変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第10話 騙されてアルバイト

 

 

 春の天皇賞からほぼ一週間が経った土曜日。世間はゴールデンウィークで連休を楽しんでいる。

 俺は髭トレーナーに友達と一緒に学園の外に出かける事を伝えて、練習は午前までにしてもらった。

 渋い顔をされると思ったが、むしろ逆に楽しんで来いと言われた。どうも入学してからトレーニングとレース観戦以外、一度も外に出ていないのを心配してたらしい。

 よくよく思い出すと、土日はトレーニングばかりしてランニング以外に一度も外に出た記憶が無かった。先輩達と走って上達するのが面白かったから気にならなかったが、年頃の女としてはちょっとまずいと思った。

 危機感を感じつつ、トレーニングを午前で切り上げて、同じ美浦寮のユキノビジンとシャワーで体を汗を流して私服に着替える。今思うと部屋着以外で私服を着たのは一ヵ月ぶりだった。

 と言っても色が褪せたジーンズと、白シャツの上から黒地に赤のラインを入れたジャンパーを羽織っただけ。アクセサリーの類は一切付けないオシャレとは無縁だ。

 寮の共有スペースでゴルシーとスマホでやりとりして待っていると、ユキノビジンも来た。こちらはピンクのセーターと青いスカートの出で立ちで、簡素だが俺よりは余程女の子らしい。

 

「おまたせだべ。それで今日はどこに行くさぁ?」

 

「もう一人と合流するから、とりあえず正門にいくぞ」

 

「友達と都会で“しょっぴんぐ”なんて、あたしもシチーガールの仲間入りか~」

 

 ユキノビジンはいつもよりかなりテンションが高い。くくくっ、まだ誰か言ってない一緒に出掛けるもう一人を知ったら、たまげるに違いない。

 二人で学園の正門で待っていると、最後の一人が来た。真紅のワンピースに七分袖の上着を羽織って、俺達より明らかにスタイリッシュだな。特に青のネクタイにセンスを感じる。

 

「あれぇ、もしかしてゴールドシチーさんでねぇか!ゴールドシチーさんも、どこかお出かけですか」

 

「何言ってるのよ?アタシとアンタ達で出かけるっしょ」

 

「言ってなかったけど、今日一緒に行くのはここにいるゴルシーな」

 

 ユキノビジンの時間が止まった。俺はもう一人が誰と言ってなかったが、まさか憧れの相手がそうだとは思いもしなかったから、思考停止したのだろう。

 

「じゃじゃじゃじゃっ!?そんなあたしみてぇな田舎もんが、雑誌に載るカワイイゴールドシチーさんとだなンてっ!!」

 

「っふふ、可愛いなんて嬉しい。アタシの事はシチーでいいから、ユキノって呼んでいい?」

 

「どどどどうぞっ!!」

 

「じゃあ俺はビジンって呼ぶわ」

 

 初顔合わせは成功だな。ゴルシーはあれで面倒見が良いし、ビジンは純朴で奥ゆかしいから相性はいいと思っていた。

 

「じゃあ行く所はアタシに任せて。迎えはもう来てるみたいだから」

 

 迎え?バスを使うと思ってたが、タクシーでも呼んだのか。

 ゴルシーが校門を出てそれに俺達も付いて行くと、路肩に一台のセダンが路駐していて、側にパンツスーツの二十半ばのキリッとした女性がゴルシーと話していた。

 

「紹介するわね。アタシのモデルのマネジよ」

 

「出美よ。今日は二人ともよろしくね」

 

 俺とビジンは出美マネージャーに挨拶をする。もしかしてマネージャーを買い物に付き合わせるのかな。さすがに休日にプライベートな事までこき使うのは悪いと思ったが、出美さんは俺達を見て妙にウキウキしている。

 

「シチーから聞いた通りの良い娘達ね。姿勢も良いし、飛び入りでも十分よ」

 

