変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第11話 試験勉強

 

 

 梅雨の時期は毎年イマイチ気分が乗らない。速さに違いは出ないけど、遠慮無しに振り続ける雨と身体に絡み付く湿気に腹が立つ。

 トレーニングはまあまあ順調。六月初めに選抜レースとは異なる、生徒の有志が集まって走る模擬レースの中距離2000に参加して、アタマ差の二着。得意距離でもないし、色々試しながらのレースだったから、負けてもあんまり悔しいとは思わなかった。

 俺に勝ったのはナイスネイチャという、なんか自虐的と言うか卑屈な態度取ってる奴だった。

 

 数日後、本番の選抜レースに勝って、温和で優しそうなトレーナーとスカウトの話をして≪カノープス≫というチームに加わったみたいだ。勝ったんだから少しぐらい調子に乗ればいいのに。

 俺は負けたがチーム≪フォーチュン≫のレースは上々。

 五月末にバクシさんが葵ステークス1200メートルを快勝。翌日にはカフェさんも目黒記念2500メートルを5バ身差で圧勝した。

 世間ではそれより、オークスと日本ダービーに湧いた。オークスはカワカミプリンセスさんが競り勝ち、今クラシック世代三強BNWのウイニングチケットさんがライバル達を押しのけてダービーを制覇した。

 そして今月末にはG1宝塚記念をオンさんとフクキタさんが走る事になる。それ以外にも天皇賞春で三位入賞したメジロパーマーさん、≪スピカ≫のサイレンススズカさんが出走する豪華な顔ぶれだ。

 さらに俺達の一年上の先輩達のメイクデビューレースがぼちぼち始まり、学園全体が活気に満ちている。ルームメイトのウンスカ先輩も、この時ばかりは程よく緊張感を持ってトレーニングに励んでいた。

 ≪フォーチュン≫のトレーニングは二手に分かれて、オンさんとフクキタさんが宝塚に向けての実戦トレーニング。残りの三人は降雨を利用した重バ場走行を繰り返している。

 レースは常に乾いた芝を走れない。時には土砂降りの中で走る事もある。そういう時に備えてのトレーニングは必要と分かっていても、毎日泥だらけになるのは気が滅入る。それどころか髭は俺だけ水を吸ったダートで走れとまで命令した。

 もはや沼のようになったダート場は一歩踏み込むだけで脚が沈んで走るどころじゃない。泥から足を引っ張り出すだけでスタミナを吸われて、跳ねる泥が顔にかかって前が上手く見えない。

 芝はダートより水ハケが良いから、ここまで酷いバ場にはならないと思うが、最悪を経験しておけば対処もしやすい。トレーナーの言い分は理に適ってる。納得出来る理由があれば指導者に従うしかない。

 普段は一緒に走って先を譲らない同居者も、こういう時はそっぽ向いて屋根のある場所で雨を避けてしまう。こいつが雨を嫌うから俺も雨が嫌いになったようなものだ。

 カフェさんの『お友だち』は一緒に走ってるから、仲の良さが羨ましい。

 そして俺には、毎日練習後にチーム全員の泥に埋まったシューズを洗う仕事が待っている。下っ端だから仕方ないが、これも結構な手間で重労働だった。

 さらに厄介だったのが七月頭からの期末試験の勉強だ。トレセン学園はスポーツ学校でも最低限の学力を身に付ける事を生徒に義務付けている。赤点を獲った場合は普通校と同様に追試と補習が待っていて、しかもそれはレースに優先しているから、追試で出走取消などと新聞やレース雑誌に書かれたら死ぬまでネタにされてしまう。

 だから俺達は練習の合間に時間を見つけて出来るだけ勉強しないといけなかった。

 

 ある日の昼休み。昼ご飯を早めに食べてから、教室に戻ってビジンを含めた仲の良いクラスメートと一緒にテスト勉強をする。毎日ほんの三十分程度でもしておけば、五点十点ぐらいは違う。赤点を取って補習と追試地獄でトレーニングの時間を削られるのは全会一致で否決した。

 午後からの授業五分前になり、勉強を切り上げた。

 次の授業の準備をしていると、別のクラスメート二人が俺に雑誌を見せてきた。

 

「ねえねえ、これアパオシャさんだよね!」

 

「いつの間にモデルになったの!?」

 

 その発言でクラス中が俺の側に寄ってきた。そして雑誌の中の黒髪ウマ娘の写真と俺を見比べて、ワイワイ騒ぎ始めた。

 やっぱりすぐ分かるか。一応実名を避けて『AP』と記載してもらったが実物と顔を見比べたらすぐ分かる。その流れでビジンもモデルになったのがバレた。

 後は質問攻めだ。あくまでゴルシーのついでで、不本意でモデルのバイトをしたと言っても、なかなか興奮は収まらない。

 大体の意見は羨ましいとか、撮影現場がどうだったとか軽い話が多い。

 

