変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第22話 ラストチャンスを掴む者

 

 

 日本ダービーが≪スピカ≫のスペシャルウィークさんの勝利に終わり、熱気冷めやらぬ六月初め。トレセン学園内レース場も、異様な熱気と緊張感に包まれていた。

 選抜レースと言っても、今日のは新入生のためのレースではない。二年生のための最後の選抜レースだった。

 今月に入り、二年生はメイクデビューレースを控えている。それでも契約するトレーナーが見つからず、デビュー出来ない生徒が崖っぷちに立たされてもなお、諦めずにレースへの想いを示す最後の機会だ。

 俺達≪フォーチュン≫は全員で観客席でコースを見守る。二日後にG3レースを控えたフクキタさんも、この時ばかりはトレーニング中の休憩と言い張って、仲間を応援する事を選んだ。

 ダンのレースはもう少し後だ。今は十人で短距離レースをしている。今走っている子達の必死な形相は外で見ていると、ほんの僅かだが憐れみと共感を抱いてしまう。

 彼女達は悲しいぐらいに足が遅い。俺と同じ年に入学して、同じ時間を与えられたのに、明らかに遅い。フォームが乱れる、足運びが甘い、位置取りも悪い。徹底して技術力が足りないんだ。一年かけても基礎的なトレーニングしか行わないと、ここまで差が出るのかと愕然とする。

 

「あの子達だって怠けてたわけじゃないのにな」

 

「こればかりはめぐり逢いの運とウマ娘としての才能だからねえ。私達が理解するのは難しいよ」

 

 オンさんが淡々と濁った眼で彼女達の走りを評価する。言う通り俺達は明らかに『持ってる』側のウマ娘だ。

 的確な指導をして肩を並べて歩いてくれるトレーナーが居れば、才能に乏しくても技術は身に付き速く走れる。

 生まれついての圧倒的な才能があれば、磨いてくれる指導者が居なくても才能の暴力で圧倒できる。

 その二つとも欠けている彼女達は、悲しいが俺達よりずっと遅いんだ。

 それでも、先頭でゴール板を駆け抜けた子は涙を流して勝利を喜んだ。まばらな拍手の中で、彼女に近づくトレーナーが一人居る。

 二人は少し話して、握手を交わした後に、並んで歩いて行く。あの様子なら最後の最後でチャンスを掴めたようだ。これからあの二人がどうなるかは知らないが、お互いに良い結果になれば良いと思う。

 残った九人は無言でコースを離れた。彼女達はどうするんだろう。

 レースを諦めずに適当なトレーナーに名義貸ししてもらって、メイクデビューを果たすのか。

 それとも実力不足を認めて地方のトレセンに移籍するのか。

 いっそレースそのものに見切りをつけて、学園の他科に編入して在学を続けるか、一般学校に転校するのか。

 

「家の者からレースの世界は厳しいと聞かされましたが、見てて辛いですわ」

 

 クイーンちゃんは暗い顔をする。名門と言っても実力が無ければ、あの九人の敗者の様に顔を俯いてコースを去って行く例はそれなりにあったんだろう。

 それに今日だってもしかしたら、姉のように慕っている人が九人の一人になるかもしれない。世の中紙一重で何かが決まる事は珍しくない。

 

「大丈夫ですよマックイーンさん!!アルダンさんはきっと今日のレースを勝ちます!学級委員長が保証しましょう!!」

 

「そうですよ、アルダンさんは勝ちます!今から占いましょう!」

 

「……今からは………余計な事をせず……ただ見守りましょう」

 

 カフェさんの一言で俺達は静かに仲間を待ち続けた。

 二回目の短距離レースが終わった頃に、トレーナーが合流した。ダンの事を聞くと、調子は良いと答えが聞けた。

 コースに新しく十名が姿を見せ、その一人にダンがいる。

 

「これよりマイルレースを始めます。一回目の出走者はスタート位置についてください!」

 

「アルダンさーん!頑張ってくださーい!!」

 

 俺達の声援も集中しているダンの耳には届いていないみたいだ。これならいける、彼女は今最高のコンディションにある。

 十人が位置に着き、スタート役が赤旗を振り下ろした。

 ウマ娘達が最後のチャンスを掴むためのレースが始まった。

 最初に一人の栗毛が飛び出し、先頭を走る。ダンはその後ろについて二番手のまま走る。

 ダンは先行して常に二~三番手で、最後に抜き去る先行型の走りを得意とする。今のところは順調だ。

 静かなレースが続き、三分の一を通過した。この時を前後にダンがペースを上げ始めた。じりじりと先頭とバ身を縮め、1000メートルを過ぎた頃には彼女が先頭に入れ替わった。

