変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第67話 前日祭

 

 

 とうとうアスコットミーティングの前日になった。今日は出走者全員トレーニング禁止の上、王室主催の前日祭に出席が義務付けられている。

 俺とオンさんも関係者として出席しなければならない。しかも俺のような出走者は主役として、ロイヤル・エンクロージャーという区分を守るドレスコートできっちり正装しての出席だ。

 ホテルの自室で、学園の勧めで作ったオーダーメイドのフォーマルドレスに袖を通す。長袖、脛までの長さの裾の、藍色のワンピースタイプのドレスと対になる、花飾りのついた大きなツバの帽子。テレビやニュースで時折見かける、貴族とかが着るドレスを俺が身に付けていると思うと口が曲がる。そして普段やらない化粧も最低限した。こういう時にゴルシー達に付き合って化粧の練習をしておいて良かったと思う。

 準備が出来て、オンさんの部屋に行くと、こちらは仕立ての良いフォーマルの黄色いパンツスーツを着て、机には同色のツバのある帽子が置かれている。

 

「おや、似合うじゃないかアパオシャくん」

 

「オンさんもよく似合ってますよ」

 

「今日は君が主役の一人だ。精々気張りたまえ」

 

「今更ながら学園の制服のありがたみが分かります」

 

「全くだよ。私も卒業して一応社会人になってから、服装規定の煩わしさにため息が出る」

 

 トレセン学園は大学部でも制服の着用も許されているので、日頃から学園にいるルドルフ会長なんかはそのまま制服を着ている。

 と言ってもそれは少数派で、大抵の人は私服で大学部に通っている。みんな自由におしゃれをしたいんだろう。

 オンさんはトレセンの大学には行かなかったから、制服の代わりにスーツを自前で揃えないといけない。それがめんどう臭くて仕方ないと、たびたび髭や俺達にボヤいている。それも今更仕方がないし、大学だって永遠に在籍出来ないんだから遅いか早いかで受け入れるしかない。

 二人で文句を言いながら準備を済ませて、森崎さんに車を出してもらった。この人も付き添いとして会場に出入りするから、略式ながらスーツで固めている。

 

 

 いつもなら楽に通れるアスコットレース場の入り口はすごい混んでた。しかも殆ど高級そうな車ばかりがずらっと並んでる。これは長時間待たされるんだろうと思ったら、検問の警備の人に許可証を見せたら、別の入り口に誘導された。

 それから屋外パーティー会場までは三人で行き、SPっぽい誘導員が案内を担当して、森崎さんはそこで別れた。さらに中のエリアに入り、オンさんが許可証を見せて俺だけが奥へと通された。

 奥のエリアにはざっと二百人ほどの、煌びやかなドレスで着飾ったウマ娘達が集まっていた。トレセン学園の一学年の半分ぐらいの人数でも、全員がドレスを着ていると華やかさは比較にならん。メジロ家から聞く社交界というのはこんな感じなのか。

 しかもあと百人ぐらい追加があるんだから、ウマ娘の世界の縮図みたいなものだ。

 

『やっほー、アパオシャ!ちょっと遅いぞー』

 

『ああ、エンプレスオブノウズか。君は早いな』

 

 赤いドレスの褐色ウマ娘が会話を一時中断して、俺に手を振っている。彼女はエンプレスオブノウズ。バーレーンから来て、同じゴールドカップを走るウマ娘だ。レース場でよく一緒に並走するぐらい仲は深まった。

 それから彼女は俺の手を引いて、さっきまで一緒に話していた数人に俺を紹介する。彼女達も当然明日からのレースを走るが、俺達と違ってクラシックのマイルと短距離だった。

 エンプレスオブノウズが俺を日本から来たウマ娘と紹介して、さらに戦績を大雑把に教えると、みんな俺を尊敬のまなざしで見る。

 

『私より年下だけど、ずっと強いから参っちゃう』

 

『ヨーロッパは初めて走るから、どうなるか分からないよ』

 

『ストレイトヴァイスさんの練習に付き合えるんだから大丈夫だと思うけど』

 

 それは向こうも本気で走ってないからだぞ。本番がどうなるか分かったものじゃない。

 ウェイターにアップルジュースを貰って口を付ける。今更だが、どうして今日のお祭りが夜会じゃないのか気付いた。主役の俺達がほぼ未成年で、年齢から酒を飲ませられない国もあるからか。おまけに明日からレースだから、夜遅くまで付き合わせてコンディションを悪くさせないための配慮もあるんだろう。

 それから少し話して互いの健闘を祈って、他の顔見知りを探しに別の場所へ移った。

 

