変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第50話 最後の冠のゆくえ

 

 

「………朝か」

 

 そろそろ見慣れてきたホテルの天井を見つめて、寝ぼけた脳みそを少しずつ起こす。

 備え付けのテーブルの上に置いたスマホを見ると、今は午前6時を過ぎたぐらいだ。朝練の時間よりは多少遅い。

 横を見るとカフェさんが静かな寝息を立てている。お友だちもベッドの中に入っている。俺と違って仲が良いね。

 ずっと先輩の寝顔を見ているわけにもいかないから、ささっと起きてカーテンの隙間から外を覗く。

 

「本日は曇りなり。芝は乾いて良バ場でしょう」

 

 日差しも遮られて絶好のレース日和だな。寝間着からトレーニングウェアに着替えて、秋の肌寒い宝塚の町を散策した。

 散歩から帰るとカフェさんが起きてて、着替えてる最中だった。

 

「おはようございます、アパオシャさん……調子はどうですか?」

 

「おはようございます。結構良い感じです。これなら今日の菊花賞は期待してください」

 

 自信ありげな返答にカフェさんは微笑む。『お友だち』も手を振って応援してくれている。

 うちのチームはカフェさんを初めに、フクキタさんも菊花賞を勝った。今年は俺が勝って三人目になり、さらに来年のクイーンちゃん、そのまた次はガンちゃんに繋げたいところ。

 俺も着替えて下の階のロビーに行く。ロビーには既にメンバーが粗方いた。今日は来週に秋天皇賞のあるダンと並走相手のフクキタさん、それにトレーナーのオンさんがトレーニングのために学園に残ってる。

 姿が見えないのはトレーナーだけか。―――と思ったら、奥で新聞を読んでた。

 

「おう、おはよう。調子良さそうだな。飯はいつも通り食えそうか?」

 

 頷くと髭はニッカリ笑い、チーム全員でラウンジに行き、ウマ娘五人で出来たばかりの料理を次々と空にして、ホテルのキッチンスタッフを慌てさせた。

 部屋で準備を済ませ、タクシーでレース場まで送ってもらう。

 阪神レース場は午前中の早い時間帯でも既に人だかりが出来ていた。

 

「見て見て~!!アパオシャさんとブライアンさんのポスターだよ!『黒い王子VSシャドーロールの怪物』だって」

 

 ガンちゃんは俺とナリタブライアンの向かい合う構図のポスターを指差す。お互いクラシックG1の勝者だから一番大きく取り扱ってる。今回は俺が一番人気で、ナリタブライアンは二番だ。

 その次に三番人気のハッピーミークも大きく写ってるけど、この子は可愛らしさ重視だから浮いてるな。

 

「またえらくカッコよくなったじゃないか、王子様?」

 

「やめろってヒゲ、恥ずかしい」

 

 盛り上げたいURAの思惑は分かるが、これは大分持ち上げ過ぎじゃないのか。

 観客も俺を見たら、すぐにスマホで撮影許可を求めてくる。グッズ店には俺とナリタブライアンのグッズがワゴンに山と積んであって、小さな女の子が親に俺のウマぐるみを買ってとせがんでいる。親御さんは買ってあげなさい。そして俺にロイヤリティを入れてくれ。

 観客に適度に親切にしてやりつつ、スタンドに行くと、もう半分ぐらいの席は埋まっていた。

 適当に席を取って暫く未勝利レースを見てから、スタンドを見渡すと笠松の人達を発見した。遠目に父さんと母さんも見つけた。行くとメールを貰ったから、今は気にしない。

 昼はホテルに用意してもらった弁当を食べて、そろそろ控室に行く。むっ――――兄さん発見。大学の友達っぽい人達も居る。京都は近いから来ると思ってたよ。

 控室で体操着に着替えて、ウォーミングアップのためにトレーニングルームに行ったら、ナリタブライアンがもう居た。俺を見ても気にせずランニングを続けてるから、俺も気にせずエアロバイクで汗を流す。

