たきなは無表情ながらも顔をしかめる。
「……貴方達が止めなければ、もう終わっていました」
「沙保理さんに当たっちゃうでしょ」
「そんなミスはしない、この距離から射殺しよう」
「たいがくん命大事にだってば」
そんな話を聞いて、千道は「かっかっ」と悪魔のように笑い、左のホルスターに手をかける。
「お兄ちゃん、実弾使うなら七時方向に打って」
「わぁってるよ」
千道はどこか不敵に笑うと、
バシュン――ッ!
七時方向に拳銃……『デザートイーグル』を