変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第19話 新入生は面白くてかわいい

 

 

 四月も下旬になり、新入生たちも新しい環境に慣れ始めたのと同時に、トレセン学園は激しい動きを見せていた。

 まずレースでは、クラシック三冠の始まりの皐月賞を、ルームメイトのウンスカ先輩が逃げ切って勝利した。普段はゆるゆるの先輩がG1ウマ娘の栄冠を勝ち取ったのは驚きだった。

 

「弥生賞でスペちゃんに負けちゃったからね~。二度は負けたくなかったんだ」

 

 そのまま先輩は五月の日本ダービーを勝って二冠を獲ると珍しく気合を入れている。

 三着だった≪スピカ≫のシャルさんも、このまま負けてなるものかと毎日激しい練習に励んでいるらしい。ただ、ゴルシーが言ってたが、なんでも体重が増えたのが気になってて、ダイエットを敢行してるとかなんとか。多分増えたのは筋肉だから必要あるのかと思った。

 あと、去年骨折したサイレンススズカさんはまだリハビリ中で、復帰戦を夏から秋に目指して頑張ってる。

 そうそう、≪スピカ≫に何人か新入生が入ったらしい。勧誘のポスターとチラシのセンスは最悪だったから、ちょっと信じられなかったが本当だった。

 うち≪フォーチュン≫にも新入生が入ったから良いんだけどな。

 

「じゃあ外にランニング行こうかクイーンちゃん」

 

「はいアパオシャさん!」

 

 元気よく、それでいて上品な姿勢を崩さない返事をする芦毛の少女。彼女は新入生のメジロマックイーン。名前で分かる通り、先日仮入部したメジロアルダンの親戚でもある。

 この子がうちのチームに来たきっかけはメジロアルダンの様子を見に来た事だった。

 姉の様に慕っている病弱な人がトレセン学園で上手くやっているのか気になり、見極めと称して一緒にトレーニングをしたところ、思いのほかうちと相性が良かったのか、そのままチーム入りする事になった。

 それに彼女は俺と同じように生粋のステイヤー気質で、G1長距離レースで活躍しているカフェさんやフクキタさんに憧れている。そんな人達と一緒に鍛えられるとあって、喜んでチームに入った。勿論最初の四月選抜レースでは長距離を余裕で勝って実績もある。

 あと、なぜか分からないがカフェさんの『お友だち』がこの子をやたらと気に入ってるような仕草を見せている。なにせ『お友だち』はカフェさんの側を離れないのに、練習の時に隣を走っているぐらいだった。これにはカフェさんも周りから心配されるぐらいに分かりやすく動揺した。

 

 『お友だち』の事は置いておくが、今のところは先輩達がレースの調整で忙しいから、俺と一緒に基礎トレーニングをして慣れてもらっている。

 名前はメジロで被ってるから、俺は『クイーン』と呼んでる。メジロアルダンの方は『ダン』と略した。

 外で一緒にランニングをしてると、この子の事が大体分かってくる。スタミナ量は5kmのランニングが準備体操扱い。走るフォームが綺麗で殆ど崩れないのは、しっかり基礎を学んだ証拠だ。こういう所はダンと似ているから、名門の英才教育という奴だろうな。これだけでも同学年では大きな差になる。

 スピードと力も平均ぐらいはあり、弱点と呼べるものはパッと見て見当たらない。強いて言えば―――――

 

「クレープ、ドーナツ、ケーキ、たい焼き、はちみー……はっ!?」

 

 トレーニング中でもスイーツ店に目移りするぐらい甘いものが好きってところか。その上太りやすいから体重管理が結構大変だと、ダンから聞いた。

 

「さすがにトレーニング中は我慢しなよ」

 

「と、当然ですわ!名門メジロ家がトレーニングの最中に買い食いなんてしませんっ!」

 

 プイっと目を逸らした後に、もう一回ケーキ屋をチラ見するのがすげえカワイイ。

 俺も金持ってねえし、今は諦めてもらってランニングに専念してもらった。そのうち何か奢ってあげよう。

 ランニングから帰ってきたら、次は基礎の筋トレをまんべんなく行う。

 クイーンちゃんは通常の筋トレを、俺は隣で逆立ちして腕立て伏せをする。これは普通に腕立て伏せをするより全身の負荷が強く、しかもバランス感覚を養えるので効率的だ。腹筋と背筋のトレーニング時は鉄棒に足を引っかけて逆さで行い、やはり強烈な負荷をかけて筋力と体幹を鍛えた。

 筋トレが終わったら、走る時のフォームを確認したり、ゲートスタートの練習が入る。

 大体の練習で去年の俺よりミスが少なくて、要領良くメニューを消化してるのは流石だ。

 

 次の日、俺はバクシさんと並走トレーニングだ。三日後に初のマイルレースを控えた調整のパートナーを務めて、何度もコースを走り続けた。いやほんと短距離よりマシだがマイル適性の人が代わってくれ。

