変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第97話 いつもと違う夏合宿

 

 

 日本に帰って来た翌日、チーム≪フォーチュン≫は関東のとある海岸近くの駐車場に来ていた。

 バスから降りれば潮風が頬を撫で、照り付ける太陽が眩しい。エアコンの効いた車内とは別世界である。しかし不快な暑さではない。

 

「よーしお前ら、荷物を持って合宿所に行くぞ」

 

「みんなも、遅れないようにね」

 

 髭トレーナーと南坂トレーナーの指示に、オンさんと全員が返事をして言われた通り荷物を持って移動する。

 今日から半月の間、≪フォーチュン≫は≪カノープス≫と合同で夏合宿をする事になった。

 毎年夏に使っていたメジロ家の保養所は、今年は運悪く改装工事をしていて使えなかったので、他のウマ娘と同様にトレセン学園が保有する合宿所を利用しての夏季合宿になった。

 もちろん一つの合宿所を一つのチームが独占は無理だ。だから今回は髭の同期の南坂トレーナーが率いる≪カノープス≫との合同合宿になった。

 それとバクシさんは高等部最後の夏休みという事で、クラスの友人達と卒業旅行に出かけていて合宿には参加していない。

 ちなみに≪リギル≫と≪スピカ≫は今年も一緒に合宿をしているとゴルシーから聞いている。

 小さな旅館風の合宿所に入り、宿所の管理をしている職員の人達に挨拶をする。

 

「今から部屋割りを発表する。最年長の四人が下級生の面倒を見てやれ」

 

 髭から貰った紙に目を通す。

 俺はガンちゃんとツインターボちゃんと同室か。ダンはマチカネタンホイザちゃん、メイショウドトウちゃん。イクノディクタスさんはジャンとブラックちゃん。ナイスネイチャがクイーンちゃんと同室。

 あえてチームメンバーをバラけさせた部屋割りだな。イクノディクタスさんとルームメイトのクイーンちゃんも同室を避けている。

 

「わざわざチームメンバーと分けた理由は?」

 

「一緒に合宿するのに同じチーム同士じゃ、あまり意味が無いからね。普段と異なる環境でのトレーニングは良い刺激になる」

 

 南坂トレーナーの説明は一理ある。一種の馴れ合い禁止ということだろう。

 トレーナーは三人とも個室で一人だ。チームや個別情報があるから、それらを互いに見せないようにするには個室にするしかない。女のオンさんも居るから余計に同室は無理だし。

 納得した所でカギを貰って部屋に行く。

 

「おー畳の部屋だー!」

 

 ツインターボちゃんが荷物を隅に置いて、畳に身体を投げ出した。部屋は大体12畳ぐらいで、三人で使うなら十分広い。それと部屋にシャワーと洗面台付きは結構ありがたい。押し入れには布団が人数分入っている。

 箒チリ取り雑巾にゴミ袋のある場所も確認した。ここは合宿所だからホテルと違って、自分達である程度掃除や洗濯物を洗わないといけない。

 

「休む前に風呂場やトイレも見ておいた方が良いぞ。それが終わったら、荷物を出してジャージに着替えて昼食な」

 

「「はーい」」

 

 年下二人は言う事を聞いて、一緒に施設内を見て回った。

 大型の洗面所、トイレ、洗濯場、食堂、大浴場、娯楽室。建物自体は多少古いが必要な物は全部揃っている。

 屋内の設備を確認して部屋に戻り、持ってきた荷物の中から日用品や着替えを出して、使いやすい所に置いておく。

 俺も含めて全員化粧をしないから、精々日焼け止めクリームぐらいで化粧品の場所を取らないのはありがたい。

 

「ターボ、トランプとかオセロ持って来たから、夜にいっぱい遊ぶぞ~」

 

「夜まで体力が余ってたら付き合ってやるよ」

 

