変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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本日は明日の分も投稿します



第55話 ≪領域≫

 

 

 元旦の朝は早い。夜明け前に起きて、ランニングしながら近所の神社に参拝に行った。身を切るような寒さの神社はどこか神聖で、自然と身が引き締まる。

 一緒に走ってる同居者は、毎度のことだがこういう寺社仏閣を鼻で笑って近づこうともしない。どうもこいつは雨と同じぐらい宗教施設が嫌いらしい。

 何となくあの黒助は悪魔の類なんじゃないかと思う時がある。

 カフェさんの『お友だち』はどうなんだろう?一緒に除夜の鐘を突いたり、初詣に行ってお賽銭を入れたりするのかな。あとでSNSで聞いてみよう。

 待ちぼうけを食らって不貞腐れてる同居者を適当に宥めてから、ランニングを続けて家に帰った。

 

 家に帰って朝風呂に入ってから、家族でおせち料理と雑煮を食べた。

 新春テレビは相変わらず年末の有マ記念の話題で持ち切りだった。

 

「もしかしたらあそこに涼花が居たのかも」

 

「どうだろう。あの姉妹とんでもなく強いから、勝てる見込みは低かったよ。今年は出て勝ちたいけどね」

 

「そこまでは高望みだよ父さん。涼花だって、クラシック二冠獲った立派なウマ娘なんだから」

 

 立派と言われれば立派な戦績ではあるな。昨年はG1二勝、G2二勝、重賞三回入着した七戦四勝。

 それでも最優秀クラシックウマ娘はナリタブライアンだったが。あっちは七戦五勝で有マ記念勝ってるから、評価は上になるしな。

 同じG1二勝してるクラチヨさんも、後半は骨折で走れなかったから評価が低くなってしまった。

 過ぎた事は今更どうにもならないし、そもそも重賞を一回でも勝ったり、G1に出走出来た時点で一生自慢していい成績だぞ。

 なまじ俺が才能あるから、父さんも色々期待してしまうんだろうな。あるいはオグリキャップ先輩が有マ記念勝ってるから、周りの圧力も強いのか。

 

「有マ記念の前に春の天皇賞だよ。そっちも強い先輩達ばかりだけど、勝ちに行く」

 

「勝つのは大事だけど、勉強も走る事も健康でないと出来ないんだから、あまり無理はしないでね」

 

 母さんの言う事はその通りだけど、俺は頑丈だからそんなに心配しなくてもいいよ。

 雑煮のお代わりを貰って、お節を食べて健康の願掛けをして、正月の朝は過ぎていく。

 

 雑煮を食べたら、今年も特別レースをやってる笠松レース場に行く。ただ去年と違うのは、家にわざわざ笠松レース場のスタッフが車で迎えに来た事だ。

 何しろ今回は笠松トレセンからゲスト出演のオファーが来ている。こちらは年末の表彰と違って純粋に楽しいイベントだから快諾した。

 ついでとばかりに家族みんなも乗せてもらった。相手方も俺の家族なら便宜を図るし、イベントには一人でも多く参加して盛り上げて欲しいから、否とは言わない。

 レース場に着くと、俺はスタッフに呼ばれ、父さん達は一般ゲートの方からレース場に入った。

 トレセンの中を歩くと時折笠松トレセン生とすれ違う。大抵は俺を見たら声援とか握手を求められるけど、一部からはどこか敵意というか妬みの混じった視線を向けられる。地元を出て、中央でスター街道を登り続ける同世代への羨望と嫉妬だろう。流石にトレセンが呼んだゲストに何か言う事も無く、視線だけが虚しく消えていく。

 控室に通されて、お茶を出してもらう。説明の方は今日のもう一人のゲストが来てから一緒にすると言われた。

 ちょっとと言うか、かなり緊張して喉が渇く。最初のG1レースより心臓ドキドキするなー。

 少し待っていると、ドアが開いてもう一人のゲストが入ってきた。

 

「すまない、少し遅れてしまった」

 

 その人は俺より結構年上の、芦毛のウマ娘だった。笠松なら知らない人は居ないどころか、日本中に知られた時代のスターウマ娘。

 

「初めまして、オグリキャップ先輩。今日はよろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしく頼むよ、アパオシャ。君のレースはよく見ている」

 

 笠松トレセンは正月のゲストに、俺とオグリキャップ先輩の二人に出演依頼をしていた。それで断る理由は欠片も無い。

 挨拶も終わり、スタッフから今日のスケジュール説明を受ける。

 簡単に言うと、レースが終わった午後からのトークショーで俺と先輩が色々喋る。それだけ。

 

「トークのお題だけこちらで用意してますから、それに沿ってお二人の自由に話していただいて構いません」

 

 そう言ってスタッフは十個ほどのお題を書いた紙を渡す。

 ――――――ふむ。妙なお題は書いてないな。大体笠松での思い出とか、レースや学園での楽しい思い出、これからのウマ娘へのアドバイスなどなど。常識的な事ばかりだ。

 

「質問がある。私は大食い大会に参加出来ないのか?」

 

「えぇ、いやぁ、ゲストの方が参加なさると、他の方々が緊張してしまうので、ちょっとご遠慮してもらえませんか」

 

「そうか……」

 

