変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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 この作品を書くきっかけというか、一番最初に考えたナリタブライアンとの日本ダービーを書き終えて、ちょっと山場を越えた感があります。
 ですがまだまだ書きたい事は沢山ありますので、これまで読んでくださった方々はもうしばらくお付き合いください。


第44話 ワクワクのドキドキ

 

 

 六月上旬。日本ダービーの死闘から十日が経った。今日からようやく練習再開だ。いつもはレースがあっても三日あれば練習をしているが、今回は激戦だったのと最後の大ジャンプにトレーナーが怒り、検査入院と称して病院に叩き込まれた。おかげで二日間暇を持て余す羽目になった。

 反面、その間は記者達の相手をしなくて良かったのは感謝してる。それでもスマホにはレースが終わってから、引っ切り無しに地元の家族や知り合いからお祝いメールやら電話やらが入ってきて、返事をするだけでも面倒臭くなった。嬉しいのは分かるけど加減ぐらいしてほしい。

 笠松にとってはURAの規定で走りたくても走れなかった日本ダービーを、オグリキャップさんの代わりに走り、勝った俺を讃えたくて仕方が無いのだろう。父さんの話では、笠松トレセンや地元のURA直営店に並んだ俺のグッズは結構な売れ行きらしい。あわよくば先輩に次ぐグッズ収入源にして、さらに設備に金を掛けたい思惑があると思う。グッズが売れれば俺にもパテントが入るから良いんだけどね。

 

 それと三日前の安田記念に出たバクシさんは三着入賞に終わった。二着には昨年有マ記念ウマ娘のグラスワンダー先輩が入賞した。

 そして勝ったのはゴルシーのルームメイトの先輩のバンブーメモリーさん。学園の風紀委員長をやってる人で、よく竹刀片手に取り締まりをしている熱い人だ。

 俺も風紀委員長としか知らなかったが、これまでのレース戦績はお世辞にも良いとは言えず、シニア一年目の今回の安田記念まで一度も重賞を走れず、勝ち星も少なかった。それでも諦めずに走り続けて、ようやく掴んだG1勝利に、ゴルシーも大喜びだった。

 バクシさんも素直に負けを認め、次も学級委員長と風紀委員長対決をしようと握手を交わした。

 

 今はそれより次のレースに備えた練習の方が重要だ。ダービーは策が嵌まったのと雨のおかげで勝てたが、そろそろスタミナのゴリ押しで勝てるレベルではなくなった。パワー、スピード、コーナリングなど一つ一つを磨き上げないと簡単に負けてしまう。

 そのため、ひたすらコーナーをロス無しで走る練習を続けている。参考にするのは何度も研究したナリタブライアンの走り。あの重心を低くした低姿勢のまま走り続けるイメージを体に馴染ませて走っていた。

 何度か続けて少し速くコーナーを走れるようになったが、結構ふらついてバランスを崩してしまう。根本的に体幹を鍛えないと使い物にならない。

 トレーナーにバランス感覚を鍛えるメニューを相談していると、いつの間にか明るい栗色の髪をした見知らぬ生徒が練習コースに居て、こちらを見てるのに気付いた。

 

「おーい、そこの子。練習中はコースに入ったらダメだぞ」

 

「あなたがダービーでブライアンさんに勝ったアパオシャさん?」

 

「ああ、そうだけど。新入生?」

 

「新入生のマヤだよ!……うーん、マヤ分かんないなー、どうしてブライアンさんより遅いのに、アパオシャさんが勝てたんだろう?」

 

 初対面で割と失礼な事を言う子だな。ただ、怒るよりも何故そう思ったのか気になり、ちょっと話を聞いてみたくなった。

 

「皐月賞を見て俺の方が遅いと思ったのか?」

 

「ううん。あの時のアパオシャさんはちょっと力を抜いて走ってたから、見てもしょうがないよ。ダービーの時は最初から色々やってたのは『分かった』けど」

 

 全力で走ってなかったのを見抜いていたのか。あのレースで気付けたのはナリタブライアン本人とゴルシーに、うちの髭ぐらいだぞ。何でほぼ初見の新入生が気付けるんだ。

 

「君はマヤノトップガンか」

 

「トレーナーはこの子を知ってるのか?」

 

「ああ、新入生なんだが、4~5月の選抜レースは勝ったがトレーニングをサボりがちで、今月から全レース禁止令を出されてる子だ。トレーナー契約もしてない」

 

「だってレースは楽しいけど、トレーニングは同じ事ばっかりでつまんないんだもん!」

 

 不貞腐れて、柵に上がって足をブラブラさせる。まるっきり子供の駄々みたいだけど、それだけじゃないように思える。

 選抜レースで二度も勝てると言う事は相応の実力は備わっている。走ることかレースで勝つ事は楽しんでいる。

 トレーニングが嫌いなのは単に飽きやすい性格なのか、しなくてもいいぐらい才能の塊で必要無いと思ってるのか、あるいはオンさんみたいに足が弱いのを隠しているのか。

 何より皐月賞での俺の仕込みを気付いた洞察力の高さは驚きの一言。ともかく普通の子じゃないのは確かだ。

 トレーナー連中もこんな才能ある子を放っておくのは、トレーニング嫌いで扱い辛いと思ってるから、関わろうとしないのかな。

 

