変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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 アパオシャの≪領域≫をゲームの固有スキルに設定するとこんな感じです


 固有スキル『渇きの半身』

 レース中盤から視野が広くなってコース取りがすこし上手くなり、周囲のウマ娘のスタミナを削り続ける。



第62話 猫を追って迷子

 

 

 春の天皇賞から数日が過ぎ、世間はゴールデンウィークに突入した。

 しかし大半のトレセン生は休み返上でトレーニング漬けの毎日を送っている。

 うちのチームも半月後のヴィクトリアマイルに、ダンとバクシさんが出走するから休んでいる暇なんて無い。

 クラシック期のウマ娘も今週中にNHKマイル、半月後にはオークス。その後には日本ダービーが控えているとあって、鍛錬に余念が無い。

 ≪スピカ≫のウオカレコンビはお互いをライバル視している。桜花賞を勝ったカレットちゃんに対抗して、チューリップ賞でカレットちゃんに勝ったウオッカちゃんがオークスを必ず勝つと息巻いている。

 同じチームのウオーちゃんは無傷で皐月賞を勝ち、順調にシンボリルドルフ会長の通った無敗のクラシック三冠道を歩いている。しかし、次の日本ダービーはそうはいくかな?

 何しろ、うちのクイーンちゃんもダービーに出るんだぞ。距離適性は俺とほぼ同じだが、これまでのレースで決して中距離は不得手ではない事を証明している。油断なんてしたら、あっさり負けるからな。

 

 

 そのクイーンちゃんと俺は、現在新宿で買い物したり美味しい物を食べ歩いて休日を満喫している。

 何で大事なレースを控えているのにトレーニングをしてないかと言われたら、単純に数日前にレースしたばかりで、まだ疲れが抜けてないから。

 そんな状態で本格的なトレーニングなんてしたら、怪我をするだけだから全力で休んでいるだけ。時には遊んで、疲れを取るのもトレーニングの内である。

 そして疲れを取るには甘い物が一番と、クイーンちゃんは目に付いたスイーツを手当たり次第にパクパクしている。

 今はカフェで旬のイチゴをたっぷり使ったケーキや、ベリータルトを幸せそうに頬張ってる。俺はイチゴのミルクレープを味わって食べる。甘酸っぱくて美味しい。

 たまに近くの客が俺達に視線を向けるが、そこまで大事になっていない。

 クイーンちゃんは重賞勝利ウマ娘でも、まだG1には出走していないから、世間の知名度は意外と低い。

 ディープなファンなら一目で気付くだろうが今は私服だし、ニュースぐらいしか見ない一般人なら、そこまで騒ぐこともないのだろう。

 あと、今月には日本ダービーに出走するから、既に勝負服は用意してある。白を基調にして緑をサブカラーにした、ノースリーブでヘソ出し、太もも出しのショートパンツスタイルという中々に露出の高いデザインになった。頭に乗せた小さなシルクハットが可愛いから、ファンは驚け。

 

「……意外とバレないものですわ。ここにア…涼花さんがいるのに」

 

「俺が無毛症のウマ娘なのは公表してて、バズカット(超短髪)のイメージが張り付いているからね。ちょっと髪を長くしてしまえば碌に気づかないよ」

 

 俺は今ウィッグを着けて、クイーンちゃん並の黒ロングヘアにしている。おまけでジョークグッズのウマ娘尻尾を本物尻尾に付けて偽装していた。ここまですれば、少し見た程度で見抜けはしない。

 そして流石に名前を言われると気付かれるから、クイーンちゃんには本名の方を呼んでもらってる。

 世間的に見たら、俺は先日の春の天皇賞で≪日本一≫のシャル先輩をぶっちぎった現役最強ステイヤーである。さらに海外遠征を計画中とあって、様々な憶測を呼んでいるから、連日ニュースやワイドショーで俺の特集を流し続けていた。

 一番マスコミが望んでいるのはフランスの凱旋門賞のリベンジだ。昨年はエルコンドルパサー先輩が2着の惜敗だったため、今度こそという希望を俺に押し付けている。

 それを補強しているのが二年前のカフェさんの3着敗退だ。俺とカフェさんの仲の良さは結構知られているから、先輩の悔いを後輩が果たす。という、シナリオを世間は望んでいる節がある。

 実に迷惑である。俺にもカフェさんの無念を晴らしたい想いはある。しかし、距離適性が合わないので勝てる見込みが低いレースを走るのは気乗りしない。他のウマ娘なら『みんなの夢』を背負ってなどと言って挑戦するかもしれないが、俺は俺のために走るんだから押し付けられても困る。

 そんなわけで無用に注目されたくないから、ちょっとの手間をかけて休みを全力で楽しんでいる。

 

 栄養補給も済ませて、次は靴を見たいとクイーンちゃんのお供で、幾つかの靴屋を巡って、お互い気に入った靴を見つけられた。

 さらにアクセサリーや日用品を幾つか購入して買い物を済ませたら、いよいよ本日のメインイベントのために、午前中に買った物を新宿駅のコインロッカーに預けて、電車に乗る。

