変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第37話 新年のレース

 

 

 実家に帰ってからはダラっと過ごして気を抜いてる。元々年末にレースをしたばかりだから、トレーニングはジョギング程度で済ましている。

 大みそかは家族と近所の寺に除夜の鐘を突きに行き、小学校の時の同級生に会ってもみくちゃにされた。そりゃあ同級生がテレビやネットに出ていれば蟻みたいに集るか。

 あと勝負服から『アラジン』とか『ランプの魔神』扱いされた。多分そう言われると思ってた。

 正月は雑煮を食べてお年玉を貰ってまったりしていると、テレビに俺が映ってた。ジュニア期の新星の一人として紹介されてる。

 

「おおっ!涼花が紹介されてるな。正月から娘の姿をテレビで見られるなんて思わなかった」

 

 父さんが喜んでるのは良いけど、何年も会ってない親戚とか、寄付を求める団体が急に家に来るのが困ると母さんがボヤいてたから、こんなに有名になるのはちょっと嫌だな。

 俺のレースシーンが終わって、ジュニア世代の四つのG1レース勝者の特集に移った。

 レースの開催日順に、ゴルシー、ナリタブライアン、ハッピーミーク、俺の主な戦績をつらつら流してる。

 

 ≪ゴールドシチー≫

 

  デビュー戦            五着

  未勝利戦             一着

  サフラン賞      一勝クラス 一着 

  東京スポーツ杯ジュニアS  G2 一着

  阪神ジュベナイルフィリーズ G1 一着

 

 ≪ナリタブライアン≫

 

  デビュー戦              一着

  函館ジュニアステークス     G3 三着

  アイビーステークス       OP 一着

  デイリー杯ジュニア       G2 一着

  朝日杯フューチュリティステークスG1 一着

 

 ≪ハッピーミーク≫

 

  デビュー戦            三着

  未勝利戦  ダート        一着

  新潟ジュニアステークス  G3  三着

  京都ジュニアステークス  G3  二着

  全日本ジュニア優駿 ダートG1  一着

 

 ≪アパオシャ≫

 

  デビュー戦           一着    

  芙蓉ステークス     OP  一着 

  京都ジュニアステークス G3  一着

  ホープフルステークス  G1  一着

 

 

 こうしてみるとジュニアG1勝者で全勝は俺一人だったか。ただ、最優秀ジュニアウマ娘はナリタブライアンだった。一敗してもG3入賞しつつG2に勝ってるのが評価対象になったのかな。

 そして世間つーかテレビの取り上げと人気度はゴルシーが頭一つ抜けてる感じ。まあ、あいつはテレビ栄えする外見だから注目を集めやすいんだろう。本人は嫌がるし、怒るから言わないけど。

 あとハッピーミークが何気に凄い。俺には負けてるけどダートで優勝してるし。

 負けたと言えば、ナリタブライアンに負けて二着だったクラチヨさんがちょっとピックアップされてる。マイルG3のアルテミスステークスに勝ってたからか。ビジンやセンジもちょっとだけ映ってたり、名前は出ている。

 ジュニア期はここで終わり、映像はクラシック世代に移る。三冠やティアラ以外にもNHKマイルとジャパンカップを勝った≪怪鳥≫エルコンドルパサー先輩や、昨年最優秀ジュニアウマ娘を受賞しつつも、骨折からの長期治療を経て有マ記念を制した、不屈のグラスワンダー先輩などのダイジェストが流れている。

 ダートはスマートファルコンという先輩が猛威を振るってG1をガンガン制覇してた。何だこの人は、やべぇ。

 シニアも復活したサイレンススズカさんや、スプリンター勢の王座交代劇などを脚色して流してる。うちのバクシさんがどんな人か知ってると、外からはこう見えるのかと何となく笑える。

 カフェさんの凱旋門賞挑戦と骨折の事も触れてたけどテレビを消した。外野がどうのこうの言うのは見る気がしない。

 

「涼花はこの後はどうするんだ?父さん達はショッピングモールで福袋を買いに行くが」

 

「家でゴロゴロするのも飽きたから、レース場を見に行くよ。正月は特別レースやってるから」

 

