変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第42話 日本ダービー前編

 

 

 皐月賞から一ヵ月余りが経った。あれから世間のレース熱は加速し続けている。

 四月末の天皇賞はフクキタさんやビワハヤヒデさん、ウンスカ先輩も走り、盛り上がったが勝ったのはシニアに上がった≪スピカ≫のシャルさんだった。

 さらに二週間後のヴィクトリアマイルにはサイレンススズカさんが出走。こちらも圧倒的速さで勝った。骨折してなお速さは衰えない強さは凄まじい。本当はバクシさんも四月のダービー卿CTに続いて出走したかったが、安田記念と間隔が狭かったので悔しいが出るのは断念していた。

 しかしうちのチーム≪フォーチュン≫も負けておらず、クラシック三冠とティアラの裏で行われたNHKマイル杯にダンが挑戦。見事に勝ち、メジロ家として恥ずかしくないG1ウマ娘に輝いた。

 彼女はこの勢いのままオークスに出て、ビジンおよび同室のクラチヨさんと直接対決をした。かなりレース間隔が短く、トレーナーのオンさんも難色を示したが、本人たっての希望だったので渋々認めて、体調管理を万全にした。

 実際、中距離適性はあってもマイルばかりを走ってたダンにオークスの2400メートルは長く、三着が限界だった。

 勝者のクラチヨさんもかなり無理をして走ったために、右足を骨折してしまい、長期療養を余儀なくされた。せっかく桜花賞に続いて勝ち、トリプルティアラにも王手をかけた矢先のニュースに、世間は大いに落胆した。秋の最後のティアラ≪秋華賞≫までに完治して走れるようになるか、時間的に微妙な所だ。

 ビジンはまたもティアラG1二着となり、惜しいと言う声にも次は勝つと気丈に振舞ったので、その健気さが世間には受けて、より人気を獲得していた。

 

 さて、五月のG1レースも粗方片付き、最後の目玉となったクラシック三冠の二戦目≪日本ダービー≫が明後日に迫っていた。

 皐月賞で負けた時は、家族や周囲から励ましや慰めの言葉が度々送られてきた。

 

「どんなに強くても負けることだってある」

 

「クラシック三冠はまだ始まったばかりだ」

 

 笠松の人もオグリキャップ先輩がフジマサマーチさんやタマモクロスさんに負けた事を知っている。だから負けた所で罵倒なんてしない。むしろ次はきっと勝てると激励をしてくれた。

 まったく、負けたら手のひらを返すような輩も居る中で優しい事だ。

 そんな励ましの中で、この一ヵ月はひたすらトレーニングに明け暮れて、皐月賞に比べて幾らか速くなってる。さらに日本ダービーは400メートル長いから、多少は俺に有利なレースになると思う。相手がナリタブライアンじゃなかったらの話だが。

 それでも勝つために走るつもりだ。それはずっと変わっていない。

 

「神様も悪戯心を見せてるし」

 

 ともかく結果は出してもらえたしな。スマホを弄びながら、色々と動いてくれたフクキタさんに感謝した。

 

 

 日本ダービー当日。昨日の夜から天気は大荒れで、今も横殴りの土砂降り雨が壁を叩き続けている。遠くでは時々雷の音も響いてた。

 

「いやー今日は絶好のレース日和だな」

 

「えーアパオシャちゃんは雨嫌いだったのに、いつの間に好みが変わったの?」

 

 ルームメイトのウンスカ先輩が耳をペタンと倒して、騒音レベルの雨音を少しでも塞ごうと努力している。

 さっき顔を洗いに行った時は、大半の子が同じように耳を倒すか、寝不足で不機嫌になっていた。聴覚に優れたウマ娘にこの豪雨は安眠妨害に近い。

 

「今日だけは特別ですよ。神様も面白がって雨を降らせたな」

 

「……ふーん。まあ、頑張りなよ。セイちゃんは今日は寮で寝てるから、レースはテレビで見るね」

 

 先輩はそう言って二度寝を始めた。今日ぐらいは寝かせておいてあげよう。

 ジャージに着替えて食堂でたっぷり朝飯食べて、部室に行く。今日のレースは学園の隣のレース場だから、ギリギリまでこっちでトレーニング出来た。

 

 昼過ぎまで本番レースに疲れを残さない程度のトレーニングをして、チーム≪フォーチュン≫は東京レース場に向かう。

 外は相変わらずの雨で傘なんか役に立たないから、全員合羽を着て歩いてる。

 トレーナーが土砂降りの雨を心配して声をかける。

 

「さっきレース場の情報見たら、不良バ場だったぞ。足を滑らせないように気を付けろ」

 

「分かってるよ。雨降りでも走れるようにトレーニングはちゃんとしたからな」

 

 前にも一度滑らせて、危うく負けかけたから心配と同時に、濡れた芝対策もきっちり整えた。さらに念を入れて、転んだ時の対処法も多少だが身に付けたから大丈夫だよ。

 

「うーん、アパオシャさんに雨乞いを頼まれてずっとやってましたが、本当に降ると思いませんでした。私、儀式の才能がありますねっ!」

 

 フクキタさんが雨乞いの成果を信じ始めて調子に乗ってる。チームの皆は内心無いと思ってるけど、実際に雨は降ってるから何も言わない。

 成果も出してもらえたんだから、俺は大変感謝してますよ。

 レース場はG1開催日とは思えないぐらい閑散としている。出店は閑古鳥が鳴いてるし、入り口に人気も無い。今の時間ならG1ウマ娘を見たらスマホ片手に囲むのが普通なのに、この時は誰も居ない。

 東京一帯に大雨注意報と雷注意報が出ているから、出歩くのも嫌なんだろう。それでも気合の入った五万人のファンはとっくにレース場に入っている。

 

「さーて、いよいよ日本ダービーだ。前回は負けたが、今日は勝つぞアパオシャ!」

 

「言われなくとも!」

 

「「「せーの、頑張れアパオシャさん(くん)!!」」」

 

 チームの皆から激励を受け取り、選手控室に行く。

 合羽を脱げば、とっくに勝負服になってる。この雨ならどうせ行きである程度濡れるから前もって着ておいた。

 すぐ後にスタッフに呼ばれてパドックに向かう。

 裏で待っていた出走者の数名が相変わらずの雨模様にイラついて、耳を後ろに伏せたり、耳をあちこち動かしている。

 ナリタブライアンは……いつも通りかな。メンタル調整は万全か。俺の視線に気づくと、顔を別方向に向いてしまった。なまじ期待してただけに、余計に嫌われたな。

 ゴルシーは耳にちょっと元気が無いな。寝不足って程じゃないが、雨音が気になる感じだ。

 ハッピーミークはいつも通りか。この子は結構メンタルが強い。

 おっと、俺の番が来た。今日は18人中の4番。内枠が優位の日本ダービーなら運が良い方だ。

 雨に打たれながらお披露目して、さっさと地下通路を通ってコースに出る。

 ターフは所々に水溜りが出来て、歩くたびに水を吸った重い芝が靴に絡み付くような感覚がする。おまけにこれまで散々に踏み付けて所々芝が剥げ上がってるから、泥も見えている場所が多い。

 これはレース中に何人か滑って転びそうだ。気を付けよう。

 

 

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