変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第52話 菊の娘達

 

 

 十二月に入り、寒気が厳しくなり始めた初冬の早朝。

 温いベッドから頑張って抜け出した。

 

「うーん、寒い。……ありゃウンスカ先輩がもう起きてる」

 

 隣のベッドが空になっているのに気付いて、珍しい事もある物だと思った。一緒の部屋になって二年半以上経つけど、俺の方が起きるのが遅かったのは、G1に出走する日ぐらいで、数えるほどしかない。

 俺とのレースを重要視してるのか。

 悪い気はしないが同じぐらい警戒されてるって事だよな。

 気合を入れに、冷水で洗顔すると眠気が吹き飛んだ。

 部屋に戻るとウンスカ先輩がトレーニングから帰っていた。

 

「おはよーアパオシャちゃん」

 

「おはようございますウンスカ先輩。今日は気合入ってますね」

 

「まーねー。同じ部屋の後輩と走るなんて、中々経験無いからさー。スペちゃん達と違った意味で、楽しみにしてるんだ」

 

「お互い勝っても負けても恨みっこ無しですから」

 

「フフフー、簡単に勝たせてはあげないからねえ」

 

 相変わらず緩いけど、この人も強いんだよなあ。

 今日は俺は中山レース場で国内最長距離を誇るステイヤーズステークスに出る。同じくウンスカ先輩もだ。

 菊花賞ウマ娘同士かつ、ルームメイト対決は過去にもなかなか組み合わせが無いため、ジャパンカップの激闘が終わってから、G2レースでもそれなりに大きくメディアに取り上げられていた。

 先週のジャパンカップは歴史に残る大激闘の末に、≪日本総大将≫スペシャルウィークさんが≪欧州最強≫のモンジューに打ち勝った。この快挙に日本中が浮かれた。ゴルシー達≪スピカ≫も暫くは祝勝会のどんちゃん騒ぎに明け暮れていた。

 かく言う同級生のウンスカ先輩もお祝いに色々やってたし、ライバルでも友達を祝える良い人なんだよな。

 それでもレースでは全力で競うんだけど。

 それから一緒に着替えて、食堂で向かいに座って朝食を食べた。

 後はそれぞれのトレーナーやチームの所に行く。

 

「おはよう、クイーンちゃんはよく眠れた?」

 

「はい、おはようございます。レースは二回目ですから、十分眠れました」

 

 今日はクイーンちゃんも中山で一勝クラスのレース≪葉牡丹賞≫があるから、彼女も一緒に行く。

 

「二人とも調子は良いみたいだな。じゃあ、俺達は中山に行くから、トレーニングはタキオンに任せたぞ」

 

「安心したまえ、バクシンオーくんの事はしっかり指導しよう」

 

「二人とも頑張って勝ってください!私もトレーニングを頑張ります!」

 

 バクシさんは今月の阪神カップを控えているから、オンさんと一緒にトレーニング。

 フクキタさんは勉強で忙しく、カフェさんは所用で今日は来ていない。

 あとは応援にダンとガンちゃん、そこにパーマーさん達、メジロの親戚の三人も同伴する。過半がメジロ家になり、いつもと違うメンバーでの遠征となった。メジロ家って仲いいなあ。

 それとシニア三年目のパーマーさんは、十月の京都大賞典を最後に引退した。ラストランの結果は芳しくないが、仕方あるまい。

 

 何事もなく中山に着いた。駐車場は昼前で七割ぐらい埋まってる。

 

「ありゃ、予想より混んでるな。お前とセイウンスカイのレース、結構注目されてるみたいだな」

 

 髭の話ではステイヤーズステークスはあまり人気が無いから、例年は他の重賞レースに比べて観客数も少ないらしい。開催日がジャパンカップと有マ記念の間で、G1級ウマ娘は出場しづらい時期的ともなれば、人気が低いのは仕方が無い。

 今年は新旧菊花賞ウマ娘二人の対決があるから、URAもテコ入れして宣伝してたみたいだし、いつもより賑わってるわけだ。

 グッズ店も俺とウンスカ先輩の商品が殆どで、他のウマ娘の品が隅に押しやられている。

 

「ねーねー、アパオシャさん。セイウンスカイさんはワクワクする人?」

 

「直接走るのは今日が初めてだけど、普段の感じだとなんつーか、結構走り方に癖がある人で、外から見ると面白いと思うよ」

 

「おー!じゃあワクワクする人なんだね!」

 

 ガンちゃんは楽しそうにしてるけど、一緒に走るとやり辛い人だと思うぞ。ジャパンカップ勝ったシャル先輩も結構やられているから。

 それはさておき、昼を食べにレース場のフードコートに行く。そこでカレーやらラーメンを食った。

 腹を満たしたら、レースを走る俺とクイーンちゃんは控室に行き、着替えて一緒にウォーミングアップをする。

 クイーンちゃんの出番は一時間早いから先に上がり、俺はもう少し長めに体を温めてから控室に戻った。

 後輩のレースは気になるが、まずは自分のレースだ。時間までじっくり気持ちを整える。

 