 

「掛かった顔じゃないな。先頭が遅いから抜いただけ?」

 

「多分な。アルダンの実力ならまだ遅いぐらいのペースだぞ」

 

 ストップウォッチを見ているトレーナーが断言した。

 

「当然さ。彼女は怪我と病気に悩まされただけで、本来は『我々の側』だよ。独学とはいえ一年間、最小の労力で最高の効率の練習を続けてきたんだ。私が完璧に管理して不安要素さえ取り除けば、今も残っている子達と比べたら才能の分だけ差があるよ」

 

 オンさんの言う通り、十全に体調を整えさえすれば、適性の合うマイルレースでダンが負ける要素はほぼ無いのか。才能の差は悲しいねえ。

 レースはそのまま1200、1300と進み、二位と三バ身ほどに差が広がった。

 残り100……50メートル。差はそのまま三バ身。

 このままダンが最初にゴール板を駆け抜けた。

 

「おめでとうアルダンさーん!」

 

「ハッピーカムカムッ!やりましたねー!」

 

 ここでようやく彼女は俺達の居る観客席に手を振って応えてくれた。

 そして観客席に来たダンはみんなに笑顔で迎えられて、特に親戚のクイーンちゃんは感極まって抱き着く。

 

「おめでとうございます、アルダンさん」

 

「ふふ、ありがとうございます、マックイーン」

 

「これで仮入部は取れて、晴れてチーム≪フォーチュン≫のメンバーだな」

 

「はい。これからご鞭撻のほど、お願いしますトレーナーさん。皆様もこのような身ですが、ご迷惑をおかけします」

 

 ダンはクイーンちゃんを体から放して俺達に深々と頭を下げた。

 さらに彼女は俺に真正面から向き直る。

 

「こんなにも清々しい気持ちになれたのは、チームに連れて来て頂いたアパオシャさんのおかげです。本当に感謝します」

 

「俺はチームのみんなに相談しただけで、大した事はしてないよ。君の健康を維持したのはオンさんだし、実際にトレーニングを付けたのはヒゲ。部室で説得したのはルームメイトのクラチヨさんだよ」

 

「それでも、貴女が最初に動いてくださらなかったら、私は失意のまま学園を去っていたかもしれません。本当にありがとうございました」

 

「よせよ、俺達はとっくに仲間だぞ。仲間なら助け合うのが当たり前の事だ」

 

 さすがにちょっと恥ずかしくなったから、ちょっと語気が強くなった。するとダンは口元に手を当てて、女の俺でも見惚れるぐらい綺麗に微笑んだ。

 

「お前らぁ!!今日は俺の奢り―――――はまだフクとバクシンオーのレースが今月あるから、終わったらお祝いに好きなだけケーキやパフェを食べさせてやる!」

 

「おしるこっ!!おしるこもお忘れなくっ!」

 

 真っ先にクイーンちゃんがトレーナーの甘いもの食べ放題発言に反応した。この子はほんと可愛いな。名門メジロは伊達じゃないわ。

 ともかくまだまだレースを控えた以上は練習を怠るのは困るから、これからすぐに練習再開。お祝いはまた今度だ。

 この日からチーム≪フォーチュン≫はトレーナーを含めて、八人体制で頑張って行く事になった。

 

 後日、フクキタさんはG3鳴尾記念を、バクシさんもG3エプソムカップを完勝した。

 そして約束通りチーム全員で都内のスイーツ食べ放題を売りにする店に行き、店側が泣きつくまでスイーツを食べまくってお祝いをした。なおクイーンちゃん推しのおしるこは無かったから、代わりに和スイーツをたっぷりと食べて、翌日体重計の前で魂の抜けたクイーンちゃんを見かけた。

 食べ過ぎだよ。

 

 

 みんなでお祝いした日から三日後、カフェさんから衝撃の事実を伝えられた。

 カフェさんの次のレースが決まったのだ。

 なんとそれはヨーロッパ最高峰のレース、十月にフランスのパリで行われる凱旋門賞。その話題に日本中が沸騰した。

 

 

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