変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第28話 夏はまだ熱さを残している

 

 

 あー東京の九月は暑いなー。

 北海道から帰ってきて最初に思ったのは、項垂れるような暑さの過ごしにくさだった。

 七月末に俺が初勝利を飾ってからも、チーム≪フォーチュン≫はメジロの保養所で合宿を続けていた。

 至れり尽くせりの温泉付き合宿は、このままトレセンに帰りたくないと言い出しそうになるぐらい、実に快適だった。

 八月に入って少し経ってから、カフェさんはフランスに飛んだ。凱旋門賞までは二ヵ月近くあったが、少しでも向こうの環境に慣れるよう、早めの現地入りだった。

 実は夏休みが始まってすぐに渡仏してはどうかという意見もあったらしい。でもカフェさんは、俺のメイクデビューを見届けてから行きたいと言って、半月遅らせた。勝てて本当に良かったよ。

 そういうわけで、カフェさんは学園には戻らず、保養所から直接フランスに飛んだ。トレーナーとしてオンさんが付き添った。カフェさん自身は微妙に嫌そうだったが、チーフトレーナーの髭は俺達を放ってはおけないし、先に現地入りした学園スタッフが居ても、単身海を渡るには不安が大きい。そこで親友?のオンさんが同行して、サポートする事になった。

 未だ日本ウマ娘に栄冠の渡っていない凱旋門賞へ――――準備は万全と言いたいところだが、どうも出発前にカフェさんの体調が良くなかったのが気になる。

 未踏の挑戦にプレッシャーを感じてというのとは違う。『お友だち』と何か上手く行ってないような雰囲気だった。本人は何も言わなかったけど、いまいちしっくりこない旅立ちだった。

 色々不安はあるが、もう向こうに行ってしまった以上は俺は何も出来ないから、たまに電話で連絡があった時は励ましの言葉をかけ、勝って無事に帰ってきてもらうのをチームの皆と神社で祈るばかりだ。

 あと、八月中旬に札幌レース場開催のG2札幌記念に、フクキタさんとウンスカ先輩が出走して、ウンスカ先輩が僅差で逃げ切って勝利した。

 確かに当日フクキタさんは黒猫に横切られたり、カラスに糞を落とされてテンションダダ下がりだったのはあっても、弱ければ地力でねじ伏せられて終わる。本当にウンスカ先輩が強いから勝てたんだ。

 フクキタさんも負けは負けと受け入れて、次のレース≪アルゼンチン共和国杯≫に照準を定めて力を付けている。

 俺も負けないように頑張るか。

 

 新学期が始まって二日が経ち、俺は昼休みに北海道土産を持って、友達のゴルシー達と学園の食堂に集まった。

 

「アパオシャ、ユキノ~、デビュー勝ったじゃん!おめ~!」

 

「ありがとう。これ、北海道土産な」

 

「ありがとがんす。あたしも新潟土産いっぱいあります」

 

 俺はキャラメル、ビジンはモナカを、みんなに渡す。

 

「うわーありがとー!アタシも海に合宿行ったから、これお土産ね」

 

 ゴルシーからはサブレを貰えた。センジは学園に残ったから土産は無いが、代わりに実家から帰って来られない娘へと、色々なお菓子が送られてきて、おすそ分けということで色々貰った。美味しそうだけど、さっき昼食を食べたばかりだから、後で楽しもう。

 ニンジンジュースを飲みながら互いに夏休みの報告をする。センジは補習地獄だったから「ちょーしぬぅ」としか言ってない。

 ビジンは新潟のデビュー戦を順当に勝ち、地元の友達や多くの知り合いから祝福の電話を貰って喜んだ。

 ゴルシーはチームで半月、海合宿してかなり鍛えられたと言ってる。ただ、食事は美味しかったけど宿がボロかったらしい。しかも≪リギル≫は隣の高級ホテルに宿泊してたから余計に悔しかったとか。

 それと、去年の秋天皇賞で骨折したサイレンススズカさんが、ようやく本調子に戻ったから嬉しかったと喜んだ。復帰戦は今月のOP戦を予定していて、さらにレースの出来によっては、すぐさま重賞に挑むと意気込んでいる。

 俺の事は合宿でも温泉入って涼しい所でトレーニングしてたから、すげえ羨ましがられた。特に学園に缶詰めになってたセンジは、自分の頭の悪さに物凄い凹んだ。

 

「でも、何とか追試もクリアしたんだから、次はいよいよデビュー戦だろ?」

 

