変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第32話 虚脱感

 

 

 翌朝、寮の食堂のテレビで、フランス・ロンシャンレース場を前にレポーターが何か喋っているのをぼんやりと眺めながら、朝食を食べる。

 周囲も昨日の凱旋門賞の結果を色々話しているみたいだけど、俺の耳には雑音みたいにしか届いていない。同居者の蹄の音も大して変わらない。

 教室に行ってもみんな凱旋門賞の事ばかり話してて、俺にもクラスメイトが話を振ってくるけど、自分でも何言ったか覚えてなかった。

 授業は後から見たらノートに内容は書いてあったから、一応話は聞いてたみたいだ。

 昼になって、惰性で食べ物を腹に押し込んで、また授業をぼんやり受けて、いつの間にか放課後になっていた。

 そのまま何も考えなくても、一年以上繰り返した習慣で自然とチームの部室に来ていた。

 

「おはようございます!アパオシャさんは昨日はよく眠れましたか?」

 

「おはようございますフクキタさん」

 

「?……大丈夫ですか?レース明けで調子が悪かったら、今日は休んでも良いですよ。アルダンさんも今日は家で診断を受けてるそうですから」

 

「俺はいつも通りです」

 

 ジャージに着替えてから、クイーンちゃんとバクシさんも来た。

 トレーナーが来るまで時間があるから、レースの予定表を見ておく。既にOP戦は勝ったから、次はいよいよG1ホープフルステークスに挑めるわけだ。ただ、年末までは三ヵ月近くあるから、もう一戦ぐらいは走れる余裕がある。

 ――――もう2000メートルのレースでOP戦以上は、十一月末にあるG3京都ジュニアステークスだけか。後で髭に申込みの書類をもらっておこう。

 それと、先月に秘書の駿川さんから貰った勝負服の申請書も出しておかないと。

 

「身体測定しないといけないな」

 

 クイーンちゃんが白紙の申請書を覗き込む。

 

「あら、勝負服を考えているんですか。アパオシャさんはどんなデザインにするか、もう決まっていますか?」

 

「……漠然としたイメージは子供の頃からあるよ」

 

 先に服装の方針を書いておく。全体に肌の露出は抑えめ、下はズボン、アクセサリーの類は最低限、靴は自由に、帽子も有無は自由、マントは不要。

 一つ一つチェックを入れて、反対は自由欄になってたから、服の基本イメージを書く。

 

「――――乾いた土と黒い太陽ですか?」

 

「うん、子供の頃からよくそういう夢を見るんだよ。こう…水が一滴も無い、カラカラに乾いた土と石の世界に黒い太陽が浮いてるイメージ。砂漠みたいなんだけど、ちょっと違う?」

 

「どうしてアパオシャさんはこの光景を夢で見たんでしょうか。むむむ……分かりました!これはシラオキ様がダートを走るように夢でお告げをしたんです!!」

 

「なるほど!!アパオシャさんは、これからはダートでもバクシンするわけですねっ!!」

 

「あー笠松でダートは走ってたから、出られそうなレースがあったら走っても良いけど、クラシックまでは大きなレースがある芝の方が良いかなって」

 

 アメリカやドバイなんかはダートレースが盛んで、優勝賞金も高額のレースが多いから、シニアになったら海外遠征もいいかもしれない。……海外か。

 

「――――――なんだ、アパオシャはダートも走りたいのか?」

 

 後ろを振り向くと、いつの間にか髭トレーナーが部室にいた。なんか目が腫れて疲れが酷そうだ。寝てないのか?

 

「ところでお前ら、昨日は夜更かしせずにちゃんと寝たか?特にバクシンオーとアパオシャ」

 

「私はお風呂で寝てしまって、怒られました!」

 

「風呂に入った後にいつのまにか寝てた」

 

「そうだ。疲れてたら寝るのが一番だ。……カフェは残念だったがレースはいつも勝てるわけじゃない。だからあまり気にするな」

 

 トレーナーは俺を見て分からせるように言い聞かせた。―――分かってるよ。認めたくないけど、カフェさんは負けたんだ。

 我ながら情けないと思う。カフェさんが凱旋門賞で負けたのを認めたくないから、朝のニュースや周りの言葉を意識的に無視して、なるべくレースの事を考えないようにしてたけど、いざ自分のレースの事を考えたら無視は出来なくなった。

 

「お前達はまだまだ走れる。まずは自分の次のレースを考えていろ。…例えばバクシンオーは来月のマイルチャンピオンシップだな」

 

「おおっ!!マイルのG1レースですか!?ようやく走らせてくれるんですね!!」

 

「タイキシャトルからの挑戦状だ。勝者として受け取るか?」

 

「勿論です!!私のバクシンロードはまだまだ始まりに過ぎませんよー!!」

 

「そうだ、初心を忘れずにいつも全力で走り続けられるお前は立派な委員長だ!フクもまだ走り足りないだろう?」

 

「ハイ!もっと走りたいです!」

 

「マックイーンもいずれ名門メジロの名に恥じないレースをしたい。そうだな?」

 

「その通りです。私はメジロの名を背負い、必ず天皇賞を勝ってみせます」

 

