変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第56話 スターの条件

 

 

 ≪怪物≫の昼食に戦慄した後、いよいよお仕事の時間になった。

 なおかなり後で聞いた事だが、俺達の食事を作ってくれた笠松トレセンのコック達は死屍累々になったらしい。俺は悪くねえ。

 レース場の内側に特設会場を設けてのトークショーだった。去年は別の場所でもっと小規模だったけど今年そうなったのは、オグリキャップ先輩と俺のゲスト出演が決まって、ホームページのアクセス数の桁が跳ね上がったのを見て、他県からも大挙してファンが押し寄せると予想して、笠松トレセンで一番広い場所を確保したからだそうだ。

 それでも場所が確保出来なかったら、急遽ダートのレース場を立ち見席に解放した。スタンドもとっくに満席だ。三~四万人ぐらい居るんじゃないか?

 事実、笠松の駐車場はとっくにパンパンになって、警備員が四苦八苦してるらしい。電車も普通の正月は、岐阜から豊川稲荷や熱田神宮への初詣に行く客は多いのに、今年は逆に東西から岐阜に大挙して人が集まってて、駅員の悲鳴があちこちから聞こえている。

 普段は寂れている笠松に少しでも活気が入って来るんだから良い事だと思う。

 俺と先輩が姿を現すと、いつもレース前に聞いている規模の歓声と拍手で迎えられた。

 特設ステージは簡単なテントにパイプ椅子とマイクが置かれている。一応両端にストーブがあるから、屋外でもまあまあ温かい。

 席に就くと早速司会の人が俺達を紹介する。

 オグリキャップ先輩は笠松トレセンから、十勝して中央トレセンへと移籍。クラシック登録をしなかった故に多くの制約を受けながらも、そこで数々の重賞を勝ち続け、G1有マ記念を二回、マイルチャンピオンシップを一回、安田記念を一回優勝した。地方出身者の星とまで言われたアイドルウマ娘。さらにシニアからドリームトロフィーリーグへ進み、何度も素晴らしいレースを繰り広げ、昨年多くの人に惜しまれながら、アスリート生活を引退した。現在は中央トレセンの附属大学で勉学に励んでいる。

 次に俺は、地元の笠松幼年レースクラブで学び、中央トレセンへ進学。ジュニア期はG1ホープフルステークス、昨年クラシックでは悲願のG1日本ダービー、菊花賞を勝ち、それ以外にも幾つかの重賞勝利をした、期待の新鋭と紹介された。

 

「これがお二人が今まで歩んできた道筋です。どちらも地元笠松が誇るスターウマ娘と言えます。―――――――それでは皆さま、今日はそんなお二人のトークを心行くまでお楽しみください」

 

 拍手が沸き起こる。

 

「それでは最初のお題は―――トレーニングで楽しかったこと、辛かったことです。それではアパオシャさんから、楽しかった事をお願いします」

 

「トレーニングで楽しい事は…新しい事を覚える時ですね。特に先輩達と並走して、高い技術を肌で感じて、それを真似て自分のモノにするのが楽しかったです。他にもチームの皆で過去のデータから使い物になる技術を探して、自分に合ったトレーニングを組む時も面白かったです」

 

 観客席から良い反響が出ている。無難な事を言ってるが、チームの仲が良い事を宣伝しておくのは必要な事だ。

 

「君は凄いな。私はただ速く走る事だけを考えて走って、トレーニング案はトレーナーやベルノに任せっきりだった」

 

「うーん、役割分担が出来るならそれでも構わないと思いますよ。俺はレース中でもあれこれ考えながら走るタイプだから、理論立てて自分の中で納得した方が覚えが早いってだけですから」

 

「そうなのか。―――おっと、今度は私の番だな。私は子供の頃は足が悪くて立つ事も出来なかった。それでも、これまで皆の期待を背負い応えられたのは、お母さんが懸命にマッサージをして、自分の足で歩けるようにしてくれたからなんだ。『立って走る…私にとってはそれだけで奇跡』だから走るトレーニングは全て楽しい事だと思ってた」

 

