変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第54話 地元のお付き合い

 

 

 今年もあと三日になった年の瀬。例年通り、今日は朝から部室の大掃除だった。

 みんなで手分けして一年の汚れを落として、昼前にはすっかり綺麗になった。これで来年も健やかに過ごせそうだ。

 今年はチームの皆は実家に帰省する。来年の一月中旬にレースがあるクイーンちゃんも、自主トレだけなら実家のメジロ家でもトレセンと同等のトレーニングは行えるから帰省組になる。

 これから昼食で打ち上げをして、今日はおしまい。去年はおでんだったから、今年はガンちゃんリクエストのビーフシチューという事で、学園近くの洋食屋を打ち上げ場に選んだ。

 洋食屋なら色々種類があるから、みんな好きな物を頼んで和気あいあいに食べて、最後はデザートで締めて今年一年の苦労を労った。

 特にレース生活を大きな怪我無しで走り切れたフクキタさんは、誰よりも幸運なウマ娘だったと称賛されて、みんなから祝福を贈られた。

 

 打ち上げが終わったら、俺はその足で部屋にまとめておいた荷物を持って駅に向かう。今回の帰省はちょっと忙しいから、今日の内に実家に帰っておきたかった。

 府中駅から東京駅まで行き、予約した新幹線で一気に名古屋だ。そこから普通電車に乗り換えて笠松駅まで行けば、もう夕方で辺りは真っ暗だった。

 年末の暗い夜道をとぼとぼ歩いて、一年ぶりの我が家に帰ってきた。

 

「ただいまー」

 

「おかえり。寒かっただろ、こっちで温まりなさい」

 

「おかえりなさい涼花。ご飯はもう少しで出来るからね」

 

「よう、おかえり。一年頑張ったな」

 

「ありゃ、兄さんも帰ってたのか」

 

 よく考えたら年末なんだから里帰りぐらいはするか。久しぶりに家族全員揃ってご飯が食べられる。

 荷物を置いて、上着を脱いでコタツに入る。あー温かいなー。学園の寮はコタツが無いから困る。トレーナーの中には部室にコタツを置いている人もいると聞いたが、本当なのかな。

 

「これ、東京土産」

 

「ああ、ありがとうな。浅草の雷おこしか」

 

「直接行った事は無いけどね」

 

 結構な期間を東京で過ごしているけど、名所とか廻った事が無いのにお土産ってのも何だか変な感じだよ。貰った人は喜ぶから良いけど。

 コタツでまったりしてると、晩ご飯が出来たと呼んでる。父さんがテーブルのカセットコンロに大きな鍋を乗せて、火にかける。

 

「今日はみそ鍋ね」

 

「寒いし、みんな好きでしょ」

 

 家族みんなで頷く。どて煮とはまた違う、味噌仕立ての豚鍋は大変美味しい。

 それに家族四人のご飯は、チームの皆や友達と一緒に食べるご飯とも、また違った美味しさがあって良い。

 食材を足しては食べて、足しては食べる。あと兄さんが父さんと一緒に酒を飲んでるのは、ちょっと驚いた。

 

「そういえば兄さんもう20歳になったから、普通にお酒を飲めるんだ」

 

「なんだ、今更気付いたのか。大学じゃあ飲み会なんて三日に一度はあるから、結構付き合うのも大変だぞ」

 

 よく考えたら兄さん大学二年生だし、俺も中等部三年生だった。普通の学校なら高校に向けて受験勉強してる時期だよな。小学校の時の友達だって、今は受験生だ。あぁ、町の成人式もあるから帰ってきたのか。

 トレセンはレースとトレーニングばかりだから、時々世の中の当り前の事だって忘れてしまう。

 

「あなた達も昔はあんなに小さかったのに大きくなったわ。時間が経つのは早いわねえ」

 

