変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第12話 異次元の超光速

 

 

 七月初週の日曜日。チーム≪フォーチュン≫は二ヵ月ぶりに阪神レース場に足を運んだ。目的はもちろん宝塚記念を走るオンさん、フクキタさんと二人の応援をするためだ。

 前と同じホテルで一泊した後、午前中にレース場入りして午後のレースに備えた。

 観客席に居ると、知ってる顔がちょこちょこ見える。

 会場の上の方でシンボリルドルフ会長と、栗東寮長のフジキセキさんがいた。あの二人はチーム≪リギル≫メンバーだったな。それともう一人、小柄な黒髪の子が側に居る。その子は俺が見ている事に気付いて、じっと見つめていたが、すぐに興味を失ってレース場に視線を戻した。

 宝塚記念を二連覇したトレセン一の自由人ゴールドシップさんの隣にゴルシーが居る。あの二人はチーム≪スピカ≫メンバーで、今日出走するサイレンススズカさんの応援に来ていた。何で二人してトレセンの制服のまま、お好み焼きの売り子をしているかは分からない。

 それと、今レース場で出走前にこちこちに固まっているのがスペシャルウィークさん。彼女は今日がメイクデビューレースで、これから前座の一人として走る。≪スピカ≫は出来れば今日は、二人とも勝って祝杯を挙げたいと思っているだろう。

 十人がゲートに入る。あっ、スペシャルウィークさんが出遅れた。最後尾から追っかけて、中盤で着実に順位を上げていく。あの人結構早い。

 ラスト100メートルでガンガン追い抜いて、最後の50メートルで芦毛の眼帯の人と並んで、競り合った末にそのまま差し切った。出遅れをものともしない末脚の強さは凄いな。

 チームメイトのダブルゴルシスターズが、大喜びでスペシャルウィークさんの名前を叫んでいる。

 

「メイクデビューか。カフェさんとバクシさんはどんな感じでした」

 

「私は…三着で……次の未勝利戦で……勝ちました」

 

「私は勝ちましたよっ!あれが学級委員長としての第一歩でした!」

 

「そっかー。俺はあと一年後。早くデビューしてレースを走りたいな」

 

 こればっかりは年が足りないし、仮に今すぐ走れたところで、あのスペシャルウィークさんにまだ勝てそうにない。あと一年は地道に練習しないとダメだよな。

 レースへの渇きを感じてちょっと鬱屈していると、甘いソースと香ばしい匂いが鼻を刺激する。

 

「アパオシャ~、アンタもこれ買ってくれない?全部売り捌かないと終わんないのよ」

 

「似合ってるぞゴルシー。先輩達も食べよう」

 

 泣き顔でお好み焼きを売りに来たエプロン姿のゴルシーに、食欲と良心を刺激されて十個ばかり買った。ウマ娘なら一人三つは軽く食べられる。残り一つはトレーナーの分だ。

 早速食べてみる。具はオーソドックスにキャベツ、豚肉、ネギ、卵、天かす。甘めのタレと青のりの塩気が程よく美味しい。基本に忠実で万人受けするお好み焼きだな。

 

「美味しい。これ、ゴルシーが作ったのか?」

 

「ううん。ゴールドシップさんが全部焼いたの。アタシはただの売り子の手伝いよ」

 

 店の出店から具材の手配、保健所の許可まで全部やってるらしい。マジか。

 それに秋の感謝祭では毎年、焼きそば、お好み焼き、タコ焼きでローテーションを組んで屋台を出してると、バクシさんが教えてくれた。ほんと何者なんだあの人。

 しかもよくよく考えたら、後輩の大事なデビュー戦とG1レースなのに、食い物売ってる時点で色々とおかしい。

 

「あの人は……真面目に考えたら……疲れます………『お友だち』は………面白そうに見てますが」

 

 これは深く考えたら負けな事柄なんだろう。お好み焼きが美味しいから、もういいや。

 美味しかったからさらに追加で五個買って、三人でワイワイ食べた。ゴルシーも纏まった数が売れたから喜んでいた。

 いくつかの前座レースが終わり、トレーナーが七色に発光して戻って来た。ウイニングライブにはまだ早えよ。

 

「トレーナーさん!二人はどうでしたか?」

 

