変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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 あらすじにメジロアルダンとメジロマックイーンを追加しました


 日間ランキング85位になってました。読んでくださった皆様に大きな感謝を。




第20話 幻影の世界

 

 

 年に何度目かの阪神レース場は、毎度の様に盛況ぶりだった。

 駆け付けた数万の観客のお目当てはもちろん春天皇賞。今年のレースの注目点は、昨年クラシックを大いに盛り上げたBNWの内の二人、ナリタタイシンさんとビワハヤヒデさんが、二年前に勝利者となったカフェさんを倒して新たな王者になるか、それともかつての覇者が再び至高の盾を手にするか。未だG1の栄冠を手にしていない贔屓のウマ娘が下剋上を果たすのを期待する観客も数多い。

 前座のレースで盛り上がり、段々と迫るメインディッシュへの期待で胸を膨らませた観客達の声も、出走するウマ娘の控室までは届かない。

 俺達≪フォーチュン≫のメンバーは、レース前のカフェさんへ激励の言葉を届けに来た。

 

「エコエコアザラシ…エコエコオットセイ…シラオキハッピー!―――出ました、今日のカフェさんの運勢は超吉です!!」

 

「ありがとう……フクキタルさん………でもそのおみくじは五回目ですよ」

 

「さあ今日も張り切ってバクシィィン!カフェさん、今日も学級委員長とバクシンしましょう!!」

 

「はいバクシンオーさん。でも観客席で大人しくしててください」

 

 カフェさんはテンション激高の二人を適当にあしらい、コーヒーを一口含んでリラックスしている。

 今更だが勝負服の黒いブレーザー黒タイツ、黄色のネクタイのカフェさんを初めて身近で見たよ。黒髪に全身黒く染まった姿は、まるで影の世界そのものだ。雑誌やネット、イベントで見た事は何度もある。でも個人の勝負服はG1レースでしか着用しないから、俺が入学してから一度もG1を走ってないカフェさんのレースは体操服しか見ていない。そう思うとなんか新鮮な気分だ。

 

「どうしたんですかアパオシャさん」

 

「カフェさんの勝負服姿が似合ってると思って」

 

「ふふ……ありがとうございます。貴女の勝負服も……早く見たいですね」

 

 勝負服は数いるウマ娘の中でも、G1レースを走れるごく一部しか着る機会が与えられない特別な衣装。カフェさんは先輩として俺が檜舞台に立てるのを心から願ってくれる。

 ジュニア期で最も早く走れるG1は年末の阪神ジュブナイル、朝日杯、ホープフルSの三つ。そのどれかで走る姿をカフェさんに見てもらいたいな。

 そもそも勝負服のデザインとか全く考えてなかった。早ければ今年中に必要になるから、今のうちに大雑把でいいから考えないと。うちには何人もG1経験者がいるから、アドバイスには事欠かないのが良い所だ。

 その後もリラックスしてもらうための、他愛もない話をして時間が過ぎ、レースの時間が迫るとトレーナーが俺達に退室を促す。

 

「アパオシャさん、マックイーンさん………今日のレース……決して気を抜かず……私を見逃さないでください」

 

「えっ、はい。必ず見届けます」

 

 なぜ俺とクイーンちゃんだけ念を押したのか、ちょっと分からなかったがカフェさんに返事をして控室を出た。

 観客席に戻る際、客の予想が耳に入る。大方の予想はやはりカフェさんの勝つ声が多い。対抗者には昨年菊花賞を制し、ヒシアマゾンさんに負けたが有馬記念を二着で健闘した、新たなステイヤーのビワハヤヒデさんを推す声が強い。

 ターフに姿を見せたウマ娘達を歓声が迎えた。

 各人がゲートに入り、スタートを待つ。

 静寂の後、ゲートが開き、十六人が一斉に飛び出した。

 

「いけーカフェさん!!」

 

