この作品を書き始めた頃は情報出てなかったんですが、最近セイウンスカイの同室がサクラローレルと知ってちょっと困りました。
けど年齢設定弄ったり、出てないウマ娘も多いからこのままフワっと行けばいいかと開き直って続けます。
イギリスに来てから十日が経った。その間ずっと寝起きするホテルと、練習するアスコットレース場を往復する毎日だ。
十日も走っていれば、そろそろヨーロッパの芝にも慣れてくる。特異な形状のコースも体に馴染んできて、今は95%の力で本番を想定してタイムを計測している。
「ふむ、≪4:24.6≫か。まあまあのタイムだね。昨年の優勝タイムは≪4:20.3≫だけど、余力を残しての走りなら十分勝つ見込みはある」
オンさんの言う通り、全力で走ればあと2秒は楽に縮められる。レース展開によってはそれで優勝は可能だ。
ただ、自分の思い通りの展開に進められたらの話だ。それを許してくれるほど、世界最高峰のウマ娘達はぬるくない。
ちょっと休憩にタブレット端末を使って、今回ゴールドカップに出走する他の走者のデータを確認する。
今回の出走者は俺を含めて10人。初日に会った一番人気のストレイトヴァイスさんを筆頭に強豪揃いだ。
「三番人気のモーニングスター。去年の英ダービー2着で、英セントレジャーも二着。凱旋門賞ではエルコンドルパサー先輩とも走ってる」
紫の燕尾服を着こなす地元イギリスのウマ娘。俺と同じシニア1年目で1勝だけど、G1入賞が多いからかなり強い。
「二番人気はふむ……アイルランドのキュプロクスか。アパオシャくんと同年で四勝。G3一回勝利」
「四番人気にオーストラリアのサーペントタイタン。二年前の英ダービーを優勝している。強いなーこの人」
「五番人気のドイツから参戦する、8勝のプリンセスゾーンも中々だよ。二年前のゴールドカップは二着、去年のフランスカドラン賞も二着」
「七番人気のスパニッシュフェイス。去年は三着だから、この人も侮れない」
世界中から最高のウマ娘が集まるんだから、全員警戒に値するライバル達だ。
ちなみに俺は六番人気。実績はこの中でも上位にいるが、やはりヨーロッパでのレース経験ゼロでは評価が低くなる。それを覆してこそ挑戦する価値があるし、勝てば最高に気分が良いだろう。
「勝つには、なーんか策が要りますね」
「そこは私より君の方が上手いから自由にやるといい。私が出来るのは最適なトレーニングをさせる事と、君のコンディションを完璧に仕上げる事だけだから」
「十分ですよ。本番で体調不良でまともに走れませんじゃ、情けなくて日本に帰れない」
トレーナーの仕事はそこまでにウマ娘を完璧な状態で送り出す事。レースは俺が走るんだから、自分に合った走りをするだけだ。
まだレースまでは十日ある。じっくり頭から知恵を捻り出してやる。
そうそう、日本では安田記念が行われて、ナリタブライアンが勝った。これでG1は四冠目か。やっぱり強いなあ。ただ、レース後に腰の不調が見つかって、長期の療養が必要と診断された。
やっぱり春の天皇賞の時から我慢してたか。それでもG1勝つんだから、並の強さじゃない。しかしそうなると宝塚はもちろん、秋の天皇賞とかも間に合うのか。
これから日本のレースも荒れるな。
さらに五日が過ぎた。この頃になると三日後に控えたアスコットミーティングへの準備のために、レース場には多数の業者が入って会場設営に追われている。
俺達も前日の開催パーティーに出席する事になっている。
例年通りイギリス王族の多くが出席して、ヨーロッパ中から王侯貴族が呼ばれる中で、俺のような庶民が居るのは内心場違いだと思っているが、今更仕方がない。
幸いここ半月で仲良くなったウマ娘の子達から色々マナーとかルールを聞いて、即席でも恥をかかない程度の振る舞いは身に付けられた。
