変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第48話 残暑の中山

 

 

 まだまだ夏の盛りの九月下旬は暑い。

 中山レース場も朝から暑気が強く、汗が背中を伝う。今日は俺がG2オールカマーを、クイーンちゃんが晴れてメイクデビューを果たす。

 よってチーム≪フォーチュン≫は来月すぐに三度目のスプリンターズステークスを走るバクシさんと、練習に付き合う髭トレーナー及びカフェさん以外は全員が応援に来ている。

 さらに親戚という事でメジロのパーマーさん達も同行した。十人を超えたから学園にマイクロバスを借りて、ちょっとした遠足のようになった。運転はライアンちゃんのトレーナーの音尾さんに頼んだ。

 現在午前十時前。クイーンちゃんの出走まであと二時間。

 控室にはクイーンちゃんとサブトレーナーのオンさんに、親戚の中で一番年上のパーマーさんが付いて行く。後の面子はスタンド席で応援だ。

 今はちょうど第一レースのジュニアダート未勝利戦が始まる所だ。

 

「あーあーマヤも早くこんな場所でドキドキするレースがしたいなー」

 

「そう焦る物ではないよマヤノくん。待つほどに楽しみが増すと思いたまえ」

 

「…はーいタキオンさん」

 

「それに私のトレーニングは毎回ドキドキしているだろう?」

 

 ガンちゃんは頷く。この子は普通のトレーニングだと飽きるから、ちょこちょこ趣向を凝らした独特のトレーニングをオンさんと髭が考えて、ガンちゃんに割り振っていた。クイズ大会はともかく、瓦割とかルービックキューブに効果があるか疑わしいが、おかげで毎回面白いと言ってトレーニングを受けてくれたから良しとしよう。

 そして定期的にキラキラ光る薬を処方してもらい、なんかいつも以上にハイテンションになってるガンちゃんを見るけど、本人が嫌がってないからチームメイトの多くは見ないふりをしている。

 

 それからいくつかのレースが始まっては終わり、少数の勝利者と多数の敗者が量産された昼頃に、ようやくクイーンちゃんの走る芝2000メートル、デビューレースの時間になった。

 パドックには次々と緊張する後輩ウマ娘達が姿を見せ、中でも4番ゼッケンのクイーンちゃんが他の子とは明らかに違うオーラを纏っていた。

 観客からは大きな声援が送られた。メジロ家の前評判もあって、あの子の人気はかなり高い。それでも緊張した様子も無いのだから、格が違うというのかな。

 

「やっぱりマックイーンは凄いなー。あたしも来年あそこで緊張せずに走れるかな」

 

「……私はこんなに人に見られて、自信無いよ」

 

 ライアンちゃんとドーベルちゃんは、羨望の眼差しで一歳年上の親族を見る。この二人は意外と自分に自信が無い所があるけど、俺から見たら十分才能あると思うよ。

 それぞれのトレーナーも俺が感じたように優しく諭している。

 

 クイーンちゃんを含めた十名がターフに集まり、落ち着かない様子で足と芝の確認をしている。

 全員がゲートに入り、俺達も固唾を飲んでスタートの瞬間を待った。

 そしてゲートが開き、各ウマ娘がバラバラに飛び出した。

 三人が出遅れても各々のペースでレースを作る。クイーンちゃんは先行して三番手。先頭から四バ身離れて一定のペースを保つ。

 あの子は『逃げ』と『先行』のレースを好むが、メイクデビューで『逃げ』は万が一緊張からオーバーペースになるかもしれないので、終盤までは多少順位を抑え気味に走るように髭に言われている。今の所は落ち着いて言われた事を守ってるな。

 レースは大きな動きを見せず、中間点の1000メートルを過ぎて展開に変化が起きた。

 後方がペースを早めて順位を上げてくる。それに連なって負けじと何人かがペースを上げた。クイーンちゃんはまだ動かない。

 一団が第三コーナーに入り、後方の順位が激しく変動する。ここでクイーンちゃんがジリジリと前に近づいて圧力をかけ始める。

 二番手はそれに気づいてペースが上がり、連鎖的に先頭も速くなって高速状態のレースに変わりつつある。

 第三~四コーナーで熾烈な争いが繰り広げられ、最終直線に入ってすぐに、先団を走っていた子達の足が鈍り始めた。後方でも明らかに数人のフォームが崩れている。

 デビュー戦の緊張からポジション争いで余計にスタミナを使ったり、クイーンちゃんの掛けた圧力でペースを狂わされた前の子が脱落していく。

 ゴールまで残り200メートルの坂道でクイーンちゃんがトップに立ち、二番手との差は一バ身。

 そのままジリジリと差を広げ、二バ身の余裕を見せつけてゴール板を走り切った。

 