 レースはややスローペースで始まった。G1最長距離となると駆け引き、読み合いが特に重要視されるため、序盤は全員が出方を伺う。

 カフェさんは典型的な差しウマ娘だから、今は後団で影のように潜み続けている。

 

「んー、今日のカフェはちょっとペースが早いか。かかってるわけじゃなさそうだが」

 

 髭がオペラグラスでカフェさんの顔を確かめている。言われてみればいつもより、少し順位が上だな。

 レース全体がスローだから、カフェさんが前に行きやすいだけかもしれないから、髭もあまり心配はしていない。

 1000メートルを通過して、二番人気のビワハヤヒデさんは四位で先行中。三番人気のナリタタイシンさんは最後方でスタミナを温存している。

 このまま終盤まで静かな駆け引きが続くと思われたが、俺とクイーンちゃんは言われた通り、カフェさんだけを見続けた。

 

「あら―――変ですわ。どうしてマンハッタンカフェさんが二人に見えますの?」

 

 カフェさんが2000メートル地点を通過した時、クイーンちゃんが自分の目を擦って訝しんだ。

 

「クイーンちゃん、もう一人のカフェさんは何処にいる?」

 

「マンハッタンカフェさんの少し前を走ってますが……どっちが本物ですの?」

 

 隣のダンは顎に手を当てて、上品な仕草で首をかしげて、レースよりクイーンちゃんを心配するような目で見ている。

 俺にはカフェさんの前に、いつものようにボヤっとした輪郭の『お友だち』が走ってるようにしか見えない。―――あれ?もしかして『お友だち』ってカフェさんと姿が同じなのか?

 髭に聞いても見えないと言ってる。フクキタさんとバクシさんもだ。オンさんは無言で反応が無い。

 ともかく瞬きを忘れてレースを食い入るように見続けると、カフェさんの周囲が黒く染まり始めた。

 

「なんだアレ――――猫に星と鏡が浮いてて……あーもう分からん」

 

 言葉に出来ないよく分からないモノが夜みたいな暗がりから浮かんで消える。分からんから無視だ無視っ!!

 ともかく何かよく分からない闇がカフェさんの周りに生まれてる。それとカフェさんの前を走ってる人が『お友だち』に抜かれたら、やたらと窮屈で走り難そうで落ち着きを失ってる。むむ、先を走ってるビワハヤヒデさんも一瞬顔が歪んだ。

 あの闇が見えるようになって、カフェさんのペースがかなり上がってる。前から練習で『お友だち』を追っかけてる事はよくあった。でも今は何が何でも追いついてやるという、桁違いの気迫が顔に出るほどの走りを見せている。

 気迫に圧されたのか、先行集団はわざわざ道を開けるかのようにカフェさんに先を譲る。

 さらに最終コーナーを回り切って直線に入った残り400メートルの時点で、カフェさんは三位にまで順位を繰り上げていた。

 

「滅茶苦茶なペースだぞ、スタミナ持つのか」

 

 髭が呻くような声を搾り出す。幾ら長距離でも差し足のカフェさんが残り400メートルで三位は前に行き過ぎている。

 というかあの人は『お友だち』しか見ておらず、もはや他の走者なんて眼中に無い。

 300メートルを切った時には二番手をあっさり追い抜き、二バ身差で先を走っているのはビワハヤヒデさんだけ。

 彼女も必死で差を広げようと走るが、スパートをかけた『二人』に抜かれて、あっという間に後方へと置き去りにされた。

 観客には独走状態の楽勝ムードに見えても、俺やクイーンちゃんにはカフェさんが痛ましいまでに『お友だち』を追いかけているのが見えてしまう。

 『二人』のレースは一バ身を保ったまま残り50メートル。

 カフェさんが加速する。二分の一バ身に縮まった。

 さらに加速する。残り20メートルで、三分の一バ身。

 さらに加速。残り10メートル、クビ差。

 残り3メートル、アタマ差。

 ゴールだ。

 レース場は歓声に沸き返り、電光掲示板に表示されたレコードタイムで静まり返った。

 掲示板の数字は≪3.11.2≫。昨年までの春天皇賞のレコード≪3.13.4≫を二秒以上塗り替えた大記録が生まれた。

 

