変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第33話 課題の多いレース

 

 

 何を食べても美味しい十一月。トレセン学園でも秋の味覚フェアで、獲れたてのサンマや旬のさつまいもを使った限定メニューが数多く並んだ。勿論年頃の女の子にも好評な、栗を使った限定スイーツが多数用意された。

 そして生まれたのが毎日見苦しいぐらいの争奪戦だ。授業が終わった瞬間に、どこのクラスでも生徒が大挙して食堂やカフェテリアに行き、地獄の餓鬼が群がるようにスイーツを取り合っているのは、実に嘆かわしいと思った。

 しかもその中にうちのクイーンちゃんも居て、『パクパクですわ』などと言って、人の五倍ぐらいの量のマロンスイーツを食いまくっているのを見てしまった。

 後輩ちゃんの甘い物好きは知ってるけど、普段のお嬢さま然とした優雅をゴミ箱に投げ捨てるような光景はあんまり見たくない。

 同じメジロ一家のダンやパーマーさんと一緒に食事をした時は、二人とも常識的な量だった。昔からクイーンちゃんは、スイーツを前にしたらそんな感じらしい。

 今日も彼女は『パクパクですわ』と言ってスイーツを堪能して、後から体重計を前に絶望に打ちのめされるんだろう。何で学習しないのかなー。

 

 かわいい後輩ちゃんが死んだような目で減量トレーニングを敢行している日々の裏で、ウマ娘のレースは大きく盛り上がっている。

 まずうちのフクキタさんが月初めに出走したアルゼンチン共和国杯は、≪リギル≫のグラスワンダーさんを下し、堂々の一着になった。久しぶりの重賞勝利にフクキタさんは大喜び。前座にはジュニア一勝の百日草特別レースがあり、それをセンジが勝って二勝目を挙げた。あいつもレースぐらい勉強が出来たら、もっとトレーニングの時間が増えて強くなるのに惜しいなあ。

 さらに下旬に入ると、マイラーの祭典『マイルチャンピオンシップ』が阪神レース場で開かれた。

 『マイルチャンピオンシップ』には、多くのマイラーとスプリンターが参戦。タイキシャトルからの挑戦状を受け取った、うちのバクシさんも出走。さらに完全復活を遂げたサイレンススズカさんとの激走となり、最終的に勝ったのはサイレンススズカさんだった。タイキシャトルさんは二着、バクシさんは惜しくも三着で終わった。

 やっぱりマイルは長かったと、学園に帰って来た髭がボヤいていたが、後悔はしてなかったように思う。無敗のウマ娘は歴史的にも稀な存在なんだから、いちいち気にしてたら次のレースだって走れやしない。

 こうしてバクシさんのシニア一年目は七戦中、六勝一敗の好成績で終わった。真面目に考えると一年でG1を二勝、重賞は三勝して、G1入賞一回はすげえわ。

 同日の東京では、一勝クラスの赤松賞でダンが出走した。結果は辛勝で、ダンはこれで二勝だ。体調の事もあって、このレースで今年はおしまい。重賞レースの参加は年明けに持ち越しとなった。

 

 

 さて、チームメイトの半数が今年を走り切っても、俺にはまだまだレースは残っていた。

 今はサブトレのオンさんとダンとで阪神レース場に向かっている途中だ。勿論レースのためだ。

 明日開催のG3京都ジュニアステークスへの出走のために、金曜日の放課後から新幹線で関西へ向かっている。

 同じように明日レースに出走する学園のウマ娘を何人か見かける。同学年もいるし、上級生も何人かいるはずだ。たまたま乗ってる新幹線の時間と車両が一緒なだけで、偶然と言うほどでもないか。

 その中で、十個ぐらい前の座席の上に突き出た特徴のある白耳は見覚えがあった。明日のレース表を見て、名前を確かめた。

 

「あの子も一緒か」

 

「どうなさったんですか?」

 

「同じレースを走る子が前の座席に居ただけ。白毛のハッピーミークって子」

 

 ダンも俺の前に目を向けて、頷いて合点がいったみたいだ。白毛のウマ娘は結構珍しいから、外見ぐらいは知ってたみたいだ。

 オンさんがタブレット端末を操作して、学園の生徒のデータを呼び出す。ざっと見たオンさんはニヤニヤして俺達にも見せてくれた。

 

「面白い子だね。まさか私のルームメイトのデジタルくんを超える資質を持ってる子とは」

 

 ―――――芝とダート両方の適性あり、短距離から長距離も可能って、こんなウマ娘がいるのか。

 芝とダートを選ばない器用なウマ娘は時々居る。先月の秋天皇賞を勝ったアグネスデジタルや、オグリキャップ先輩もそういう広い適性を持つウマ娘達だ。友達のビジンも割とその例に入っている。