「よーし!!いいぞークイーンちゃーん!!」

 

「やりましたね、マックイーンっ!」

 

「頑張ったよマックイーン!」

 

 スタンドのマックイーンコールに、勝者は手を振って応えた。

 それから俺達と観客は、新しいメジロのヒロインの、もう一つの晴れ舞台を見にライブ会場に移動する。

 ライブは盛り上がった。去年の俺の時よりミスも無く、そつなくこなすクイーンちゃんらしい良いライブだった。

 よし、次は俺の番だ。

 そのまま控室に行って、着替えてから昼食を軽めに食べてウォーミングアップを済ませ、いつもより水分を多めに摂取して備えた。

 時間があったから今日のレース表をちょっと見ておく。

 

「クラシックは俺だけか」

 

 札幌記念の時も同年は数人しかいなかったが、今日は俺以外の全員がシニアか。

 そりゃあそうだ。今月にクラシック限定の重賞レースは幾つもあるんだから、わざわざシニア混合のレースに出るような物好きな奴は少なかろう。

 しかし俺は菊花賞に向けて少しでも経験値を積んでおきたかったから、敢えてシニアと走る事を望んだ。それに確実に菊花賞に出てくるナリタブライアンとの前哨レースを避けられるからな。

 反面、確実に勝てる見込みが無いから賞金が減るデメリットもあるけど、菊花賞で負けるよりは損失が少ないと割り切った。優勝賞金、一億五千万と七千万足らずなら迷う必要は無い。

 

 ―――――スタッフが呼びに来たからゼッケンを貰ってパドックに行く。今日は10番だ。

 パドック裏は暑い。それに年上ばかりで居心地がちょっと悪い。その中でも特に目ぼしい人は二人。二年前に世間を賑わせたBNWの二人、ビワハヤヒデさんと、ウイニングチケットさんが目に付く。

 それ以外にも重賞勝利者が多いから、ハードな戦いになりそうだ。

 俺の順番が来てパドックで顔を見せて、さっさとコースに出る。

 今日の芝は暑さでよく乾いて軽い。クイーンちゃんのレースと同じように、今日は高速展開になりそうだ。

 芝と足の具合を確かめていると、一人が話しかけてきた。

 

「ねえねえ!!君がアパオシャちゃん!?あたしウイニングチケットっていうの。今日はよろしくねっ!!」

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

「この前の日本ダービー見てたよ!凄かったぁ。あたしも日本ダービーウマ娘だから負けないぞーー!!」

 

 うーん、バクシさんとはちょっと違うけどテンション高い。でもこの人もG1ウマ娘だから気を付けよう。

 そのウイニングチケットさんを窘めるように、芦毛のビワハヤヒデさんがこちらに来た。

 

「やあ、アパオシャ。妹と対戦する前に君と走る事になるとはね」

 

「ビワハヤヒデさん、あの時はありがとうございました。おかげで日本ダービーでナリタブライアンに勝てました」

 

「ふっ、あれだけの情報でブライアンに勝つのは不可能だよ。つまり君の実力が妹と互角に近かったのが一番の勝因さ。おかげで三冠バならずだが、あの子はそんな事は気にするまい」

 

「ハヤヒデはこの子と仲良いの?」

 

「私というより妹にとって、私達やタイシンのような関係だよ」

 

「じゃあ最高の友達ってことだね!!」

 

 いやー、俺には友達ってほど仲良くないかな。まだゴルシーやビジンの方がお二人に近いからね。

 

「俺とナリタブライアンって、同じレースを走ったら食うか食われるかのライバルなんですけど」

 

「私達だってそうさ。常に相手に勝とうと死力を尽くす、対等なライバルと同時に友人だと思ってる」

 

「そうだよ~。あたしとタイシンとハヤヒデは三人友達でライバルだからねっ!」

 

 今はそういう事にしておこう。それより今日のレースだ。

 ファンファーレが鳴り響き、俺を合わせた18人はゲートに入る。

 ゲートが開いたと同時に駆ける。

 位置取りは基本通りに後方待機のまま、全体を把握する。

 今日は『逃げ』が二人でペースを作っている。その後ろに少し離れてビワハヤヒデさんが先行位置に居る。ウイニングチケットさんは俺のすぐ前だ。

 スタート位置から暫く走り、一度目の坂を通常のペースで駆け登る。前の先輩達とは殆ど差は開かない。俺とこの人達の実力差はさほど無いと思う。

 順位を維持したまま14番手ぐらいで一度目の坂道を登り切った。

 そこから第一コーナーに入る。今日のコースはいつも走ってる2000メートルと違って、下り坂の続く外側を走るから、仕掛け時を間違えないように気を配る。

 ここでウイニングチケットさんの後ろにピッタリ張り付き、風除けに使ったまま一緒に前の3番ゼッケンの人を内側から抜く。さすがダービーウマ娘だけあって、コーナリングも一流だ。

