変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第38話 グッズの話

 

 

 正月休みを満喫して学園に戻ってからそろそろ一ヵ月が経った。

 年が新しくなると周囲の環境もそれなりに変わる。三年間のシニア期を過ごした先輩達はほぼ全員がレースを引退して、普通の高校生になった。これから一年と数か月は勉学を重視して、問題が無ければ学園を卒業していく。

 例外的に優れたレース成績を残し、ウマ娘としての衰えが緩やかな生徒はドリームトロフィーリーグへと進み、さらなるレースを続けていく。今年は≪スピカ≫のゴールドシップさん、≪リギル≫のフジキセキさん、ヒシアマゾンさん、エアグルーヴさんがそれにあたる。

 タイキシャトルさんはレースを卒業して、いずれアメリカの牧場を継ぐために色々と勉強するそうだ。

 うちのオンさんとカフェさんも同じ年だが、オンさんはもう引退してトレーナー業を始めている。残るカフェさんはリハビリをして骨折が完治すればレースを続けられるが、どうもレースへの熱意が薄らいでいるような気がする。最近は『お友だち』もカフェさんの側に居ない時がある。

 いつまでもチームの皆とワイワイやれると思ってたのに、いつかお別れが来ると思うと寂しい。

 そういう時は、笠松の小松先生との話を思い出して、『自分のレース』を勝つ事だけを考えてトレーニングをした。

 それに、チームの仲間のレースもある。

 同年のダンが年明けからすぐにレースに出走した。本人にとって初の重賞マイルレース、G3フェアリーステークスだ。結果は残念ながら一着を逃し、二着だった。勝ったのはハッピーミーク。やっぱり彼女も強い。

 負けたとはいえ初めてのG3で二番なら健闘だ。負けた悔しさは次のレースに活かせばいい。さっそく次のレースに三月中旬のG3フラワーカップを見定めて、練習に励んでいる。

 バクシさんも二日前にG3東京新聞杯を走り、見事に勝った。最近はマイルレースも安定して勝てるようになって、次は中距離だとバクシン!バクシン!言ってる。せめて並走で俺に中距離で勝ってから挑んでね。

 俺も三月初めのG2弥生賞に向けて絶賛トレーニング中だ。今年はクラシック三冠が待っている。一日だって無駄にしていられない。

 

 そんな二月の寒い日の放課後。学園の事務員から所用があると言われて、校舎の一室に連れていかれた。

 部屋に入ると中にゴルシー、ハッピーミーク、ナリタブライアンの同学年の三人と、理事長秘書の駿川たづなさんが居た。

 

「待っていましたアパオシャさん。貴重な放課後に呼び立てて申し訳ありません」

 

「いえ、学園から呼ばれたんじゃ仕方ないです。それで、この集まりは?」

 

「それは今からご説明いたします」

 

 着席を促されたので空いてる椅子に座る。

 駿川さんから冊子がそれぞれ配られる。表紙は――――なるほど、そういう話だったか。

 

「グッズ化計画書か。アタシ達なら当然この話も出てるわよね」

 

 ゴルシーが俺達の代表面して得意げに言う。この面子の共通性は昨年ジュニアG1ウマ娘。一定の功績か人気があるウマ娘なら大抵グッズ化されるから、俺達もURAからその話が来たわけか。

 

「はいゴールドシチーさん。ここに集まった四人は全員が昨年優れた成績を収めた事は、学園とURAが認めています。よってグッズ化により十分な売れ行きが見込めると判断されました。おおよその概要はお手元の資料に纏めてあります」

 

 資料をパラパラとめくってグッズのサンプルを拝見。ウマぐるみに始まって、マグカップ、携帯ストラップ、スマホカバー、ポスター、ブロマイド、缶バッジ、文房具などなど。レース場のグッズショップで見かける基本的なラインナップだな。クラシックに入ったばかりのウマ娘ならこれぐらいだろう。

 それでも普通のウマ娘ならキャーキャー喜んでいつグッズが出来るか聞きまくるんだが、俺達四人だとそんな反応する奴が誰も居ない。

 ゴルシーは元からモデルでメディア露出が多いから、評価されて多少得意げな顔をしてるけど騒ぐほどと思ってない。

 ハッピーミークは元からボーっとした顔であまり感情が表に出ないからよく分からん。

 俺はむしろ、俺のグッズ出して売れるのかと懐疑的な目になってるし、ナリタブライアンは面倒くさそうな顔を隠しもしない。

 

「こんなもの、そちらの好きにしてくれればいい。私はレースを走るだけだ」

 