 適当にフラフラしていると、結構顔見知りに合う。中には俺のどて煮を貪ってくれた貴族のお嬢さま達に出くわして、集団へと引きずり込まれてあれこれ話をした。

 ファッションの話題にはいまいち付いて行けなかったが、俺が美味しい日本料理を作れる話になると、皆やけに食い付きが良くて、あれこれ聞いてくるのが意外だった。

 特にフルートマスターというアイルランド出身の人がやけに詳しく日本食の事を聞いてくる。

 

『あの、アパオシャさんにお伺いしますが、ラーメンという料理をご存じでしょうか』

 

『えっと、日本の大衆が食べる料理ですよ。日本ならどこの土地でも食べられます』

 

『そうなんですか。殿……こほん。親戚の子が妙に食べたがっていまして、日本に行って食べたいとよく駄々をこねるんです』

 

 たまに日本食を食べに日本にまで来る外国人の話を聞くけど、その子供もそういうケースなのかな。

 

『それは大変ですね。インスタントのラーメンならヨーロッパでも買えますから、まずはそれを自宅で作って食べてもらったらどうですか?』

 

『やはりそうなりますか。………お願いは可能な限り叶えるのが私達の務めですが、日本まで行くとなると何かの公務の空き時間を利用して、警備とマスコミ対策を万全に数年準備に……』

 

 なんか自分の世界に入ってるからそっとしておこう。

 

『―――――失礼、貴女は日本のアパオシャか?』

 

 声の方を向くと、黒いドレスを着こなしたショートヘアの鹿毛ウマ娘が佇んでいる。

 

『名乗りが遅れて申し訳ない。私はモーニングスター、貴女と同じレースを走る者だ。レース前に挨拶をしておきたかった』

 

 ご当地で三番人気のモーニングスターか。立ち振る舞いがフジキセキ先輩とエアグルーヴ先輩を足したような子だな。いわゆるイケメン女子だ。

 

『アパオシャだ。悔いの無いレースをしよう』

 

『貴女の冒険精神は尊敬に値するが、イギリスのレースは貴女が思っているほど簡単ではない。それを私が教えよう。ではレースで』

 

 モーニングスターはスカートの裾をつまんで一礼して去って行く。気取った宣戦布告かな。全員に勝つつもりだからどうでもいいけど。

 しかしトレセン学園にも劣らない個性の強い集まりだな。強いウマ娘ほど癖のあるのは万国共通なのか。

 

 そうして色んなウマ娘と友好を深めていると、スタッフから主催者のイギリス王室から挨拶があると言われて、飲食を中断して姿勢を正す。

 ニュースで見た事のある、庶民の俺にも分かるぐらいすごいロイヤルオーラを放つ年配の夫婦が色々喋っている。俺達みたいな外国から来るウマ娘にも分かりやすいように、割と簡単な英語で話してくれるから理解はしやすい。

 

『わざわざ遠い所から来てくれてありがとう。勝っても負けてもうちのレースは参加出来るだけで凄い栄誉だから、五日間楽しんでいってね』

 

 要約すると大体こんな感じである。十代の子供に長々と説教染みた話なんかしても、面白くも何ともないからこれでいいよ。世の中の校長は、あの人のスピーチを見習うべきだ。

 スピーチが終わったら、あとは色々催し物と美味しい食事が沢山あるから、皆で楽しんでくれと言って立ち去った。

 スタッフからも後は自由にしていいと言われて、出走するウマ娘達はそれぞれ仲の良いグループを作って、演劇や演奏会を見に行った。

 俺もどて煮をたかった貴族のお嬢達に誘われて、色んな催し物に連れ回された。俺達は見るだけだったが、犬にレースさせるドッグランというのも初めて見た。実はあのレースは賭博らしい。

 そして美味しい食事を食べて夕方には解散した。

 

 合流したオンさんは酷く疲れていた。なんか外国からのスカウトが凄かったらしい。

 富豪に白紙の小切手を差し出されて好きな金額を書いてと言われたり、爵位のある貴族が専属契約したいとか言ってきたり、中には砂漠の王族が直接アプローチを掛けてきたりと、モテモテだったとか。

 この人の才能ならどこの国も喉から手が出るぐらい欲しがるのは納得する。本人は面倒な事この上ないと辟易してるけど。

 

「まったく、暫くはああいう連中に近づくのは御免こうむるよ。アパオシャくんも明日からホテルのトレーニングルームで最終調整をするから」

 

「はい。あと三日ですね」

 

「そうさ、泣いても笑ってもあと三日だ。私も悔いの無いように全力を尽くそう――――カフェのようにはさせないよ」

 

 小さな呟きが聞こえたけど、俺は聞こえていないふりをした。

 

 

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