 だが、その上で全ての距離を苦手にせず、自由に走れるウマ娘は見た事が無い。こんなレアな才能の持ち主とは思わなかった。

 驚く俺とダンに、しかしオンさんは含みを持たせるように、『勝つのは君だよ』と言った。

 

「私もこのハッピーミークくんほどの汎用性を持つウマ娘は他に知らないが、それはあくまで資質であって積み上げたトレーニングと経験とは別物さ」

 

 オンさんはタブレットに表示した戦績に指を差す。

 デビュー戦・芝1200メートル三着、未勝利戦・ダート1700メートル勝利、G3新潟ジュニアステークス・芝1600メートル三着。通算戦績三戦一勝か。

 全部入賞しているが、一貫性が見られない。とりあえず色々走れるから走らせて、広く経験を積ませようとしている意図が見える。

 おそらくトレーニングも芝とダートを両方やってるはずだから、その分だけ時間も半分になってるはずだ。

 トレーナーは桐生院という名門の人だから、効率的なトレーニング法で鍛えているだろうが、それでも倍の効率での鍛錬は難しいはずだ。

 

「さらに今回は彼女が未経験の最長2000メートル。対してアパオシャくんは、全て同じ距離を走っている。この経験の差は大きいよ」

 

 言われてみるとそうだ。俺はもっと長い距離を走りたいけど、無いから仕方なく2000を走っているが、それでも二度走り切って勝った経験は相当に大きいと思う。

 

「もちろん重賞ともなれば、勝ち上がった多くのウマ娘がいるから、彼女だけを意識するわけにはいかない。気張りたまえ」

 

「アパオシャさんなら、きっと勝てると私は信じています。どうか私にあなたの勝利を見せてください」

 

「そこまで言われたら、負けるわけにはいかないな」

 

 『パクパク』しない正統派お嬢さまにお願いされたら仕方がない。明日はきっと勝つよ。

 

 学園を出発して、毎回使っているホテルに着いたのは夜の八時を過ぎていた。夕食は新幹線の中で駅弁で済ませていたから、後はシャワーを浴びて寝るだけだ。

 ダンは長距離移動が結構響いたのか、疲れて眠そうにしている。先に部屋の風呂を使わせて、ベッドに放り込んだ。

 俺とオンさんは一緒にホテルの浴場でゆっくり入って、簡単な明日の打ち合わせをして、午後十時には寝た。

 

 

 翌日。いつもより少し遅く起きて、ホテルの周囲を少し散歩してから風呂に入った。空はどんより雲が厚い。冷たい風が吹いてるから、午後からは一雨来るかもしれない。雨は嫌だなぁ。

 部屋に戻ると二人も起きていた。三人でホテルの食堂で朝食をモリモリ食べて、ゆっくりしてからタクシーでレース場へ送ってもらった。

 

 午前中のそこそこ遅めの時間にレース場に着いた。この時間にもうポツポツと雨粒が降っていた。

 

「アパオシャくんには不利になったかな?」

 

 この人はたまに知ってて意地悪な事を言う。俺は雨が嫌いなだけで不利や弱点ではないを知っているのに。

 

「雨が嫌いなだけですよ。走りやすいとは言わないけど」

 

「いつでも思い描いたレースを走れたら―――そう思う時はありますが、なかなか上手く行きませんね」

 

「G1を走る前に悪天候の経験を積めると思えば、むしろ今日降ってくれて良かったとも言える」

 

「そう言う事だよ。練習で不良バ場を経験しても、レースとはまた違う。レースの経験はレースでしか積めないからねえ」

 

 好ましいコンディションとは違うが、嘆いても仕方がない。ここはポジティブな思考でレースに挑もう。

 レース場を歩けば観客は大抵オンさんの顔に集中して、俺やダンにはまだ少ししか向いていない。さすがに現役引退してもG1六勝と、ジュニア二勝では顔の売れ方がまだまだ違う。

 それでも多少は俺に今日のレースを頑張れと声をかける客もいるから、勝ちを重ねると言うのはこういう事なのかと思った。

 控室に行き、昼まではオンさんとコースのデータを何度も確認して、坂道やコーナーの距離等を頭に叩き込む。

 終わったら食事をとって、二人がスタンドに行ってから、着替えてウォーミングアップ。

 今日の出走は午後三時半だから、それ用に体を温めて水分と栄養も適度に補充しておく。

 時々外の様子を見て、スタッフにも芝の状況を聞いておく。本降りで結構雨が降ってるらしい。この分だと芝は稍重ぐらいか。これはオンさんと話した通り、プランBを選んだ方が良いかもしれない。

