変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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 ようやく主人公がデビューしました。長かったです。



第26話 メイクデビュー

 

 

 メジロ家の保養所に来て、もう一週間以上が過ぎた。というか明日が俺のデビューレースとバクシさんのレースだ。

 これまでの間、ずっとトレーニングしてごはん食べて寝て、次の日もトレーニングしてご飯食べて寝て、を繰り返してた。やってることがトレセン学園に居た時とあまり変わってない。むしろ授業が無い分、より速く走る事だけを強く考えて過ごしていた。

 一応、チームメイト以外にメジロ家の方々と触れ合ってたから刺激はそこそこあったと思う。

 特に小学生のメジロライアンちゃんとメジロドーベルちゃんとで、一緒にトレーニングして汗をかくのは心が和む。

 パーマーさんもトレーニングに参加してくれて、おかげで頭数が揃えられて、実際のデビューレースに近い状況を作れたのはとても助かった。

 それと彼女のトレーナーは、現在貯まりに貯まった有給休暇の消化でしばらく別行動らしい。宝塚記念も勝って終わって、しばらく休養にあてるから、夏休みもあってパーマーさんが無理にでも休ませた。中央のトレーナーは大抵働きすぎだから、休める時に有休を使って休ませたいと言ってた。

 

「私のトレーナーはもう年だから、あんまり無理させたくないんだけどね~。本人はまだまだやれるって言うけどさ」

 

 うちのトレーナーも心配だなぁ。でも俺が無事デビューしたら少しは肩の荷が下りる筈だから、明日はきっと勝とう。

 あと、最近家族からも連絡が多くなった。定期的に生活の報告はしてるんだが、最初のレースを控えて色々と気になるらしい。親は札幌まで見に来ると言っていたが、遠すぎるから止めた。つーかレースはいいけど、勝った時のライブを見られたくないから、まだ早いと言って時間を稼いだ。どうせ大きなレースに出て、ライブ動画やテレビで見られると分かってても、生で見られるのは恥ずかしいんだよ。

 チームメンバーやメジロの面々にそれを言ったら、『なんで?』って顔をされて質問された。この時ばかりは皆が心底羨ましく思った。

 そんなこんなで、いよいよレース当日の朝になった。

 

 朝早くに目が覚めて、バクシさんと一緒に軽めのランニングをして風呂に入って体を起こす。今日ばかりはトレーナーから通常トレーニングの厳禁を言い渡された。

 食堂に行って皆と一緒の食事をとる。ご飯や玉子焼きの味をしっかりと味わい、昨日食べた味と変わらない事を確かめた。

 

「うん、いつもと同じ味だ」

 

「緊張はしていませんね……アパオシャさんは……メンタルが強いです」

 

「惜しかったねえ。これで食事が喉を通らないなんて言ったら、私が注射で栄養補給してあげようと思ったのに」

 

 いいえ、それは遠慮しておきます。むしろ明らかにトレーナーの方が、俺より緊張してるみたいなんだけど。また眠れなかったみたいで、顔に疲れが見える。

 

「トレーナー、俺はちゃんと勝つから心配しないでくれよ」

 

「あーすまん。タキオンから始まって、担当の子のデビュー戦はもう五回目だってのに、こればっかりは毎回慣れないんだよ」

 

「では元気の無いトレーナーくんには後で注射しておくよ」

 

 オンさんが七色に光る注射器を見せたから、ライアンちゃんとドーベルちゃんがすげえビビってる。

 なんか二人の顔を見たら気が抜けた。

 緩い空気のままいつも通りの量と味の朝ご飯を食べて、部屋に戻ってからレース場に行く準備を整えた。

 シューズよし、体操着よし、ライブ用の服よし、忘れ物無し。こいつはいらない。……嘘だから足を踏み鳴らすな。

 鼻息を荒くした同居者を宥めて、メジロ家のバスに乗る。

 中にはチーム以外にメジロの三人が乗ってた。

 

「はぁーい!私達も応援させてもらうからね」

 

「ありがとうございます。これは下手なレースが出来ないですね」

 

「あはははっ!!そんなに気負わなくたって良いよ。アパオシャちゃんは私のデビューの時よりずっと強いんだから、練習通り走れば勝てるって」

 

