菊花賞が今週の日曜に迫った十月中旬の肌寒い夜。俺達は美浦寮の前で火を焚いていた。
「やっぱりこの時期はこれだよな」
「ハイでがんす!やっぱり焼ぎだでのおイモが一番だなはん」
目的は暖を取るのではなく、食べ物を焼くためだ。もちろん地面で火を焚くと危ないから、寮のタイキシャトル先輩からバーベキューコンロを借りて、炭火を使っていた。
道具はバーベキュー用だったが焼いているのは肉ではなく、秋の味覚の栗やサツマイモである。
「焼けるまでまだ時間かかるから、先にこっち食べなっしょ」
「柿とリンゴも剥いたから食うし」
ゴルシーが大粒のブドウを、センジが綺麗に剥いた柿とリンゴを勧めたから、俺とビジンは一口摘む。甘くて美味しい。
俺達がこんな夜中に何をやってるかと言うと、お祝いだ。
昨日、ビジンが秋華賞で一着入賞を果たし、晴れてG1ウマ娘になったのをお祝いしたいと、俺とセンジで企画した。ついでに二日前にはゴルシーがG2府中ウマ娘ステークスを勝ったので、オマケで祝う事にした。
普通なら街のどこか店で行えばいいが、菊花賞が今週日曜日にあるから、練習を休んで行くのは困る。昼間にカフェテリアでお祝いも味気無いと考えて、捻り出した提案がトレーニングの終わった夜に、秋の味覚を楽しむ事だ。
そういうわけで近くのスーパーで食材を買ったり、元から親が送ってくれた芋やらリンゴで、ちょっとしたパーティーをしていた。
「あーあーユキノもとうとうG1勝っちゃったかー。これで勝ってないのはあたしだけだし、マジやっばー」
「ボヤくなよ。センジならそのうち勝てるよ。この前のOP戦だっていい走りしてた、来月のアルゼンチン共和国杯も上手くいくさ」
「その前にアパオシャの菊花賞よね。アタシは走らないけど頑張りなよ」
ゴルシーが俺にちょっと複雑な笑みを見せる。ゴルシーは元々クラシック三冠を獲る事を考えていたが、既に皐月賞はナリタブライアンに、日本ダービーは俺が勝った。
その上、次の菊花賞は俺が最も得意とする長距離で、勝ち目がほぼ無いと分かって、予定を変更して来月のエリザベス女王杯を走る事を決めた。それもシニア勢と競う茨の道だが、距離適性でまだ勝ちやすいと、チームの沖野トレーナーと悩んだ末に決断した。
「ああ、ダービーから二回負け続きだから、そろそろ勝つつもりだよ。ゴルシーとビジンもエリザベス女王で良い走りを期待してる」
「今度はシチーさんに勝ぢます!」
「あら、アタシだって負けないっしょ」
憧れて模範したり追いかけるだけなら誰もがする。でも、勝とうと挑む子はずっと少ない。
ビジンの良い所はゴルシーに憧れた上で、勝つ気概を持って競おうとする事だと思う。
ライバルが良い雰囲気になってる間に、炭の中に放り込んである栗を火バサミで一つ取り出して、熱々の外皮を剥いて食べてみる。
「アフアフ……うまっ!!栗は焼けたぞ。食べるひとー」
「「「はーい!」」」
全員が元気よく手を上げたから、二十個ばかり取り出して、熱い熱い言いながら皮を剥いて甘くてホクホクの栗を食べた。
当然だろうが、こんな寮の前で美味しそうな匂いを漂わせていて、食欲旺盛なウマ娘が気付かないはずがなく、寮の方が騒ぎになり始めた。
「―――――こらー!!貴様らこんな時間に何をやってるんだー!!」
最初に怒鳴り込んできたのは、副生徒会長のエアグルーヴ先輩だった。大体予想通りだ。だから言い訳はちゃんと考えてある。
「友達のビジンが秋華賞に勝ったから、門限までの間にお祝いしてます」
「ほう、それは友達想いの良い心掛け――――――などと言うと思ったかぁ!!せめて寮の中でやらんかー!!」
「大丈夫です。寮長のヒシアマゾンさんには許可を得ています」
「なにっ!?ヒシアマが許可したのか」