 時間になり、スタッフからゼッケンを貰いパドックに行く。今日は2番か。

 パドック裏の他の出走者達は、言ってなんだがウンスカ先輩を除いてパッとしない。髭の言う通り、有力な選手は軒並みG1の方に行くから、それより一枚実力が落ちたり、生粋のスタミナ自慢しか出ないわけだ。

 しかも俺と先輩のG1バ二人が出るから、今日は出走数が12人しかいない。その分やりやすいからいいけど。

 パドックで客に顔を見せて、ささっとコースに出る。スタンドに居るみんなを発見。クイーンちゃんが俺に笑顔を向けてダブルピースしてる。あの様子なら勝てたな。

 心配事が一つ減って気が楽になった。あとは俺が頑張るだけだ。

 

 早めにゲートに入り、気を落ち着ける。

 ―――――よしっ!スタートはまずまず。そのまま加速して先頭近くを取れるようにキープ。

 予想通り、ウンスカ先輩は坂を登る前にハナを取った。俺はその後ろ一バ身を付かず離れず二番に留まる。

 ウンスカ先輩に勝つには、この位置でマークするのが最適解。俺と髭の意見は一致している。

 去年の皐月賞と菊花賞、今年勝利した重賞タイムを検証した結果、この人は常にレースを支配して、自分以外のペースを操っている節があるのが分かった。

 先頭に立ってペースメーカーになり、時にバ身差を利用して超スローペースでスタミナを温存したり、超ハイペースに付き合わせてスタミナ切れを起こさせる。緩急をつけるクレバーなレースプランニングこそ、この人の最大の持ち味だ。

 つまりそれは、俺と似た走り方が出来るという事。だから対処法も分かりやすい。勝つなら徹底してこの人の後に付いて、最後の直線で抜く。それだけで良いんだ。

 幸いウンスカ先輩以外に警戒するような相手は居ない。単純にスタミナのゴリ押しで勝てるから、後ろは気にする必要は無かった。前評判通り、実質今日は俺と先輩の一騎討ちに近い。

 レースの中盤に、ウンスカ先輩がペースを上げれば俺も追従、コーナーで意図的に脚を遅くすればそれに続く。

 二週目に入っても常に一定の間隔を維持したまま、徹底して二番手を保ち続けた。

 レース終盤になると、もう後ろは付いていけず、俺と先輩の二人旅。だがそれもそろそろ終わりだ。

 最終コーナーを回って直線に入った瞬間に加速。先輩に並び、そして抜き去り先頭に立った。

 単純なスタミナなら、俺の方が上。後はゴールする時に一歩でも前にいればそれで良かった。

 坂に入って足を小刻みに動かし加速。後ろの足音の大きさは変わらない。

 そのまま最後の直線も譲らず、俺が先にゴール板を通った。

 

「……ふぅ。よしっ!勝ったぞ」

 

 スタンドを向き、いつものように拳を天に突き上げる。ファンからの拍手と声援を受けてから、ウンスカ先輩と向き合った。

 

「いやーアパオシャちゃんは強いよ」

 

「今日は先輩のおかげで走りやすかったです。また一緒に走りましょう」

 

「まーそのうちねー」

 

 苦笑して先輩は先に控室に戻った。あの様子はちょっと悔しいと思ってるかな。

 この後は通常通りウイニングライブをして、着替えてからスタンドに戻った。

 トレーナーとガンちゃん、メジロ家の面々も勝利を喜んでくれた。

 

「クイーンちゃんも二勝目おめでとう。やー、チームで連勝して良かった」

 

「ありがとうございます!トレーナーさん、今日は帰りにお祝いしてよろしいですわね!?」

 

「分かった分かった。帰りにケーキを食べて、学園に戻るぞ」

 

「「「わーい!!」」」

 

 みんな喜んで髭に礼を言った。

 帰る時に記者達に捕まって、今日のレースの事を聞かれたから、トレーナーの読みが当たって勝てたと言い、新旧菊花ウマ娘対決は決して楽なレースではなかったと、ウンスカ先輩を持ち上げる。実際一番先輩を警戒しての徹底マークだから、嘘は言ってない。

 その次に多かったのが、このまま有マ記念に滑り込み出走も可能じゃないかという質問。

 こちらには髭が代わりに答えた。

 

「今から調整は難しいですから、予定通り今年はこれまでにします」

 

「それは残念ですね。では次のレースは、やはり長距離の春の天皇賞でしょうか?」

 

「大きな目標ならそうです。ただ、その前に一度か二度はレースを挟んで、調子を見ると思います」

 

「アパオシャさん、春の天皇賞に勝つ自信のほどは?」

 

「菊花賞より距離は長いから、結構有利なレースです。ただ、スペシャルウィーク先輩のようなシニアの先輩達も出ますし、ナリタブライアンが出るなら、かなり厳しい展開になるかな」

 

「なるほど。優位はあっても、油断はしないということですね」

 

 俺は頷く。少なくともウンスカ先輩一人をマークするだけで勝てた今日よりは、ずっと難しいレースになる。それでも勝てる算段はそれなりにある。

 記者達はそれなりに満足して帰って行った。

 俺達も車に乗ってレース場を後にした。

 その帰りには約束通り、美味しそうなケーキ屋を見つけて、みんなで祝勝会を開いて、勝利の味を堪能した。

 

 

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