変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第36話 年末年始の過ごし方

 

 

 年末最後のG1ホープフルステークスから二日経った、十二月三十日の朝。

 俺は髭トレーナーと一緒に、名古屋行きの新幹線に乗っていた。二人なのは大きな理由じゃない。

 たまたま髭が帰省する実家が岐阜と同方向だから、じゃあ途中まで一緒に行くかという話になって、席が並んでいるだけだ。

 それと、どうせ新幹線は名古屋までだから、実家が経営している喫茶店に寄って飯を食って行けと誘われた。勿論ご馳走になると快諾した。

 

 二時間で名古屋に着いた。関西に行く時に何度も通っているけど、名古屋に降りるのは随分久しぶりだ。

 髭の実家の喫茶店は駅からちょっと離れてるから、それまでは歩く。今日は私服でニット帽を被ってるから、たまに首をかしげて怪しむ奴は居ても、誰もG1ウマ娘とは気づいていない。

 駅から歩いて十分足らずの所に髭の実家があった。外見はガラス張りで三~四十年は経ってる結構古くからやってる喫茶店だった。

 

「ただいま、帰ったぞー」

 

「あら、おかえりなさい大河。まあまあ、可愛らしいお嬢さんも一緒ね」

 

 俺の母より結構年上の、エプロン姿の女性がお盆を手に礼をする。歳と距離感で髭の母親と分かる。

 

「アパオシャです。トレーナーにはとてもお世話になってます」

 

「まだ中学生なのに礼儀正しくて良い子ね。ささっ、好きな席に座ってね。うちは喫茶店だから、あるものなら何でも食べていいわよ」

 

「じゃあコーヒーと、小倉トーストの生クリーム入り」

 

「あら、もしかしてこの辺の子なの?」

 

「こいつは岐阜の笠松育ちなんだよ。あっちもモーニングは盛んだから」

 

 髭の母さんは納得して、厨房で注文した料理を作ってくれた。

 出てきたのは焼いたトーストを斜め切りしてあんこと生クリームを挟んだ、愛知の名物料理『小倉トースト・生クリーム足し』。髭も同じものが出てきた。

 二人でトーストを齧る。あんこと生クリームの甘さが口いっぱいに広がって幸せだ。

 俺にとっては二年ぶりの味だ。東京のトレセンでは自分で作らないと食べられないから、すげえ美味く感じる。

 岐阜は名古屋に近いから、喫茶店に行くと大抵これが置いてあるぐらい、認知された料理だけど、クラスメイトは誰も知らなくてカルチャーショックを受けた。

 『あんパンでいいじゃん』と言われたけど違うんだよ。トーストにあんを塗らないとダメなんだよ。

 懐かしすぎてバクバク食べて、苦めのコーヒーで甘さをさっぱり流した。

 髭母は俺の食べっぷりに、ナポリタンも食べるか聞いたからお願いした。

 ケチャップたっぷりのウインナー入りナポリタンの大盛りが出てきた。―――うん、この麺のクタクタ感が喫茶店のナポリタンで良いな。

 

「まあ、まあ。さすがウマ娘はいい食べっぷりね。そういえば何年か前にもあんたが生徒を何人か連れてきたわね。確か綺麗な黒髪の子と茶髪の子が二人だったかしら。ほら、ダルマの髪飾りをしてた子」

 

「あー確か関西にレースに行った時に途中下車して、飯を食べに来たんだったな」

 

 茶髪二人はオンさんとフクキタさんかな。まだバクシさんがチームに入る前の話か。

 

「うちの子は女の子を連れてくるのは良いけど、みんな教え子なのがねえ………」

 

「生徒の前でそういう話はやめろよ!!」

 

「モグモグ……ヒゲって結婚とかしないの?」

 

「お前も乗るなよ……今はお前達を育てるのが楽しくて仕方が無いんだよ。だから結婚はまだ考えてない」

 

「アパオシャちゃんがお嫁に来てくれるとか?」

 

「無いです。うちのトレーナーは尊敬出来るかっこいい大人だけど、そんな事考えた事も無い」

 

 つーか髭はもう今年30歳になってて、親ぐらい離れた相手にそんな気になるかよ―――――いや、カフェさんは何か髭を見る目がちょっと熱っぽい時があるけど、たぶん気のせいだろう。

 

「おふくろも子供に何を言ってるんだ。………教え子に尊敬してもらえるのは教育者として嬉しいけどな」

 

 急にデレるなよ。髭がそんなこと言っても可愛くないからな。

 

