変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

54 / 108
第53話 姉妹対決のゆくえ

 

 

 ステイヤーズステークスが終わってから一週間が経った。

 そろそろ今年のジュニア期の総まとめになるG1レースが始まる頃だ。うちのクイーンちゃんは出走しないけど≪スピカ≫のウオカレコンビは出ると聞いてる。出来れば勝ってもらいたいね。

 うちの今年の予定は、バクシさんがG2阪神カップをクリスマス前に走るだけになった。レースには髭ではなくオンさんの方が同行する事なってる。その時にオンさんがカフェさんに小声で『貸し一つだよ』と囁いたのが聞こえた。チームでも口には出さなくても結構気付いてる人はいるか。

 でもそれは本人達の問題だから変に茶々を入れるべきじゃないよ。だから俺は何もしない。

 他にチームで、メジロの二人は家関係のチャリティーパーティーに出席するとかで、クリスマスの予定が埋まってる。名門は大変だな。

 フクキタさんは引退した同期の友達とお疲れパーティをすると言ってる。そういう繋がりも大事だね。

 そういうわけで、今の所クリスマスに予定が無いのは、俺とガンちゃんの二人。どうしようか考えていたら、ガンちゃんがナリタブライアンの出る有マ記念を見たいと言っている。

 確かセンジやナイスネイチャも出走するんだったな。応援に行ってもいいかもしれない。問題は中山レース場は遠いんだよ。電車使うと学園から結構かかるしなあ。

 ならいっそ他に巻き込んで便乗するかと考えて、ビジンに聞いてみたら彼女のトレーナーから即答でOKが出た。ついでにゴルシーも話に乗って、結果五人で中山レース場に行くことになった。持つべきものは友達だ。

 とりあえず年末の予定は立った数日後の夜、今度は実家から電話があった。ウンスカ先輩はちょうど風呂に入ってるから煩くしても構わない。出たら父さんだった。

 

「どうしたの?年末の予定聞きたかった?――――――――――ああ、そういうことか。まあそういう話も来るか」

 

 嫌なら断ってもいいと言うが、少しは地元を気遣ってやらないと家が色々言われるからなあ。一応了承はしておき、もう少し詳しく内容を聞いてみる。

 

「―――――――――うわ、マジか。そういう事なら喜んでやらせてもらうって言っておいて。―――――うんうん、年末には帰るよ。じゃあ、おやすみ」

 

 思いがけない話が出て、ちょっと気分が昂ってる。今回の年末年始はなかなか忙しくなりそうだ。

 

 

      □□□□□□□□□□

 

 

 クリスマスの当日。うす曇りの朝から中山レース場は大混雑していた。早めに学園を出ていたから駐車場に入れたけど、もう少し遅かったら危なかった。

 やれやれ、前もってバンブーメモリーさんに話しておいて良かったよ。ゴルシーだけじゃ大幅に遅れてた。うちのガンちゃんも朝が弱いから、俺が呼びに行って何とかなった。

 

「運転ありがとうございました」

 

「ユキノの友達なら気にしないで。それに最高峰のレースを見るのもトレーニングの内だから」

 

 ビジンのトレーナーの久保田さんがやんわりと言う。この人は上京したばかりで色々と不馴れだったビジンを、トレーナー契約する前から何かと手助けしている世話焼きな女性だ。東条トレーナーのような、いかにも仕事が出来る雰囲気は持ってないけど、ウマ娘への優しさと指導力は決して劣らない。担当のビジンを何度か負かしているゴルシーにも、何の隔たりも無く接しているんだから信頼出来る人だと思う。

 駐車場でたむろっても仕方が無いから、席が埋まらないうちにレース場に入る。

 案の定、観客席はもう八割は埋まってた。まだ第一レースが始まったばかりだぞ。良い席取った人は始発電車で来たか、真冬に徹夜で並んだのか?姉妹対決効果は凄まじいな。今日は雪が降らない予報だから良いけど。

 席を確保したら、みんなで朝食にコンビニで買ったパンやらおにぎりを食べて、ブランケットに包まる。全員が同じような格好だから怪しい集団みたいになってる。

 

「秘密結社ブランケット」

 

「プッなにそれ?」

 

「いや、なんか言わないといけない気がして」

 

「マヤ知ってる!女の子がキャンプして美味しい物を食べるドラマだよ」

 

「へーキャンプがぁ。みんなでトレーニング以外で行ってみでなー」

 

 ビジンの声に、みんなも頷いた。俺達はみんなそれぞれのレースがあるし、トレーニングを怠けてたら周りに置いて行かれしまうのが嫌だから、長期で遊ぶ予定は立てない。だから普通の学生みたいな休みはなかなか取り辛い。