「まーねー。今月めっちゃ気合入れて走るんでぇ、勝ったらパーティーよろしくぅ!」

 

「アタシは来月初めに中山で一勝戦走るからね」

 

「それってサフラン賞?」

 

「あっ知ってたの、それそれマイルのやつ」

 

「なら、チームで応援に行くよ。同じ日に、うちのメジロアルダンのデビュー戦と、メインのスプリンターズSをバクシさんが走るから」

 

「へぇ、じゃあ≪フォーチュン≫に無様は晒せないわね。アンタとユキノは次は何走るの?」

 

「ゴルシーの前日にOP芙蓉ステークス2000メートル」

 

「あたしは来月の中に東京でダートのぷ、プラタナス賞?を走ります」

 

「そっか。じゃ、みんなで自分のレースを頑張ろうっか。特にジョーダンは勝って、早くアタシらの所に来なよ」

 

 ゴルシーの言葉で締めくくり、俺達は互いの健闘をジュースで願った。

 

 

 その日の放課後。チームの部室に行くと、髭とチームメイトが緑の帽子をかぶった同色のスーツを着た女性と話している。

 

「おーアパオシャ待ってたぞ。こちらの方は知ってるな?」

 

「理事長の秘書をしてる駿川さんですね。顔と名前ぐらいは知ってます」

 

 駿川たづなさん。トレセン学園のちびっ子理事長の秘書をしている女性だ。朝に校門で挨拶するぐらいには知っている。

 俺はそんなに関わった事は無いが、一部の生徒からやたらと恐れられているらしい。何でも門限破りをすると捕まえに来るとかなんとか。色々胡散臭い噂だから、話半分にしか聞いた事が無い。

 生徒よりはトレーナーや教師の方が関わりが深いから、髭に仕事の用があると思ったら、俺にも用があるそうだ。次のレースの申請に不備でもあったのかな?

 

「実は、アパオシャさんの勝負服の制作の申請書類も持ってきました」

 

 そういえば勝負服も申請しないと作ってもらえないのか。

 G1に出走するウマ娘だけが着ることができる、個人専用の勝負服。

 着用したウマ娘の力を引き出すなんてまことしやかに言われるが、トレセン学園の汎用勝負服と明らかに走る気の入れ方が違うらしいので、案外本当なのかも。

 申請書には身体の測定データを書き込む欄がものすごく多い。自分の体にフィットするように作るオーダーメイドだから当然と言えば当然か。

 でも俺達って成長期だし、トレーニングして体型が変わったら合わなくなると思うが、そこはアスリートのユニフォーム。ある程度伸び縮みする柔らかくも耐久性に富んだ素材で作るから問題は無いそうだ。

 測定データ以外に、生地のメインカラーの項目。スカートかパンツ、ワンピースあるいはレオタードなども選択可能とある。他にもモチーフやイメージがあれば、可能な限り考慮してもらえるらしい。

 

「いますぐ申請する必要はありません。といいますか、規定で最低でも二勝、あるいはG1への出走権を獲得していただかないと制作は致しません。現時点ではあくまで希望の受付という事を覚えておいてください」

 

「自分だけの勝負服を着られるように頑張って勝て。そういうやる気を上げるための……目に見えるご褒美ですか?」

 

 餌と言いそうになったのを寸前で止めて、マシな言い方に変える。

 学園の規定も理解は出来る。生徒全員に勝負服を支給するには予算が掛かり過ぎる。それに碌に勝てずに袖を通す機会も無い服など、作ってくれたデザイナーへの不義理にあたる。せめてOP戦に勝つか重賞レースに入賞でもしないと、勝負服を支給する資格は無いというのは納得する。

 

「厳しいかもしれませんが、レースのように結果を出してこそ優先権は得られます。それでは、アパオシャさんも頑張ってください」

 

 駿川さんは帰って行った。貰った申請書類を眺めて、弄んでからカバンにしまった。

 

「今書かなくていいのか?」

 

「取らぬ狸って奴だから、来月のOP戦に勝ったらでいいよ。それに漠然としたイメージはもうあるから」

 

「よし分かった!なら今日もトレーニングするぞ!」

 

 髭の掛け声でチームの皆も気合が入り、その日のトレーニングも充実した内容になった。

 

 

 半月後、センジは宣言通り、メイクデビューで危ういながらも勝って、俺達と同じ舞台に上がった。

 約束通り、休日は四人で街で遊び、次のレースのための英気を養った。

 それとゴルシーやビジンも勝負服の話は来ていて、二人はもう申請だけはしてあると言ってた。

 

 

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