 この人の記事を何度か読んだ事あるから、足が悪かった事やそれを懸命に支えてくれた母親の事は知ってたけど、実際に本人の口から聞くと心に響く物がある。特に俺は生まれてから病気と怪我からは無縁だから、失礼かもしれないけど余計に不憫に思ってしまう。

 観客もどこか湿っぽい雰囲気が出ていて、感受性の高い人にはもう鼻をすする人もいた。

 

「ただ、プールで泳ぐのだけは苦手で辛かった。私は泳ぐのが苦手なんだ」

 

「あートレセンにもそういう人はちょっと居ますね。ゴールドシップさんがプール嫌いで有名ですし、ルームメイトのウンスカ先輩もビート板使ってトレーニングしてますから」

 

「私の時もクリークと一緒にビート板を使って泳いでたよ」

 

 それでも嫌がってトレーニングをしないよりは余程良いでしょう。

 周囲からはちょっと笑いが零れてた。

 

「次は俺の番ですね。トレーニングで苦手だったのは、チームの先輩のバクシンオーさんと短距離並走でした。うちのチームはバクシさん以外誰も短距離走れないから、入学したてで下っ端の俺が担当だったけど、適性が無くて練習として成立させるだけでも毎日スタミナを使い切って辛かった」

 

「君はマイル適性すら無いんだったな。これを聞いている人には意外かもしれないが、距離が短くても適性が低いと上手く速さが出せないから、走るのは難しいんだ」

 

「でも、おかげでスプリンター王者の先輩から『逃げ』の技術を学んで、レースでも使えるレベルになったから、苦労に見合うだけの練習だったと思ってます」

 

「道理で不思議な走り方をすると思ってた。私は基本『差し』と『先行』の脚質だが、君は『差し』と『逃げ』だものな。それで脚質をある程度変えられる君も器用だよ」

 

「小手先の技術ですから、器用って程でもないですよ。本当に凄いと『逃げ』『先行』『差し』『追込み』をちょっと練習しただけで自由に変えられますから。うちのチームにいる新入生の子がそれやれる、誇張無しの天才なんです」

 

 観客からどよめきが起きる。普通は脚質が一つか、出来て二つまでと言われている。四つの脚を使い分けられるウマ娘なんて居るとは思わない。ガンちゃんは、ある意味全距離かつ芝ダートを選ばない、ハッピーミーク級の希少性の子だ。

 

「――――おっと、俺の話からちょっと逸れちゃいましたね。えっと、次の話題に行きます?」

 

 司会の人から許可が出た。次の話題は――――普段のファッションと勝負服かぁ。

 

「正直俺はファッションに興味無いから、基本は友達任せですね。ゴルシーやセンジ…モデルやってるゴールドシチーと、流行に敏感なトーセンジョーダンと一緒に買い物した時に意見を聞いて買ってます」

 

「私も似たような物かな。でも、私は出来れば可愛い物が好みだ」

 

 ほう、ここは意見が分かれる所か。そして先輩の意外なギャップに観客から可愛いとか、色々声が聞こえた。

 

「確かにオグリキャップ先輩の勝負服は、セーラー服タイプの可愛いデザインでしたね。あれは自分でデザインを希望したんですか?」

 

「いや、ろっぺいトレーナーが秋天皇賞の時に用意してくれたんだ。徹夜で作ってくれたと言ってた」

 

 マジかよ。雑誌で見た事あるけど、かなり強面の人が自ら作るなんて。人は見かけによらないとは、よく言ったものだ。

 

「アパオシャの勝負服は、見ていると空飛ぶ絨毯が欲しくなるな」

 

「それは友達からも結構言われました。割と夢のイメージに合うデザインだから気に入ってますよ」

 

「アラジンになるのが君の夢なのか?」

 

「うーん、正確には夢でよく見る場所が砂漠とか乾いた荒地みたいな風景だから、ちょっとした思い入れがあるんですよ。いつかそこに行って走るのも悪くないかなと」

 

「それは素敵な夢だと思う」

 

 夢ってほど大層な目標じゃないけど。行くだけなら、戦争やってるような場所でなければ、トレセン卒業すれば今まで稼いだレース賞金使って行ける程度の場所だし。

 