「あなたもお正月はちびっ子レースで走ってたわねえ。じゃあお昼ご飯はそこで食べておきなさい。あそこのどて煮が好きだったんでしょ」

 

 そう言って母さんが二千円くれた。

 貰った札を財布にねじ込み、スマホとコートを持って出かける。おっと、帽子も忘れずに。

 笠松レース場は家から歩いて二十分ぐらいの所にある。途中で小さな子供を連れた夫婦や、酒の入った爺さん連中がレース場の方へ歩いて行く。

 この光景も相変わらずだな。そこそこ田舎だから、正月には色々催し物があるレース場に集まりやすい。

 

 レース場は一年半前に見た時と全く変わっていなかった。入り口の所々剥げた看板とか、東京レース場とは比べ物にならないぐらい小さな入場口。今日は正月だから無料開放されてて素通り出来た。

 入ってすぐに良い匂いを漂わせる露店が出てた。焼き鳥、串カツ、おおぅ、味噌のどて煮だ。どれも一本百円でお安い。早速どて煮串を三本おばちゃんから貰って食う。追加で買った串カツはどて煮の鍋に突っ込んで味噌味にして食う。こっちも美味い。

 

「あー懐かしくてうめえ」

 

「はははありがとね、お嬢ちゃん。友達の応援に来たのかい?」

 

「んー近所だから見に来ただけで、知ってる子か分からないよ」

 

「おや、近所……あぁ!覚えてるよ。アパ―――んぐ!」

 

「わりぃおばちゃん。今日の主役は俺じゃないから」

 

 手でおばちゃんの口を塞いで声を殺す。気付かれてはいないな。

 やっぱり地元だとまだ顔を覚えている人は居るか。俺が目立ちたくない事を分かってくれたおばちゃんは頷いて、一本串カツをサービスでくれた。人情が腹に染みるね。

 ついでにどて煮丼ぶりと味噌田楽も買ってレース場へ行く。相変わらず小さなダートコースだ。スタンドも所々外壁に亀裂が入っていたり、手すりには錆が浮いてる。座席も安っぽいプラスティック製で、夏は暑くて座れそうにない。

 オグリキャップ先輩のグッズ販売のおかげでかなり潤って、ライブ会場や照明なんかのナイター設備を新設したけど、まだまだ手を付けられない場所は多いな。

 

「お嬢ちゃん、正月だからお餅のおすそ分けだよ」

 

 レース場のジャンパーを羽織ったおじさんがビニール袋に入った小さな紅白餅をくれた。名前は知らないけど何度か見た事ある人だ。

 

「ああ、ありがとう。今日のレース表はまだある?」

 

「正月用のパンフレットはあっちにあるから、好きに持って行きなよ」

 

 指さす方にパンフが積まれてる。礼を言って机の上にあるパンフを手に取ってスケジュールを確認。小学生以下の自由参加ちびっ子レースはもう終わって、それから昼過ぎに大食い大会を挟んで、正月レースが距離別で三回。ウマ娘トークショーをして、クイズとビンゴ大会か。

 子供の頃もこんな感じで、イベント的な面白さ重視の正月レースだったな。

 レース場は砂を均してから机と山になった紅白饅頭を用意している。あれが大食い大会の会場ね。時間までに饅頭一人30個を最初に食べ切った人が勝ちか。

 パンフには飛び入り参加も可とある。ここでクイーンちゃんやシャルさんなら喜んで参加すると思う謎の信頼感があったが俺はやめておこう。

 

 席に座ってどて煮丼を食べていると、大食い大会が始まった。

 十人ぐらいの参加者が横並びで席に就く。殆どは成人男性だけど、二人はウマ娘だ。常人がウマ娘に食欲で勝てるかと思ったけど、二人の饅頭は他の参加者の二倍の量が置かれている。ハンデ戦ってわけか。

 それとウマ娘の一人に見覚えがある。幼年クラブの先輩だった人だ。今は笠松トレセンで走ってるのかな。

 大食いが始まってみんなバクバク饅頭を食ってる。応援の声はレースに匹敵する。みんな勝負事は何であれ大好きなんだね。

 勝負が始まって既に三人の動きが鈍ってる。甘い物の大食いは何気にキツいんだよ。アメリカなんかの大食いはホットドッグやハンバーガーだから結構数を食えるけど、饅頭みたいな重めの甘味は舌が鈍るし腹に溜まる。

 半分の男達がギブアップする中、ウマ娘二人は快調に饅頭を減らしていく。ヒートアップするギャラリー。君らレースより盛り上がってないかい?