「ああ、バクシンオー、調子は良さそうだったぞ。どっちが勝ってもおかしくない。で、美味そうなお好み焼きだな」

 

「ゴールドシップさん特製だぞ。かなり美味しい」

 

 トレーナーはちょっと呆れた顔をしたが、「ゴールドシップだし」の一言で気にせずお好み焼きを食べて、美味いと言ってる。七色の発光する男がお好み焼きを食う光景は超がつくほどシュールだよ。そして俺達の周りから一気に観客が遠のいたぞ。

 髭は≪スピカ≫トレーナーの沖野さんとはそこまで親しくないが、『気性難』のゴールドシップさんをある程度制御している手腕は尊敬していると漏らした。さらに最近は『起床難』のゴルシーも指導しているから、色々と有名になっているらしい。むしろアンタの方が有名だよ。

 まあ七色発光はさておき、トレーナーらしい仕事として、今日のレース展開を予想してもらった。

 

「宝塚記念はスタートが下り坂でスピードが出るから、先行と逃げが有利なコースだ。そこはタキオンが有利だが、2200メートルの若干長い距離とゴール前の坂を登るスタミナのあるウマ娘が勝ちやすい。つまり長距離も得意なフクキタルの事だな」

 

「なら対抗バは?」

 

「メジロパーマーとエアグルーヴが有力だ。それと逃げのサイレンススズカをちょっと警戒してる」

 

 春の天皇賞でフクキタさんと競り合った有マ記念ウマ娘のメジロパーマーさんは言うに及ばず、G1の入賞常連でオークスとエリザベス女王ウマ娘の≪女帝≫エアグルーヴさん。二人とも実績のある有力なウマ娘だ。

 それと今年からシニア入りした重賞経験のあるサイレンススズカさんも、何気にフクキタさんと対戦経験もあり、勝ったり負けたりの関係だった。警戒して損をする相手ではない。

 幸いと言っていいのか分からないが、五月に春の天皇賞を勝ったミホシンザンさんはレースの疲労が抜けず、未だ休養中で今レースの出走を取りやめにした。強力なライバルが一人減るのはありがたい。

 それ以外も油断のならないシニアの強豪ぞろい。今回もヘビーなレースになりそうだ。

 

 

 今日のメインレース、宝塚記念がいよいよ始まる。

 ファンファーレと共に、華やかな勝負服を纏うウマ娘達がレース場に姿を現すと歓声が沸き起こる。

 

「先輩ー!早く早く、始まっちゃう!!」

 

「へいへい妹よ!そんなに急いだってレースは逃げないから心配すんなよー。そんなにスピード勝負がしたかったら、今からレースに飛び入り参加してやろうぜ!」

 

「二人とも…モグモグ……待ってくださいよ~。モグモグ…このお好み焼き美味しぃ~」

 

 賑やかな三人組≪スピカ≫が俺達の隣に来た。メインレースで空いてる席はこの周辺だから仕方ないか。しかしうちの発光トレーナーは虫除けか目印だな。

 後から黄色のシャツに黒いベストを着た沖野トレーナーも来て、うちの光る髭のありさまに顔が引き攣っていた。

 

「よう藤村、目立ってるぜ」

 

「どうも沖野さん。鼻から血が出てますよ」

 

「えっ、マジで?――んなわけねえだろ!」

 

 何かよく分からないテンションでトレーナー同士が握手をする。共にウマ娘を導くライバル同士だが、決して険悪な仲ではない。寧ろ互いを尊敬しあう良好な関係に見えた。

 俺達もチームは違えども、ゴルシーは友達だ。十個ぐらいお好み焼きを食ってるスペシャルウィークさんだって、ウンスカ先輩と仲の良い友達なんだよ。

 ゲートに入った主役達もライバルだが、レース場から一歩出ればきっと仲の良い友達だろう。でも、勝者は一人。お手々繋いでゴールなんて無い。

 誰もが勝つために、一斉にゲートから飛び出た。先頭争いはメジロパーマーさんとサイレンススズカさん。続いてオンさんが続く。フクキタさんはいつものように後方待機。≪女帝≫は真ん中ぐらいか。

 レースは最初から下り坂だから、かなりのハイペースで進んでいる。半分を過ぎてもあまり順位は変動せず、特に先頭から五番までは順位不動のままだ。

 

「トレーナー、もしかしてこのまま先頭取られたまま?」

 