 

「ついにやってきましたわ!この神宮球場にっ!!」

 

 おーおークイーンちゃんのテンションが激高になってるわ。この後輩ちゃんの趣味が野球観戦なのは結構前から知ってたけど、スイーツ以外でハイテンションになったのを見るのは初めてだ。

 しかも今日は贔屓にしているビクトリーズというチームの試合だから、否が応でもやる気に満ちている。

 

「去年はあのにっくき不良ペンギンに優勝を奪われましたが、今年はそうはいきませんわよ!今年の猛虎魂は燃え上がりますわ!!」

 

 でも野球場ならいいけど、ここはまだ最寄駅だから、ちょっとは抑えて。

 

「クイーンちゃん、周りがドン引きしてるから、球場までちょっと抑えてね」

 

「…はっ!?申し訳ありません!つい楽しみで、テンションマックスに上がってしまいました」

 

 我に返ったクイーンちゃんが恥ずかしそうに謝る。分かってくれればいいよ。

 落ち着いたから徒歩で球場まで行く。

 間近で見る野球場は結構迫力がある。今までレース場ぐらいしか見た事無かったから、別種のプロスポーツ会場は新鮮だ。

 入り口でチケットを見せて中に入る。俺達はアウェーのビクトリーズ側の内野指定席だ。

 先に昼ごはん用に弁当を売店で見ておく。結構色々種類があって選べる楽しさがあって良いな。一人二つぐらい買った。

 場内はレース場の五分の一以下の広さでも、却って選手との距離が近くて親しみが持ちやすいように思える。

 

「きゃー!!ユタカ~!!ユタカ~!!今日は私が応援しますわっ!!頑張ってくださーい!!」

 

 縦縞の黒と黄色を基調とした虎色ユニフォームを着た、練習中の選手に目一杯の声援を送る。

 まだ練習中なのにこの入れ込みようは、ルールもあんまり知らない素人には異様に思える。

 とりあえず試合開始にはまだ一時間あるから、席を探してご飯を先に食べる。

 

「こういう所で食べる弁当も結構美味しいね」

 

「はい。この球場は相手チームによって限定弁当も変わるんですよ。私はもちろんビクトリーズのなにわ弁当です!やっぱりこれですわ!」

 

 へー野球界も色々工夫してるんだな。

 色々話しながら弁当を食べ終わって練習風景を見ている。そして選手たちは練習を終えて引き上げていく。

 同時にクイーンちゃんもちょっと席を外すと言ってどこかに行った。トイレかな。

 しばらく一人でボケっとしてると、着ぐるみがパフォーマンスを始めた。太ったペンギンがビール缶を持ってホームベースに寝そべってる。えっ、あれでマスコットなの?

 ビクトリーズファンからヤジが飛んでるけど、ペン四郎とかいうペンギンはむしろケツを掻いて挑発している。えぇ……

 見かねた縦縞の虎顔マスコットが退くように注意するが我関せずの態度を崩さない。そして怒った虎がジャイアントスイングでペン四郎を投げ飛ばして、球場内が笑いに包まれた。ああ、これは待ち時間に飽きさせないパフォーマンスなんだ。レース以外の興行だとこういうことをしてファンを楽しませるのか。異種スポーツも結構勉強になるな。

 

「――――いいわよーやっておしまいなさいトランポリン!!ペンギンごときに舐められてはなりません!」

 

 あっちで聞き覚えのある声がしたから、見たら野球帽を被って、メガホンを腰に吊るして縦縞ユニフォームの上を着たクイーンちゃんがいた。完全武装の応援スタイルだな。

 そして何食わぬ顔でクイーンちゃんが席に戻る。ついでに俺にジュースの入った紙コップを差し出した。

 

「レモネードが売ってたので買ってきました」

 

「うん、ありがとう」

 

 受け取って一口飲む。美味しい。もはや何も言うまい。

 その後はマスコットの寸劇を見たり、チア軍団のダンスを見て、あっという間に試合時間になった。

 野球はボールをバットで打って沢山点を取った方が勝ち。空振り三回、打った球をノーバウンドで捕ったり、一塁に早く投げてアウトを三回取ったら攻守交替ぐらいしかルールを知らないけど、結構面白かった。

 走るよりもルールが沢山あって覚えるのが大変だけど、日本で野球は相撲とウマ娘のレースとを三分する人気興行なのがちょっと分かった。

 点が入るか入らないかのギリギリのシーンでは、クイーンちゃんをはじめとしたガチファンの殺気立った応援には内心ビビった。

 

 試合自体は残念ながら4-2でペンギーズの勝ち。でも負けてしまったビクトリーズにファン達は励ましの声を送った。こういうところは俺達のレースとそんなに変わらないな。

 試合が終わって観客が駅に引き上げる。俺とガッカリしているクイーンちゃんは、みんなへのお土産を色々買ってから最寄り駅まで行く。

 