「撮影現場は見慣れないから面白いとは思ったよ。それとメイクのプロにやり方を少し教えてもらえたのは良かったかな」

 

「わたしは憧れのシチーさんと同じ仕事がでぎてぇ、えがったべ。これで“シチーガール”に一歩近づげたぁ」

 

「「「わーわーいーなー」」」

 

 ここで自分も雑誌に載りたいからゴルシーに口利きをしてくれと言わないから、珍しい体験を羨ましがって、本気でモデルをやりたいってわけじゃないんだろう。それに堅実というか気遣いが出来る娘ばかりで助かる。

 クラスメートとわちゃわちゃ盛り上がってると教師が来て着席を求めたので話はお開きになった。

 授業が終わって部室に行くと、カフェさんとバクシさんが教科書を広げて勉強していた。

 

「今日はトレーニングしないんですか」

 

「……バクシンオーさんが追試になって……来月のレースに出れないと……困ります」

 

 Оh……意外と身近にがけっぷちの人がいたかー。

 バクシさんは来月末に新潟開催≪アイビスサマーダッシュ≫に出走予定だったな。学力不足で出られないのは恥ずかしいし、悔しい想いはしたくあるまい。

 ついでにカフェさんが俺の勉強を聞いたから赤点は無いと言っておいた。

 

「時間を見つけてコツコツやりますから、中より上ぐらいで何とかなります」

 

「良かった……これで後は……フクキタルさんだけ……」

 

 まだいたのか。しかもレース日と期末テストの時期がほぼ一緒で勉強する暇が無い。これはもうだめかもしれんね。

 オンさんは研究者だから俺達が心配するような成績じゃないだろ。心配なのは研究に没頭し過ぎて試験日を忘れて欠席になりそうだが、その程度ならトレーナーが無理に引っ張って行けば済む問題だ。

 そういえば今年の日本ダービーウマ娘のウイニングチケットさんは補習と追試の常習犯と聞いたな。それに皐月賞ウマ娘のナリタタイシンさんも、一時は学科の成績が相当酷かったと噂があった。三強BNWは学業を犠牲にレースに勝つウマ娘なんだろうか。

 まあ、どうでもいい事に思考を割く時間も惜しいから、今日は俺もトレーニングの代わりに一緒に勉強をする事にした。

 一緒に卓を囲んで勉強会をすると、何でバクシさんが試験に弱いかよく分かった。この人は問題を熟考しない。ひたすらバクシンバクシン言って、早解きしてるから間違いが異様に多い。単純に頭が悪いとか勉強嫌いとかの問題ではないんだ。

 おかげでカフェさんは四苦八苦しながらバクシさんを押し留めて、どうにか考える時間を作らせて問題を解かせている。

 俺やカフェさんのような長距離タイプは、レース中にペース配分や仕掛け時をあれこれ考えながら走るから、大抵思考が遅巧になりやすい。制限時間が多い試験なら優位に働くが、バクシさんみたいにとにかく速さを求めるレース思考が理解しづらいために苦労していた。

 二年上のバクシさんに俺はどうこう言えないから、黙って勉強しているとオンさんとフクキタさんが部室に来た。

 フクキタさんは勉強しているのを見て、思いっきり動揺した。一応テストがやばい自覚があったみたいだ。

 そしてオンさんはカフェさんの苦労を見て、なぜかバクシさんに壁にかかったアナログ時計の秒針を見るように言うと、急にバクシさんが眠り始めた。

 

「時計を使った催眠導入は済んだ。次は軽く砂浜を歩くとしよう。ゆっくりだよ」

 

「……はい。ゆっくり歩きます。ゆっくり、バクシン。バクシン、ゆっくり」

 

 うわごとの様に呟き続け、オンさんが手を叩けば、ピタッと起きた。

 

「バクシンオーくん。時には立ち止まって考える事も必要だよ。さあ、この問題をよく考えて解いてみたまえ」

 

「はいバクシン」

 

 バクシさんが用意した数学の問題をさっきの五倍の時間をかけて解き、カフェさんが答え合わせをすると、合ってた。

 

「フッフッフッ……これは私が考案した催眠走行向上理論の応用だよ。催眠で速度を引き上げるなら、判断力を遅くするのも理屈の上では同じ」

 

「いえ、そうはならないと思います」

 

「現になっているじゃないかカフェ」

 

 証拠を見せてしまったから、これ以上は反論出来ない。

 ただし、オンさんの話では催眠はあまり長く続かないから、試験期間内ずっと催眠を続けるのは難しいらしい。やっぱり世の中そんなにうまくいかないか。

 

 

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