「……ハナ差『紙一重』で追いつけなかったか」

 

「あのマンハッタンカフェさんは何だったんでしょう?でも……不思議と懐かしさを感じます」

 

 俺とクイーンちゃんがレースそっちのけで『お友だち』の事を考えてたら、髭や先輩達が体を揺らしてもっと喜べと言った。

 ゴールしたカフェさんは大きく息を吐き、心あらずといった風体のまま地下通路へ行ってしまう。

 しかし、『お友だち』とはまた違う感覚の、あの黒い幻影は何だったのか。クイーンちゃんは見えていないと言うし、先輩達も見えなかった。レース前にカフェさんが見逃すなと言ったから、意図的に見せていたんだと思うが。

 

「あっそうだ。カフェの奴、足大丈夫か。ちょっと様子を見てくる」

 

 トレーナーはカフェさんを追って控室に向かった。

 足取りはしっかりしてるように見えたから大丈夫だと思うが、昨年のジャパンカップのオンさんの様にタイムを秒単位で縮めれば、どうしても心配になるか。

 みんなで控室に行くとカフェさんはタイツと靴を脱いで、トレーナーに足を見せていた。

 

「まさか怪我をしたんですか!?」

 

「親指の爪が少し割れてるだけだ。カフェは元々爪が弱くてな。そこまで深刻じゃないから心配するな」

 

「薬を塗って、テーピングをして………激しく動かなければ……ウイニングライブは出られます」

 

 安心して息が漏れた。

 

「ふぅん、その様子だと満足してないみたいだねえ。『お友だち』を追い越せなかったのが不満かい?」

 

「………あと一歩足りませんでした」

 

「私の様に足を折る覚悟で走っていたら、届いていたと思うよ。まあ、お勧めはしないさ」

 

「ライブを終えるまでがレースです。タキオンさんのように…割り切れません」

 

 足が折れるのを分かってて走るオンさんほどのクレイジーなウマ娘は居ない。

 それに見た限りでは『お友だち』はカフェさんを害するような事は一度も無かった。むしろ怪我をするようなら、きっと止めに入るはずだ。

 トレーナーが割れた爪に薬を塗り、テーピングで足を固定した。何度か歩いて具合を確かめて頷き、タイツと靴を履き直す。

 

「……アパオシャさん、マックイーンさん。今日のレース……見てくれましたか?」

 

「はい。言葉に出来ない不思議な景色でした」

 

「マンハッタンカフェさんと同じ姿の方は、とても速かったですわ」

 

 返事に、カフェさんは笑みで返す。その隣で『お友だち』がクイーンちゃんに両手を振ってる。ボヤけてるから分かり辛いけど、やけにテンション高いからピースしてるのかも。もしかしてクイーンちゃんにレースをよく見るように言ったのは『お友だち』の方だったのか。

 

「……あの景色が私が見えているモノです………初めて誰かと見えているモノを共有出来ました。これで後は―――――」

 

 カフェさんが何かを言う前に、ドア越しにスタッフがウイニングライブに呼びに来た。

 ここで一旦話は打ち切って、全員でライブ会場に向かった。

 

 ウイニングライブは大声援で始まり、興奮のまま無事に終わった。

 翌日、俺達は東京に戻り、カフェさんは病院で検査を受けて、爪の治療のためにしばらく静養を言い渡された。

 世間では春の天皇賞を二度制覇した、『皇帝』に比肩する現役最高のステイヤーが次はどのレースに出るか好き勝手に想像しては、メディアは飛ばし記事を乱発していた。

 連日学園には取材の依頼が舞い込むも、休養を理由に全て断り、代わりにトレーナーが当たり障りのない対応で凌いでいた。

 

 

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