 トップを走る男の人は既に25個を食べているが、甘味にやられて相当苦しそうだ。対して、ウマ娘二人は40を少し超えたぐらい。ハンデがあると結構いい感じの勝負になってる。

 二人のウマ娘の目が合い、互いにスパートをかけ始め、食べた数は一気に50個を超えた!死にかけの男達をごぼう抜きして、逃げ切りを図る28個を平らげたトップの男を猛追する。いったい何が挑戦者達をそこまでさせるんだ。

 トップの男の手が二つの最後の饅頭に触れた。人がウマ娘に勝つ瞬間が見られるかもしれない。観客の興奮は最高潮に達した。

 男は両手の饅頭を交互に齧り、着実に小さくしていく。驚異的な速度で追い上げるウマ娘二人も55個目で明らかにペースが鈍った。ようやく甘味の辛さが効いてきたか。それでもただの人間に負けてなるものかと、無理矢理小さな口に饅頭を放り込んで、咀嚼して減らしていく。

 観客は既に声を抑え、勝負の行く末を見守る中、ウマ娘の一人の手が止まり、机に突っ伏した。

 あとはトップ男と、先輩ウマ娘の一騎討ち!逃げる男は残り半分。先輩はあと2個だが咀嚼するスピードは数倍速い。

 ダートの上で繰り広げられるスイートデッドヒートを制したのは―――――――

 

「現役トレセン生から逃げ切ったーー!!新春大食い大会の優勝者は安田さんだーーーーー!!!」

 

「「「おおーーーーーーー!!!」」」

 

 ハンデがあるとはいえ人がウマ娘に勝った。スタンドは大喝采が起き、優勝者の安田さんは負けた先輩ウマ娘とがっしり握手を交わした。

 勝負が終われば互いの健闘を讃え合う。なんて美しい勝負なんだ。

 優勝者の安田さんには賞品として『笠松レース場の一年間フリーパス』が贈られた。二位の先輩ウマ娘には饅頭型クッションが贈られて、苦笑いで受け取った。

 

 大食い大会が終わると、次はいよいよ正月特別レースが始まる。

 スタンドには食い物を持ったウマ娘が大勢来た。俺と同じぐらいの年や、幼年クラブぐらいの小学生も結構いる。あっ、通ってたクラブの小松先生だ。挨拶しておきたいけど、レースが終わってからの方が良いな。

 あぁ、同居者が勝手にダートを走り始めた。あいつ、昔から芝よりダートの方が好きだったからな。まあ、足跡付かないから良いけど、久しぶりの砂ではしゃいでるよ。

 レースは800、1200、1600メートルの三戦。非公式のお祭りレースだから賞金は出ないが、走る側は結構本気だ。

 出走者は見た顔もいるが、知らない顔の子がずっと多い。クラブだって全員がトレセンに行くわけじゃないんだし、他県からも来ていれば当然かな。

 レースは結構盛り上がってる。中央の子と比べたらお世辞にも速くも無い、フォームも粗いが、ウマ娘と観客のレースへの情熱は同じだ。

 三度のレースが終わり、ウイニングライブのためにみんな移動するのを見計らって、かつての先生に近づく。

 

「小松先生。口に手を当てて後ろを向いてください」

 

「えっ?……むぐっ!!」

 

 先生は口から洩れそうになった俺の名を必死で抑えた。

 

「先生、どうしたの?」

 

「……何でもないわ。みんなは先にライブ会場に行っててね」

 

「?はーい。先生も早く来てねー」

 