「そっ、よかった。じゃあ、スタジオまでお願いね」

 

「待って、スタジオってなんだ?今日は店で買い物するんじゃないのか」

 

「えっと、シチー。あなた、友達に撮影のこと言ってないの?」

 

 あっ!謀られた。マネージャーの話で気付いて、ゴルシーを見たらクソムカツクぐらい良い笑顔だった。

 

「実はアタシ、今日はファッション誌の撮影だったんだ。アパオシャのお願いを聞いた時に、なら一緒に撮影して使った服をそのまま譲ってもらえば良いって思ったの」

 

「おい…おいっ!俺が雑誌に載るのかよ!」

 

「デビューしてレースに出たらその内乗るっしょ。こういうのも経験しなって」

 

「あの…どうしても嫌なら先方にも断りを入れるけど……」

 

 出美さんが控えめに助け舟を出してくれるが、本当に断ると二人の仕事の評価が下がるだろうなぁ。

 流行のファッションに意見を求めたのは俺だし。くっそ~断れねえ。

 

「いや、良いよ。買い物じゃないのは困ったけど、友達を困らせるのは出来ればしたくない。でもビジンのほうは嫌ならさせたくないんだけど」

 

「あたし、むっためがしてがんばりますンでっ!!これもシチーガールへの一歩ですっ!」

 

 マジか、俺より乗り気じゃねえか。思ったより根性ある娘だ。

 観念して車に乗る。三人も車に乗って予定外のドライブだ。

 撮影スタジオは意外と近く、都内にある四階建ての小さなビルのワンフロアを丸ごと使っていた。

 中は既に撮影スタッフが準備に追われていて、レース前とも違う独特の熱気とピリピリした雰囲気に満たされていた。

 最初にスタッフとの挨拶をした。雑誌の編集、服のデザイナー、メイク担当、スタジオスタッフなど。服の撮影一つでも十人を超えるスタッフが関わっている。ここからさらに実際の雑誌を作るまでには、何十倍もの人間が必要と思うとご苦労が偲ばれる。

 挨拶が済むと、今回の撮影の説明があった。撮影用の服は今年の夏から秋用で、一人に大体十種類程度を用意してある。撮影が終われば服はそのまま譲ってもらえる約束。それと給料が少し出るらしい。

 飛び入りの身だから俺は服だけで十分と言ったが、雑誌の人からタダにすると製作費の税金計算が面倒になるから、むしろ受け取って欲しいと言われた。だから金に関しては扱いに慣れた出美マネージャーに一任した。

 契約の確認が済んだら次は実際の撮影の簡単な打ち合わせをして、メイク担当の女性に控室まで案内してもらった。

 部屋の中は大きな化粧台が備え付けられて、奥には新製品の服がぎっしりハンガーに掛けられている。まるで小さな服店だ。

 

「では皆さんメイクをしますね」

 

 メイク自体はプロに任せて簡単に済んだ。元々中高生向けの雑誌だから過度なメイクはせず、あくまでカメラ写りを良くする程度の処置だ。

 それでもリップクリームぐらいしかしたことのないビジンや、それすらしない俺にはものすごい新鮮な経験だった。メイク後を見たゴルシーがやけに満足した顔をしている。

 

「やっぱ二人とも元が良いから、少しの手間で栄えるわ」

 

「君には負けるよ」

 

「知ってる。これでもプロだから」

 

 しれっと言って嫌味にならないのがゴルシーの良い所だ。

 メイクが終わると、次は夏服を手渡された。下着になった時に、ゴルシーが俺の尻尾に注視しているのに気付いた。

 

「前から思ってたけど、アンタは尻尾まで毛を切ってるんだ」

 

「俺のは元から。無毛症だから、生まれた時から殆ど毛が生えないんだよ。髪は十年でかろうじてこれだけ伸びた」

 

「……その、無神経でごめんね」

 