 でも、いつかはみんなで走る事を忘れて、ゆったり過ごしてみたいよ。

 それから俺達は冬の冷たい風に震えながら、お菓子を食べたり温かいお茶で体を温めつつ、前座のレースを見て昼まで過ごした。

 

 昼は交代でフードコートで食事をした。今はビジンと久保田トレーナーに席をキープしてもらってる。

 ガンちゃんとゴルシーの三人で熱いラーメンを啜っていると、センジと担当トレーナーが一緒に歩いてた。

 こちらが手を振ると、向こうも気付いてこっちに来た。

 

「モゴモゴモゴ…」

 

「いや、食ってから何か言えって」

 

「やっほージョーダン。応援に来たよ」

 

 口がふさがってたからゴルシーが代わりに言ってくれた。センジも今からご飯みたいだ。

 

「ユキノも来てるんだって?後で今日は勝つって言っといて」

 

「あいよー。センジも負けるなよ」

 

「当たり前じゃん!ここで勝ってみんなを一気に追い越してやんよ!」

 

 センジは大胆不敵に笑ってトレーナーとトンカツを食べに行く。

 

「トーセンジョーダンさん、すっごくキラキラしてたね!マヤも早く有マ記念を走りたいなー」

 

「ガンちゃんならすぐに走れるどころか、有マ記念も勝てるよ」

 

 この子は才能の塊だから、クラシック三冠も夢じゃない。まったく、これからが楽しみな天才だよ。

 おっと、麺が伸びるからさっさと食べないと。

 

 昼を食べて、少し暖かくなった午後。メインイベントの有マ記念の時間が迫り、観客達の緊張感は否応なく高まった。

 前評判の一番人気は、やはり去年の勝者グラスワンダー先輩。その次が経験豊富なビワハヤヒデさん。ナリタブライアンは三番手で、それにナイスネイチャやセンジも続く。

 周囲の観客も贔屓のウマ娘が勝つと気炎を上げている。

 

「ワクワク、ワクワク」

 

「マヤノちゃんはめんこいべ」

 

 今か今かとレースが始まるのを待つガンちゃんを見て、ビジンが顔をだらしなく緩くした。気持ちは分かるよ。

 後輩の可愛さに緩くなってると、いよいよパドックからメインのウマ娘達が姿を現した。

 一年を締めくくるスター選手が次々と現れると、そのたびに観客は歓声を上げた。

 一番人気のグラスワンダー先輩も、清楚な外見からは比べ物にならないほど強烈なプレッシャーを感じる。やっぱりあの人、大和なでしこより鎌倉武者だよ。

 ビワハヤヒデさんもオールカマーで競った時より存在感が増している。ただ、勝負服の露出は低いのに妙に色気を感じる。特に腰の両側の隙間はヤバイ。

 その後も、ナイスネイチャやナリタブライアンのようなクラシック世代も現れて、シニアに負けない輝きを見せていた。

 

「ジョーダン、調子良さそうみたいだから、イケるわよ」

 

「…確かに最近は補習が少なかったから、トレーニングも十分積んでた」

 

 爪の弱さも最近は表面化していないから期待していいと思う。後は本人の根性を信じてやるだけだ。

 年末を彩る16人がコースに集まる。

 友達が一足先に上った晴れ舞台だ。どうか最高の結果を頼むぞ。

 

「センジーーー勝てよっ!!!」

 

 俺の声が届いたのか、あいつは親指を立てた。

 そしてファンファーレが鳴り響き、走者はゲートに入る。

 ―――――――ゲートが開き、16人の優駿が一斉に飛び出した。

 青鹿毛の人が先頭に立って一気に差を広げ、他は集団を形成する。

 センジの奴は先団六番手ぐらい。ナリタブライアンとビワハヤヒデさんも先団の三番四番に付けている。

 グラスワンダー先輩やナイスネイチャは、後方で様子を窺ってるか。

 

「形はまずまずかな。2500は結構長いからしばらくはこのままか」

 

 先頭を走る人が十バ身差以上を付けているが、500メートルのタイムが明らかに早い。何かの作戦か?