「それは無いだろう。あのハイペースでスタミナは続かない。最後の最後で失速するか、末脚で捕らえられる…はず」

 

 髭も自分の言葉に自信が無いから、最後はどうしても尻すぼみになってしまう。 

 対して≪スピカ≫面々は自信満々だ。まるでこのままのペースで最後まで突っ切ってしまうと信じた目をしている。

 

「わりぃけどよぉ、今回はスズカの勝ちだぜ。なにせあたしが延々並走に付き合ってたから、この距離でスタミナ切れは期待すんなよ」

 

 ゴールドシップさんが髭トレーナーに、電源コードを付けて家庭用ホットプレートでお好み焼きを焼きながら(!?)、スタミナ切れは無いと断言した。普段の言動からはまったくイメージが湧かなくても、GⅠ六勝した怪物の言葉の重みは凄まじい。

 最後のコーナーをサイレンススズカさんが先頭で抜けて、後は直線400メートル。後続がどんどん速度を上げていき、メジローパーマーさんがタキオンさんに抜かれた。先頭は後ろを三バ身離して疾走する。

 

「……サイレンススズカさんと…タキオンさんの……差がそのままです……」

 

「えっ、いやまさか」

 

 カフェさんの言葉を疑うように、相対距離を確かめると、確かに殆ど差が縮まっていない。

 

「何で『逃げ』が終盤加速してるんだよ」

 

「モグモグ…スズカさんは凄いですからっ!!」

 

「それにしたって『逃げ』でオンさんと同等のスピードだなんて」

 

 オンさんは≪超光速≫の異名を持つほど、スピードに秀でた走者だぞ。それでも追いつけないなんて。

 逃げは常時ハイペースで先頭を走る性質上、どうしても後半の爆発的な加速力には乏しい。まして、追われる者としての重圧も加われば、下手をするとスタミナを奪われて終盤失速する。オンさんが捉えられない加速力とスタミナをまだ持っていたのは驚くしかない。

 ゴールまであと200メートル。後団のフクキタさんも一気に加速を始めているが、明らかに差が開き過ぎている。これではもう間に合わない。

 サイレンススズカさんはまだ加速していた。ウマ娘が速いのは当たり前だ。でも、あの人の速さは俺達の知ってる速さじゃない。まるでバクシさんが中距離を走ってるみたいだ。

 オンさんも負けじと僅かずつ差を縮めて追い続ける。しかし、完全に捉える事は叶わず、サイレンススズカさんが一着でゴール。今年の宝塚の勝者が決まった。

 三位入着はエアグルーヴさん、四着にはフクキタさんが入った。

 

「タキオンは一バ身差か。こいつはとんでもないウマ娘を育てましたね、沖野さん」

 

 とんでもないウマ娘。この言葉の真意は学生の俺でも分かる。

 サイレンススズカさんが先頭で逃げ続けた場合、小賢しい駆け引きなど全くの無意味でしかない。

 勝つにはあの人以上のハイペースに無理矢理付き合わせて『逃げ』同士のスタミナ勝負ですり潰すか、オンさんやバクシさんを超えるスピードでぶち抜くかの二択だ。

 

「悔しかったらお前も、うちのスズカに勝てるウマ娘を育てろよ」

 

 うちのトレーナーは負けを認め、それでも再戦を宣言する。≪スピカ≫の三人は大喜びで、今日の王者の名を呼んでいた。あとなんかハイテンションで、その場で作ったお好み焼きを食べ始めたぞ。シチーもだ。

 レース場でオンさんがサイレンススズカさんに何か話をしている。それも超いい笑顔でだ。

 

「カフェさん、あれはもしかして」

 

「……ですね」

 

 二人で納得し合う。ウマ娘の可能性を追い求めるオンさんに研究対象として目を付けられたな。かわいそうなサイレンススズカさん。

 負けはしたが、うちは二人とも入賞。今日のウイニングライブの主役は四着までだから、バックダンサーはギリギリ免れた。

 レースの興奮冷めやらぬライブ会場は、ファン達で埋め尽くされて、ウイニングライブは大成功に終わった。

 チームの先輩達が勝って大喜びするゴルシーを見ると、自分が負けなくても結構悔しいと感じた。

 何だかんだで俺はこのチームが好きなんだと思った。

 

 

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