 あからさまにテンションが下がってる。そういえば学園のコック達には、オグリキャップ先輩の健啖家ぶりは伝説だったな。あのシャル先輩の数倍を平らげるとか。

 

「代わりにお昼はこちらでご希望通りご用意いたしますから」

 

「わかった!それなら構わない」

 

 あっ、すぐに元通りになった。

 出番まではあと一時間以上あるから、部屋で自由に過ごして欲しいと言われた。

 昼ご飯までにまだ時間があるから、先輩と適当に雑談する。

 

「日本ダービーと菊花賞、どちらも良い走りだったよ。笠松から凄い後輩が来たと聞いて嬉しかった」

 

「そう言ってもらえると嬉しいですけど、俺はまだまだですね。札幌記念とオールカマーでは、シニアの先輩達にやられました」

 

「私も秋の天皇賞とジャパンカップで、タマやオベイに負けた。それでも私はさらに強くなれたんだ。君も今よりもっと強くなれる」

 

 オグリキャップ先輩にそう言ってもらえると、なんだか本当に強くなれると思えてくる。

 ただ、ジャパンカップの時のオンさん、春天皇賞のカフェさん、札幌記念で俺を抜いたフクキタさんのような信じられない強さには、単にシニアに上がっても届かないような気がする。

 あるいはレース中の≪アレ≫が何か関係あるんじゃないのか。有マ記念でナリタブライアンとビワハヤヒデさんの姉妹が見せたラストのデッドヒートを思い返すと、より強く思うようになった。

 トレーナーに聞いても答えは帰って来なかった。でも、もしかしたらオグリキャップ先輩なら、同じモノを見た事がある、いや出来るかもしれない。

 今この場で聞いてみたい。

 

「あの、変な質問かもしれませんが……」

 

「どうしたんだ?」

 

「先輩はレース中に、他の走者からよく分からないモノが見えた事はありませんか?俺は今まで何度かチームの先輩達のレースで見た事があるんです」

 

「…………」

 

「オグリキャップ先輩も見える、いや、アレを使えるんじゃないんですか?アレが見えた時、オンさんやカフェさんは信じられないタイムを叩き出して、去年の札幌記念で俺はフクキタさんに負けました」

 

「君が言うアレというのと私が知ってるモノが同じとは限らないが、多分それは≪領域≫の事かもしれない」

 

「≪領域≫?」

 

「六平…私のトレーナーから聞いた話では、『時代を創るウマ娘は必ず使いこなす超集中状態』。タマやオベイ、ディクタもレース中にこの≪領域≫に入っていた」

 

 タマはタマモクロス、オベイはオベイユアマスター、ディクタはこの人と同期のディクタストライカの事か。

 最後の人はマイルチャンピオンシップ勝者ぐらいしか知らないが、前の二人の凄さはデータを漁った時に知っている。

 なるほど、時代を創るほどの強さのウマ娘なら使いこなせる、極度に研ぎ澄まされた状態という事か。道理で先輩達が使えるわけだ。

 

「じゃあ、オグリキャップ先輩も?」

 

「うん。私もタマと走った有マ記念で≪領域≫に入った。君もアレが見えているなら、私と同じ場所に届くはずだ」

 

 それは朗報だ。俺はまだまだ強くなれると保証してくれたようなものだ。でも、ナリタブライアンは一足先に、その≪領域≫とやらに間違いなく入っている。俺以上の才能を持ってる奴が、さらに上の段階に踏み込んでいるとなったら、距離適性を容易く覆して≪春の天皇賞≫だって負ける。

 正月が終わったら、カフェさんやオンさんに相談して俺も≪領域≫に踏み込めるようにトレーニングしないと。いや、そもそもオグリキャップ先輩の話を読み解くと、練習で身に付くような技能なのかすら定かじゃない。どうしたもんだか。

 頭の中で色々な事が浮かんでは消えていく。――――良いと思う案はそれなりにあるものの、それが正解かどうかは分からない。

 先輩を放っておいて、しかめっ面で考え込んでいると、やけに大きな音が聞こえて、音の方を向くとオグリキャップ先輩の腹の音だった。

 

「クククっ……すいません」

 

「そろそろお昼にしよう」

 

 ちょっと顔を赤くした先輩が可愛い。内線でスタッフに昼食をお願いした。

 そして運ばれてきた料理の量に何度も目を擦って、見えている光景が事実なのを確かめた。

 なんかどて煮を寸胴鍋で持ってきて、串カツとエビフライが五十本以上も大皿に乗ってるんですけど。保温ジャーも業務用のを三つ、焼きそばが中華鍋に山盛りで、焼きニンジンは百本を超えてる。おでんも鍋ごとだぞ。

 

「とりあえずこれだけ用意しています。追加があったらまた内線電話で教えてください」

 

「ああ、ありがとう。お代わりは後で伝えるよ」

 

 何でこれだけの量の料理を前にお代わり前提なんだよ!やべえ、シャル先輩も相当大食いと思ってたけど、オグリキャップ先輩の足元にも及ばない。

 

「さあ、アパオシャも食べよう」

 

「は、はぃ」

 

 ≪芦毛の怪物≫と呼ばれた人は胃袋も怪物だと、今日は否応なしに教えられた。

 

 

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