変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第17話 新年を迎えて

 

 

 トレセンに来てから初めての正月は雑煮から始まる。東京の雑煮は華やかというか具沢山だ。餅をメインに、ニンジンや鶏肉に海老団子まで入ってる。海鮮出汁が利いて美味い。里芋と菜っ葉だけ入れる地元の雑煮がやけに貧相に思えた。

 いつもこの時間なら食堂は結構混んでいるけど、流石に正月ともなると帰省する人は多いから、席の空きが目立つ。

 うちのチームでも、バクシさんとフクキタさんは帰省組だ。オンさんはまだ入院中だし、まともに残ってるのはカフェさんぐらい。年中忙しいトレーナーでさえ、今は一息ついて実家に帰っていた。

 俺は居残り組だ。帰って親に報告するほどの事はしていない。それに今年の夏からデビュー戦を控えている。せめてそれに勝たないと格好がつかないと思って、正月もトレーニングを続けている。

 学園もそういう生徒を受け入れつつ、せめて気分だけでも正月を味わってほしいと思って、食事は雑煮やおせち料理を出してくれるんだから、気遣いには感謝している。

 

「あけましておめでとう!隣座って良いかアパオシャ」

 

「どうぞ、ヒシアマゾンさん。あけましておめでとうございます。それと、有馬記念おめでとうございます」

 

「へへっ!面と向かって言われると、やっぱり結構照れくさいねぇ」

 

 ヒシアマゾン寮長の、褐色肌の艶やかなワガママボディと無邪気な笑みが眩しい。女の俺でもこの人に結構ドキドキするわ。シニアでも高い人気(特に露出度が高いから男からの)を誇る理由がよく分かる。

 そのヒシアマゾンさんが、クラシックで鎬を削ったBNW三人を纏めて蹴散らして、昨年末の有馬記念を制した。女傑に相応しい豪快なレースに観客達は総立ちだった。

 一緒に雑煮の餅をすする。うん、よく伸びる良い餅だ。

 

「モチャモチャ―――――アンタは正月の予定はあるのかい?」

 

「ング―――三日までは昼前に練習を終わらせて、今日は午後から友達と出かけます」

 

「正月ぐらいは朝からゆっくりしても良いと思うけどね」

 

 そうは言っても、ある程度体を動かさないと落ち着かない。

 それに食堂のテレビで流れている、URAが年末に発表した最優秀ウマ娘達の特集を見るとどうしても気が逸る。

 昨年度の最優秀ジュニアウマ娘には、G1朝日杯ステークスを無敗で制したグラスワンダー先輩が紹介されている。世間はあのお淑やかな風貌に騙されがちでも、身近で接してる俺達には熱い闘魂は隠せていないから、陰では女武者扱いをされてた。

 クラシックウマ娘にはオークスと秋華賞を勝ったカワカミプリンセス先輩が選出された。

 そして最優秀シニアウマ娘は大阪杯とジャパンカップの栄冠を手にしたオンさんだった。チームの後輩として誇らしい。

 

 しかし明るい話題の影で、怪我の話題もテレビで流れている。

 春の天皇賞ウマ娘のミホシンザンさんは、レース後は体調悪化で走れなくなり、引退を表明。天皇賞が実質の引退試合となった。

 秋の天皇賞で骨折したサイレンススズカさんは、昨日の大晦日に外泊許可を貰って一時退院した。≪スピカ≫のメンバーが迎えに行く時に、便乗してオンさんの見舞いのために病院に連れて行ってもらい、その後はカフェさんと一緒に鍋を頂いた。ギブスも取れて、見た感じ少し元気になってたと思う。ただ、スペシャルウィークさんにやたらと世話を焼かれて困ってたのはちょっと笑えた。

 そしてオンさんは病室では実験ができないから、結構ストレスを感じていたように見えた。カフェさんは良い薬とバッサリ斬り捨てていたが、友人だからこそ心配させた事を根に持ってるのかもしれない。

 テレビのコメンテーターは、オンさんがこのまま現役引退するのではないかと語っている。

 脚の怪我に加えてシニア三年目は引退を考える年でもある。仮に怪我が完治しても脚の衰えは確実にあり、いっそ偉大なワールドレコードと共に、このままレースを去った方が美しいまま終われるのではないか。そういう論調だった。

 正論ではある。無理に現役にこだわってレースに負け続ける姿は、ファンとしても見たくない辛い光景だろう。

 皐月賞、秋天皇賞、大阪杯二連覇、宝塚記念、ジャパンカップのG1六冠達成した偉大なウマ娘なら、引退してもレース評論家、解説者、指導者としても引く手数多。レースをする傍らで幾つもの特許を取得したオンさんには研究者としての道も明るい。

 コメンテーターもそうした事を言及しているから、決してオンさんを貶める意図は無いように思う。

 

「んー?アグネスタキオンの事を考えてるのか?」

 

「はい。オンさんはこれからどういう道を走るのかなーと思って」

 