トレーニング以外の慣れない事に神経をすり減らす日々に、そろそろストレスが溜まり始めた。これはちょっと息抜きしないと、本番に支障が出るんじゃないかと思い、一つの解決法に辿り着いた。
アスコットミーティングの開催二日前。今日もトレーニングを終えた俺は、レース場のレストランの責任者に頼んで、設備と食材を幾らか使わせてもらった。
材料は、コックに頼んでボイルして灰汁を抜いてもらった豚のホルモン、ニンジン、大根の代わりにカブ、ごぼうの代わりに西洋ごぼう(サルシフィ)、ショウガ、みりんの代用にコックの私物の日本酒(ロンドンなら手に入るらしい)、あと八丁味噌と砂糖、ゴマ。代用品が多いのは仕方がないが、味噌は匂いと味が強いから何とかなるだろう。
何を作るかレストランのコックは興味津々。
最初にニンジン、カブ、西洋ごぼうを小さく切る。切った具材とホルモンを、大鍋に水と一緒に入れて火にかける。
灰汁を取りつつ、三十分煮込み続けてから、湯を全部捨てて中身を別の鍋に移す。
移した具材に水を入れて、酒で溶いた味噌と砂糖をたっぷり加える。ショウガは薄切りと擦った物をたっぷり入れて、焦がさないように注意して煮込む。
途中味見をして、味噌の辛みが強いから砂糖を足して味を調整。三十分煮込んで、水分をかなり飛ばしたらゴマをふりかけて完成。
「よーし出来たぞ。どて煮だー!――――ふむ、ちょっと味が違うがまあいい」
ネギが無いのと代用品が多いから味がちょっと違うのはこの際諦めよう。
材料を分けて厨房を使わせてくれたコックにも味見してもらう。何人かは首を捻ったが、大半がもっと食わせろと言ってきた。濃厚なみそ味の臓物は意外とイギリス人の舌に合うのか。
かなり多めに作ったから、礼に半分を譲って、厨房じゃ落ち着いて食べられないから、残りは皿に入れて丼用に蒸した米も持って食堂の方に行く。
そして二十人ぐらいの各国のウマ娘達に囲まれた。
『なんで、ここで待ってる?』
『この匂いの原因を知りたかったんです。それは何ですか?』
『故郷の料理。豚の内臓を日本の味噌と酒と砂糖で煮た』
『『『『ごくり』』』』
おい、ちょっと待て。くっそ嫌な予感がするんだけど。
嫌な予想はよく当たるわけで、他の連中がどて煮を食わせろと要求してきた。やめろよ、何でそんな圧をかけてくるんだ。中には貴族の令嬢だっているけど、そういうキャラじゃねえだろ。
―――――結局俺専用のどて煮は餓鬼ウマ娘共に殆ど食い尽くされた。俺が食えたのは二口ぐらいだった。ちくしょうめ。
その上もっとよこせとかさあ。由緒ある貴族がそれでいいのか。しかも七味唐辛子の刺激にハマって滅茶苦茶使う子も居るし。
『調味料はまだ日本から持ってきた分があるけど』
『ぜひもう一度作ってくださいませ!』
まったくもうしょうがないな。
『アスコットミーティングが終わったら、沢山作るよ』
大喝采が起きた。そこまで食いたいか。でも、彼女達も自分達の国の料理を持ち寄って、みんなで食べようという話になってる。あーつまり、レースが終わったら打ち上げパーティー形式にしようって事ね。それなら俺だけ苦労するわけじゃないから良いだろう。
レースではみんなライバルだけど、そこから離れたら同世代の女の子だ。誰でも楽しくワイワイやりたいのは分かるよ。
日時や集まる場所とかが決まって、レース場の近くに別荘を持ってる地元の子が取り仕切る事になった。基本持ち込みで、直接パーティー場で作るならキッチンは用意すると言ってる。俺はどうするかなぁ。
こういう繋がりも悪い物じゃない。レースだけ走って、はい、さよならはいかにも寂し気だ。世界中に切れない繋がりを作るのは、これから何かの役に立つかもしれない。
それと、ロスタイムに楽しく過ごすのも、祭りの楽しみ方かな。
どて煮は殆ど連中の腹に収まってしまったが、色々楽しみが出来たから良しとしよう。