 ナリタブライアンがぶっきらぼうに言った。

 しかし駿川さんは笑顔のまま圧力を強めたから、ナリタブライアンがちょっと委縮した。

 

「ナリタブライアンさん、そのレースもこうしたグッズがファンの方々に買ってもらえて、運用費に充てられるから走れると認識してください。皆さんに支払われるレース賞金もこのグッズの売り上げの一部です。それが巡り巡って、学園の維持費や生徒の学費諸々になって、日々の充実した練習と三食満足するまで食べられます。それを軽々しく見るのは間違いですよ」

 

「……分かった。なら出来るだけ簡単に説明してくれ」

 

 凄みのある笑顔で迫られたナリタブライアンはビビって折れた。この子って実は結構臆病な性格してるのかな。レースでの負けん気の強さも、繊細さの裏返しなのかもしれない。

 駿川さんは一度咳払いして雰囲気を一掃した後に、柔らかい笑みで説明を続ける。

 グッズの制作はもう少しかかり、実際に発売されるのは四月前後になる。

 ポスターやブロマイドは実際にレースで走っている姿を撮影したバージョンと、ポーズを決めた立ち姿の複数種類を用意するから、後日撮影日を設けるから、その時は学園が協力要請をする。

 俺達個人にも、ロイヤリティーとして売り上げの一部が支払われる契約を交わす事など、かなり踏み込んだ内容だった。内訳は60%が販売店の利益、30%が制作を請け負う企業とURAの分、5%がチャリティー等や福祉団体への寄付、残りが俺達本人の報酬となる。

 税金の控除は全部学園とURAが肩代わりして、明細は六ヵ月に一回俺達に直接渡す。

 レース程ではないが結構な額のお金になるから、こちらも学園が預かって管理する。

 そのための契約書も今渡された。ざっと文章を追うだけで目が痛くなる細かな文章だった。見ても俺には判断しづらいから、後で経験者のトレーナーと先輩達にも見てもらおう。

 

「概要の説明は以上です。あとは質問があれば、今でも後日でも事務室に来て頂ければお答えします」

 

 ……質問は無い。というか今は言われた事を理解するだけで結構一杯だ。

 駿川さんもそれが分かっているので、後は各自のトレーナー達への相談を勧めて部屋から出て行った。

 俺達も部屋を出て部室まで四人一緒に歩く。

 

「グッズと言っても、俺のなんて需要無いから、身内と地元民ぐらいしか買わないだろ」

 

「何言ってんのよ。アンタは結構人気あるっしょ」

 

「俺がー?ゴルシーみたいな可愛い娘なら分かるけどよぉ」

 

「下級生には人気あるみたいよ。ストイックでカッコいいって。そっちのナリタブライアンも同じみたいよ」

 

「そんなものレースには関係無い」

 

「そう言う所がカッコいいって憧れられるっしょ。うちのウオッカだってアンタら二人の事カッコいいって言ってるし」

 

「そんなもんかねえ。ハッピーミークはグッズ出来て嬉しい?」

 

「…ちょっと嬉しい」

 

 殆ど話した事は無かったけど、この子は表情の変化が少ないのと自分から話さないだけで普通の子だな。

 

「なんにせよ難しい事は大人に任せて俺達はレース走るだけだよ。みんなは次のレースとかG1路線決めた?」

 

「アタシはマイル重賞走ってから、クラシック三冠路線行くっしょ!アパオシャもでしょ?」

 

「そうだぞ、俺は弥生賞経由で皐月賞に出る。ナリタブライアンとハッピーミークは?」

 

「私もマイルからクラシック三冠を走る。ようやくあんたに負けた借りを返せるから、今から楽しみにしているぞアパオシャ」

 

「私はチューリップ杯からクラシック三冠出て勝つよ。勝ったらトレーナーも喜んでくれる」

 

 みんなクラシック三冠行きかよ。やれやれ、ちょっとは楽なレースがしたかったな。

 ここにいる連中以外にもクラシックG1を勝ちたい奴は沢山いる。そういう奴等に全部勝たないと優勝して賞金が満額貰えない。

 やっぱり練習して鍛えて勝つしかないか。

 俺達四人はそれぞれのトレーナーとチームの部室に行き、グッズの事は一旦忘れていつものように練習をした。

 

 

 一週間後の二月中旬。ナリタブライアンはマイルG3≪共同通信杯≫に出走。センジとクラチヨさんを捩じ伏せて優勝した。二人はそれぞれ二着と四着で入賞はしたものの、強さの違いを見せつけられる結果になった。

 

 

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