 未来のスターウマ娘達は不審に思いつつ、ライブを見に行った。

 俺と先生はスタンドの隅っこに座る。

 

「アパオシャちゃん、笠松に帰って来てたんだ」

 

「お久しぶりです小松先生。相変わらず生徒に慕われていますね」

 

「あなたも相変わらず、ライブより走る方が好きみたいね。元気みたいだから安心したわ」

 

 先生は朗らかに笑う。幼年レースクラブを開く前は名古屋トレセン学園のダンス教師だから、レース指導はオマケに近い。それでも基礎技術を教えてくれたこの人には感謝している。

 

「最近は笠松もあなたの事で持ち切りよ。私も教え子がG1ウマ娘になったから、引っ切り無しに指導の連絡や記者の面会があるのよ」

 

「目立たないようにしてて正解でした。名乗り出たら、せっかくの正月イベントが俺のワンマンショーになってた」

 

「そうねえ。残念だけど中央で活躍するあなたと、ここの子達とは注目度が天と地ほど差があるもの。邪魔をしてはいけないわ」

 

「――――東京は面白い所ですよ。俺より強い人が幾らでもいる。俺と同じ人も……マンハッタンカフェさんも見えてる人でした」

 

「えっ、あのシニアの長距離四冠が?だから同じチームに居たのね。笠松の人はみんな驚いていたわ。うちから出た子がいきなり中央のトップ3チームに入ったんだもの」

 

 先生は驚きつつも納得した。先生は家族以外で俺の同居者の事を信じてくれた数少ない人だ。

 

「その上ジュニア無敗のG1勝者。URAの規定でオグリキャップさんの果たせなかったクラシック三冠を、って声は大きいわ」

 

 人がどんな夢を見るかは勝手だけど、それを人にまで押し付けるのは筋が違う。先生はそんな事を思ってるんだろう。

 かつてオグリキャップ先輩は笠松トレセンで走り、後から中央トレセンに移籍した。その時にクラシック登録をしてなかったから、日本ダービーのようなクラシック三冠を走る事すら叶わなかった。

 実際あの人は『怪物』という二つ名に相応しい実力があった。途中参加でありながらG1四冠達成、URA年度代表ウマ娘にも選ばれた。

 だから笠松の人は思うのだ。『もしオグリキャップが日本ダービーを走っていたらきっと勝っていた』

 その想いと夢を引き継げるだけのウマ娘が本当に現れたら、その時は正気ではいられないんだと思う。

 

「……本音を言えば笠松に留まって走る所を見たかったけど、あなたにここは狭すぎるものね」

 

「今からでも3000メートル超のレースを作ってくれたら考えても良いよ」

 

「無茶言わないの。アパオシャちゃんのスタミナに付き合える子は中央にしかいないわ。あの特別レースでそれがよく分かったの」

 

 あー俺が無理言って3200メートルのレースを走った奴か。あの時は1対4で、クラブの子が800メートルを四人リレー形式で俺一人と競ったレースだった。結果は俺の圧勝。

 笠松じゃ意味の無いスタミナだった。それどころか地方で頭一つ抜けた隣の名古屋でも3000メートルレースなんて無い。だから先生に中央トレセンへの推薦書を書いてもらった。

 

「あの時からオグリキャップの二代目が笠松から出るんじゃないかって話は出てたわ。それだけアパオシャちゃんには才能があった」

 

「先を走った先輩達の事は凄いと思うけど俺は俺。誰かのために走るわけじゃない。勝てるレースを走るよ」

 

「ええ、それでいいわ。他の誰でもない。自分が勝つために走りなさい」

 

 それから一緒にウイニングライブを見て、トークショーを見ながらトンチャン食って、ビンゴ大会をして最後まで当たりが揃わず、参加賞だけ貰えた。

 残った金でもう一回どて煮を食べに行って、サービスしてくれたおばちゃんにサインを頼まれたから、こっそりしてあげた。何気に一番最初のサインだったのを書いた後に気付いた。

 東京に戻ってから、母さんから聞いたが、いつの間にか俺のサインが笠松にあったから、正月に来ていた事がバレで大騒ぎになったらしい。

 

 

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