 一応ダンは中距離とマイルが適性だが、今は六月の選抜レースに向けて慎重にトレーニングしてて、まだ無理はさせられない。最近はオンさんの薬で調子はすこぶる良いらしく、今はクイーンちゃんと一緒にプールトレーニングをしている。

 それと月末の春天皇賞を控えたカフェさんは、フクキタさんとレース形式で3200メートルを走ってる。シニア三年目で最後の天皇賞に、やる気を漲らせるカフェさんは悪鬼のようで、見ていておっかない。

 最近カフェさんは、トレーナーとオンさんとで何か話しているのを見かける。内容は教えてくれなかったから多分重要な事なんだと思う。もしかしたら卒業後の進路相談なのかも。

 同期のオンさんは無事にトレーナー試験に合格して、正式に中央トレセンのトレーナーとしても登録された。今後の去就を考える時期で、色々と進路相談をしてたら、俺達には聞かせられないのも分かる。

 

 そんな感じでトレーニング漬けの毎日は過ぎて行き、三日後にバクシさんは人生初のマイルレースを完勝した。OP以下の格下レースだったが、手ごたえは十分得られた。これならマイルも勝てると早々に、六月中旬のマイルG3エプソムカップへの出走を決めた。

 

 

 そして今月末。いよいよ栄えあるG1レース春の天皇賞の日がやって来た。

 今回もレーススケジュールに余裕があったから、去年と同じようにチーム全員が応援に同行した。それと仮入部中のダンも一緒だ。

 実はチームがメンバーの応援に行く場合、交通費や宿泊費は学園から経費として一定額が支給してもらえる。けど、仮入部のダンはそこに入っていないから、トレーナーが自腹を切って支払った。

 最初はダンは自分で払うと申し出たが、髭は笑って断った。

 

「俺はお前達がレースに勝ってくれるおかげで沢山報酬を貰ってる。それを少し還元してるだけだから、遠慮しなくていい」

 

 担当ウマ娘がレースに勝つと、賞金の一部がトレーナーにも支払われるのは知られている。

 うちの髭トレーナーにも先輩達が得た賞金の数%が懐にある。数%なら微々たるものだと思うだろう。しかし先輩達はG1の常連ウマ娘。オンさん、カフェさんを筆頭に勝ったG1レースの合計は十を超えている。さらにG2、G3はその倍勝ってるんだから、単純計算しても億に届く報酬を貰っていた。

 それだけ金を貰いつつ、学園からもトレーナーとしての給料を受け取って、金銭的余裕はかなりあった。

 後で知った事だが、学園から支給されるチーム活動費だけでは賄えないから、チームの細かい消耗品の半分はトレーナーが自費で補填していたらしい。

 大丈夫なのか尋ねても、

 

「多すぎて使い切れない金の使い道にちょうどいいんだよ。子供がそんなこと一丁前に気にするな」

 

 そう言って俺の頭をグリグリ撫でまわした。うん、あんたはかっこいい大人だよ。

 

 金の話は一旦置き、俺達は去年と同じようにホテルからタクシーで阪神レース場に向かう。

 タクシーの中で、クイーンちゃんがポツリと呟いたのが気になった。

 

「……阪神レース場から甲子園球場は意外と近いですわね」

 

「車で三十分あれば行けますからね。お客さん、今日のレースが終わったらナイター見に行きますか?」

 

 タクシーの運転手に冗談を言われて、クイーンちゃんは思いっきり動揺していた。

 

「……はっ!?何でもありません!別に今日がにっくき金満球団と対決だって、野球を見たりしませんわ!」

 

 これは語るに落ちるって奴なのかな。一緒に乗っていたダンが苦笑している。オンさんはあまり興味が無さそうだ。

 

「残念ですが今日はレース観戦のために来ていますから、野球はまた今度の休みに行きましょうねマックイーン」

 

「クイーンちゃんは野球が好きなのか。レース以外にも趣味とか好きなものがあるのはいいんじゃねえの」

 

「そ、そうですわね!スポーツの観戦は健全な趣味ですもの!」

 

 俺の消極的な肯定に強気になったクイーンちゃんは強引に野球好きを誤魔化した。

 

「でも夜に野球を見に行くのはやめた方が良いね。一応今日は休日で学生に自由時間が許されているけど、私達はレースを見に学園から支給された経費を使って他県まで来ている。問題児の私が言うのもなんだが、アウト寄りの判定だよ」

 

 オンさんの鋭い指摘にクイーンちゃんが沈んだ。ここまで言われたら、名門のお嬢さまが夜にこっそり抜け出して野球を見に行くことはあるまい。かわいそうだが今日はレースの応援だけで我慢してもらおう。

 ホテルからレース場までの短いタクシーの内部で起きた、ちょっとした微笑ましい出来事のおかげで気が緩やかになれた。

 クイーンちゃんは案外ムードメーカーというか癒し枠のペットみたいに思えてきた。

 

 

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