「いっそ、砂漠の国のドバイにレースしに行けば手間が少ないですが。まあそれは日本一になってからでないと話にならないけど」

 

「?日本一になればいいだけじゃないか。君にはそれだけの才能があると思うぞ」

 

「簡単に言わんでください。少なくともナリタブライアンが居るから五分五分ですよ」

 

「確かにあの子は昔の私やタマと同じぐらい強い。でも、そういうライバルがいるからこそ真剣勝負をして、君はもっと強くなれる。私もそうだった」

 

 ギャラリーから歓声が起こる。偉大な先輩からの日本一になる保証と激励。同時に比肩するライバルがいるからこそ強くなり、レースが盛り上がる。

 一強状態では如何にスターウマ娘が居ようとも、ファンは飽きる。かつてのシンボリルドルフやマルゼンスキーさんも、強すぎた故に孤高にならざるを得なかった。

 そして絶対王者が走り、結果の見えるレースほど、観客が退屈なものは無い。見る者、金を払う者が居なくなったコンテンツは悲惨な末路を辿る。

 そういう意味では競い合う相手がいるのも良い事なんだろう。お互いのファンが熱を上げてグッズを買ってくれるし、応援のためにライブチケットがたくさん売れる。

 

「……むう、先輩にそう言われたら何もしないわけにはいかないですね」

 

「そうだ。私達ウマ娘は、いつも誰かの想いと夢を背負ってレースを走ってる。周りで支えてくれる仲間、レースで競う宿敵、応援してくれたファン、みんなのおかげで私は走り切れた。君もそれを忘れないでくれ」

 

 レース場に拍手と先輩の名が響き渡る。

 この人がなぜ時代を代表するスターウマ娘になれたのか少し分かる。この人はただ強いだけじゃない。レースを見る人の心を揺さぶる天性のナニかを持っているんだ。上っ面だけ取り繕って得られる人気じゃない、なまじ理屈を積み重ねて結果を得ようとする俺には決して持ち合わせない、真に人から愛される魂がある。

 

 それから幾つかのお題を貰い、笑いや感動、トレセンやレースの裏話など、ここでしか聞けないような珍しい話をして、遠方から駆けつけたファンを楽しませた。

 トークショーが終わり、今年は参加者が多いと予想してクイズ大会が行われた。

 最初はメジャーな中央ウマ娘の簡単な問題を出し、時々ディープなお題でふるい落としたり、オグリキャップ先輩の笠松トレセン時代の知識を要求される事もあった。

 大体二十個の問題を最後まで勝ち抜いて賞品を貰えたのは、数万人の参加者の中で十人ぐらいだった。その中にはオグリキャップ先輩の笠松時代の友達で、今は笠松トレセンのトレーナーをしているウマ娘もいたらしい。

 身内参加は良いのかと思ったけど、現役の笠松トレセン生も参加してるんだから、地方のお祭りなら緩くOKなんだろう。

 こうしてイベントが全て終わり、参加者も概ね好評で、混雑からの迷子や忘れ物トラブルなんかは多かったが、正月イベントは成功したと言っていい。

 これで少しは地方トレセンを知ってもらい、知名度が上がって『カサマツの星』オグリキャップに続く、アイドルウマ娘がまた出て欲しいと本心から思う。

 出番も全て終わり、客がボチボチ帰り始めた頃に、トレセンのスタッフや理事長が直々に挨拶に来た。形式的な礼かと思ったら、本心から俺達に感謝してる。

 

「お二人のおかげでまた笠松の名は全国に広がった。本当にありがとう。何か私達に出来る事はありませんか?是非とも力になりたい」

 

「なら、一つお願いがあります」

 

 オグリキャップ先輩が躊躇わずに申し出る。

 

「空いてる時間で構わないから、一~二日トレセンのレース場を貸してもらいたい」

 

「レース場をですか?貴女が走るんですか」

 

「私とアパオシャが走るためです」

 

「えっ、俺と?」

 

 唐突なレースの申し出に疑問しか出てこなかった。

 

 

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