変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第27話 祝勝会

 

 

「えっ兄さん?アパオシャの?」

 

「そうだよトレーナー。俺の兄」

 

「初めまして皆さん。涼花…ああウマ娘のアパオシャの兄です。妹が大変お世話になっています」

 

「………アパオシャさんの本名……『すずか』……だったんですか」

 

 そうですよカフェさん。トレセンに居ると本名を名乗らないから言う機会が無いけど、俺の名前は涼花(すずか)なんです。

 だからかサイレンススズカさんは親近感を覚えると同時に、名前を聞くと無意識に反応するから嫌なんですよ。

 兄はまず、髭トレーナーに俺の面倒見てくれた事を親に代わって感謝していると、深々と頭を下げた。

 

「いえいえ、そこまで畏まらなくても良いですよ。妹さんはトレーニングは真面目で、面倒見も良くてチームによく馴染める子ですから」

 

「そう言って頂けると助かります。それと、チームメイトの皆さんも妹に良くしてくれたのは、レースの時と、ここに座ってるのを見ればよく分かります。本当にありがとう」

 

 こういうのがあるから恥ずかしくて嫌なんだよ。しかもチームの皆が俺の事を色々話すから、兄さんすげえ良い笑顔で聞いている。どうせ後で家で話すんだろうなあ。

 一通り俺の事を話し終えたから、何で北海道に居るのか問い詰める。

 

「三日前に大学が夏休みに入ったから、そのままお前の晴れ舞台を見に来たんだ。宿は昨日から、北海道出身のゼミの友達の実家に泊めさせてもらったよ」

 

「では京都から応援にお越しになられたのですか。アパオシャさんは大事に想われていますね」

 

「そうでもないよダン。俺の応援が終わったら北海道観光したいんだろ?」

 

「それもある。せっかく遠くに来たんだから、休み中はウマ娘の郷土史を探すんだよ。特に北海道は色々伝説もあるし、明治期の厳しい開拓だってウマ娘が居なかったら、きっと成功しなかったって言われてるんだぞ。機会は逃さない」

 

 相変わらずウマ娘への歴史的興味の塊みたいな人だよ。妹の俺がウマ娘じゃなかったら、こうはならなかったはず。

 

「さて、妹の元気な顔を見れたし、そろそろお暇します。あっ今年の暮れは家に帰ってくるのか?母さんも会いたがってたぞ」

 

「あと、一回二回勝ったら帰ると思う」

 

「そっか。―――――最後に両親に送って見せたいから、妹と皆さんの写真良いですか?」

 

 提案に全員が快諾して、俺を中心に全員の集合写真を撮られた。なぜかフクキタさんは魂を取られると変なポーズしてた。じゃあなんで許可したんだよ。

 それから俺の頭を乱暴に撫でて、兄さんは離れた席で騒いでるグループの中に入って何か話してる。あれが大学の友達か。あっちも上手くやってるみたいだな。

 

「妹想いの良いお兄さんですねぇ。私も妹ですから分かります」

 

 フクキタさんにしみじみ言われて、口がへの字に曲がる。兄は嫌いではないけど、チームメンバーに知られると背中がムズムズする。

 

 あれこれ話してたらもう午後三時だ。そろそろバクシさんのレースが始まる時間だ。

 メインレース前になると観客席もかなり埋まってる。残りの弁当を食べながら、パドックの上の出走者を見る。

 バクシさんの番になったら、全員で声援を送った。流石に一番人気だとレース場の声援も一番大きい。

 ファンファーレの後、十六人の走者がゲートに入る。彼女達の中で今日のクイーンがレースで決まる。

 全員が綺麗にスタートを切った。その中で頭一つ先を行くのは、我が先輩バクシさん。

 後を追うように残る十五人が集団を作り、レースは始まった。

 ――――――――レース終盤。バクシさんはただの一度も先頭を譲らず、二位と四バ身差を付けて最後の直線を走り続けている。

 しかし後続は徐々に差を縮めて初めている。残り100メートルでは『差し』の走者がガンガン末脚を使って追い込みをかけていた。

 バクシさんは顔が苦しい。やはりスプリンターに1800メートルはかなり長い。

 それでも、あの人は決して諦めず、スタミナが枯渇する寸前でゴール板を最初に駆け抜けた。

 肩で息を吸いながら、バクシさんは俺達を含めた会場に手を振って声援と拍手に応えてくれた。

 電光掲示板の着差はクビ差。最後はかなり追い込まれたみたいだが、辛くても勝ちは勝ち。胸を張って帰れる。

 

 今日はあと一回レースはあるが、今のがメインレースだったから、大半の観客はバクシさんのウイニングライブ目当てに移動した。

 俺のライブと一桁違う動員のライブは盛況で終わった。

 

