変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第64話 遠い異国の地

 

 

 五月の末日。世間では衝撃的な記者会見になった、ゴールドカップ出走の意志表明から半月が経ち、明日日本を離れる。

 クラシック期のレースの方はオークスはウオッカちゃんがティアラを勝ち取り、カレットちゃんは二着に沈んだ。桜花賞とは順位が入れ替わった事になり、近年まれにみる一進一退の名勝負になった。

 そして数日前に行われた日本ダービーは、ウオーちゃんの二冠目達成で日本が湧いた。クイーンちゃんは惜しくも二着で終わり、三着は≪カノープス≫のマチカネタンホイザちゃんだった。

 これでシンボリルドルフ会長以来の無傷でのクラシック三冠達成に王手が掛かり、一時的に俺の話題を消し飛ばした格好になる。

 ところが話はここで終わりじゃない。翌日に足の痛みを訴えたウオーちゃんは、病院で左足の骨折が判明した。しかも全治六ヵ月の重症で入院。

 これにはさすがに世間は落胆を隠せなかった。去年もトリプルティアラに王手をかけながら、骨折で無念の療養をせざるを得なかったクラチヨさんに引き続いて、今回のウオーちゃんの骨折。

 ≪スピカ≫も日本ダービー勝利の喜びは吹っ飛び、完全にお通夜状態になっていた。

 うちのクイーンちゃんも、ライバル視していた友人の突然のクラシック離脱に動揺した。それでもすぐさま菊花賞は走り、必ず勝つと意気込みを見せた。この子はメンタルも強いから大丈夫だろう。

 

 クラシック勢の事は当人達に任せよう。俺は俺のレースがある。

 ここ最近は引っ切り無しに記者が俺への取材を申し込んでいるが、学園側が全部カットしてくれたおかげでトレーニングに支障は無い。

 ただ、地元からは多少連絡が増えた。家族や元居た幼年レースクラブの友達、小松先生からの激励は良いが、会った事も無い県議会議員が面会とかしようとするのは、学園とルドルフ会長、それにURAも組んで全部突っぱねた。

 たかだか一地方の議員程度では、全国に根を張って一大興行を取り仕切るレース界の相手にもならない。なるほどなぁ、こういう余計なモノを排除して、俺達がレースに専念出来るのも偉い人が仕事してくれたおかげか。

 そういうわけで余計な事は気にせず、渡英前日までトレーニングに専念し続けられた。

 それでもチームのみんなからは何かと気を使われた。特にクイーンちゃんはダービーを負けて、俺をガッカリさせてしまった事が悔しかったらしい。ライバルが骨折しても勝っていた事を少し気にしているのかも。

 

「俺だって皐月賞を負けて、みんなをガッカリさせたぞ。あまり気に病まずに菊花賞を勝とう」

 

 そう言って励ましたり、ジャンのワンコみたいな言動で空気が和んでチームは上手く纏まった。ジャンもアホの子なりに、みんなの事を考えている。

 こういうムードメーカーは集団に一人居ないと意外と困る存在なのかもしれない。

 

 そして今は寝る前に自室で最後の準備をしている。向こうで使うドレスや帽子、トレーニング用のウェアや普段着の多くは全部前もって現地に送った。他にも買い溜めした調味料や薬味なども一緒。あと向こうで食べるかどうか分からないが、ゴルシー達やチームのみんながくれたお菓子とかも纏めて送った。

 明日持って行くのは財布にスマホとパスポート、あとは簡単な化粧品とか身の回りの物が少しだけ。いつもの夏合宿より荷物が少ないぐらいだ。

 

「ウンスカ先輩はお土産何が良いですか?」

 

「ん-釣り竿」

 

「ちょっと大きいから郵送で送っておきますね」

 

「ウソウソ!もう、本気にしないでよ。そんなに気を使わなくても後輩が無事に帰って来てくれれば、先輩はそれでいいんです」

 