 後からナイスネイチャやハッピーミークも見かけた。みんなこちらに気付いても誰も声を掛けない。張り詰めた空気で声をかけるほど、俺達は仲良くないから仕方ないね。

 適度に汗を流して控室に引き上げ、汗を拭いて勝負服に着替えた。

 レース前の記者会見や雑誌の撮影を除いて、こいつに袖を通して走るのも結構久しぶりだな。

 同居者が「勝てるか?」という顔をする。余計な心配するなよ。

 

「……分かってるよ。そろそろ負けは嫌だから今日は勝つさ」

 

 俺の言葉に満足したのか、隅っこでうたた寝を始めた。こいつは暢気で羨ましい。

 時間になり、パドックに行く。先に居た出走者達は一部を除いて、ちょっと委縮している。原因はナリタブライアンの放つ殺気混じりの威圧感か。出走前でこれとは、やっぱりこいつだけ別格のウマ娘だ。

 生まれた年が違ったら、クラシック三冠獲れる強さがあったと思う。あるいは≪皇帝≫シンボリルドルフに匹敵する記録を建てられたかもしれない。

 おっと、顔見せの時間だ。俺は今日は3番だが、実は2番がハッピーミーク、4番がナリタブライアンというG1経験者が固まった、かなり珍しい順番になっていた。だからか1番のナイスネイチャが超嫌そうな顔をして、パドックから逃げるようにターフに行ってしまった。

 俺も客に顔を見せると、大歓声で迎えてくれた。流石に日本ダービーを勝ってるから、固定のファンが多く付いてきたな。

 おや、チームの隣に≪カノープス≫がいる。あそこの青髪の子と、帽子の子はどっちも初戦を勝ってたな。しかも帽子のホイザって子はレコード出したとか。ナイスネイチャもウカウカしてると後輩に置いて行かれるぞ。

 パドックから地下通路を通ってターフに出る。

 芝の具合良し、足の調子良し、風も弱くて走りやすい。今日はコースを一周半以上走る3000メートルの長丁場だ。

 

「むしろ、ようやく走れるのかな」

 

「何が?」

 

 いつの間にか後ろに居たハッピーミークが首を傾げる。

 

「俺の適性距離。大体3000メートルから得意な長さなんだ。おかげで今まで結構窮屈だった」

 

「そうなんだ」

 

「そういう意味だと、どの距離でも走れるハッピーミークが羨ましい時があるよ」

 

「えへん!でも、得意だからって負けないからね」

 

 お互いに自分の勝ちを信じて、ファンファーレの後に隣り合うゲートに入る。

 十七人の鼓動と吐く息が手に取るように感じられた。

 開いた瞬間に飛び出し、ハナを取った。

 すかさず加速して後続を引き離しにかかる。

 3000メートルの長距離で逃げを打つウマ娘は少なく、俺以外は誰も付いてこない。

 スタートからおよそ500メートルで、最初のコーナーに入った時点で後ろのハッピーミークから六バ身は離れている。

 コーナーで後ろを確認すると、ナリタブライアンは五番手ぐらいにいる。あの顔はちょっと不満そうだな。俺が競り合わないと気付いている。

 第一~二コーナーまではやや速度を落とし気味にして、スタミナを僅かでも温存しておく。その分差を詰められて二番手のハッピーミークと四バ身まで迫られた。

 コーナーが終わってからもペースは上げず、ジリジリと後続との距離が縮まっていく。それでも先頭は譲らず第三コーナーへ突入。背中越しにナリタブライアンの圧力を一段と強く感じた。

 第三コーナーの終わり掛けには、後ろと二バ身まで縮まり、ナリタブライアンは三番手に繰り上がっていた。

 そろそろ仕掛け時と判断して、俺は再度加速を初めて後ろを引き離しにかかる。

 スタンドからはどよめきが広がってる。そうだろう、3000メートルのセオリーで言えばまだ中間点を過ぎた程度で、ペースを上げる時ではない。それでも俺が動いたのは、焦りか作戦か判断が付かないからだ。

 後ろもそう思ってるから、ペースを上げるか迷いが見える。それに以前、日本ダービーで俺がレース全体をかき乱した事は知れ渡っている。何かの策略と思い、警戒心が強まってる。同時に俺のスタミナが他を圧倒するレベルなのも知られているから、余計に迷いが生じていた。