 さらに直線が続き、スピードを維持したまま今度は第二コーナーへ。ここでも速度を上げて外に膨らんだ一人を内から抜く。これで12番手になった。

 コーナーが終わって中間点を過ぎ、そこから先は長い下り坂に入る。そろそろ仕掛け時かな。

 ウイニングチケットさんの外側に移動。下り坂を利用して速度を上げて四人ばかり大外から纏めて抜き、直線が終わる数十メートル前に減速して第三コーナーに入った。現在は8番手。

 前で俺を抜かせまいとブロックする人は一度内に寄せてから、すぐに外に位置を変えて抜く。残り600メートルで7番まで順位を上げる。

 そのままのペースで最終コーナーに入り、最終直線はやや外側に位置取りをする。残り300メートル。

 後ろもペースを上げ始めた。俺も同様にペースを上げて、先行していた二人を外から抜いて五番手で二度目の登り坂へ入る。

 ここで足の回転を上げて、坂で加速しながら二人を抜いたが、内ラチギリギリからウイニングチケットさんがガンガン追い立てて、俺とサンドイッチで『逃げ』の片割れを抜き去った。しかしなんて末脚持ってるんだ。さすがダービーウマ娘。

 だが、あとは先頭のビワハヤヒデさんのみ。あのフワっとしたボリュームのある芦毛は一バ身先にいる。

 俺は二番手。しかし僅差の後続を引き連れて、坂を登り切り、残り50メートルでありったけのスタミナで脚を速めてビワハヤヒデさんを抜いた。

 

「データ通りの突出した強さだよアパオシャ。しかし――――」

 

 隣のビワハヤヒデさんが再加速した!?クソがッ!まだ余力があるのか!?

 それでもここまで来たら負けるつもりは無いんだよぉ。もう一度追い抜くつもりで懸命に足を動かしたが、加速する距離が足りずにその前にゴール板が先に来てしまった。

 荒く息を吐き続けたまま電光掲示板を見る。一着はビワハヤヒデさんの番号。俺がクビ差二着で、三着はウイニングチケットさん。

 あと100メートル長ければ……いや、言い訳はしない。

 

「クソッ!ハァ負けたぁ」

 

「フゥフゥ……君は本当に強い。来年になったら、もう私は勝てなくなってそうだよ。だが、まだ鍛え方が足りない。詰めが甘い」

 

「さすがに姉妹だけあって強さは似てる。なら言われた通り、また鍛えて出直します」

 

 札幌記念に続いて二連敗か。シニアの強さは俺が思ったよりずっと凄い。ただ、負けはしたが今のうちにそれを知っておけて良かったよ。

 

「ああ、その時も全力でお相手しよう。私は今年の有マ記念に出るつもりだ」

 

「うわー!アパオシャちゃん強いねー!!あたし全力で走ったのに追いつけなかったよ」

 

「ウイニングチケットさんも強いですよ。それに序盤は後ろで楽させてもらいました」

 

「今度は負けないから!うおぉー!ハヤヒデにも負けないぞーー!!」

 

 ウイニングチケットさんはレースを走り終わっても、まだまだ元気だった。

 控室に戻って着替えて、ウイニングライブに出た。

 ライブも終わり、着替えてスタンドに行き、チームの皆に惜しかったと労われた。

 

「チームで二連勝といきたかったんだけどなぁ。俺もまだまだ弱い」

 

「そんなことは無いです。アタシ、今日のアパオシャさんのレース感動しました!」

 

「あたしも今日みたいな凄いレースがしたいです!」

 

 ドーベルちゃんとライアンちゃんが俺を慰めてくれる。君達は良い子だね。

 うっし、元気が出た。負けは負けとして受け入れて、菊花賞を勝つ燃料にしよう。

 オンさんが俺に必要なトレーニングプランの素案を既に考えてくれた。少し休んでからトレーニング再開だ。

 

 

 翌週。バクシさんの三度目にして二連覇のかかったスプリンターズステークスは、王者バクシさんが十七人の挑戦者を叩き伏せて、二連覇の偉業を達成した。これで現役最強のスプリンターの評価に、誰も異論を唱えられなくなった。

 

 

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