 パーマーさんやちびっ子二人に励まされて、気合も入った。

 メンバー全員が乗り、バスが出発した。今日の舞台、札幌レース場までは一時間ほどかかる。

 

 ふっとスマホのバイブレーションで意識が戻った。あっ、いつの間にか寝てたわ。

 俺が起きたのを見て皆が笑ってた。

 

「まさかメイクデビュー前に居眠りするとは思わなかったぞ。お前、全然緊張してないな」

 

 トレーナーが呆れと感心、半分ずつの声を出す。隣のクイーンちゃんに時間を聞いたら、あと十分ぐらいで着くらしい。

 スマホを見たら親や兄さんからの励ましのメッセージだった。簡単に返事をして後は放置する。

 街中を走り、札幌レース場に着いた。ここから俺のアスリート生活が本当の意味でスタートするんだ。

 今日は快晴、北海道らしくカラッとした風が吹く。芝もよく乾いて良バ場のレース日和だ。

 現在九時半を過ぎて、レース場は入場出来る時間だけど、観客の足は結構緩い。早い時間というのもあるが、今日のメインレースはG3だから、G1ほど客は来ないんだろう。

 それでも目敏い客は先輩達の顔を見て、歓声を上げたりスマホで写真を撮ってる。

 ギャラリーの相手はそこそこに切り上げて、俺とバクシさんは用意された控室に入った。皆は一度観客席に行く。

 体操服に着替えたら、教えられた通りレース場地下のトレーニングルームで、ルームランナーとエアロバイクで軽く身体を動かす。

 他の出走するウマ娘が何人も居るが、誰も喋らずに黙々と体を動かし、静かな闘志が肌をピリピリと触れるのが分かる。

 軽く汗が流れる程度にウォーミングアップを済ませて控室に戻った。俺のレースは正午だから、今のうちに軽くゼリーを口にして栄養と水分を補給しておく。

 

 レース場のスタッフが呼びに来た。大きく息を吐き、七番のゼッケンを着けて付いて行く。フクキタさんならラッキー7と言って調子に乗る。

 パドック前には俺以外にもウマ娘がいる。この後のメイクデビューレースは俺を含めて十人が走る。

 ざっと見た所、一人が落ち着きを欠いて、ウロウロしては他の出走者数名がイライラを募らせている。半分ぐらいは、むしろこの状況を喜んでる。レース前に集中力を切らせたらそれだけ不利になるんだから、ライバルが自滅してくれたと思ってるんだろう。

 それからゼッケン番号順に次々観客の前でお披露目して、俺の番が来た。

 パドックを歩きながら観客席を軽く見る。まだ客は半分も埋まってないが、それでも俺に向けた、数千あるいは、五千に届く歓声と一緒に突き刺さる視線は、圧倒的な熱を感じさせる。

 

 無事にお披露目が終わり、俺達十人は地下通路を通って、ターフを踏んだ。

 前もって聞いた通り、トレセンのコース場より札幌レース場の芝は固い。メジロの保養所のレース場で同じ芝で慣れておいて良かった。

 足の感覚を慣らしてゲートに入り、構えた。

 一斉にゲートが開いて飛び出す。

 逸る気を抑えながら、昨日トレーナーが言っていた事を思い返す。

 

「メイクデビュー戦は走者の実力にバラつきが大きいから、自分の体に染み込ませた走りとタイムを当てにしろ。それと緊張したまま走る子も多いから、出来るだけ間隔を広くして接触しないように位置を確保するんだ」

 

 その教え通り、俺は後方八番に陣取って他の走者を後ろから観察する。確かに何人かまだ動きが固い気がする。

 そうして観察しながら半分の1000メートルを走って結論が出た。

 こいつら『遅い』。俺が『差し』のペースで抑えて走ってるのに、中盤でもう四番まで順位が上がってる。

 いつも一緒に走ってる先輩達に比べて、めちゃくちゃ遅い。いっそ今からスパートをかけて一気にぶち抜いてやりたくなるが、大差だろうが僅差で勝とうが一緒なんだから、練習通り走って勝てばいいと冷静になった。

