変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第21話 メイクデビューを控えて

 

 

 春の天皇賞がカフェさんの二度目の勝利で終わり、世の中もゴールデンウィークの休み疲れが一息ついた五月の中旬でも、トレセン学園の熱気は衰える事を知らない。

 先週のNHKマイルカップは≪リギル≫のエルコンドルパサー先輩が快勝を決めて、いよいよ一強のいない今年のクラシック世代の戦いは激化し始めている。

 来週はティアラ二冠目のオークス、月末には最も栄えある日本ダービーと、昨年のBNW争いを超える熱狂ぶりだ。

 さらに俺達の学年は来月の六月から、いよいよメイクデビューレースが始まる。栄冠を掴み取る第一歩を控えて、既に未来を語る生徒がちらほら見えた。

 そこで今日はクラスのホームルームを使って、一時間まるごとメイクデビューの出走日程を選ぶ時間に貰えた。

 クラスで仲の良いグループを五~六個作り、スケジュール表を見ながらワイワイ話し合う。

 

「私は六月にすぐデビューするつもり。場所は関西がいいかな」

 

「えー、どうせなら暑くなる七月に北海道で走る方がいいじゃん!」

 

「アタシはじっくり八月まで鍛えて、九州の小倉で勝ってくるわ!」

 

 まるで旅行の日程を立てるようにウキウキする友達に苦笑しつつ、俺もどのレースを走るかスケジュールと睨めっこしてる。

 隣のビジンもウンウン悩みつつ、ダートレースのスケジュールを確認していた。

 

「ビジンはダートを走るのか?」

 

「あたしは盛岡でぇ、ダートをよく走ってたから、こっちも悪くねえかなと」

 

 目の付け所は悪くない。昔から慣れた環境で走る事で緊張せず本来の実力を出せる事もある。それにダートは芝より人気が低いから、競争率もやや低く、初戦を確実に勝利で飾って弾みをつけたいなら、そういう選択肢もあると思う。

 

「アパオシャさんはどのレースにするの?」

 

「距離は2000メートルかな。場所はあんまり気にしないけど、雨が嫌だから梅雨を避けて――――――あっ、これだ」

 

 俺はスケジュール表から合致する条件のレースを見つけて指を差し、他の子が覗き込む。

 

「七月末日の札幌メイクデビューレース。芝2000メートル。ちょっと遠いけど、これなら俺の適性に合う」

 

「おー。じゃあ北海道土産よろしくねー」

 

「勝って賞金出たらご祝儀にたんまり買ってきてやるよ。みんなも勝って土産よろしく」

 

「オーケー!」

 

「あたしは東京で走るから、勝ったら何か奢るわ」

 

 遊びに行くんじゃねえよと思ったが、今からこれぐらいの軽口を叩ける余裕が無いと、レースにだって勝てやしないか。

 それにデビュー戦だって一位になれば、友達への土産代が端数になるぐらい結構な賞金が入ってくる。最初ぐらいけち臭い事は考えないようにしてる。

 中央のデビュー戦の優勝賞金は大体七百万円。俺達ウマ娘は税金やトレセン学園の天引き分で、手取り三割ぐらいが残っても、中等部の子供に持たせるには桁が一つ、二つは大きい。

 だから大部分の賞金は、俺達が一定年齢になるまで学園側が預かっている仕組みが出来ている。その金を引き出すには結構制約があって、生徒の実の親でさえ、容易に使えないように学園が入学時に誓約書を書かせていた。

 そういう誓約書が必要になるぐらい色々あったんだろうなあ。大金を見せられた人間が何を考えるのか、知りたくも無い事を知って一つ大人になった気がした。

 一応中等部、高等部で額は違うが、小遣い程度は自由に使えるよう許可はされるから、さっきの話みたいに周囲に土産を買うぐらいは何とかなる。

 

「しかし、中央の賞金って地方と桁が違うな。俺が笠松トレセンの幼年クラブに居た時に聞いたけど、地方じゃ勝っても賞金額が一桁少ないってよ」

 

「マジ?地方ってそんなに儲からないの?」

 

 それでも笠松はオグリキャップ先輩が人気になって、ぬいぐるみなんかのグッズが滅茶苦茶売れたりスポンサーが見つかって随分マシになったんだぞ。設備も新しく買い替えて、ライブ会場だって大きくなった。レース場の職員たちはマジでオグリキャップ先輩に足向けて寝られないって言ってた。

 

「重賞は結構賞金出るんだけど、それ以外はさっぱり。何しろ観客数が中央のトゥインクル・シリーズと比べて一桁、下手したら二桁少ないから、グッズやライブソフトの売り上げも全然違う。笠松はオグリキャップ先輩が居なかったら、今頃経営がヤバかったって」

 

「盛岡もぉ最近はお客も沢山来てくれるども、昔はガラガラで寂れでらったって聞いだぁ。んだども先輩達がけっぱってくれだおがげで、なンとがあたしも走れンだよ」

 

 俺とビジン以外の友達は、あからさまに腰が引けていた。地方の厳しさが思った以上で、もし自分達が中央で勝てなかったら、そんな場所に移籍出来るだけでもまだ運が良いと気付いたのだろう。同時にデビュー戦で躓いたら、その可能性が一気に高くなると危機感が煽られた。

 おかげで、旅行気分で初戦を選んでいたのを改めて、少しでも自分に有利なレースを探してスケジュール表と睨めっこし直してる。

 後は契約したトレーナーが承認するかの問題もある。いくら本人が希望しても、トレーナー目線で勝てるか否かはまた異なる。実際の所、今日のホームルームは生徒自身のレースを選ぶ眼を養うための遊びに近いと思う。