 

 時間になってスタッフが呼びに来て、11番ゼッケンを貰った。18人出走だから、真ん中より外よりか。そしていつものようにパドックで客に姿を見せる。

 ここから見ると雨は結構降って芝が重そうだ。それ以上に内側の芝が前のレースで荒れている方が問題かな。あと、晩秋の雨は氷水みたいに冷たくて、身体の体温を奪っていく。

 お披露目は終わり、コースに出て芝の重さを確認する。それと走者の何人かは模擬レースで見た顔がいる。中には俺を敵視するような目で見てくる子も居る。睨むだけならタダだから良いぞ。

 雨の冷たさに震えていると、案の定同居者は雨を嫌がって、屋根のあるスタンドのオンさんとダンの隣に居た。ふん、今日はゴールの前に誰も居ないから気分良く走れそうだよ。

 

 スタートゲートに入り、意識を集中。

 ―――――よしっ!いいスタートを切れた。

 そのまま一気にスピードを出して、先頭に立った。後ろで何人かが動揺している息遣いが耳に届く。

 そりゃそうだ。俺はたまに模擬レースで逃げを試した事はあっても、今まで公式戦と学園の選抜レースで一度も『逃げ』は走っていない。事前データをきっちり揃えた奴ほど違う事をされて戸惑う。

 先頭に立ったまま荒れた内側を走らずに、ハイペースで最初の坂に突入。ガンガンスタミナを使って、坂で後ろの足音を引き離してコーナーに突入した。

 コーナーで後ろを確認。後続は七バ身ぐらい離れている。内側の走ってる子は重くて荒れた芝でちょっと走り難そうだ。

 直線に入り、加速する。半分の1000メートルを通過した地点で息の荒さを確かめた。……よし、十分以上にスタミナは残ってる。

 直線が終わり、再びコーナーへ突入。ここも内側を避けて走ると、後ろから五人が荒れた内側を構わず走って、差を縮めている。六バ身ぐらいか。まだ大丈夫だ。

 あっ、一人が穴に足を取られて大きく離された。これがあるから内側を走らない方が良いんだ。

 残り400メートルで最終コーナーが終わり、後は直線を残すだけ。

 最終コーナーで最後に確認した時は、五バ身は差があった。このままのペースで走り、ラスト220メートルから一気に踏み込んで登坂に突入―――――しまった!!力を込めすぎて雨を吸った芝で軽く滑った!

 幸いすぐに体勢を直して加速し直した。ただ、そのせいで後ろから聞こえる足音が一気に近くに来ている。

 坂を登り切った時には、もう息遣いが聞こえるほどに差が縮まっていた。

 それでも焦る気持ちを抑え、冷静に息を整えて、残ったスタミナをありったけ使って加速。残り100メートルを『差し』本来のスパートで後続を突き放し、何も考える余裕も無いまま、とにかくゴール板を走り切った。

 足を止めて、自分が何着でゴールしたのかも分からず周囲を見渡す。そこで観客が俺の名を叫んでいるのに気付いて、いまさら俺が勝ったんだと気付いた。

 念のために掲示板を見て、俺の11番が一着に表示されたのを確認してから、雨空に向かって拳を突き上げた。それに呼応するようにスタンドは拍手で応えてくれた。

 

 控室に戻って体を拭き、一息吐く。これまでの三戦で一番疲れた。というか練習以外でスタミナを出し切って走ったのは初めてだった。

 今日は『逃げ』で後続との差が大きく開いてたから、持ち直して逃げ切れた。いつもの『差し』で終盤加速してたら、滑って転んで多分負けてた。今日のレースは運というより作戦勝ちだな。

 反省会はここまでにして、濡れた体操服からライブ用の服に着替えて会場へ向かう。

 ウイニングライブは俺の他に、一緒の新幹線に乗っていたハッピーミークも居る。彼女は二着だったか。

 さすがにG3のライブともなると規模も大きく、ライブはそれなりに好評だったと思う。

 

 トレセンの制服に着替えて控室を出ると、トレーナーバッジを付けた黒髪の女性とハッピーミークに出くわす。

 

「アパオシャさん、レースお疲れ様です。今日は負けましたが、次はうちのミークが勝ちますよ」

 

「…負けないよ」

 

 この人がウマ娘のトレーニングに追従出来る桐生院トレーナーか。

 

「俺より強かったら誰でも勝てるよ。負けるつもりは無いけど」

 

「…次のレース楽しみにしていてください。それでは優勝おめでとうございます」

 

「バイバイ」

 