「負けたのは悔しいけど、野球も面白かったよ。今度はチームのみんなを誘って、行ってもいいかも」

 

「!そうですわね!!休みにみんなで行きましょう!」

 

 ふふっ、元気が出たみたいだ。

 駅に着いたけど、電車は帰り客でパンパンだから、まだ乗らない方が良いか。いっそ新宿駅まで歩いてもいいかという話になって、ゆっくり歩いた。

 そして道なりに歩いていると、なぜかトレセン学園のジャージを着た栗毛の子が、肩を落として歩いているのとすれ違った。

 

「ちょっ!?えっ、ちょっとそこのトレセンの子!何でこんなとこに居るんだ!?」

 

「本当ですわ!?貴女どうしてこんなところに?」

 

「………うえーん!!」

 

 泣き出した子をとにかく落ち着かせて、自販機で買ったジュースを渡して飲ませた。少し落ち着いたトレセン生はポツポツ話し始めた。

 

「ぐすっ……私、新入生のアドマイヤジャパンって言います。実はランニングしてたらネコを見つけて、追いかけてたら知らない所にいて。でもそのまま気にせずランニングを続けて、疲れたから近くの公園で寝てたんです」

 

「学園からここまで20kmはありますわ。随分長く走ってらしたんですね」

 

「えへへ。それで起きたら夕方で、お腹が空いて走れなくて、帰れなくなって泣いてたんです。ぐすっ」

 

「その後ろに背負ってるクッションは?」

 

「これがあればどこでも眠れるから、いつも持って走ってます!」

 

 それは胸を張る所じゃないだろ。途方に暮れているって事は、クッションは持っても金もスマホも持たずに走りに行ったな。時々トレセン学園の子が迷子になる話は聞くけど、実際にお目にかかるのは初めてだ。

 

「あー俺達もトレセン学園の生徒だから一緒に帰るぞ。電車賃はこっちで出してやる」

 

「ふえええ!!ありがとうございます!!このご恩は一生忘れません!―――あと出来れば何か食べる物を持ってませんか」

 

 ……意外と図太いなこの子。助かったと思ったら遠慮無しに要求しやがる。

 球場で買ったお土産には手を付けたくないから、駅までに見かけたコンビニで、パンを二つ三つ買って食べさせた。

 

「モシャモシャ…ごくん。そういえばお名前をまだ聞いていませんでした」

 

「私はメジロマックイーンと申します」

 

「あのクラシックのメジロマックイーンさんですか!青葉賞は凄く格好よかったです!」

 

「俺は……とりあえずスズカと呼べ」

 

「はいスズカさんですね。……あれ、でもどこかで見た事あるような??」

 

 街中でバレると厄介だから、とにかく早くパンを食わせて駅に行かせた。

 コインロッカーに預けた荷物を回収して、そのまま電車に乗って府中駅まで無事に戻ってきた。

 今は午後六時か。夕食には間に合ったな。

 それから歩いて学園の敷地に着いた。このアドマイヤジャパンは栗東寮だから、クイーンちゃんが連れていく。

 

「やれやれ、今日は色々あったな」

 

「でも私は楽しかったですわ。また一緒に遊びに行きましょうアパオシャさん」

 

「えっ?アパオシャ?」

 

「ああ、最近街中だと目立つから、これ着けてたんだよ」

 

 そう言って、ウィッグを外していつもの短髪に戻す。

 

「高等部のアパオシャだ。じゃあ、今度は迷子になるんじゃないぞ。クイーンちゃんはおやすみ」

 

「はい、おやすみなさい。さあ、一緒に寮に行きましょう」

 

 後はクイーンちゃんが何とかしてくれる。俺は自分の寮に帰って飯を食って、今日の土産をウンスカ先輩に渡して早めに寝た。

 

 

 翌日も騒動は続き、クイーンちゃんに付き添われたアドマイヤジャパンがチームの部室に来て、≪フォーチュン≫で走りたいと土下座した。

 なんか助けてくれた俺とクイーンちゃんに懐いたって。餌をあげたら懐く犬じゃないんだぞ。

 選抜レースの成績は、四月に芝2000メートルで一着獲ったらしい。それでも契約しなかったのは、トレーナー連中の匂いにビビっと来なかったから断ったとか。どういう理由だ。

 髭も微妙に困ってるみたいだけど、今年の新入生はまだチームに居ないし、突き放すのもという理由で、ひとまず仮契約で様子を見る事になった。

 さらに俺が原因ということで、暫くは俺が面倒を見なければならなかった。助けなければ良かった…なんて言うつもりは無いが、自分から厄介事を招いた気分だった。

 

「皆さん、よろしくお願いします!」

 

「はいはい、よろしくなジャン」

 

「ジャン?」

 

「アドマイヤジャパンは長いから、ジャンと呼ぶ」

 

「はい分かりました!アパオシャ先輩!」

 

 やれやれ、これから一層騒がしくなるよ。

 

 

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