変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第46話 いつか来る選択

 

 

 八月中旬の札幌レース場はよく晴れて気持ちが良かった。

 去年と同じようにメジロ家の保養所からバスで送ってもらい会場に入る。

 調子は朝から良い。終業式の翌日から保養所でひたすらトレーニングを続けて、実力もかなり伸びた実感がある。

 今日一緒に走るチームメイトのフクキタさんは、いつものテンションで占いをしている。昨日までは人が変わったみたいに、やけに静かにトレーニングに打ち込んでたのは何だったんだろう。

 ともかくみんなはスタンドに行き、出走する俺とフクキタさんは控室に入った。

 

 いつものように体操服に着替えて、ウォーミングアップを済ませてから、静かに出番を待つ。

 スタッフが呼びに来て15番のゼッケンを渡した。今日の出走は16人だから外枠か。北海道のレース場は内側の芝が剥げやすいから、距離のロスと芝の具合で差し引きトントンだな。

 パドック裏は出走する人達の視線が俺に集まり、居心地が悪いと思った。観察する視線の中に一部、忌々しいと感じる敵意も感じた。

 そうか、この人たちは殆どシニアで、クラシックの俺を異分子のように見てるのか。出走表の中には札幌記念を走る同期は俺とあと二人しかいない。その上、G1ウマ娘は俺だけだ。ダービーウマ娘に対抗心以上の嫉妬すら抱いているのかも。

 違うのは4番ゼッケンのフクキタさんだけだな。先輩と目が合うと、何も言わずに頷いたから俺も頷いて返す。今はチームの先輩後輩じゃない。一人のアスリートとして堂々と競い合うライバルだ。

 客への顔見せを済ませてターフに出る。

 去年メイクデビューを走った時より芝が荒れている。少し走りにくいな。

 

 足を少し慣らしてからゲートに入る。今日ぐらいは邪魔をするなと同居者を言い含めてあるから、さすがにアイツも空気を呼んで大人しくしてる。

 一斉に飛び出し、六人が先頭争いをしながら集団を作る。今日は六人が『逃げ』狙いか。ちょっと珍しいな。

 俺は後方13番手ぐらいに留める。フクキタさんはさらに後ろ。

 スタートからの直線は様子見に留め、第一コーナーに入ってから少しペースを上げていく。

 姿勢をやや低くしたままコーナーを曲がる。緩やかなコーナーに沿って小さく曲がってもバランスは崩れない。良い調子だ。練習の成果が出ている。

 そのまま内側から前の一人を抜くつもりだったがブロックされた。さすがにシニアはブロックが固い。

 まだ序盤だから慌てず、コーナーが終わってから直線の外側から、ペースを上げて二人抜いた。

 中間点の1000を過ぎて、1200に到達。さらに第三コーナーに入る時には順位を上げて8番手になっていた。

 いつもより早めにペースを上げても、スタミナはまだまだ七割ぐらいは残ってる。新しい走法のおかげだな。

 

 日本ダービーが終わってから、策を弄せずともナリタブライアンに勝つ方法を模索していた時、トレーナーやカフェさんと一緒に過去の資料や映像を片っ端から調べて、一つの興味深いウマ娘を見つけた。

 かつてオグリキャップ先輩やタマモクロスを下して、ジャパンカップの勝利者になった、アメリカの伏兵≪WILD JOKER≫オベイユアマスターの走法。走行中の上下運動を極端に抑えて無駄を省いた、『流水』のような滑らかな走り。この人の走法を参考にする事を思いついた。

 上下に動けばその分だけ無駄にスタミナを消費して、走行バランスも悪くなる。だから夏休みの合宿中は殆どをバランス感覚を鍛えつつ、フォームを体に染み込ませる事だけに終始して、上半身をブレないように固定しながら走る事を身に付けた。

 ナリタブライアンのように下半身が頑強で、地を這うような低姿勢でも崩れない優れたバランス感覚は俺には無い。ゴルシーのような長い足を使ったストライド走法も、平均的な体格の俺には相性が悪い。

 あるいはオグリキャップ先輩のような柔軟な膝も無ければ、タマモクロスのような負けん気の強い勝負根性だって持ち合わせていない。

 しかし姿勢さえ矯正すれば、ある程度の低姿勢を維持したままコーナリングも無理なく出来て、速く無駄なく力強く走れる。この走法は俺に相性が良かった。

 

 そのままコーナーへ突入。第三コーナー中に追い抜きを仕掛けるも、前を走る『逃げ』集団にブロックされた。最終コーナーに入り、何度か抜こうとしても横に広がって抜かれてくれない。

 まるでクラシックの俺などお呼びじゃないとばかりの排他的行動。なるほど、年下の俺には意地でも勝たせたくないのか。でもな――――

 

「無駄無駄」

 

 内側がブロックされてるなら、最終コーナーの終わりでスパートをかけて、外から一気に抜き去ればいい。多少の距離的ロスぐらい余ってるスタミナ上乗せで何とでもなるんだよ。

 最終直線の外側を走り、邪魔な集団から離れた場所で悠々と先頭を奪取。札幌レース場の260メートルの短い直線に最初に踏み込んだ。まだまだスタミナは十分残してある。

 さーて、このまま終わらないよね、フクキタさん。

 残り150メートルで、空を飛んでる同居者の声が聞こえた。真打登場ってな。

 強烈な足音を鳴らして段々と近づいてくるプレッシャーで背中がチリチリ焼かれるみたいだ。これがシニアG1ウマ娘の圧力。ナリタブライアンの圧力も嫌だったが、こっちも同じぐらい嫌な感じだよ。

 最後の100メートルで残ったスタミナをありったけ注ぎ込んで、足の回転を一気に上げる。追いつけるなら追いついて―――――おい!

