変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第30話 ガラスの脚なんかじゃない

 

 

 昨日の芙蓉ステークスを余裕をもって勝った俺は、二日連続で中山レース場に来ていた。

 今度はトレーナーの運転で、フランスにいるカフェさんとオンさんを除いた、チーム≪フォーチュン≫全員がいる。

 今日は昨日と違ってG1レースの開催があるから、朝から観客の入りも多く、出店やグッズ販売店は忙しそうに働いてる。

 チラッとグッズ店の品揃えを見ると、うちのバクシさんの商品が山積みになってて、それを手に取る人も多い。

 他にも≪リギル≫のタイキシャトルさんと、昨年のスプリンターズS勝者のニシノフラワーさんの商品が人気みたいだな。あちこち張られているポスターの主役はこの二人で、さらに挑戦者の立ち位置でバクシさんがいる。

 客のレース予想の会話も、昨年負けたタイキシャトルさんが、ニシノフラワーさんに雪辱を果たして王座奪還するか、逆に二連覇をするという予想がメイン。そこに割り込んでバクシさんが新王者に輝くと言う話もよく聞こえる。

 

「バクシンオーさんはファンの方々から熱く語られる素晴らしい方ですね」

 

「そうですとも!何と言っても私は委員長ですから!今日はやってやりますよー!バークシィィン!!」

 

 ダンの称賛にテンションガン上げで叫ぶから注目が集まって、客から写真撮られて声援を受ける。そろそろこの光景には慣れてきた。

 あと、昨日の今日だからレースで勝った俺にも応援の声をかけるファンがちょこちょこ居る。無難に礼を言って次も勝つと言っておいた。

 一旦、出走するダンとバクシさんに付き添うトレーナーと応援班に別れて、俺達は席を確保する。

 しばらく未勝利戦やメイクデビュー戦を見ていると、俺達を呼ぶ声がした。振り向くと≪スピカ≫の新入生三人組が居た。

 

「やあ、君達もゴルシーの応援に来てたか」

 

「うん!ボク達の応援でシチーさんも頑張れるからねー」

 

「俺達の声でシチー先輩を元気づけてやるぜぇ」

 

「隣失礼しますね」

 

 三人増えて、さらに姦しくなった。ゴルシーの奴も結構慕われてて良かった。あとうちの髭も戻って来た。

 ≪スピカ≫の年長三人は学園に残ってトレーニングをしているみたいだ。来週はサイレンススズカさんの復帰後初の重賞≪毎日王冠≫があり、シャルさんも月末はクラシック三冠最後の菊花賞を控えていた。ゴールドシップさんはその監督役で残ってる。

 サイレンススズカさんが復帰して一番喜んでいるのは同期で友達のフクキタさんだった。

 

「やはりシラオキ様のお告げ通り、開運グッズをたくさんお見舞いの品に持って行ったおかげですね!ハッピーカムカム!」

 

「いえ、あのよく分からない置物とかお守りが多すぎて、病院側から注意受けたんですけど」

 

 カレットちゃんのマジツッコミにも、フクキタさんはまったく懲りていない。見舞いのたびに両手で抱える荷物を持って行くんだから、そりゃあ病院だって怒るよ。

 今となってはサイレンススズカさんが完治して、また元通り走れるようになったんだから、楽しい笑い話の類だな。

 わいわい話しながらレース観戦してると、時間は過ぎ、昼頃になると髭の落ち着きがちょっと無くなってる。そういえばダンのレースはそろそろだったな。

 すぐ後にアナウンスでレース案内が流れ、パドックにはメイクデビューするウマ娘が一人一人姿を見せた。その一人に4番のゼッケンを着けたダンの姿もあった。

 

「アルダンがんばれー!」

 

「アルダンさーん、ファイトですわー!」

 

 懸命に声を上げてダンを応援すると、向こうもこちらに気付いてニコリと笑い返してくれた。

 

「あの子、調子は良さそうだな」

 

「沖野さん。やれることは全部やりました。あとはアルダンの勝ちたいという気持ちを信じます」

 

 後ろから来た沖野トレーナーはうちの髭の隣の座る。

 コースに十人のウマ娘達が集い、レースを前に落ち着かない様子を見せる。ダンは余計な事をせず、ただ芝のコースを見つめていた。

 ファンファーレが鳴り響き、十人はゲートに入る。これから1800メートルを最初に走り切った者が栄誉を一身に受ける。

 

「頑張れアルダン…」

 

 髭トレーナーのか細い声の後、レースは始まった。

 一人が先頭に立ってハイペースで逃げる。それを追うように集団が作られた。ダンはスタート位置から坂になったコースの内側を上手く確保して、今は三番で順調に走ってる。

 500メートルを超えた時点でタイムを見ると、いつもより僅かにダンのペースが早い。

 中山レース場の1800メートルはスタート位置に坂がある構造的に、序盤のペースは遅くなりがちだぞ。

 

「先頭に引っ張られてペースが早くなってる。大丈夫かな」

 

「いや、全体的にペースが早いから、そこまで心配はしなくていい」

 

 確かに先頭と最後尾の差は八バ身ぐらいで、ある程度集団が固まっているから、荒れた展開ではない。

 後半に差し掛かり、さらに1000メートルを超えると、今度は逆に追い抜き追い抜かれを繰り返して、順位がガンガン変動して慌ただしいレースに変わっていく。ダンも何度も競り合って順位が入れ替わり、そのたびにポジションを修正して疲労が顔に出始めていた。