 バクシさんのライブが終わっても、着替えとかの時間を待ってるついでで最後のレースを見ておく。賞金の額や実績の違いはあっても、ウマ娘の走る姿に貴賤は無い。特に俺達のようなウマ娘には、OP以下のダートだろうと、G1も大きな違いは無い。

 精一杯走った彼女達に、まばらで小さな拍手が送られた。

 最後のレースの走者がライブに行く頃にバクシさんが戻った。

 

「よし、俺達も帰るか!今日は祝杯を上げるぞっ!」

 

「主役はもちろん、アパオシャさんと委員長の私ですよっ!!今日は一緒に遅くまでバクシンしましょう!!」

 

「うぇーい!遊ぶ道具なら一杯あるからね!」

 

「保養所のシェフに連絡を入れてあります。今日は腕によりをかけてご馳走を作ってくれますわ。もちろんスイーツもですわ!チョコが一番ですわ!」

 

「わーい!今日はパーティーだね」

 

 お祝いムードの俺達は会場から出ると、五~六人記者達に囲まれた。そりゃそうか。ここには今日のメインレースの勝者が居るし、あの凱旋門へ挑戦するカフェさんが居るんだ。レースが終わるまで取材を待ってたから、最低限のマナーを守れる記者って事かな。あっ、ドーベルちゃんがダンの後ろに隠れた。女の記者は一人しかいないから、しょうがないか。

 最初の質問先は当然、今日のメインレースを勝ったバクシさん。一年ぐらいこういうレース後の取材を見てるが、バクシさんは常時テンション高いだけで、意外と毎回基本を外さない受け答えをしてる。

 要約すると、今回はエプソムカップ同様に1800メートルの比較的長いレース展開で、スタミナが切れかけてヒヤヒヤしたが、何とか勝てた事を喜ぶ発言だった。

 次は俺への初勝利を祝う言葉と共に、これからのレースの展望はあるのかという質問。これは髭と前もって打ち合わせしてあったから淀みなく答えた。

 

「次は2000メートルのOP戦を考えています。そこで勝てれば、さらに上を目指します」

 

「となると、やはり年末のG1ホープフルステークスを視野に入れていると?」

 

「全てが上手く行けば走りたいですね。まだ勝負服も決まってないから、そっちの方が先ですけど」

 

「「はははっ」」

 

 ここで俺の取材は終わった。最後にオチを付けると記者は満足するという髭の話は本当だった。

 さらにフクキタさんには来月にここで開催するG2札幌記念への自信等を聞かれ、運勢を絡めたエキセントリックな回答で記者に笑いを提供する。一流ウマ娘は大なり小なり癖があるのは知ってるから、これぐらいなら愛嬌で済ませているんだろう。

 最後にカフェさんへは、当然凱旋門賞への意気込みを聞かれたが、それは髭が遮断して代わりに答えていた。

 

「やはり異なる土地でのレースですから難しさはありますが、現在可能な限りトレーニングと調整を繰り返して、勝利を目指しています」

 

「では勝つ自信はあるわけですか」

 

「最初から負けるつもりでレースを走らせたことは、ただの一度だってありませんよ。我々トレーナーは担当のウマ娘を勝たせるために、常に全力を尽くしています」

 

 カフェさん本人には聞けなかったが、トレーナーの自信に満ちた回答に満足した記者達は、レースを楽しみにしていると言って引き上げていった。

 

「……ありがとうございます……トレーナーさん」

 

「こういうのも仕事だからいいさ。カフェは外野の声なんて気にせず、自分の思うように走れ。俺はそれを助けるだけだ」

 

「はい」

 

 おーおー、かっこいいじゃないか。やっぱり責任をもって生きてる大人ってのは尊敬出来るよ。カフェさんもすごい嬉しそうに尻尾動いてる。

 でも、こんなところで甘い空気吸うより、甘い物が食べたいから、とっととメジロ家が呼んでくれたバスに乗るように急かした。

 

 保養所に戻って、皆で風呂に入って汚れを落とした。食堂にはシェフがお祝いに、豪華な食事をテーブルに乗らないぐらい用意してくれた。クイーンちゃんの要望で、何種類ものケーキを始めとしたデザートも充実している。

 ご馳走をみんなで食べて疲れを癒したら、次はパーマーさんが持ってきたボードゲームやカードで夜遅くまで遊んだ。

 いつもはトレーニングがあったから疲れて早めに寝てしまうけど、今日だけはトレーナーも好きに遊べと言ってくれた。

 おかげで次の日は全員、一時間は起きるのが遅くなってしまった。

 

 

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