 結局他の子はスケジュール表を調べ続けて、時間切れになってしまった。後はトレーナーと相談して何とかするだろう。友達でも全員がライバルなんだが、出来れば初戦ぐらいはみんな勝ってほしいと思う。

 

 放課後。いつものように部室に行って、先輩達にもデビュー戦の一覧表を見せると、ワラワラ集まってはみんな懐かしい目をして見ている。先輩達も今はG1の常連になってても、最初は誰もがデビュー戦があったんだよな。

 

「それでアパオシャさんは、赤でチェックした七月末の札幌戦を希望ですか」

 

「はいフクキタさん。距離も合うし、時期も早すぎず調整する時間もあるから良いかなって」

 

「なるほど、それでは次は運勢を占ってみましょう!――――ふんにゃか~、はんにゃか~!かしこみ~!」

 

 相変わらず水晶玉を覗き込んで妙な呪文で占い始めてるよ。これで神社の宮司の娘なんだから、ご両親はもうちょっと教育に力を入れてもいいんじゃないのか。

 

「―――とうっ!!出ました!アパオシャさんの今後の運勢は………商いなら良し!遠方に幸有り…です!」

 

「遠方は北海道だから良いですけど、レースって商売でしたっけ?」

 

「……一応お金が入ってくる行為ですから……レースも商いになると……思います」

 

 意外とまともな占い結果が出て拍子抜けしたけど、内容も良い感じだから信じても良さそうだ。後は髭が何て言うかだが、うちのトレーナーは放任気味だし、余程変な選択をしなかったら追認してくれるだろう。

 先輩達とワイワイ騒いでると、ダンがちょっと羨ましそうにしている。まだ学園内の選抜レースでさえ満足に走ってない彼女にとってデビュー戦は憧れに近い。しかしオンさんの発光薬と体調管理もあって、かなり体調は良くなってるから、来月の選抜レースは必ず勝てるはずだ。そうすれば大体の同期生がデビューを終える九月までには、ダンも同じように走れるだろう。

 

「ではアパオシャさんのメイクデビューレースは、みんなで応援に行きましょう!私の時も皆さんが見ていてくれたおかげで勝てました!」

 

「いやでもバクシさん、北海道は遠いですよ。隣のレース場や中山なら近いから良いけど飛行機まで使うのは――――」

 

「水臭いですよ!こういう時こそ委員長を頼ってください!頼って一緒にバクシン勝利を掴みましょー!」

 

 ……うん、良い先輩だよ。ちょっと目が湿ってきた。

 たまにテンション高すぎて面倒くさいと思うけど、やっぱり良い先輩に感動してたら、トレーナーも部室に来た。

 早速レース表を見せて、七月末の札幌戦を希望する。髭は少し考えてから『良し』と言って、レースの申込用紙を渡してくれた。

 

「メイクデビューは時期が集中するから、早めに申し込むと学園側が飛行機のチケットやホテルの手配を纏めてしてくれるんだよ。だから俺は楽が出来る」

 

「へー、そうなんだ」

 

「トレーナーさん!私達も札幌に応援に行きたいです!」

 

「お前らもかよ。メイクデビューの応援は経費あんまり出ないんだが……あっ」

 

 何か閃いたトレーナーは七月のレーシングカレンダーを見て、何度か頷いた。

 

「バクシンオー、お前アパオシャと同じ日の札幌G3クイーンステークスに出るか?エプソムカップと同じで1800はちょっと長いぞ」

 

「おぉ!!良いですねえ!短距離より長くてもバクシンしてやりましょう!バクシィィン!!」

 

「ならアパオシャとバクシンオーの二人分の応援って事で、経費申請も全員分が余裕で通る」

 

「やるじゃないかトレーナーくん」

 

「こんなの小手先の知恵だ。タキオンもこれからトレーナー業やるなら覚えておくと便利だぞ」

 

「あの、トレーナーさん、よろしいですか?」

 

「どうしたマックイーン?」

 

「メジロ家が所有する保養所が北海道にありますが、そちらはコース場やトレーニング施設が充実しています。夏休みの間、チーム全員で合宿をしてはいかがでしょう」

 

 うわっすげえなメジロ家。さすが名門は持ってるものが違う。ただ、チーム全員となると八人か。トレーナーも休み中に充実したトレーニングを行えるのは魅力だと考えてるが、人数と期間の事を考えてちょっと悩んでる。

 悩むトレーナーの背を押したのは同じメジロ家のダンだった。

 

「私のメイクデビューを万全に期すには、環境の良い場所でのトレーニングが必要です。皆さん、どうか私の我儘を聞いて頂けませんか?」

 

「あぁ、いや、そうだな!気付かなくて悪かったよアルダン。勝つために万全を期すのは当然だった!マックイーン、アルダン、ご実家に世話になるように、先に連絡を入れてくれるか」

 

 するっと話が纏まった。今のはダンのお願いという形で皆の了承を得たのか。トレーナーもそれを分かってるから、何となく申し訳ない顔をしてるんだな。

 それでも今年の夏は涼しい北海道で過ごせるのは結構嬉しい。合宿を申し出てくれたクイーンちゃんやダンには、今度何か奢ってあげないと。

 

「よしっ夏の話はここまでだ!今はトレーニングを優先しよう。特にフクは来月すぐに鳴尾記念、アルダンは最後の選抜レースが待ってるんだ。勝ちに行くぞ!」

 

「ふんぎゃろー!」

 

「はい。皆様のご厚意を少しでも返すために、必ず勝ちます」

 

 チームで円陣を組んで気合を入れた。

 

 

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