変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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『東人剣遊奇譚』の次章プロットがかなり難航して、気分転換に書いてみました。

 何番煎じか分かりませんがオリジナルのウマ娘を走らせます。




第1話 始まり

 

 

 ウマ娘がレースに追い求めるモノは幾つかある。

 勝利の栄冠。

 他者からの高い評価。

 己の全てを出し切った先に見える最速の景色。

 誰かの夢になりたいという願望。

 勝利の後に煌びやかに踊り歌うウイニングライブの舞台。

 それ以外にもウマ娘の数だけ無数の夢と目的があり、己の望みを叶えるために走る。

 そのためには自分以外の競技者を負かし、夢を砕き、精神をへし折って先へと進んでいく。

 

「じゃあ、貴女の名前を名簿に書いてね」

 

 年配の女性職員が指差した、一枚の紙きれの上詰めに自分の名を簡潔に書いた。既に五名が上に名を記していて、紙自体も二枚目だった。

 女性職員は自分と同じように頭上に一対の尖った栗色の動物の耳を持ち、スカートの腰部から出た長い毛におおわれた尾を揺らしている。

 彼女もまた人族に属しながら異なる身体的特徴を有するウマ娘だった。おそらくこの学園の在校生がそのまま事務職で就職したのだろう。

 

「…はい、アパオシャさんね。芝3000メートルの二回目だから、それまでに準備体操をしておいて」

 

 職員に言われるまま他のウマ娘達と同じように、練習スペースに移動して柔軟体操をしつつ、周りの様子を観察する。

 自分と同じ年頃の、同じように体操服を着たウマ娘達は大なり小なり緊張している。無理もない。

 今から行われるのは≪トレセン学園≫に入校してから最初の学内選抜レースだ。ここでレースに勝つか、例え負けても自分の長所をアピールすれば、有力なトレーナーの目に留まって質の良い指導を受けられる。

 外野はたったそれだけかと思うかもしれない。しかし、その差が五年間の競技者生活を優位に過ごせるかの明暗を分ける事が多い。

 何しろトレセン学園に所属するウマ娘は二千人を数える。単純に一学年に四百人は居る計算で、新入生はさらに多く、毎年五百人は入校する。

 それら全てのウマ娘を専属指導するには、トレセン所属のトレーナーの数は圧倒的に足りない。

 トレーナーはウマ娘を指導するが、個人の方針は大きく偏り、一対一で付きっ切りで指導するケースもあれば、大抵は三人から五人程度を指導する形式が最も多い。

 中には一度に十人のウマ娘を指導して、全員をG1レースを始めとした重賞レースで実績を残すような敏腕指導者もいる。まあこれは例外なので除外すべきか。

 ともかく一人のトレーナーで数人のウマ娘の指導が限度であり、所属する定員の数を考えると半分は専属指導を受けられない計算になる。 

 その時点で学園から最低限のトレーニングしか教授されず、我流のまま鍛えてレースに出たところで、専属指導を受けて効率的に強くなったウマ娘に勝てる見込みは激減する。

 勝てなければ自らに絶望してシューズを捨てる。または負け続けて規定により中央トレセンを去り、運が良ければ地方トレセンに移籍して走れるが、ここに比べれば待遇はずっと悪いし、レースに勝っても華やかな場とは無縁になる。

 今日この後に行われるレースこそが、多くの夢を持ってトレセンに来たウマ娘の将来を占う分水嶺となるのだから、身の入り方と緊張も分かる。

 しばらく体操をして体が温まった頃にスピーカーからアナウンスが流れた。

 

「これより新入生の選抜レースを始めます。まずは短距離芝1000メートル参加者の生徒はレース場に集合してください」

 

 五十~六十人ものウマ娘が緊張したまま校内レース場へ向かう。中には尻尾をビンっと立てて、ガチガチに固まったまま歩いている。あれだけ緊張していては満足に走れないだろう。本番で一気に雰囲気が変わる子もたまに見かけるが、多くはそのまま実力を発揮できずに負ける。

 とは言っても負けて腐らず、失敗を糧に次の模擬レースで結果を残せれば道は開ける事もある。後は本人次第だ。

 中にはさほど緊張せずに黙々とストレッチをしてレースに備えるウマ娘も幾人かいる。

 例えばウマ娘の中でも特に珍しい白毛のボブカットの少女は、ボケーとした雰囲気でやる気が無さそうに見える。レースを前にあれはきっと大物だ。

 別の方を向くと長身プラチナブロンドの美少女がごく自然体のまま静かに闘志を滾らせている。確か尾花栗毛という珍しい色だったはず。右耳には青色のリボンを付けていた。

 そのウマ娘と目が合った。彼女は何を思ったのかこちらに近づき、物怖じせずに話しかける。

 

