変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第13話 夏の終わり

 

 

 トレセン学園は新学期早々、二日目だろうが選抜レースが組まれている。

 世界に羽ばたくアスリートを養成する教育機関だから、ある意味当然なのだろうが中々にスパルタと思う。

 生徒にとっても夏休みの間に自他がどれだけ力を付けたかを知るのにいい機会だから、願ったりだ。逆に怠けた奴は一気に脱落していく。

 学園は学生が夏季休暇中に帰省するのは各自に任せている。残ってトレーニングに励むもよし、実家で休養するも良しとしている。寮で食事は出すし、身の回りの世話は最低限補助する。

 

 俺も実家に何度か連絡を入れただけで帰省は見送った。メイクデビューすらせず、数か月で家に帰るほど実家が恋しいと思わない。

 事実、新入生で過半数は学園に残った。帰省している間に自主トレしても、トレセンの練習に比べて質が落ちる事が多いから、置いて行かれたくなかったら休みだろうがトレセンで鍛え続けるしかない。

 

 例外は名門と呼ばれる、代々名選手を輩出する一族に所属する生徒達だろう。メジロ家やシンボリ家がこれに該当する。彼女達は実家にあるコースやトレーニング施設で、トレセンと同等の練習を続けられる。実家の雇った一流スタッフによる、徹底した食事管理やスケジュール調整は、却って自由な校風のトレセンに居るよりも実力が伸びやすい。

 もう一つの例外は、契約したトレーナーの実家で鍛える事だ。実はトレーナー業も代々引き継がれる稼業でもある。トレセン学園は教育機関だが、設立以前は個々の家でウマ娘を養成していた。多くはかつての貴族や大名の家臣の役割だった名残だったが、積み上げた歴史とノウハウはトレーナー資格を取って雇われた学園スタッフなど足元にも及ばない。

 そうした知識と積み上げた経験は値千金。門外不出の秘伝として一部の限られたウマ娘にしか教授されない。現在学園で該当するのは桐生院トレーナーと契約した同期のハッピーミーク他、ごく僅かなウマ娘だった。

 人はそれを不公平、不平等などと誹るだろうが全く以って見当外れだ。公平、公正はあくまで学園への入学規定とレースに出場する権利を手に入れる機会だけだ。

 それ以前の優れた指導者に巡り合い、教えを受けられるかは本人の運と才覚の問題。中央トレセン学園に入学する能力と意欲を示し、選抜レースでトレーナーに自らの資質を知らせ、多くの指導者から自らに最も利を与えてくれる者を選び取る観察眼は、結局は自らの才能に起因する。

 極論を言うなら全てが自己の才覚と責任でしかない。もっとも、まだ十代の少女達にそのような重大な責任を課すのは、幾らなんでも酷である。だから学園が間に立って出来る限りの支援を行っているのも事実だ。それでも足りないが故に、生徒が自治、自助努力を促す生徒会が活動している。全ては『ウマ娘の幸福』のために、だそうだ。

 そんな遠大な話は一般生徒には関係無い。日々速く走る事を追求するのが俺のような普通のウマ娘の日常だ。

 

 

 今回の生徒主催の模擬レースも2000メートルの中距離レースを走る。七月のレースは条件の同じ中距離で二バ身差で一着を取った。そこから夏休みの苦しいトレーニングの成果がどれほどか確かめるにはやはり同じ条件で走る必要があったし、確認したい事があった。

 ゴルシーとビジンはマイルを走るから、一足先にレース場に行っている。あの二人も夏休みは一度も実家に帰らずに、時間の許す限りトレーニングを積んで実力を付けていた。

 マイルレースが終わり、今度は中距離レースの番だ。

 何度かのレースが済み、出番が回って来た。

 同じコース上に居るウマ娘の中には、明らかに俺を疎んじる視線がある。既に頭一つ抜けてる実力を持ってると思われる俺と走りたくないのだろう。

 俺やゴルシーがそれに該当する。自分達より才能があって、速く走れるから邪魔で嫌な相手に見られている。

 逆に言えば、そうした悪感情の中でレースが出来るので、より実戦に近い環境と思えば好みの環境だ。

 