噂をすれば、寮から荷物を持った人達がワラワラと出てきた。
ヒシアマゾンさんと一緒にルドルフ会長、道具を貸してくれたタイキシャトル先輩、先日の凱旋門賞を二着入賞したエルコンドルパサー先輩やグラスワンダー先輩、コーヒーポットを持ったカフェさん、ジュースを抱えたウンスカ先輩、ライアンちゃんとドーベルちゃん、ダンやクラチヨさんもいる。それ以外にも結構な数の人が何かしら食べ物を持ち寄っていた。
「会長、ヒシアマ」
「そう目くじらを立ててはダメだぞエアグルーヴ。時にはこういうのも良い物だ」
「大丈夫だって。前にタイキシャトルがやった時は、無許可だったから叱ったけど。今度は許可取ったし、火の不始末をしないように水は用意するよう言ってあるから」
「しかしだなぁ……」
ルドルフ会長が出てきたから、エアグルーヴ先輩の剣幕がかなり弱くなった。
ここはもう一つ畳みかけておこう。火の中から三つの丸いアルミ包みを取り出して、皿に乗せてフォークと一緒に三人に差し出した。
「まあまあ、これを食べて落ち着いてください」
「なんだそれはジャガイモか?」
要らないとは言わず、包みを開けて出てきたモノに三人は目を輝かせる。
「ほう、焼きリンゴとは良い物を作ったな。私はリンゴが好物なんだ」
ルドルフ会長は喜んで柔らかくなったリンゴを食べる。ヒシアマゾンさんもそれに続いて、美味いと言ってくれた。エアグルーヴ先輩も最初は躊躇っていたが、二人に合わせるように口にする。
「――――む、これはマシュマロを中に入れたのか。なかなか手が込んでいる」
特製のマシュマロIN焼きリンゴに満足してくれたようだ。
「みんなも芋とか栗は焼けてるから、好きに食べていいよ」
「代わりにニンジンを沢山持ってきました。ここで焼きましょう」
「ソースはエルの特製デース。いっぱい使うのデース!」
「コーヒーも……あります」
「ターボもお菓子持って来たよ!」
「Oh~!!お肉無しでもバーベキューは楽しいデース」
四人だけのパーティーはいつの間にか二十人ぐらいの大宴会になり、各自が持ち寄ったジャガイモやらニンジンなどの野菜を焼いたり、タイキシャトルさんは肉の代わりにマシュマロを焼いてくれた。バナナにお菓子とジュースもある。
単純にビジンをお祝いしてる人の方が少ないけど、これはこれで本人も喜んでいるから良いか。普段はトレーニングとレースばかりかもしれないが、こういう楽しいことだってみんな好きなんだよ。
一通り美味しい物を食べて、盛り上がった。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、ルドルフ会長からそろそろパーティーはお開きと言われて、みんなは素直に従った。
後片付けも済み、みんなが解散した所で、会長達に俺達四人は呼ばれる。
「楽しかったよ。君達四人は競い合いながらも友人として、これからも仲良くしていくといい」
「「「「はいっ!」」」」
ゴルシーとセンジは栗東寮に帰って行った。何事もなく終わって良かった。
ビジンや途中参加した人たちも喜んでくれて良かった。俺も息抜きが出来て満足だ。
ただ、さっきルドルフ会長が友達と仲良くするようにと言ったが、あの人に友人は居るのかと、ふと思う。
無敗のクラシック三冠達成した七冠ウマ娘は尊敬を集めたり、エアグルーヴ先輩のように役職から親しくする人は居る。しかし対等に接する人の話は聞かない。まあ、俺が知らないだけで交友関係は広いかもしれない。
会長に憧れるウオーにもクイーンちゃんやウオカレコンビみたいな友達が居るんだから、同期の友人ぐらい居ると思い直した。
それに今は菊花賞の方が大事だ。トレーニングは順調、心身ともに充実した。来週は必ず勝つ。
「よーし、やるぞー!」