 内側の荒れた芝など物ともせずに、フクキタさんが内ラチギリギリから抜きにかかった。

 …待て、なんであの人はお守りや鈴をジャラジャラ付けて、金色のダルマや招き猫を引き連れてるんだよ。

 いや、そんな事はどうでもいい!いくら先輩だからって負けてたまるかっ!!

 

「ふにゃーー!!」

 

「おあああーーー!!」

 

 隣なんて見ている暇はない。ただひたすら勝つ事のみを求めて足を動かし、息を忘れるほどに駆けた末に、俺はとっくにゴールを駆け抜けていた事に気付いた。

 後ろを振り向くと、天を仰ぐ体操服姿のフクキタさんが目に映った。……さっきのはカフェさんやオンさんの時の幻影に似てたな。

 それも重要だが、今は勝ち負けだ。

 電光掲示板には一着に大きく4の数字が出ていた。その上コースレコード≪1:58.4≫を記録。フクキタさんの文句無しの一着入賞だった。

 

「やったー!」

 

「はぁはぁ……くそ、負けた…」

 

 距離の短さは言い訳にはならない。仕込みと割り切って走った≪皐月賞≫の時とは違う。全力でぶつかった結果の初めての負け。

 ……悔しいな。悔しいよ。でも――――

 

「おめでとうフクキタさん」

 

「にゃはは!ありがとうございます。今日はアパオシャさんと一緒に走れて本当に良かったです」

 

 フクキタさんは俺に抱き着く。握手かと思ったから、ちょっと焦った。

 それから勝者の先輩はスタンドに手を振って声援に応えた。

 

 地元出身のフクキタさんがセンターを務めた事もあって、ウイニングライブは大盛況。俺も負けはしたが、先輩と同じステージで歌う経験が出来て、まあまあ満足してる。

 保養所に帰ってから風呂に入って、メジロの方々にお祝いパーティを開いてもらった。

 ご馳走やケーキを食べて、合宿生活にちょっとした潤いを得た。

 そして、今日の主役から一言挨拶があると注目を集めた。

 

「あーあー。ごほん!……えー私、マチカネフクキタルは本日のレースを持ちまして、正式にレース生活から引退します!」

 

「「「えええええーーーーー!!!」」」

 

「なんでっ!?まだ今日みたいに走れるじゃないですか!!フクキタさんならドリームトロフィーでも勝てますよ!」

 

「いえいえ、今日の私は人生最高の走りでした。後はもう衰えていくばかりです。それも全力でぶつかったアパオシャさんのおかげです。今は走り切った満足感で一杯なんです。本当にありがとうございました」

 

 深々と俺に頭を下げた。狼狽えて髭を見ると、全部知ってた顔をしていた。

 

「夏休み前に話を切り出されてな。俺も引き留めたんだが、本人の好きにさせた。今日のレースで負けてたら、もしかしたら撤回するかと思ったが、お前とのレースは多分勝ち負け関係無しに満足してたと思うぞ」

 

「そうだね~。私も今日のレースは凄かったと思うよ。フクキタルさんの同期として結構一緒に走ってるけど、今日ほど強かったレースは無かったなぁ。ちょっとアパオシャちゃんに嫉妬するし、物凄く強い後輩と限界まで競えたフクキタルさんがとっても羨ましい」

 

 パーマーさんが涙声で語る。同期として思う所は多々あるんだろう。

 

「私も……アパオシャさんと走れた……フクキタルさんが羨ましいです……あと一年だけ歳が違えば……私だって」

 

「それは言わない事だよカフェ。みんなそう思う事は一度はある」

 

 珍しくカフェさんの方がオンさんに諭された。

 

「私は今日でおしまいですけど、アパオシャさんアルダンさん、マックイーンさんマヤノさんはこれからも沢山トレーニングして、レースに勝って、いっぱい笑って、楽しんで………たの……しんで…ください」

 

 フクキタさんはとうとう泣き出してしまった。俺も自然と涙が出て止まらない。

 

「お前らもう二度と会えないわけじゃないんだからな。暫くはチームの練習にも顔を出してもらう事も多い。だから戦勝パーティーで泣くんじゃねえ」

 

「アンタだって泣いてるだろうが!」

 

「うるせえ!教え子が怪我無しで無事に引退出来たんだぞ。泣かせろ」

 

 結局チーム≪フォーチュン≫はオンさんとカフェさんを除いて全員泣いた。そしてもらい泣きでメジロ家全員泣いた。

 たっぷり泣いた後はすっきりして、パーティーを続けて次の日は全員寝坊した。

 

 

 G1二冠ウマ娘マチカネフクキタルの引退は九月一日付で世間に正式発表されて、その明るい性格と強さを惜しまれながらも、無事にレース生活を終えた事を祝福された。

 それと同期の引退を傍で見ていたパーマーさんも踏ん切りが付いたのか、十月の京都大賞典を最後に引退する事を決めた。

 

 

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