 と言っても今日は策も何も無い、スタミナのゴリ押しでの『逃げ』だけどな。

 選択を迫られた後ろに構わず、ペースを上げてスタート地点に戻ってきた。あと1300メートル程度だが、まだまだスタミナは十分残ってる。

 ここから徐々に加速を続け、後続が焦りでペースを乱し始めたのを確認しながら差を広げていく。

 二週目のコーナーに入った時点で二番手のハッピーミークから八バ身を離す。

 傍からは楽勝ムードに見えても、実際はそこまでの余裕は無い。何しろ相手はナリタブライアンだ。決して侮ってはいけないし、競り合ってもいけない。接戦に持ち込まれたら負けるのは俺の方。絶対に油断せずに広げた優位を維持し続け、最終コーナーを先頭で回り、最終直線に入る。

 残りはあと400メートルを切った!今日は『差し』足を残せるほどスタミナに余裕は無い。このまま少しずつペースを早めるのが一杯だ。

 残り300メートルでスタンドからのブライアン、ハッピーミークコールに、歯を食いしばって加速する。怪物相手に逃げ切れるか危うい戦いはまだ続いている。

 残り200メートルでコールにナイスネイチャも加わった。

 耳を後ろに回して、迫る足音の数と距離を把握する。まだ六バ身差は確保している。……いける。

 残り100メートルで末脚を発揮し始めた一人の足音と、ナリタブライアンのどっしりとした足音がガンガン競り合ってるのが聞こえる。

 あと50メートル。また足音が近くなった。怪物の影に食い殺されそうな恐怖に耐え続けて、残りカスのスタミナを全部使い切るつもりで足を動かす。

 もうゴール板は30メートルだ。

 あと20メートル………焦るな。まだ怪物の牙と爪は届かない。

 もう少しだ。10……5……3メートル。

 ゴール板を駆け抜けたと同時に、スタンドからの大歓声で気が抜けた。

 なまじ勝つ目が五分に近かった日本ダービーより、優位に立ってた今日の方が疲れたぞ。やっぱり同格以上相手の逃げは、姿が見えない分だけ心臓に悪い。

 それでも勝ちは勝ちだ。俺はスタンドを向いて、いつものように空に拳を突き上げて歓声に応える。

 そして横を見ると、多分二着になった怪物が仏頂面で近づく。

 

「よう、怪物。今日も俺の勝ちだ」

 

「ちっ!アンタが逃げを打つのは分かってても、追いつけなかった」

 

「今日は『差し』だったら競り負けてたよ。次はどのレースに出る?」

 

「……有マ記念だ。それまでに鍛え直して、アンタや姉貴に勝つ!」

 

 ふむ、マイルチャンピオンシップやジャパンカップには出ないか。なら今年は―――――

 

「悪いが俺は有マには出ないぞ。年末にもっと面白そうなレースに出るから」

 

「なに?」

 

「≪ステイヤーズステークス≫国内最長3600メートルの平地レースだ。俺にはこっちの方が面白そうに思えてな」

 

 出るか?そういう視線を向けると、ナリタブライアンは考え込んで首を横に振った。有マ記念とステイヤーズSは開催日が近い。両方出るのは不可能ではないものの、難しいから東条トレーナーも反対するはず。

 

「というわけで、また来年走ろうか。今年の年末は姉妹対決を楽しみにしてるよ」

 

「……良いだろう。先に姉貴と勝負をしてから、今度はアンタに勝つ!」

 

 シャドーロールの怪物は割と満足してコースを後にした。

 上手く怪物からの興味を逸らして一息ついた時に、やけに観客が騒いでいるのが気になって掲示板を見ると、コースレコードの表示が見えた。

 

「二バ身差で、3分02秒6か」

 

 確か去年のウンスカ先輩のレコードは≪3分03秒2≫だったな。速攻で記録破ったから、後で何か言われるかもしれない。……ん?もしかして俺が居なかったら、ナリタブライアンもコースレコードだったのか。

