変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第60話 春の新生活

 

 

 桜が咲き誇り、また希望と夢を抱いた新たなウマ娘達が中央トレセン学園にやってきた。

 校舎の廊下から練習コースでトレーニングに励む後輩たちを見下ろす俺も、思えば三年前は希望に満ちた子達と同じだったな。それがもう高等部になり、世間からは女子高生扱いだ。

 三年と一言で片づけるには、随分と重たい歳月だったと思う。

 見知った同学年の子は半分以上が居なくなってしまった。

 クラシック期の夏までに一度も勝てなければ、その時点で在籍資格を失って中央トレセンには居られない。

 そうした未勝利のウマ娘が取る道は大きく四つある。

 一つ目は地方トレセンへ移籍して、レースを続ける事。多少レベルが落ちて待遇も悪くなるが、地方で活躍してそれなりに満ち足りたレース生活を続けられる。

 二つ目は障害レースへの転向。障害レースは平地レースと違って在籍資格の喪失は無い。日本では障害レースはダート以上にマイナーで人気は無くとも、中央トレセンでレースを続けられるために、こちらを選択するウマ娘は意外と多い。

 三つめはトレセン学園の他の科への転入試験を受けて合格する事。トレセン学園には芸能科、サポート科、デザイン科なども充実している。必要な学力と知識を有していると見なされれば、途中からでも歓迎されて、以後もウマ娘とレースに関わっていく事は許される。

 最後の四つ目は高等部へ行かず、一般の高校へ進学してレースに関わらない。

 こうして同じ机で学び、同じ寮で寝起きして、共に汗を流した仲の友人やクラスメイトは、櫛の歯が欠けたように半数以下に減ってしまった。

 一年と半年前にワイワイ言いながらデビュー戦を選んでいたのが遠い日のように感じられる。

 

 今年も例年通り、五百人以上の新入生が全国から集まり、既に第一回の選抜レースが行われた。そこで実力を示した子は早速トレーナーと契約して、一年数か月後のデビューに今から備えている。

 力が足りない子は諦めずに己を鍛え直して、次の機会を待つ。それを急ぐ事は無い。誰でも自分のペースがある。

 それに早くトレーナーと契約した所で誰もがG1に勝てるとは限らない。一年契約出来ずに燻っていたウマ娘がG1バに輝いたのを俺は知っている。シニアに上がるまで一度も重賞を走れなかった落ちこぼれが、いきなりG1勝者に咲き誇る事だってあった。

 レースに絶対は無い。だから励め。あるいは何者でもない無名から≪皇帝≫を超えるウマ娘が生まれるかもしれないぞ。

 

「どうなさったんですかアパオシャさん?」

 

「あぁ、ダンか。ちょっと未来のシンボリルドルフが居ないか探してたんだ」

 

「まあ、ルドルフ生徒会長をですか?それは心が躍る光景ですね」

 

 隣で一緒に新入生を眺める。まだまだ拙い走りに、ダンから笑みがこぼれた。決して下手な下級生を嘲っているわけではない。自分も学園に来た当初は同じぐらい下手だったのを思い出しただけだ。

 

「今年はメジロの子は入ってこないんだったな」

 

「はい。寂しいと思いますがこればかりは仕方のない事です。来年にはブライトという子が入って来るかもしれません。ちょっとボンヤリしてますが、とても良い子なんですよ」

 

「そっか、それは楽しみだな。……体の調子どうだ?大阪杯で結構無理したみたいだが」

 

「まだ少し疲れは残っていますが、そろそろトレーニングは再開出来ます。次のヴィクトリアマイルは、負けるわけにはまいりません」

 

 この子も結構頑固だよな。ルームメイトのクラチヨさんと似てる。

 先週ダンは大阪杯を走り、五着入賞した。優勝はウイニングチケットさん。日本ダービー以来の三年ぶりのG1勝利に、その場で大泣きした映像が全国に流れた。

 もはやシニア三年目で衰えが始まった身で、執念の二冠目には日本中が驚きに沸いた。レースに絶対は無いという言葉はこういう時にも当てはまる。それはうちのバクシさんも、逆の意味で証明してしまった。

 先月末の高松宮記念に一番人気で出走した先輩は二着で敗れた。勝ったのはシニア二年目のキングヘイローさん。昨年のマイルチャンピオンが続けて短距離を制覇した。

 かつて実力がありながら同期の影に隠れがちだった不遇の人が、スプリンター王者から奪った二つ目の冠を手に栄光の道を堂々と歩き始めたと、ファン達の喜びは殊の外大きかった。

 バクシさんも酷く悔しがり、次のヴィクトリアマイルはダンと共に、絶対に勝つと気合を入れて既にトレーニングに励んでいた。

 

「そうだったな。俺も次のレースまで時間が無いし、そろそろ練習に行こうか」

 

「そうしましょう。春の天皇賞、必ず勝ってください」

 

 返事の代わりに、口元を吊り上げて笑顔で返した。

 

 今日はプールトレーニングなので、水着を持ってプール棟に行く途中、校舎裏で筋トレするチームを見かけた。

 

「よう、精が出るな。≪カノープス≫」

 