 母さんにしみじみ言われた。確かに昔は家ももっと広かった気がしたけど、いつの間にか狭くなった気がする。

 ご飯も兄さんと一緒に何度もお代わりしたら炊飯器が底をついたし、大きくなったのはその通りだ。

 まだ食べられるから、鍋にラーメンの麺を入れて煮込んで、みんなで食べた。

 

「家のご飯も美味しいよ」

 

「ふふ、そう言ってもらえると作った甲斐があったわ」

 

「明日から慣れない事をして色々疲れるから、しっかり食べておくんだぞ」

 

「分かってるって。学園でこういう時の指導は受けてるから、多分大丈夫だよ」

 

 父さんは心配そうにしてるけど、むしろ一般人の皆の方が心配だよ。俺達トレセン学生は前もって授業でカリキュラムに組み込まれてるし、レースに勝った後には偉い人と話す機会だって多いんだから。

 

「でも今日は午前中大掃除して、東京から帰ったばかりだから、さっさと寝るよ」

 

「そうしなさい。お布団は今日干しておいたから、お風呂も先に入りなさい」

 

「ありがと母さん」

 

 言われた通り、ご飯を食べたら最初に風呂に入って早めに寝た。

 

 

 翌日、早朝に軽めのランニングをしてから、朝ご飯を食べて、トレセンの制服に着替える。

 休日なのを忘れて制服を着たわけじゃない。今日は公式の場に行く必要があるから、正装を着ているだけだ。

 これから地元の町役場に行って、町長に表彰を受ける事になってる。オグリキャップ先輩に続いてG1ウマ娘になったとあっては、町側も何もしないわけにはいかないという大人の事情があるとか父さんは言ってた。

 正直面倒臭いと思っても、地元を蔑ろにするともっと面倒臭くなるから、トレセンでも出来れば貰っておけと教えられた。寄付とか求められるわけじゃないし、義務と割り切ったよ。

 九時ぐらいに予定通り、町役場の職員さんが車で迎えに来た。年配の職員さんが頭を下げる。

 

「おはようございます、アパオシャさん。今日は貴重な休みに申し訳ありません」

 

「いえ、役場の皆さんも娘のために、年末にご苦労様です」

 

 三人とも頭を下げたが、向こうも仕事の終わった年末に面倒だと思ってるんだろうな。俺と父さんも面倒くさいと思ってるし。

 それ以上は話す事も無く、俺と背広を着た父さんは車に乗って、歩いて行ける距離にある町役場に来た。駐車場には新聞社やテレビ局の名の入った車が結構停まってる。

 車から降りて役場の入口すぐにカメラが何台か置いてあり、カメラマンがシャッターを切ってる。ニュースでこんなシーンは見た事ある。

 庁舎中に入ると別の職員が俺と父さんを別室に招いて、今日の段取りを伝えられる。

 やる事は単純。町長に会って賞状とメダル貰って写真撮るだけ。あと出来るだけ笑顔という注文に応えればそれでおしまいだ。

 

「あとは町長の長い話がありますけど、最後に『これからも頑張ります』とだけ言ってください。それで今日の『町民栄誉賞』授与式は終わりです」

 

「……はい、分かりました」

 

 学生の表彰に多くを求めないんだからこんなものだろう。笑顔もライブ用の同じ顔を作れば用足りる。

 それからお茶を一杯飲む程度の時間を待って、広いホールで町長っぽい人に賞状を貰い、首にメダルをかけてもらって、職員に言われた通り、話の最後に『これからも頑張ります』と言って授与式は終わった。

 実に無駄な時間だった。レースに勝ち続けると、こういう面倒くさい事も引っ付いてくると思うと嫌だな。先輩達も、きっとこういう事を沢山してきたんだろう。

 でも、もう終わったから良いや。後は明後日の元旦イベントを楽しみにしておこう。

 

 家に帰ってコタツでダラーっとして、昼ごはん食べて買い物行ってその日は終わった。

 次の日はちょっと家の大掃除手伝って、正月の用意をして、除夜の鐘を突いて寝た。

 

 

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