「トレーニングは辛くて疲れますが、しないと本当に強い人達には勝てません。だから私達は同じトレーニングをずっと繰り返しているんですよ、マヤノトップガンさん」

 

「えー、でもでも、トレーニングなんて一回すればマヤ『分かっちゃう』もん!」

 

 ダンの優しくも厳しい助言も、この子にはあまり効果が無い。

 そしてなーんかこの子の事が分かってきたぞ。

 マヤノトップガンは漫画やアニメに居る感覚で理解する天才タイプだ。それも一回でコツを掴んだり理解してしまうから、大抵が事は出来てしまう分だけ、普通の努力が理解出来ない子だ。

 同じ天才タイプのオンさんなんかは自分で理解しても、再度検証して理論化する事を最後に据えるから何度も練習するけど、この子は自分が分かった瞬間、トレーニングや勉強を終えてしまう。だからサボる子扱いを受けてしまう。

 トレーナー連中がこの子と契約しなかったのはそれに気づけなかったか、あるいは気付いても自分には扱いきれないと思って手を出さなかったんだろう。

 普通のトレーナーじゃ指導は無理だわ。うちの髭はちょっと放任気味だけど、基本を大事にするタイプだし、≪リギル≫の東条トレーナーは管理型だから、この子の性格とは相性が悪い。強いて言えば、個々のウマ娘に合わせた独特のトレーニング法を採用している沖野トレーナーの≪スピカ≫なら上手くやれると思う。

 そういえばイクノディクタスさんがいる≪カノープス≫はとにかくレースに出て実戦で鍛えろなんて、脳筋方法を採用しているとか聞いた事あるなぁ。

 レースが楽しいならレース形式のトレーニングなら楽しいのか?

 ちょっと答えが知りたくなってきた。

 

「じゃあ、俺達と今から走るか?」

 

「えっいいの!?」

 

「おいアパオシャ、この子はレースを禁止されてるから模擬レースはダメだぞ」

 

「俺は走るとしか言ってないよ。ただの並走トレーニングだ」

 

 トレーニングと言い張れば何とかなるもんだ。チームの皆も面白そうだから集まってきて、急遽≪フォーチュン≫全員――――オンさんとカフェさんも参加する――――とマヤノトップガンの八人が、2000メートルのレース形式で走るトレーニングが始まった。

 

 結果は言わなくても分かるだろう。デビュー前のクイーンちゃんを除いて全員がG1ウマ娘の中で、新入生が勝てるはずがない。

 中距離適性の無いバクシさんにも抜かれて、最下位でゴールしたマヤノトップガンは、しかし目を輝かせて楽しかったとご満悦。

 

「すっごいすごーい!!みんな大人のウマ娘でキラキラしてたっ!!マヤちん、ずっとワクワクして『分かっちゃう』事ばかりだけど、今日は全部『分からなかった』!!」

 

 あーやっぱりこの子の洞察力は相当高い。走るたびに新しい事を学んで、すぐに走りに取り入れられる天才だ。

 でも、基礎能力が全然足りないから、俺達にはどうあっても勝てない。センスだけでレースは勝てないのに惜しいね。

 

「どう思うトレーナー?うちのチームで鍛えてみたらどうだ」

 

「才能が文句無しにあるのは認める。ただ、通常のトレーニングを嫌がるのは、俺じゃ扱いきれるかどうかだな」

 

「ではトレーナーくんの代わりに私が一肌脱ごうじゃないか」

 

 オンさんはマヤノトップガンに怪しく濁った瞳を向けて意味深に近づく。

 

「やあやあ、マヤノトップガンくぅん。私達とのトレーニングは楽しかったかい?」

 

「うん!マヤこんなに楽しい時間は初めて!」

 

「フッフッフッフ、それは良かった。ところで私なら君に退屈なトレーニングはさせないで済むんだけどねぇ」

 

「ほんとっ!?」

 

「ああ、本当だとも。私と契約すれば、誰も体験した事の無いワクワクドキドキの体験を約束しよう。キラキラだよぉ」

 

「やるやる!!マヤ、アグネスタキオンさんと契約したいっ!!」

 

「クフッフッフ!契約成立だ。では今すぐ専属契約の書類を書こうじゃないか!」

 

 オンさんは何も知らないマヤノトップガンの手を引いて、学園の事務所の方に連れて行った。

 

「―――――ぶっちゃけ、あれ詐欺の手口だよな」

 

「嘘は言ってないから詐欺じゃないぞ。タキオンなら俺が思いつかないような、傍から見たらドキドキするようなトレーニングとか、キラキラ光る薬を処方してくれる」

 

「タキオンさんは無体な事はしないから大丈夫ですよ。私も新しい後輩が来てくれて嬉しいです」

 

 髭トレーナーはオンさんが指導するから、ちょっと不安だけど大丈夫だろうと思ってるし、ダンは最初から疑いもしない。

 俺が言い出した事だけど、ちょっと後輩ちゃんが哀れになってきたよ。

 

 

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