「こんにちはネイチャさん。皆さんも頑張ってますね」

 

「やっほー、アパオシャ、アルダン。まーね、みんな今月にレースがあるから、気合十分ってね」

 

 確か帽子のマチカネタンホイザちゃんは来週に皐月賞、青髪のツインターボちゃんがうちのクイーンちゃんと同じ青葉賞だったな。

 皐月賞なら現在無敗のウオーちゃんと勝負か。この子も結構強いから、レースはどうなるかな。

 ナイスネイチャは今度も俺と同じ春の天皇賞で、イクノディクタスさんは読売マイラーズカップと聞いている。

 おや、そういえば≪カノープス≫は四人だったが、今は一人多い五人だ。

 

「うちにも待望の新人が入ってきましたから、我々上級生も身が引き締まる思いです」

 

 イクノディクタスさんが、微笑んで一人の腹筋運動していた新入生に視線を向ける。

 垂れ耳鹿毛のショートヘアに、頭頂部から元気よく白髪のアホ毛が突き出ている。右耳には青いリボンを付けている。

 俺とダンが視線を向けると、ちょっと委縮したように視線が泳ぐ。

 

「わ、私メイショウドトウと言いますぅ。私なんかがG1ウマ娘のアパオシャさんとメジロアルダンさんと口を聞いてごめんなさい~」

 

 いやあ、挨拶しただけで謝られてもこっちが困るんだが。あまり人のことは言えないけど、また癖の強い子が入ってきたな。

 そして立ち上がって謝った拍子に、足を持っていたマチカネタンホイザちゃんと頭をぶつけた。

 

「ふおおおおっ!!」

 

「ごめんなさいごめんなさい!!ドジな私でごめんなさーい!」

 

 マチカネタンホイザちゃんの鼻から盛大に鼻血が出て、南坂トレーナーが慌てて怪我の具合を確かめた。

 挨拶だけで流血騒ぎってすげえなこの子。

 幸い怪我は大した事は無く、ティッシュだけ鼻に詰めるだけで済んだ。

 

「こんなドジでグズな私でも、見捨てずにチームに入れてくれた皆さんは優しいですぅ」

 

「大丈夫ですよドトウ。貴女は人一倍頑張り屋なんですから、自信を持ってください」

 

 ネガティブオーラをまき散らすメイショウドトウちゃんを、イクノディクタスさんは優しく抱いて励ます。さすがはイケメン女子。惚れるぜ。

 こんなドジっ子でも、この前の選抜レースは芝マイルで2着だったらしい。普段の言動とレース結果は一致しないな。

 あと、超自信家でポジティブな同級生に憧れて、少しでもその人に追いつけるように頑張ると言ってる。ゴルシーとビジンみたいな関係なのかな。

 

「…テイエムオペラオーね。ダンは知ってる?」

 

「確か≪リギル≫に入った新入生の事だと思います」

 

 今年のリギルは面白い新人が入ったな。一応覚えておこう。

 そしてこれ以上トレーニングの時間が減ると困るから、ナイスネイチャにお互いレースを頑張ろうと言って、俺達はプール棟に向かった。

 

 チームみんなで利用時間一杯までプールで泳ぎ続けて引き上げた。何時間も泳ぎ続けてクタクタで腹も減った。

 これで終わりではなく、まだ部室でそれぞれ次のレースのデータのおさらいが残ってる。

 途中でクッションを枕に寝ている、前髪の真ん中が白い栗毛の子が居たけど、今は春だからそういう子も一人ぐらいいるか。ウンスカ先輩も似たような事やってるし。

 

「あーあ、マヤお腹ペコペコだよ」

 

「お疲れさん。あとでカフェが差し入れしてくれたクッキーがあるから、それ食べて夕食まで我慢しろよ」

 

「おっ、さっそく彼女自慢かよ。最初は何のかんの言って断ろうしてたのに調子が良いねえ」

 

 俺の茶々に髭は鼻を一度鳴らして誤魔化した。

 あれから髭とカフェさんは正式に付き合う事になった。学園からお咎めは無し。同僚のトレーナー連中からは『ああ、またか』程度にしか思われていない。在学中にそんな事やったら処分ものでも、既に卒業している相手だからとやかく言わない。

 むしろうちの髭とカフェさんは、きちんと卒業まで待つ健全で我慢強いケースらしい。どういう意味での健全なのか、知りたくない事例が過去に沢山あったんだと察した。

 そのカフェさんは今は都内の調理師専門学校に通いつつ、三日に一回ぐらいは学園に顔を出して、授業で作ったお菓子とかをお土産に持ってきてくれる。

 さらに激務になりやすいトレーナーの、寮の部屋の掃除やら夕食作りをする事もある。あとチラッと聞いたら弁当も作ってるみたいだ。まるっきり通い妻してるんだから、段々カフェさんに頭が上がらなくなってる。末永く幸せになれよ。

 それと卒業しても、チームのトレーナーのオンさんとは、腐れ縁が続くとボヤいても友人関係は続いている。

 新しい子が入って来たり、立場が変わり人間関係は変化しても、これまでと変わらない関係も確かにあると先輩達が教えてくれた春だった。

 

 

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