 二人でくすくす笑う。現地で何かいい物を見繕って買って帰ろう。

 

「でもほんと外国は気を付けなよ~。エルちゃんもフランスで大変だったからねぇ」

 

 同期の友達の苦労を知ってる先輩は軽い口調で忠告する。

 基本フランス語だから、微妙に意思疎通が出来ずに困ったと聞いている。

 俺は長くても二ヵ月だし、現地の英語もどうにか片言なら話せる。それに英語が堪能なオンさんがいるから、いざとなったら助けてもらえる。まだマシな遠征だと思う。ウイニングライブの時は………頑張ろう。

 あとは食事かぁ。イギリスの飯はあまりいい話を聞かないけど、仮にも英国王室主催のレースに参加するんだから、美味しいものは食べられるだろうが、口に合うかどうかは別問題だ。最悪現地の中華料理屋を探して食うか、米だけ手に入れて自炊する事も考えよう。

 うーむ、レースをしに行くが今から思うと、慣れない土地で諸々の問題を抱えたまま走るのは想像以上に困難だ。

 色んな人のバックアップが無いと俺一人が行った所で、レースに出られるかすら怪しい。レースは一人でする物じゃないと誰かが言ってたのは本当だったな。

 

「おやー今更外国が怖くなったのかな~」

 

「怖いとは思いませんが、いろんな人に助けてもらわないと、レース場で走る事すら出来ないんだと思っただけです。あとはレースに限った話じゃないけど、海外のアウェーでの試合はすげえ大変だなと」

 

「そうだねぇ。私達は基本日本だから、最悪一人で電車乗って現地で走って帰って来られるけど、外国は気軽に行けないからね。それでもアパオシャちゃんが行くって決めたんだから、後悔しないように走りなよ」

 

「はい。じゃあ、準備はここまでで、もう寝ます」

 

「うん、おやすみ」

 

 早めに電気を消してもらって眠りについた。

 

 翌朝。いつも通り起きて、軽いランニングだけして、シャワーを浴びて身支度を整える。

 食堂で食事を普段通り食べていると、すれ違う人みんなが俺に頑張ってと挨拶をしていく。

 寮長になったバクシさん、同寮のビジン、ダンやクラチヨさんにも激励を受けた。

 長期海外遠征の先輩になるエルコンドルパサー先輩からもチリソースを餞別に貰った。使うかどうか分からないが一応持って行こう。

 時間まで支度を整えて学園に行くと、後からオンさんと髭も来た。

 

「やあ、アパオシャくん。準備は良いかい?」

 

「大丈夫です。オンさんが居てくれて心強いですよ」

 

「出来る限りのサポートはしよう。あとは君次第だ。もっとも、君は私やカフェと違って心身が頑丈だからねえ。余程の事が無ければ心配はしないよ」

 

「俺からもアパオシャを頼んだぞ。本当は俺が行かないといけないんだけどな」

 

「トレーナーくんにも大事な仕事があるからねえ。私こそアルダンくんやマヤノくんを頼むことになる。しっかりと指導してくれたまえ」

 

「心配するなよトレーナー。俺は何事もなく帰って来るさ。で、俺に言う事は?」

 

 ヒゲェ、この期に及んで遠慮するな。トレーナーなら教え子の強さを信じろ。

 

「―――勝てよ!!お前は俺や≪フォーチュン≫の皆が育てた日本最強のステイヤーだっ!!」

 

「おうっ!勝って優勝トロフィー持ち帰ってやるよ!」

 

 親指を立てて承った。

 オンさんと学園が用意した車に乗り、これから空港まで行く。さーて長い旅の始まりだ。

 

 

 飛行機に乗って約15時間。ようやく俺とオンさんはイギリスの大地を踏みしめた。

 これだけ長い時間地面と離れたのは初めてだから、まだちょっと足元に浮遊感が残っている。同居者は何か落ち着かない様子だ。こいつ意外と臆病だな。

 

「えーっと日本が今午前3時だから、イギリスの時差が9時間で、今は夕方か」

 