 後悔で泣きそうなゴルシーの頭を撫でた。

 実際毛が生えないデメリットは目立つ以外に大して無い。目が見えなかったり手足が欠損した人に比べたら、ウマ娘の分でプラスなぐらいだと思ってる。

 だから泣くなと言って友達を元気付けた。

 それから一度目の着替えを済ませた時には、もういつもの調子に戻っていた。さすがプロはメンタルの切り替えが早くて上手い。

 写真撮影は意外とすんなり進んでいる。俺やビジンにはスタッフが難しいポーズと演技の注文をせず、出来るだけ自然なままの表情で撮影しているおかげだ。それにダンスレッスンやトレーニングで体幹を鍛えてあるおかげで、ポーズがブレないから撮り直しが少なくて済むとカメラマンが褒めていた。

 撮影コンセプトはそれぞれ俺がスポーティーでパッション、ゴルシーはハイティーン用のちょっと大人向けクール、ビジンがピュアでキュートらしい。見立てはゴルシー。大体合ってるから言う事は無い。

 撮影自体は順調だったものの、服の数が多いから結構時間がかかっていて、全ての写真を撮り終えたのは夜の七時を過ぎていた。

 寮の門限を過ぎていたが、出美さんが前もって寮に電話して帰るのが遅れると伝えてくれた。仕事の出来る女はかっこいいね。

 仕事を終えると夕食に、映画に出てくるような木目調のアメリカンレストランに連れて行ってもらえた。基本のハンバーガーとクラブサンドにステーキも充実している、大食いのウマ娘も満足出来る量と味が売りの良い店だ。しかも今はジャズの演奏までしてくれる。

 

「東京はこったなオシャレなお店が沢山あるンだなはん」

 

 ビジンは拳三つ分はある巨大なハンバーガーにかぶり付く。チーズたっぷりカロリーお化けのハンバーガーは思春期の女の子には天敵でも、アスリートのウマ娘にはちょうどいい。

 ゴルシーは1kgぐらいある照り焼きチキンステーキをモリモリ食ってる。鶏だから低カロリーで満腹になれてお気に入りだそうだ。

 俺はTボーンステーキの合間に塩気の利いたフライドポテトをつまむ。撮影中はジュースしか口にしていないから、カロリーが美味い。

 出美さんは常識的な量のクラブサンドを食べている。挟んだローストビーフが絶品らしいので、俺達に毟られて半分取られてしまった。お返しにこちらの料理も少し分けたから、差し引きプラスになった。

 四人でワイワイ食べて満腹になり、後は学園まで送ってもらえた。

 

「二人とも今日はありがとう。シチーとこれからも仲良くしてあげてね」

 

 出美さんに何度も頭を下げられた。頭を下げなくたって、ゴルシーは友達なんだから仲良くするよ。

 そう言ったら満足して帰って行った。

 

「今日は楽しかったよ。また撮影したかったらアタシに言ってね」

 

 ゴルシーは栗東寮だから門前でお別れした。

 ビジンと寮に戻り、自室に入るとウンスカ先輩がベッドでダラけながら迎えてくれた。

 

「おかえりー。今日は結構遅かったね。おやおや~アパオシャちゃん、お化粧してるんだ」

 

「ただいま先輩。ゴルシーのオマケで色々と……はー慣れないと疲れるわ」

 

 両手に抱えた新作の服を床に降ろす。今日はこれだけ服貰えて、おまけにモデル料まで出してもらえた。幾らかは知らないが小遣いが大幅に浮いただけでも結構嬉しい。

 

「たまには友達と遊ぶのもいいでしょ?セイちゃん先輩は明日は釣りに行くからもう寝るね。じゃ、おやすみ~」

 

 もしかして俺の顔見るまで寝ないで待っててくれたのかな。

 優しい先輩を起こさないように着替えだけ持って、浴場でシャワーを浴びた後は早々に寝た。

 

 

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