 昼の合宿で体力を使い切るとは思ってないらしい。甘い事を考えてるようだから、限界まで搾り取ってやろう。

 俺の考えなど知る由もないツインターボはガンちゃんと暢気にオセロを始めて、昼飯までの間にボコボコにされた。

 

 みんなで食堂で昼飯を食べて、今度は外の施設を見て回る。

 最初は目の前に広がる砂浜だ。ここはトレセン学園所有のプライベートビーチだから、海水浴客は誰も居ない。おかげで外野に邪魔されずに練習に集中出来る。

 砂浜での筋力トレーニングと海での水泳トレーニングが主な利用法だ。

 あっ、一番乗りとばかりに同居者が大喜びで砂浜を駆け出しやがった。さらに砂地をゴロゴロ転がったり、海で泳ぎ始めてやりたい放題している。お前、濡れるの嫌いだけど海は良いのかよ。

 好き勝手やってる同居者は放っておいて、次は海岸から離れた山の方に行く。

 山と言ってもちょっとした丘ぐらいの規模で、トレッキングコース程度の標高しかない。それでも整備された山道はトレセンの坂道より傾斜が急で、坂道トレーニングには最適だ。

 低い山頂に登り、そこから髭が指差す施設の説明をする。白い二階建ての建物はトレーニングジムで、普段は地元民に有料で解放されているけど、合宿期間中はトレセン生の貸し切りになって自由に使える。

 さらに宿所の近くには練習コースもしっかり完備されている。多少小さいが芝ダート両方使える練習場で、合宿中も実戦的なレースが行える。こちらも平時は近隣のウマ娘に解放されていて、金さえ払えば利用出来た。

 概要を把握して山を下りたら、今度はカメラやボイスレコーダーを持った数人に絡まれた。多分記者や報道関係者だな。こんな合宿にまで張り付くなんてよっぽど暇なのか。

 髭と南坂トレーナーが応対している間にオンさんの引率で海岸に戻った。私有地にまで入ったら逮捕されるから、流石に直接踏み込むことは無かろう。

 

「しかし、合宿まで付いてくるなんて、記者ってのは記事になれば何でもいいのかよ。みんなも遠くから常に見られてると思って気を抜くなよ」

 

 特に海でのトレーニングは水着になって肌を見せるから、色々と警戒していないと何を撮られるか分かったものじゃない。

 記者から解放されて戻って来たトレーナー二人の指示で、今日は移動疲れもあるから砂浜での軽い基礎トレに留めた。

 

 トレーニングが終わったら、夏休みに出された宿題を消化して、夕食のシーフードカレーを食べた。

 そして俺達は≪カノープス≫のメンバーの奇行を目にする事になった。

 

「………ツインターボ、それは何だ?」

 

 ツインターボはカレールーにマヨネーズ、ケチャップ、ソースをドバドバかけて、実に美味そうに頬張っている。もうカレーの味分からねえだろ。

 

「レインボーカレーだぞ!美味しいからアパオシャも真似する?」

 

 いらねえよ。

 それと離れた席でクイーンちゃんが唖然としているのを見て視線を追ったら、メイショウドトウちゃんがカレーに一味唐辛子を山盛りに入れて平然と食べていた。

 ナイスネイチャやイクノディクタスさんを見ても、こちらは普通にカレーを食べている。

 ≪カノープス≫全員がおかしな食い方をしてるわけじゃないのか。

 でも、うちのチームもオンさんが薬盛って七色発光させるし、クイーンちゃんはスイーツ暴食するから、あんまり他所の事をとやかくは言えなかったわ。

 

 夕食が終われば風呂に入って、夜の時間は各自で自由に過ごして良い事になっている。

 まだ元気の有り余ってる年下二人に付き合ってトランプやらUNOをして、九時には布団を敷いて寝させた。二人はまだまだ眠くないと言うが、トレーニングは早朝七時からの予定だ。出来るだけ睡眠を多く取らせるのも年長者の役割だと思ってる。