 それに、よく見たら三着がナイスネイチャになってる。俺やナリタブライアンには及ばないが、やっぱりあの子もかなり強いわ。

 スタッフにトロフィー贈呈と記者会見があるから呼ばれた。この時間も三回目か。

 

 偉い人からトロフィーを手渡しで貰い、一緒に写真を撮られた。髭も来てインタビューが始まった。

 入りの質問は大体似たようなものだ。誰に最初に喜びを伝えたいと聞かれたから、地元から応援に来ている両親や笠松の人達と答える。

 その後も当たり障りのない質問を答えて、クラシック二冠ウマ娘として次の展望を聞かれた。

 

「次はステイヤーズステークスを考えています」

 

「「「えっ?」」」

 

 意外な回答に記者達が騒ぐ。普通ならジャパンカップか有マ記念を選ぶと思うだろう。カフェさんも菊花賞勝利から有マ記念に行き、春の天皇賞を制して、最高のステイヤーの評価を得た。

 俺がカフェさんと親しいから、同じ道を辿ると勝手に思ってたんだろうが、憧れていても同じ道を歩くとは限らないからな。

 

「…確かにアパオシャさんは長距離が最も得意なようですが、今年の有マ記念を走らない理由には弱いように思われます。あっいえ、決してステイヤーズステークスを卑下する意図はありません。ですが、せっかくのクラシック二冠がG1に挑戦しないのは、如何にも惜しいとファンの方々は思われるのでは?」

 

「そういう意見もあると思いますが、有マ記念はシニアになれば三度走れますから、今年はいいかなっと。後は姉妹対決の邪魔をしたくないという気持ちが強いんですよ」

 

「姉妹と言いますと、もしかしてビワハヤヒデさんとナリタブライアンさんですか?」

 

「はい。あの姉妹が有マを走ると、本人達が言ってたから、これは自分で走るよりギャラリーとして見たいと思ったので」

 

 俄かに記者達が色めき立った。予想通りだ。俺以上に話題になりそうな餌を前にして、貪欲な記者が何もしないはずがない。

 きっとこの後のネットニュースには『世紀の姉妹G1ウマ娘対決』とでもテロップ付けて流れる筈だ。これで俺への記者の張り付きは多少なりとも減らせる。

 

「そういうわけで今年のレース予定は十二月のステイヤーズステークスです。来年はまた今度考えます」

 

「分かりました。ところでアパオシャさんはナリタブライアンさんとの競り合いを避けていると、レース評論家の方の意見も聞こえますが、そこのところは事実でしょう?」

 

 髭の顔がちょっと強張った。まあ、レースを見てると気付く奴は気付くからな。バクシさんみたいに最初から逃げ一択なら、そういう意見もあまり出ないが、俺は『差し』

と『逃げ』を選んでる時点で、判断基準があると思われるのは仕方がない。

 

「それはトレーナーである私の指示です。ナリタブライアンとラストで競り合った場合、アパオシャのスピードでは競り負ける可能性があったために、決して彼女と並ばないように、最初から『逃げ』を指示しました。この子は私の指示通りに走っただけです」

 

「それは正々堂々とレースをする他の競技者への不義理に当たるのではありませんか?今日二着で敗れたナリタブライアンさんも、さぞ無念だったのでは?」

 

 クソうぜぇ質問だな。どうせこっちを怒らせてネタを作りたい三流記者如きの浅知恵だろう。付き合ってやる義理は無いが、『逃げ』っぱなしも気分が良くない。

 

「他の走者は知らないけど、さっきナリタブライアン本人と話したら、競り合わない事は気にしてなかったですよ。『逃げ』と分かってても、俺に追いつけなかった力不足を悔しがってたみたいだけど。それに、『逃げ』を選ぶのは反則と誰か決めたんですか?」

 

「確かに反則ではありませんが、それはスポーツマンシップに反する行為と取られても仕方が無いと思いますよ」

 