 絡み付く敵意の視線の中、レースが始まった。

 一歩目から一気に加速して先頭に立った。この時点で他の走者に動揺が広がった。俺の走りがいつもと違うからだ。

 前に誰も居ないレースの景色は、まだちょっと落ち着かないが、後ろの足音の大きさで後続の位置を把握しつつ、常にハイペースを心がけて走り続ける。いつものように同居者が先を走っているのがちょっと目障りだな。

 足音で後ろの連中に焦りが広がっているのが手に取るように分かる。このままのペースに付き合わされたら、最後まで持たないと全員が気付いていた。

 だが、手心なんて加えない。徐々にペースを上げ続け、三分の二が過ぎた頃にはスタートから追従していた二番手が失速して後ろの集団に飲まれた。

 独走状態のまま最終直線に入り、さらにスタミナを使い切るつもりで足を加速させてゴール板を駆け抜けた。

 息を整えてから後ろを振り返ると、後続がフラフラになってゴールしている。

 非公式のレースだからタイムオーバー規定は関係無いが、あのペースなら俺以外は全部失格だ。

 全員がゴールしたのを見届けてから、コースを後にする。ちらりと後ろを振り返れば、何人かが泣いて膝を折っていた。その内また一人二人学園の生徒が減るだろう。

 

 

 レース場から直行でチームが練習している近くの神社に走って行く。

 既に先輩達は数百段ある石の階段を登っていた。一定の歩幅で足を上げるピッチ走行を覚えつつ、根性を鍛えるのが練習の意図だそうだ。

 

「アパオシャ、『逃げ差し』の出来はどうだった?」

 

「悪くはないよ。選択肢の一つに入れておくと幅が広がるし、相手も動揺してペースが崩れるから、使えると困らないね」

 

「そいつは良かった。デビューまでに使えるようにタキオンと一緒に練習内容を考えておいてやる」

 

 トレーナーに頼んで、練習に参加した。

 夕方まで続いた階段トレーニングでクタクタになった俺達は、トレーナーの奢りで買ってもらったタイ焼きを齧って、学園まで歩いて帰っている。

 

「アパオシャさん!バクシンロードはどうでしたか!?気に入ったなら、私と一緒にバクシンしましょう!!」

 

「レースに使うにはまだまだ練習しないとダメですね」

 

「ならば、明日から一緒に練習しましょう!バクシーン!」

 

 最近バクシさんのテンションが気持ち、いつもより高い。チームで『逃げ』を使う人は居なかったから、仲間が出来て嬉しいのだろう。

 宝塚記念が終わってから≪フォーチュン≫は期末試験を挟んで、いつも以上にハードなトレーニングを課している。サイレンススズカさんにあれだけ鮮やかに負けて、フクキタさんが是が非でも借りを返したいと熱を入れて練習に励んでいるから、どうしたってやる気が伝播した。

 そこで下っ端の俺は夏休み中、もっとも間近で宝塚記念のサイレンススズカさんの走りを見たオンさん監修の元、逃げから終盤加速『逃げ差し』を再現した並走パートナーの役目を押し付けられた。

 先輩達との並走トレーニングで、スピードはあまり伸びなかったものの、スタミナは並のシニア級ぐらいに付いたと思う。それとまだ粗も多いが『逃げ』を覚えた。その結果が今日の模擬レースの、スタミナの暴力による轢き潰し。結果的には強くなったのだから良しとしよう。

 それと夏休みの練習で一番不安だったのがフクキタさんの追試だった。

 七月の期末テストは酷いありさまだったが、辛うじて赤点は一つで済んだから、少しの補習で練習時間を割かれずに済んだのは本当に不幸中の幸いだった。

 

「フクキタさんは調子どうですか?」

 

「シラオキ様のお告げで絶好調です!ハッピーカムカム!三日後の新潟記念は必ず勝ちますよー!」

 

 相変わらずふんにゃか、はんにゃか言ってるのはよく分からないけど、三日後の新潟のG3レースは大丈夫。新潟記念は秋の天皇賞の前哨戦扱いだった。

 新潟のG3といえば、バクシさんが七月末のアイビスサマーダッシュで勝ったから、続けて勝利といきたいものだ。

 

 翌日、新潟に発つフクキタさんとトレーナーを見送った。

 俺達は残って練習を続けて、次の日の夕方にはレース結果も出て、新潟の二人に連絡を入れて勝利を祝った。これで秋の天皇賞への弾みがつく。

 

 

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