 

 

 翌日、早くに目が覚めた。時計の針は午前四時前を指している。

 同室の二人はぐっすり眠っている。起床予定時間までは二時間あるから、まだ寝かせてやる。

 シャツと短パンに着替えて、練習シューズだけ持って部屋を出た。

 砂浜に行き、夜明け前で白くなった空の下で柔軟体操を始める。

 

「競争するか?」

 

 付いて来た同居者は歯を見せてニカっと笑って隣に並んだ。

 それから波打ち際で、何度も何度も走り込みをした。

 海水を吸った砂と足にかぶる波のせいで極端に重くなった地面は、余程パワーが無ければまともにスピードが出ない。だからこそ強化トレーニングには最適だ。

 ダッシュの距離は短いから、同居者とは勝ち負け半々ぐらいだな。向こうも遊びでやってるから勝ち負けに大してこだわってない。

 

 五十回は砂浜ダッシュをして、海から太陽が顔を見せ始めた頃、同じように体操着で赤と緑のメンコを付けたウマ娘が砂浜に一人増えた。

 

「―――ふう、おはようナイスネイチャ」

 

「おはようアパオシャ。随分早いね」

 

 ちょうどいいから一旦休憩する。柔軟体操を始めたナイスネイチャの隣で汗を拭いて、水分補給をした。

 

「屈腱炎はもういいのか?」

 

「うん。治ったばかりで制限はあるけど、一応トレーニングの許可は貰えたよ。レースは秋以降だけどね」

 

 ちょっと陰のある笑みを向ける。ナイスネイチャは元から自虐的な所があったけど、さらに走れない状態が続いたから、こういう態度もやむを得ない。

 

「――――アパオシャはさ、何で強いのに余分にトレーニングしてるの?」

 

「怠けたら弱くなってレースに負けるからな。どうせ走るなら負けて悔しい思いをするより、勝って一番楽しい気分を味わいたいんだ。だから俺はもっとトレーニングをして強くなる」

 

「もうG1九冠もあるのに、まだ足りないわけ?欲張りすぎるよ。キラキラで格好良くて、眩し過ぎてネイチャさんの目は眩んじゃうね」

 

 欲張りじゃいかんか?アスリートってのはどいつもこいつも自分が一番強くて、自分が勝って当たり前だって思ってる奴だろ。

 ナリタブライアンやキュプロクス、オンさん、バクシさん、クイーンちゃん、ガンちゃん。カフェさんとフクキタさんとブラックちゃんは微妙だけど、大抵の奴は自分が一番だって思って走ってるぞ。ジャンはよく分からん。

 ≪スピカ≫のメンバーは特にそれが顕著だ。ちょっと気弱な所があるライスシャワーちゃんとゼンノロブロイちゃんですら、己が一番と思っている節があるとゴルシーが言っていた。

 

「アンタと同じように勝ちたい、勝ちたいって思って走っても、いっつも前に誰かが居て、毎度毎度G1は入着ばかり。G2レースで勝つのがやっとなんだよ。一度で良いからG1レースの後にセンターで歌いたい、踊りたいなー………なんて言ってみただけだから、気にしないで」

 

 ここまで言って気にするなは無理があると思うぞ。と言っても所詮は他人の泣き言だからな。俺はトレーナーじゃないし、同学年の最上位として惨めになる慰めの言葉なんてかけるつもりはない。

 ただな、お前さんは俺達G1ウマ娘と比べても、さして弱くは無いんだぞ。学年が多少違っていたら、G1勝てる実力はあると思う。でなけりゃG1ウマ娘が複数出る有マ記念を二年連続で3着に入れるかよ。重賞だって三勝してるのを忘れてないか。

 と言った所で、変に拗れたこいつの性根は柔らかくなったりはしないんだろう。

 そしてうちのチームは引退した人含めて、今のところ全員G1勝ってるから、今後ナイスネイチャみたいにG1勝てなかったら、周りと勝手に比較して同じ事になりそうだ。それはいかんな。