「アタシが何か気になるの?」

 

「あー不躾に見たのはすまん。あまり緊張してないように見えたから、勝つ自信があると思って。俺はアパオシャ」

 

「最初見た時男の子みたいと思ったら、話し方も男っぽい!あっ、気にしてたらゴメン」

 

「いいよ、よく言われるし。俺は特に気にしない」

 

 男みたいと言われるのはいつもの事だ。さすがにウマ耳と尻尾が見えるから、すぐにウマ娘と気付くが、そうでなかったら黒髪バズカット(超短髪)に俺と名乗れば大抵は男みたいと思う。

 

「そっか。ところでアンタはどのレースを走るの?アタシは芝の1600だけど」

 

「俺は芝の3000」

 

「えっ、マジで?凄い自信あるんだ」

 

「スタミナになら。速さとパワーはイマイチだよ」

 

 ブロンドの子が驚きと尊敬めいた目で見る。

 実際は凄くも何ともない。長距離は単にスタミナ配分がメインのレースになるからアピールポイントが少なく、それにトレセンに来たばかりの新入生はスタミナの鍛錬が足りずに大抵間延びした地味なレースになってしまう。だからこうした大事な選抜レースには向かないから、選択する者が少ない。

 さらに負ける時は大抵スタミナを切らしてヘロヘロなままゴールという醜態を晒す。そんな距離をあえて選ぶのだから、余程の自信があるとブロンドの子が思ったのだろう。

 しかし距離で言えば1600メートルのマイルも苦難の道に違いない。

 

「むしろ君の方が自信家だろ?マイルは新入生のレースで一番人気なんだから、競争率は高いぞ」

 

「まあね。でもアタシは勝つつもりで走るから」

 

 不敵に笑う様は女優かモデルかと思うぐらい似合っている。余程の実力があるのか、単なる自信過剰かは短距離レースが終わってからのマイルレースではっきりする。

 一つ言える事は、マイルレースは中距離レースと並んで、現在のトゥインクルシリーズの主力レースを担っているため、ウマ娘の上澄みが集まりやすい。その中で自らの力量をアピールするのは結構大変である。適性距離や脚質絡みの生来有する資質は容易に変えられない事実があっても、競争率の激しい部門に挑戦する姿勢は評価したい。

 それから自信家の子とちょっとした身の上話をして、マイルレースの案内放送が流れた。彼女も百人の走者の一人としてレース場へ向かう。

 

「よっし、じゃあ頑張って来るね。あっ、言い忘れてたけどアタシはゴールドシチーっていうの。またねアパオシャ」

 

「ああ、勝って来いよゴルシー」

 

 手をヒラヒラ振ったゴールドシチーは、途中からなぜか目元が少し引き攣っていた。

 

 

 マイル走者が居なくなり、さらに中距離レース参加者が百人ばかり減った練習場には三十人程度の長距離走者が残っている。俺を含めたこの三十数人が午前中最後の芝のレース参加者だ。

 あと百人程度の新入生が午後からダートレースを走る。芝に比べてダートは人気が無いから人数が少ないのは仕方がない。ただ、人気が無いというだけで、実力が劣る連中と決めつけるのは間違いだ。芝に劣らぬダート走者も多い。現にアメリカではダートの方が主流だ。あくまで脚の向き不向き程度に考えた方が良い。

 さて、そんな事を考えながら、どうレースを走るか残った自分以外の三十人のウマ娘を見て組み立てる。

 三分の一は緊張が解けずに動きが固い。さらに三分の一は緊張を解くために必要以上にアップを繰り返して息が上がっている。

 今挙げた二十人程度はレースをするメンタルが整っていないので、さして怖くは無い。彼女達は走る前から既に負けに近い。

 となれば残る十人が実質的な競り合う相手で、今日の模擬レースは一度に十人程度が走るから、多くても一緒に競うのは四~五人程度だろう。今のうちに彼女達の顔を覚えておく。

 その間に離れたレース場からは、歓声が何度も聞こえて静かになった。中距離レースが終わったのが分かる。

 

「お知らせします。3000メートル長距離レースに参加の新入生はレース場に集まってください。繰り返します―――――」

 

 さて、いよいよ本番。最後に屈伸運動とアキレス腱をほぐして準備完了だ。

 こんな入り口で躓いてはいられないが油断もしない。負けて実家の『笠松』に泣いて帰るなんて絶対にゴメンだ。俺は勝つべくして勝つ。

 隣に居座る扱いの面倒な同居者も歯を見せて不気味に嗤っていた。

 

 




拙作を誰かの目に晒すのはかなりドキドキします。
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