「さぁてねえ。それは本人に聞かないと分からないことだよ。一つ分かるのは、アンタはアンタのやりたい道を行きなよ」

 

「分かりました。取り敢えず俺はデビュー戦を勝ってジュニアG1を獲ります」

 

「おおっ!その意気だ!」

 

 バンバン背中を叩かれて痛い。何というかうちの母親みたいな人だよ。寮生から母親扱いされるのがよく分かる。

 

 

 正月が無事に終わり、俺達トレセン学生はまたトレーニングとレース三昧の日常に戻った。

 暦の上で節目を迎えて、雰囲気が変わった人が多い。

 ジュニア期からクラシック期になった先輩達の多くが、デビューしてから未勝利のまま年を越して、焦りと諦観を覚えている。

 最初のメイクデビューは色々と緊張で実力を出せなかったと思う。二度目のレースも何か運が悪かったと思う。しかし三度負けると、一度も勝てないと焦ったり実力差を知り心が折れてしまう。

 そこに帰省して家族から何か言われて、これからの進退を考え始める。

 重賞勝利どころかOP戦出走すら許されない状況でも、諦めずレースに勝つために足掻くか、自分に見切りをつけて別の道を模索する、すっぱり諦めて退学を考える人もいるだろう。

 まだ選択する時間はある、けれど有限。学園にはそうした自分のこれからを悩み、考える先輩達が増えた。

 一方で、勝ち続けて年を越した先輩達も確かにいる。ルームメイトのウンスカ先輩はデビューレースを勝利で飾り、今月末のOP戦に挑む。

 ≪スピカ≫のシャル(スペシャルウィーク)さんも初戦を勝ち、来月のG3きさらぎ賞のために特訓中だ。

 他にもG3を勝ったキングヘイローさんやエルコンドルパサー先輩など、既に高い評価を受けている先輩達はこれから重賞レースを控えている。

 特にクラシック期の花形、クラシック三冠とトリプルティアラはウマ娘にとって一生の誉れ。誰もが栄光の冠を得ようと必死だった。

 

 そこにきて、うちの≪フォーチュン≫の年始の動きは比較的ゆっくりしている。

 何しろ俺以外のメンバーは全員シニアになってて、一番近いレースでも二月の中頃だから、十分にトレーニングする時間があった。

 

 そのトレーニングが大概おかしいと気付いたのは、三月に入ってからだった。

 

「ヒゲェ……やっぱり俺のトレーニングおかしくないか?」

 

「えーぜんぜんおかしくないよー。おまえはまだいくせいきだから、いろいろやることがおおいんだよー」

 

「その棒読みは胡散臭い。俺は長距離走者なのに、何で未だにバクシさんと短距離走ってんだよ」

 

「しょうがないだろ。お前以外はレースを控えてるから、負担をかけたくないんだよ。それに並走トレーニングはスピードと瞬発力を鍛えるから、お前の短所を補えるんだ」

 

 むぐぅ。実際にスピードが上がっているから反論出来ない。入学した頃は人より足が遅かったが、並走を重ねるにつれてタイムがかなり速くなっている。たまにゴルシーやビジンと中距離2000で模擬レースをすると大体俺が勝ったから、トレーニングの効果はちゃんとあると思う。ただ、あの二人はどちらかと言えばマイルを好むから、2000でもちょっと長くて、逆に俺がマイルを走ると八割ぐらいは負けた。

 やっぱりどれだけ短距離やマイルを練習した所で、俺の適性は長距離とサブに中距離なんだと思う。

 それと今年に入ってから二月にバクシさんが阪急杯を、フクキタさんがダイヤモンドステークスをそれぞれ勝っていた。カフェさんは今月に阪神大賞典を走り、問題が無ければ二年ぶりに春の天皇賞を走る予定だ。バクシさんも今月に高松宮記念を予定して、二度目のG1挑戦に闘志を燃やす。

 オンさんも先日に無事退院して、今はリハビリを兼ねて俺達の隣で軽いランニングや筋力トレーニングに勤しんでいる。

 

「お前の並走トレーニングのおかげで、あいつらも勝てたんだ。それは感謝してるぞ」

 

「そりゃあチームなんだから助け合うのは当たり前だろ」

 

 そうでなかったらチームが寄り集まる理由なんて無いんだし。

 当たり前のことを言ってるのに、隣の同居者がニタニタ笑ってやがるのがすげえウゼえ。なんでだよ。

 

 そしてカフェさんはG2阪神大賞典を危なげなく勝ち抜き、バクシさんも接戦の末に念願のG1優勝ウマ娘に輝いた。

 これで育成期の俺以外の現役メンバー全員がG1ウマ娘という、傍から見たら凄まじい戦績のチーム≪フォーチュン≫が誕生した。

 冷静に考えたら、俺への期待はバカみたいに高くなってる気がする。

 まあ、負ける気はサラサラ無いがな。

 

 

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