 1000メートルを超えた頃から徐々に後ろがペースを上げたり、中団にも先頭の人に十五バ身離されたのを焦れて、追いかけようとする雰囲気が出てきた。

 

「はわわ、ジョーダンさんは大丈夫べ」

 

「……1000メートルタイムは平均ぐらいね。落ち着いてるから大丈夫よ」

 

 ゴルシーの言う通りだ。まだ前半だから慌てるような場面じゃない。それに先頭の爆逃げは只の逃げだ。いずれペースを落とすか、スタミナ切れを起こす。

 中間点を過ぎ、1500メートル付近から先頭と先団の差が徐々に縮まり始める。後方もペースを上げて、いよいよ熾烈なデッドヒートが始まってる。

 センジは五番手で機を窺っている。ナリタブライアンやビワハヤヒデさん相手に一瞬の隙だって見逃すなよ。

 最終コーナーに入った時点で先頭を走ってた青鹿毛の人は失速して、先頭はビワハヤヒデさんに代わった。

 その後ろをピッタリとナリタブライアンが追従して、センジはペースを上げて三番手。後ろのグラスワンダー先輩は周囲にガンガン圧力をかけている。

 ビワハヤヒデさんを先頭に、後続も最終コーナーを次々回る。あと300メートルちょっとで全てが決まる。そこで、またあの感覚に気付いた。

 

「ん……あっ、またか」

 

 そのビワハヤヒデさんの周囲に何か赤と青の四角いグリッド線が見え始めて、一気に加速を始めた。

 あの人のアレはああいう形なのか。さらにその外側からナリタブライアンが地を這うような低い体勢で黒い影を靡かせて、ビワハヤヒデさん以上の速度で加速。姉に並び、追い抜いた。しかしそこからビワハヤヒデさんがさらに盛り返す。

 世紀の姉妹対決に、観客のボルテージは最高潮に達する。

 

「おい、アンタもかナリタブライアン」

 

「アパオシャさんもブライアンさんとハヤヒデさんの周りに何か見えるの?」

 

「ああ、たぶんガンちゃんと同じものが見えると思う」

 

 見えてるのが二人って事は、この子も俺や先輩達と同じか。

 あの姉妹はアレが出た瞬間から、とんでもない加速で三番以降を後ろに置き去りにする。中山の名物の坂に入っても脚は衰えず、センジは懸命に脚を動かして前に出ようとしても、却って差が開く。

 

「けっぱれージョーダンさんっ!!」

 

「ジョーダン!!負けるんじゃないわよー!!」

 

 二人からの声援もむなしく、センジはさらに後ろから末脚を利かせたグラスワンダー先輩と、ナイスネイチャに抜かれた。

 一歩も譲らぬ姉妹を追う、旧王者と伏兵。だが、決定的に伸びない。

 坂を登り切った怪物姉妹は最後の直線まで競り合い、しかしほんの僅かにナリタブライアンが前に出た。

 

「うわああああああああっ!!!!」

 

 獣のような咆哮が聞こえた気がした。そのまま差が開き、クビ差で先にナリタブライアンがゴール板を駆け抜けた。

 スタンドから地を揺るがすような大歓声が湧き起こる。数バ身開いて、ナイスネイチャとグラスワンダー先輩が三、四着に入る。センジは五着入賞か。

 

「ああーんっ!!もう、負けちゃったわよー!」

 

「初めての有マ記念で五着なら上出来と言いたいけど、悔しいなあ」

 

「ジョーダンさん……」

 

 悔しくても負けは負けだ。しかし、アレを姉妹で見せつけられるとは思わなかった。

 コースでは姉妹が何か話をして、並んでターフを去った。

 

「……ねえ、アパオシャさん。マヤさっきの『分かんない』」

 

「俺もよく知らないけど、カフェさんやオンさん、あとフクキタさんもレースの時に似たような事をしてた。それにバクシさんも見えてたな」

 

 そういえば、先月のジャパンカップで、シャル先輩とモンジューの時にも、今日みたいにハッキリとは見えなかったが、何か見えてたな。ほんと、アレは何なんだ?

 考えても答えが出ないうちは、無駄だし下手に考えないようにしよう。

 それより早くライブ会場に行かないと締め出される。

 ライブ会場にはどうにか入れて、ウイニングライブを見た。

 あとはラストのレースを見てから、スタンドで待っていると、着替えを終えたセンジがこちらに来る。

 

「お疲れ様。良い走りだったけど、残念だったね」

 

 ゴルシーが皆を代表して頑張った友達を労った。

 

「うん。次はもっと速くなって負けねー!」

 

 センジが耐え切れずに涙を流す。俺達は友達の肩や頭に手を当て、優しく撫でて落ち着かせた。

 その後は学園までの帰り道で見つけた良さそうな喫茶店で、皆で打ち上げ会をしてベリーとホイップたっぷりのパンケーキを食べた。

 

 

 翌日。チームの部室に行くと、髭トレーナーとカフェさんの雰囲気がちょっと変わってるのに気付いた。

 あの様子なら、上手く行ったらしい。本人達が納得してるなら外野が煩くする必要も無いから見守ってあげよう。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。