「なるほど、つまりあなたはスプリンターズステークス二連覇や高松宮記念を勝った、うちのバクシンオーがスポーツマンシップに反する、相応しくない走者と言いたいのですか?あるいはG1二冠を達成した≪スピカ≫のサイレンススズカさんも『逃げ』の得意なウマ娘ですが、凄い選手すら蔑むんですね。他の記者さん達はこの記者に同意しますか?」

 

 髭が記者達に視線を向けると、何人かは苦笑したり、アホな質問をした記者に嘲りの視線を向けた。誰も味方してくれないアホな記者は逆恨みでこちらを睨みつけるが、レース場のスタッフがウイニングライブの時間になったから質問を打ち切ると、気を利かせてくれた。

 まったく、せっかくの勝ちに泥を投げつけるんじゃねえよ。

 気を取り直してウイニングライブに出て、レース場に来てくれたファンに愛想を振りまいた。ナイスネイチャは違うが、メインが俺とナリタブライアンの可愛くないコンビだったから、客がちゃんと楽しめたか自信は無い。

 

 ライブが終わって、着替えてからスタンドに戻ってきた。なんか髭やチームの皆がニヤニヤしてると思ったら、俺のいない間に両親や地元の人が挨拶に来て、よろしく頼むと頭を下げていったらしい。

 悪気は欠片も無いんだろうけど、そういうのはちょっと恥ずかしいんだよ。

 ……ふう、済んだ事は仕方ないから忘れよう。それに今日はせっかく勝った日なんだからお祝いもしたい。

 

「トレーナー、今日はG1勝ったからお祝いしても良いよな?」

 

「ああ良いぞ――――と言いたいが、ホテルの近辺でマスコミが張ってそうだから、今日はホテルでケーキを頼むだけにしてくれ」

 

 けっ!余計な事しかしないな。まあ、仕方がない。本当のお祝いは明日以降に東京でやろう。

 この後はいつものようにタクシーを呼んでホテルに戻った。そして中でケーキを食べてささやかなお祝いをして、翌日に東京に帰った。

 

 昼過ぎに学園に戻ってから、残ってたチームの三人、クラスのみんな、他にも美浦寮の人達から沢山祝われた。ゴルシーやセンジからも、お祝いとして化粧品とか制汗スプレーを色々貰った。

 夜にはウンスカ先輩から、お祝いに焼き菓子を貰った。昨日のうちに買っておいてくれたみたいだ。

 

「いやー同室の後輩が同じ菊花賞ウマ娘になるとはねー。お互いクラシック二冠かぁ」

 

「でも皐月賞は負けてるから、全くの同じじゃないですよ」

 

「私もダービーは負けてるからねぇ。なんだか不思議な気分だよ」

 

 二人してクスクス笑う。ちょっと違うが同室でクラシック二冠が揃うのはかなり珍しい。

 

「ただ、シニアは結構厳しい所だからね。アパオシャちゃんも来年は覚悟しておきなよー」

 

「はい。先輩は来週の秋の天皇賞でしたね」

 

「チームメイトのメジロアルダンちゃんも出るんだよね。クラシックで出走は厳しいけど頑張るねぇ」

 

 前に聞いたがメジロ家にとって天皇賞は特別重要視するレースらしいからな。ダンも秋華賞を蹴ってでも出ようとするぐらいには重く見ている。

 

「隣ですから、来週は見に行きますね」

 

「応援しに行くと言わないのは、チームメイトを優先させたいからかな――――あー冗談だから本気にしちゃダメだよ」

 

 トレセン学園に居るとこういうことはよくある。友達同士が同じレースでライバルになるんだから、今更恨みっこは無しだとみんな分かってる。

 

「レースですから勝ち負けは納得してますって。まあ、先輩とダンの両方が負けることだってありますからね」

 

「まーねー。シニアってほんと強いから、いい加減私も一勝ぐらいはG1で勝っておきたいなー」

 

 もう二勝してるんだから十分と、俺もウンスカ先輩も言わない。常に勝ちを求める貪欲さを持たないウマ娘は決してレースに勝てないと知っているからだ。

 それでも中央で一度でも勝てるのは、全校生徒の中で一~二割かそこらだ。本当にレースの世界は厳しい。

 

 

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