 髭の実家の喫茶店には二時間ほど滞在して、色々髭の話をしたり、聞かせてもらった。ナポリタンの他にもカレーを御馳走になって腹も満たされた。

 お代は息子の教え子なら身内みたいなものだから、受け取らないと言われた。今度何かお土産を持って行こう。

 名古屋駅までは髭に送ってもらい、電車に乗った。笠松まではあと二十分ぐらいだな。

 

 笠松駅を降りた。相変わらず、人気があんまり無い田舎の駅だな。東京の駅は全然違う。まあ一年と半分なら大して変わらないか。

 家まで歩いて十五分。寒いけど我慢我慢。

 歩いた先の、表札に『南』と書かれた、小さめの一軒家は最後に見た時と全然変わってなかった。

 

「ただいまー」

 

 脱いだ靴を整えて居間に行くと、いつものように父さんと母さんがそこには居た。

 

「ああ、おかえり。レースは何度か見たよ。よく頑張ったな」

 

「おかえりなさい涼花。久しぶりだから何を話していいか分からないわね。お昼ご飯はもう食べたの?」

 

「トレーナーが名古屋の実家の喫茶店で食べさせてくれたよ。だから、夜まではいいかな」

 

「あらそうなの。じゃあ、お母さん達も今度行ってお礼を言いに行った方が良いわね」

 

「そうだな。名古屋なら近いから、土産の一つも持って行くか」

 

「それは任せるよ。兄さんは今年は帰ってくるの?」

 

「光太郎は今年は大学の研修があるから帰れないと言ってたぞ。そう言えば涼花は札幌で会ってたな」

 

 いきなりでビックリだったよ。あれでデビューレースの後のウイニングライブは微妙に恥ずかしかった。

 あー札幌か。デビューしてからもう半年近く経ったのか。

 

「あの時のライブも動画で見たわ。ダンスは良かったけど歌と笑顔はまだまだね」

 

「そこは昔から変わらなくて、笑うべきか困るべきか母さんと話してたよ」

 

 ダンスはともかく歌はあんまり好きじゃないし、もともと俺はレースがしたいだけで、ライブはそんなにやる気なかったのは二人も知ってるくせに。

 そもそも俺を笠松レース場の幼年クラブに通わせたのも、男みたいな格好と口調を心配して、ライブでオシャレをさせて少しでも女の子らしくさせるためだったからな。

 結局その目論見は殆ど効果を成さずに、もっぱらレース熱に費やされた。おかげで中央トレセンまで行けるんだから結果オーライだろ。

 

「今じゃその娘も街で二番目に有名なG1ウマ娘か。職場でも末は無敗の三冠ウマ娘だーなんて言われて、嬉しくもあり期待され過ぎてちょっとなぁ」

 

「町内会でバスツアー組んで応援に行こうなんて話も出てるのよ。オグリキャップさんの時もそうだったから」

 

 あーそんなこともあった。俺が見たのは京都のマイルチャンピオンシップの時と、愛知の高松宮杯の時は電車で見に行った。

 期待するのは勝手だけど、そう簡単に中央のレースは勝てないぞ。素人さんは無邪気で羨ましいと思ったけど、俺もオグリキャップさんの時に同じことしてたから、そういうものなのかな。ゴルシーの気苦労がちょっと分かる。

 

「あと、たまにグッズは無いのか聞かれるんだ。そのうち出るのか?」

 

「それはURAの領分だから俺は知らないよ。G1勝ったからそのうち作ると思うけど、先に売れそうな方から作ると思う」

 

 ゴルシーとかゴルシーとかゴルシーとかな。というか俺のグッズ作って売れるのか?可愛くないから、あんまり売れないと思う。

 

「そうか、出来たら良いなあ。さて、話す事も多いけど今はゆっくりしなさい。母さん、夕食は涼花の好きな物を作ってあげて」

 

「何が良いかしら?」

 

「まずはうちの味噌汁が飲みたいよ。東京の味噌は何か違う。あと肉」

 

「ふふっ、肉はともかく味噌汁はお兄ちゃんと同じこと言うのね。じゃあお肉で色々作りましょう」

 

「今日は米もたっぷり炊かないとな。母さんと二人だとあんまり米が減らないんだよ」

 

 家にいた時は高校生の兄さんも沢山食べたけど、俺の方が食ってたから、二人とも居なくなったらそりゃ食べないわ。

 トレセンの忙しくも楽しい学校生活も好きだけど、こういうゆったり時間を過ごすのもやっぱり良いね。

 

 

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