 ジリジリと順位を上げる俺に先団は焦り、さらにペースを上げていく。

 最終コーナーを曲がり、最後の直線250メートル余りで、ようやく窮屈な想いから解き放たれて、足に力を入れた。

 観客から見たら、引き絞った弓から放たれる矢のような加速で四番ゼッケンの子を抜き、八番もついでに抜き去った。

 あと一人、五番のゼッケンを着けた鹿毛の先頭は必死になって逃げるが、もうスタミナは残っていないだろう。この子を残り100メートル地点で追い越し、ようやく先頭に立った。

 ここから先は誰も居ない。俺だけが見ている景色だ。

 ――――訂正しよう。前にまだ俺の同居者が我が物顔で走ってやがった。しかもたまに無駄に長い首だけ動かして後ろの俺を笑ってやがる。

 カチンときたが、落ち着いてペースをキープし続ける。あいつが居た所で今日のレースは俺が勝ち。前より後ろの足音だけを気にしていればいいんだ。

 後ろから追い上げてくる足音はまだ小さい。

 ゴール板がゆっくりと近づき、後ろの圧力が少し強くなっているが、致命的に遅かった。

 観客席からの沸いた声で、いつの間にかゴールを駆け抜けていたのに気付く。

 足を緩めてゴールから離れた場所で立ち止まり、観客席に顔を向けた。一万の目が俺一人に注目して、拍手を送る光景に浮かされ、無意識のまま両手を天に突き上げていた。

 そうか、この光景が見たくて先輩達や名も知らないウマ娘達は命懸けでレースをしていたのか。これは賞金とはまた違う喜びがある。

 何よりもチームの皆やメジロの人達の喜ぶ姿は胸が熱くなった。

 そしてこれからライブをしないといけないと気付いて、我に返って頭が冷えた。

 

 ライブは初戦に相応しい、曲名≪Make Debut≫を歌い切って、大きなミスも無くまあまあ盛り上がった。俺達みたいなデビューしたてのウマ娘なら、ライブは集まっても三百人ぐらいと思ったら、倍近い五百人ぐらいが来たらしい。G1レースの前座ならそういう事もあると思ったが、何でだろうな。

 あと、終わったら三着になった金髪縦ロールの派手な子に、一方的にライバル宣言されたけど適当に流した。そういうのはせめて俺に全力を出させてからやってくれ。

 

 控室に戻って汗を拭き、トレセンの制服に着替える。ここでようやく気が抜けた。今は昼の一時半を過ぎている。途中でゼリー飲んだだけだから腹が減った。

 空腹のまま観客席に戻ると、みんなが笑顔で俺を迎えてくれた。先輩達の時やダンが勝った時もこんな感じだったな。

 

「やったなアパオシャ!メイクデビューで三バ身差勝利は上出来だ」

 

「おめでとうございますアパオシャさん」

 

「「「おめでとう(ございます)!」」」

 

「みんな、ありがとう!公式戦で勝つのって、模擬レースや選抜で勝つのと全然違うわ」

 

「良い気分だったろう。これ、お前の分の弁当だけど、食べられるか?」

 

「食べるよ」

 

 トレーナーからメジロ家のシェフが作ってくれたお弁当を貰い、ダンからお茶も貰って、席に座る。

 手軽に食べられるようにおにぎりと玉子焼き、それとウインナー。遠足の定番メニューだったが、一流の料理人の弁当はかなり美味い。

 半分ぐらい食べた所で、無駄に感度の良い俺のウマ耳が観客の声援に紛れた、ちょっと聞き逃せない単語を拾って、食べる手が止まった。

 

「―――――――おーい、涼花ぁ!」

 

 声のする方を向くと、二十歳前ぐらいのいかにも大学生という風体の男が手を振ってこちらに近づいて来た。

 俺以外のチームメイト達は自分達とは無関係と思って気にしてないが、弁当を一度片付けて立ち上がる。

 

「何で兄さんが北海道にいるのかな」

 

 全員がレースそっちのけで俺か兄に視線を向けた。

 ほんと何でここで身内と一年ぶりに再会するんだろうな。

 

 

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