 それだけ言って二人は去った。宣戦布告と言うほどでもないか。というかトレーナーの方がやる気なだけで、ハッピーミークのほうは負けの悔しさはあっても張り合うつもりは無いみたいだ。

 今度こそスタンドに行って、オンさん達と合流。勝った事を喜んでもらえた。ただ、やはりオンさんから終盤で足が滑ったのを指摘された。二着のハッピーミークとは半バ身しか差が無かったから、本当に危なかった。

 

「次からは雨でも足を滑らせないように体幹を鍛えて、濡れた場所で走るトレーニングも組んでおこう」

 

「お願いします」

 

 勝ちは勝ちでも完璧な勝利なんてなかなか無いね。分かってる課題だから改善しやすくて良いんだけど。

 それでも今日はもうおしまい。練習はまた明日だ。

 帰りに記者達に捕まった。今日のレース展開を聞かれたから、雨で滑って苦戦した事実を素直に答え、『逃げ』は選択肢の一つとして今後もあると言っておく。

 

「では最後に、次のレースはやはり年末のG1ホープフルステークスですか?」

 

「はい、このままの勢いで勝ちを目指します」

 

「もう勝負服は完成しましたか?」

 

「先月の初めに申請はしたから、多分レースで着れると思います」

 

「どんな服か教えてもらえますか?」

 

「それは見てからのお楽しみと言いたいけど、実はデザイナー任せでよく知らないから無理です」

 

 記者達はクスリと笑うだけで気を悪くしない。勝負服に事細かに注文を付けるウマ娘は毎年少し居るけど、多くは大雑把なイメージだけで後はデザイナー任せだから、実物を見るまではウマ娘本人だって分からない。ほんと、どんな服になるか楽しみでもあり、怖くもあった。

 取材は無難に終わり、ある程度観客が減ってからタクシーでホテルまで戻った。

 

 ホテルの部屋でしばらく休み、日が落ちてから外に食事に行った。

 

「今日はアパオシャくんが頑張ったからねぇ。好きな物を食べたまえ」

 

「じゃあ寒いから鍋かおでんで」

 

 要望通り、ホテル近くの鍋を出してる和食店があったから、そこに三人で行って鶏鍋を頼んだ。

 

「私、誰かと鍋を囲む事は初めてなんです。とても楽しみです」

 

 さすがにお嬢さまは家族でも鍋をつついたりはしないか。そして意外と仲間と同じ鍋から食べる事への忌避感は無い。むしろ本人の言う通り、楽しみで仕方ないみたいだ。

 具材が来たから、年長のオンさんが鍋を仕切るかと思ったら誰も手を付けない。ダンは初めてだから分かるけど、何でオンさんが俺を見てるの?

 

「どうしたんだいアパオシャくぅん?早く鍋に具を入れたまえ」

 

 えっ?俺が鍋仕切るの?今日レース走ったばかりなのに?

 まあ、先輩を使うのはアレだからと納得して、鶏肉と豆腐から入れて、火の通りにくい野菜も入れておく。

 追加でご飯も注文して、煮えてからどんどん取っては俺が具を補充しては食べて、また入れてを繰り返しての、とにかく鍋奉行として忙しい食事だ。汁が足りなくなったら追加してもらう。

 一時間は食べ続けて、全員腹が八割満たせた所で、〆はラーメンかうどんと聞くと、ダンはキョトンとしてる。

 

「鍋は具を食べ終わったら、旨味を吸った汁に麺を入れて食べるんだよ。米を入れて雑炊にする家もあるけど、俺は麺の方が好きかな。ダンが選びなよ」

 

「そうなんですか。余さず食べる良い知恵ですね。ではうどんをお願いします」

 

 店の人にうどんを五人分頼んで、よく煮てからみんなでうどんを分け合って、汁まで残さず食べ切った。

 支払いはオンさんに任せた。これだけ食って札二枚でおつりがあれば、まあまあ安い方だろう。

 熱い物を食べて温まった体に夜の風が気持ちいいい。

 

「みなさんと鍋を囲むのがこんなに楽しくて、温かくなるとは知りませんでした」

 

「私も楽しく食事が出来て良かったよ。次はチームの皆で食べようじゃないか」

 

 なんかいい話っぽく纏めてるけど、動いたのは俺なんですけどねえ。オンさんに家事その他は期待しないでおこう。

 ホテルに帰って、風呂でサッパリして、三人ともそのまま夜更かしせずに寝た。

 翌日は新幹線に乗る昼まで短い時間で大阪観光して、タコ焼きを食べたり土産を買って楽しんだ。明日から期末試験だけど何とかなるか。

 

 

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