「最初の三日ぐらいは時差ボケがあるから、調子がおかしいと思ったら素直に私に言うといい。薬は万全だよ」

 

「はい、辛いと思ったらすぐに言います」

 

 こういう所は髭トレーナーよりもオンさんの方が頼りになる。飛行機のファーストクラスは快適だったが、それでも疲れはあるから、今日はさっさとホテルで休もう。

 ホテルには先に現地入りしたトレセンのスタッフが連れて行ってくれる。それらしい人はまだ見えていない。

 代わりに俺達に近づいてくるカメラを持った外国人の二人組がいる。記者っぽい雰囲気だ。

 

「はじめまして~アパオシャ=サン。ワタシ、ロンドンニュースのジャックです。おはなしよろしいですか?」

 

「おやおや、もう取材が来たみたいだねえ。どうするんだいアパオシャくん?」

 

「待ってる間は暇ですからね。少しなら良いですよ。それと『日本語が難しかったらこちらが英語で話しますか?』」

 

 おっ、向こうがちょっと驚いてる。真面目に英語の授業受けておいて良かった。オンさんにもかなり前から教えてもらってたから、簡単な会話になら不自由しない。

 

『お気遣いに感謝します。早速ですが、初めての海外レースで栄誉あるG1は大変では?』

 

『大変だけど、走って勝つのがアスリートです。それはどの国のレースでも変わらない』

 

『大胆ですね。ヨーロッパから集まった、世界最高のステイヤー達に勝てる自信があると?』

 

『自信は関係無いですよ。相手が誰でも走って負けたら悔しいから、勝って喜びたい』

 

『……遠方からはるばる来て、世界最高のロイヤルミーティングに参加出来るだけでも望外の名誉ですよ。その名誉は極めて重いと理解してください』

 

 なるほど。小さな島国の小娘が勝つなどと生意気言わずに、うちの伝統あるレースを走れるだけでも泣いて喜べと。

 

『ブリティッシュジョークというのも新鮮ですね。勉強になります』

 

 記者が怒りか失笑か分からない顔になってる。カメラマンの方は面白そうだと思って俺とオンさんの写真を撮り続けている。

 そして次の質問が出る前に、オンさんが迎えが来たと言って取材を打ち切った。

 トレセン学園スタッフの車でホテルに行く。ヒースロー空港から少し離れた、ウィンザーという小さな都市のホテルに滞在するそうだ。レースの舞台になるアスコットレース場にも近いから便利らしい。

 本当は地元のトレセンに短期滞在するつもりだったけど、残念ながら部屋の空きが用意できなかったから、アスコットミーティングの間はホテル暮らしになる。

 あとスタッフの森崎さんの話だと、イギリス王族の住む城があるから観光地として結構有名らしい。

 着いたのは日本でレース前に使ってるビジネスホテルの数倍は大きい高級ホテルだ。ゴールドカップまでの間はここを拠点にする。

 部屋もかなり広く、一人で使うには勿体ない気がするけど、払いはトレセン学園だからこの際気にしない。隣のオンさんの部屋も俺と同じ間取りだ。

 荷物を置いたら、二人でホテル内のレストランで夕食を食べる。メニューは全部英語だけど、大体のイメージは掴めるから、適当に注文して食べて覚える。

 食べてみて分かったが、不味いと聞いたイギリス飯は予想より美味しい。

 

「味はそれなりに舌に合います。肉料理と、パイが美味しいです」

 

「それは良かった。私はさして食事にこだわりはしないが、異国の食べ物で苦労するウマ娘は意外と多いからねえ」

 

 これなら持ち込んだ調味料で自炊は必要なさそう。心配事が一つ減って安心した。

 あと、デザートのケーキが美味しかった。

 異国の最初の料理に満足して、部屋に引き上げた。

 移動の疲れと満腹感から、着替えをする前に寝てしまい、起きたら夜明け前だった。

 

 

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