 それでも最終コーナーを回って、最後の直線まで三番手を堅持していた。あとは最後の坂を登り切る気力と根性がウマ娘に要求される。

 逃げ続けてスタミナを切らした一人を抜き、二位に上がった。さらに坂を必死で登り、一人を抜く。ようやく先頭に立った。

 

「頑張れっ!頑張るんだアルダンっ!!」

 

「アルダンさーん!負けないでくださーい!!」

 

「「がんばれー!!」」

 

「後ろから一人来てるぞー!登れ登れっ!」

 

 後ろから猛追する芦毛の7番との差は二バ身。逃げるダンと徐々に差は縮まって行く。

 坂を登り切ったが二位とはもう半バ身。粗方スタミナを使ったダンは苦しいが、まだあいつは諦めていない。

 

「勝てっ!勝てよダン!ガラスの脚じゃないのを証明して勝てぇ!!」

 

 声が届いたのか、再度ダンの脚に力が加わり、残り20メートルで僅かに差を広げて突き放した。

 そのまま二人はゴール。電光掲示板には堂々とダンの4番が一着の位置に出た。二着は7番の芦毛さん。

 

「やりましたわ!!アルダンさーん!貴女の勝ちですわー!」

 

 ≪フォーチュン≫と≪スピカ≫両方から拍手と声援を受けて、ダンは宝石のように輝く笑顔を俺達に向けた。

 席に座り込んで脱力した髭トレーナーに沖野トレーナーが背中を叩いて気力を入れる。

 

「おらっ!自分の担当が初勝利したんだぞ!もっと喜んでやれぇ!」

 

「……おっおおおおおっ!!!やったぞアルダン!」

 

 立ち上がって雄叫びのような声援を送った。

 それからうちのチームは≪スピカ≫に席を確保してもらって、ダンの初ウイニングライブを楽しんだ。

 デビューライブだったが観客は千人近くいたと思う。G1レースが控えているのもあるが、純粋にダンのファンとして来ているのは分かった。

 

 ライブから戻ると、元の席にさらに見た顔が増えていた。チーム≪リギル≫のトレーナーとシンボリルドルフ生徒会長、あとナリタブライアンだ。

 

「おめでとう。あのメジロアルダンという子、結構速いわね」

 

「東条さんにそう言ってもらえると恐縮です」

 

「良かったじゃない。ああいう素直な子が増えて、チームの癖者度が薄れたんじゃないの?」

 

 冗談めいた東条トレーナーの言葉に、うちの髭は曖昧に笑って誤魔化した。

 立ってると邪魔だから俺達も座る。俺の隣はナリタブライアンだった。

 

「よう」

 

「ああ」

 

 短い応答に周りから呆れだったり、ウオッカちゃんが『かっけー』って言ってる。えっ何で?

 

「やはり、アンタは強い」

 

「知ってる。ナリタブライアンは函館ジュニアステークスは三位だったけど、次は勝つんだろ?」

 

「当然だ。もっと強い奴と戦いたいからな」

 

 相変わらず飢えた獣みたいな面をしている。潜在能力はとんでもないのに、その上で闘争心の塊みたいだから参る。

 

「まったく、参ったね」

 

「ブライアンの得意距離はマイルだから『参る』な」

 

 くっそ下らないギャグがシンボリルドルフ会長の口から放たれて俺達は固まった。

 

「強い相手と戦い勝利を『お芋とメロン』ブライアンと比肩するアパオシャの対決は、私も期待しているよ」

 

「カイチョー……」

 

 ルドルフ会長の隣に座ってるウオーちゃんが何とも言えない困り顔をしていた。クイーンちゃんが言ってたが、ウオーちゃんは七冠シンボリルドルフに憧れてトレセン学園に入学したそうだ。さらに目標は無敗でクラシック三冠を獲る事だと。

 七冠を獲り、生徒会長も担っている完璧超人がこんなダジャレ好きと知って、どうしていいか分からないだろう。

 

「ごほんっ!えーっとおハナさんは来週の毎日王冠は自信あるの?」

 

「うちのグラスワンダーとエルコンドルパサーなら完璧よ。グラスも骨折は完治したから、貴方の所のスズカにだって勝つわ」

 

「そりゃあ良かった。うちのスペの友達だしな。でもスズカはもっと強くなったぜ」

 

「まあ、見てなさい。吠え面かかせてやるわ」

 

 トレーナー同士の静かで熱い戦いで雰囲気が戻った。

 それと、着替えてきたダンが観客席に来て、クイーンちゃんと抱き合って喜ぶ。俺達も賛辞を送り、ルドルフ会長も拍手してくれた。

 

「良いレースだった、メジロアルダン。一人のウマ娘として勝者の君を祝福したい」

 

「ありがとうございます、シンボリルドルフ会長」

 

「困ったことがあったら何でも相談してくれ。小さな事でも『メジロ』アルダンなら、め(く)じろを立てたりしないよ」

 

「重ね重ねありがとうございます。では、その時はお力をお借りいたします」

 

 言われたダンは深く頭を下げて席に座った。渾身のギャグに全く気付かれていないので、会長は難しい顔をして自分も席に就く。

 それから三つのレースを挟んで、ゴルシーの出走するジュニア一勝クラス、マイル芝≪サフラン賞≫のコースが整備された。

 

 

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