「アパオシャ、今お前が書いている勝負服の要望書は、お前がG1に出て勝ちたいから書いている。ならもう少し気合を入れろ」

 

「分かったよ。じゃあG1の前に来月の京都ジュニアステークスに出るから、申込書をくれ」

 

「よしっその意気だ!………お前達は自分の事を考えて、鍛えてレースを走れ」

 

 髭の言う通りだ。俺がカフェさんの事を気にしても、今更どうにもならない。それに俺はもう一人のアスリートとして、先輩達と同じ舞台に立った以上は、みんながライバル。その人達の事を考えるより、自分のレースに勝つ事の方が大事なんだ。

 気合を入れ直して、納得した所でフクキタさんとクイーンちゃんは普段通りの練習を、俺とバクシさんは今日は休養に充てるように言われた。

 ちょうど良いからバクシさんに手伝ってもらい、身体測定をして勝負服の申請書を全部書いておいた。ついでに髭から貰ったレースの申込書もだ。

 後は二人でチームの洗濯物を洗ったり、買い出しに行ったり、ドリンク用意したりと細かい雑用を一緒にする。

 色々働いているといつの間にか夕方になって、フクキタさん達のトレーニングが終わり、部室に戻ってくる。

 いつもは着替えが済むまで入ってこないトレーナーも、今日は珍しく一緒に来た。

 

「お前達に言っておくことがある。ここで話す事はまだ外に漏らすな」

 

「なんですの?そんな改まった口調で」

 

「いいから聞くんだ。―――――カフェがレース後に骨折しているのが分かった」

 

「ヒゲェ!面白くない冗談はルドルフ会長だけで十分だぞ」

 

「こんな冗談俺が言うと思うか?レースが終わって、少し経ってから痛みを訴えて診察を受けたと、深夜にタキオンから連絡があった」

 

「そんなぁ。怪我の具合はどうなんですか。すぐに治りますよねっ!?トレーナーさぁーーん」

 

「全治二ヵ月だフク。それに時間はかかるが、リハビリすればまた走れるようにはなる。まだマスコミにも伏せてあるから、本来ならお前達にだって言うなと理事長から言われてるんだ。だからここで言った事は一旦全部忘れろ」

 

 なんてこった。カフェさんまで怪我をしたのか。ちくしょう!オンさんの事もあって、レースをしてたら誰でも怪我をするのは分かってたのに。いざ仲間がそうなるとガツンと胸に痛みが響く。

 

「さっきも言ったが、誰が怪我をしてもお前達は自分達のレースがある。仲間が怪我をするのは辛いが、それを言い訳にしてトレーニングを怠けたり、レースで負けるのはカフェを侮蔑する事だと思え」

 

「分かったよ!帰ってくるカフェさんに怒られないように、いつも通り練習してレースに勝つ」

 

 そこまで言われたら腑抜けてなんていられない。明日からまたトレーニングだ。同居者がヤレヤレと首を振っているのが何かむかつく。

 

 

 五日後。車いすに乗って帰国したカフェさんと付き添いのオンさんが学園に顔を出した。

 カフェさんは心配をかけた事を申し訳ないと謝ったが、誰も彼女を責めたりはしなかった。

 

 その翌日には、≪スピカ≫のサイレンススズカさんの復帰後二戦目となる、G2毎日王冠が開催された。

 ≪リギル≫のエルコンドルパサー先輩と、同じく骨折から復帰したグラスワンダー先輩も出走して、世間は盛り上がっていたが、結果はサイレンススズカさんの圧勝。

 俺達はそれをテレビで見ていた。去年の秋天皇賞から諦めずにリハビリを続け、見事完全復活どころか、さらに速さのキレが増したサイレンススズカさんの姿に、カフェさんの姿を重ねて希望が湧いたような気分になった。

 

 さらに十月はクラシック菊花賞と、昨年フクキタさんが制した秋天皇賞もあり、大変な盛り上がりだった。

 菊花賞はウンスカ先輩、シャル先輩、キングヘイロー先輩が競り合った末に、ウンスカ先輩が昨年のビワハヤヒデさんのレコードを上回るタイムを叩き出して、クラシック二冠目となる菊花賞ウマ娘になった。ルームメイトとしてちょっと誇らしい気分になれた。

 もう一つ、天皇賞はとんでもない結果になった。今年の秋天皇賞はG1ウマ娘が多数出走する大混戦だった。パーマーさん、ヒシアマゾンさん、ウイニングチケットさん、ナリタタイシンさんなど精鋭が鎬を削る中、至高の盾を手にしたのはなんと、アグネスデジタルさんだった。

 フェブラリーステークス、マイルCS南部杯、安田記念を勝った事もある、芝ダートを選ばない実力は確かな人だが、言動がうちのオンさん並にぶっ飛んでる人でもある。噂ではあのゴールドシップさんすら、ヤベェ奴扱いして近づく事を躊躇うとも。

 そのぶっ飛んだキャラ性は記者会見の時にも遺憾なく発揮され、多くのファンや記者を戦慄させて、十月のレースは終わった。

 

 

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