 

「―――――仕方ない。G1勝てるようにジャンとブラックちゃんを死ぬほど鍛えるか」

 

「えっ?何でそんな結論になってんのよ」

 

「後輩達がナイスネイチャみたいに拗らせて欲しくないからだよ」

 

「こっ拗らせっ!?アタシそんな風に見られてたの?」

 

「事実だろうが。溜まった感情がネバっとしてて、ネイチャならぬネチャアって糸引いてる感じ」

 

「ちょっとそれ言い過ぎじゃないの!アンタはこういう時ぐらい優しい言葉の一つぐらいかけなさいよ!」

 

「それでG1勝てるようになるんだったらするけど、言葉一つでレースに勝てるほど甘くねえよ。そういうのはチームのトレーナーの仕事だろうし、強い相手に情けなんてかけるかよ」

 

「…………アタシって強いの?」

 

「重賞を何度も勝てるウマ娘が弱いわけないだろうが。生まれる年がズレてたらG1を一勝ぐらいはする…………するかなあ?」

 

「ちょっと、何でそこで疑問形になるのよ!」

 

「だって一年上だとウンスカ先輩達で、二年上だとBNWがいるし。三年上はフクキタさん、サイレンススズカさん、パーマーさん。もっと上はオンさんとカフェさん、エアグルーヴ先輩にヒシアマゾンさんがいる。逆に一年下はクイーンちゃん、ウオーちゃん、ウオカレコンビ。二歳下はガンちゃん、メジロの二人、ライスシャワーちゃんとミホノブルボン。―――――無理じゃないがやっぱ厳しいな、G1ウマ娘になる確率三割ぐらい?」

 

「冷静に分析するのやめてよっ!アンタはそう言う所がズレてるって、陰で言われる原因だって分かってる!?」

 

「ああ昔から自覚はあるぞ。最初はウマ娘だからかと思ったけど、トレセン来ても何か周りから結構浮いてるなー、って気付いた。≪フォーチュン≫は大なり小なり、そういうウマ娘が集まりやすいんだよ」

 

 俺の場合は同居者が四六時中居て、子供の頃から明らかに他人と違うって自覚があったしな。

 それにチームに入ってすぐに髭が言ってたみたいに、始まりのオンさんがクレイジーだったから、所属するウマ娘は何かしら癖があるのが≪フォーチュン≫の伝統みたいになってる。おかげで似た者同士が集まって居心地は良いんだよ。

 というかそれを言ったら≪カノープス≫だって結構愉快な面子が揃ってると思うぞ。

 

「俺が言える事は、あと一年あるんだから鍛えて挑み続けて勝つしかない。レースに出走すら許されないウマ娘に比べたら、走れるだけ勝つ目はある。それぐらいだな」

 

「分かったわよ。グダグダ泣き言言わずにトレーニングして走る。それでいいんでしょ」

 

 初めからそう言ってるだろうが。まったく、世話の焼ける奴だ。

 そして隣の黒助はニヤつくのをやめろ。

 

 それから二人で砂浜ダッシュをして、午前六時前になったら同室で寝ているチビッ子二人を叩き起こした後に顔を洗わせた。

 全員揃ってから朝食を食べて、すぐに朝練を始めて暑くなる昼前には一旦切り上げた。

 その後は部屋の掃除と洗濯をして、昼食と休憩を取ったら勉強の時間に当てる。

 日が傾いて、少し涼しくなってから再び練習再開。午後七時までみっちりトレーニングで身体を限界まで酷使する。

 そうなると食事取って風呂に入ったら、殆どの連中はクタクタになって夜に遊ぶ体力なんて残ってない。早々に敷いた布団に転がって眠ってしまった。

 寝る子は育つって言うから、一杯寝てまだまだ強くなるんだぞ。

 

 

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